笑顔で話す是枝貴子さん。 笑顔で話す是枝貴子さん。

骨盤ケアを行う助産師・是枝貴子に聞く「妊娠・出産に必要な備え」。

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#健康
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※ 記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」と記載している部分があります。

女性の社会進出の増加(※)、生活習慣の変化などにより、妊娠中から産後におけるトラブルのリスクは想像以上に高くなっています。安全安心な妊娠・出産のためには、日常のケアや心構えを知っておくことが大切。そこで、5万人以上の妊産婦に骨盤ケアを施してきた助産師でマミーサロン代表の是枝貴子さんに、妊産婦の体と心に必要な備えについて伺いました。

参考:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版」

妊産婦に寄り添うサポートを目指して、たどり着いた「骨盤ケア」。

骨盤ケアについて説明する是枝貴子さん。

――もともとは産院に勤務する助産師だった是枝さんが、骨盤ケアをはじめようと思ったきっかけを教えてください。

約20年前に助産師学校を卒業して産院に勤務したのですが、当時は産院の都合にあわせた分娩(ぶんべん)が多く行われていました。

そんななか、「生涯のうちでかけがえのない思い出となる妊娠や出産を、妊産婦さんの気持ちに寄り添いながらサポートしたい」という思いが高まっていき、試行錯誤しながらたどりついたのが「骨盤ケア」でした。

2006年に骨盤ケアを主体としたサロンを開院し18年がたちました。その間に私も2児の母になり、妊娠・出産に寄り添うサポートの必要性を実感しています。

――骨盤ケアとは初めて聞きましたが、どういったものでしょうか?

骨盤は3種の骨があわさってできています。妊娠中はおなかの中で赤ちゃんを支える器の役割をしますが、出産という視点においては、赤ちゃんの通り道である「産道」にもなります。出産に向けて徐々に骨盤の骨と骨のつなぎ目が緩むことで、赤ちゃんが通過しやすくなると言われています。

片手の中指と親指をあわせて、輪をつくってみてください。これが産道となる骨盤のおおよその大きさ。そして、両手の中指と親指をあわせてつくった輪の大きさが赤ちゃんの頭くらいです。こうしてみると、赤ちゃんの頭と産道との間にいかに隙間がないかがよくわかると思います。だからこそ産道は少しでも広い方が出産時にはプラスに働くわけです。これが骨盤が緩むと言われるゆえんであり、出産に向けた母体の生理的変化と言えます。

両手の中指と親指をあわせて輪をつくる是枝貴子さん。

けれども、妊娠中に必要以上に骨盤の骨と骨のつなぎ目が緩んでしまうと、骨盤を支える筋肉に負担がかかって痛みを生じたり、ぼうこう・子宮・直腸などの骨盤内の臓器が下垂して圧迫されることで、おなかが張りやすくなったり、頻尿や尿漏れ、痔(じ)などのトラブルをきたしやすくなります。

そんな事態を防ぐために、姿勢に気をつけたり、骨盤ベルトと呼ばれている骨盤を支えるアイテムを用いたりと、日常生活のなかで妊産婦さん自身が骨盤のコンディションを整えていこうというのが骨盤ケアなのです。セルフケアだけでは症状の改善が困難な場合や、自分だけでケアしていくことに不安がある方は、私たちが身体のコンディションに応じて施術を行います。

妊娠後に大切なのは、自分の体の変化をきちんと理解し、準備すること。

――是枝さんは、妊産婦が自らケアをする「妊産婦主体のヘルスケア」も提唱しています。その理由について教えてください。

妊婦健診で切迫早産など医療的な処置が必要なトラブルが見つかれば、速やかに自宅安静の指示や投薬などが行われます。一方、妊娠・出産に関わるトラブル回避のための指導や、健康増進のためのヘルスケアなどの機会はほとんどありません。だからこそ、妊産婦さん自身が主体的にトラブル回避やヘルスケアに取り組むことが重要だと考えました。

たとえば、妊娠期間が進むと、どんどんおなかが大きくなりますよね。それに伴って、赤ちゃんの重みでおなかが前にせり出してしまい、腰や背中に負担がかかって痛みが生じやすくなります。また、ある程度腹筋が伸びるのは仕方ないことですが、必要以上に腹筋が伸びきってしまうと腹筋が裂け広がってしまい、産後に腹筋を元の状態に戻しにくくなります。

そんなときは、腹筋を補強するような腹帯を巻くと、おなかの重みを体幹に近づけることで安定感が得られ、動作をラクにすることができます。特に立ち仕事の多い方は、無防備な状態で動かないことが肝心。こういったアイテムを用いることで、筋肉が無理にがんばらなくてもいい状態がつくれるので、パフォーマンスを落とさずに効率よく動けますし、疲れにくく、おなかも張りにくくなります。

――そうなんですね。産前産後のマイナートラブルは仕方のないものと、あきらめている妊産婦も多いように思います。

まずは、妊娠することで自分の体がどのように変化していくのかをきちんと理解することが大切です。それらの変化に伴って妊娠中の正しい姿勢や立ち方、歩き方などを身につけながら、必要であればアイテムを導入するなど、どうすれば妊娠中のトラブルを最小限に抑えられるのかを、ぜひ自分自身でも考え、実践してほしいですね。

ここ数年の風潮として、「おなかの子どもを守り、無事に産むのは自分自身」という意識が薄れてしまっているような気がします。妊産婦さんが妊娠・出産を「自分ごと」としてとらえることが、よいお産への第一歩です。トラブルは予期せずに訪れるもの。そのときに慌てることのないように、正しい情報を得て、しっかりと準備しておくことこそが大切です。

――産後に関しても、注意するポイントはありますか?

産後のママは、授乳やおむつ替えをはじめ、前かがみになる姿勢がとても多いもの。無理な姿勢を続けていると、おなかもたるんだままですし、産後の回復が遅くなってしまう要因に。

なかでも授乳の際にもっとも気をつけたいのが、脚を組まないこと、猫背にならないこと。脚を組むと骨盤の左右差を強めてしまいます。また、猫背は内臓の位置を押し下げ、結果として骨盤に負荷がかかるため骨盤の回復を遅らせてしまいます。正しい授乳姿勢を保つために、専用のクッションや手持ちの座布団などを赤ちゃんの下に敷いて、高さを調節することを忘れないでください。

腹帯や授乳クッションなど、骨盤をサポートするアイテムについて説明する是枝貴子さん。

知っておきたい、近年増えている妊産婦の体と心のトラブルとは。

最近の妊産婦の傾向を話す是枝貴子さん。

――女性を取り巻く社会情勢や生活環境の変化に伴って、妊産婦が見舞われやすいトラブルにも変化はありますか?

キャリア優先で、高齢出産(一般的に35歳を超えてからの初出産)をする女性が増えたことは、妊娠中のトラブルが増加している1つの原因になっていると言われています。やはり年齢を重ねることで、筋力が落ち、筋肉の質も硬くなりますから、子宮を引き上げておく力や、骨盤を締めておく骨盤底筋の筋力が弱くなっている方も多いように感じますね。

筋力不足は切迫早産を招くばかりか、骨盤ケアの話でも触れましたが、臓器が下がることで頻尿や尿漏れ、痔(じ)などの骨盤底障害(※)を引き起こす原因にも。さらには、おなかの赤ちゃんの重みで骨盤のつなぎ目に負担がかかることで、恥骨部の痛みや仙骨部の痛み等が生じ、ときに歩行障害をきたす妊婦さんもいらっしゃいます。

※ 骨盤内の臓器(子宮やぼうこうなど)を支え、排せつの機能を担う骨盤底が弱ることで起こる障害。骨盤底は主に骨盤内の筋肉で構成されている。

また、若い方の間でも、特に下半身の筋力低下が見られますが、その原因は日常生活が便利になりすぎたことにあると思います。家事動作1つをとっても、人さし指1本で済むことが増えていますから。

産後も骨盤を締める筋肉が順調に回復しなければ、頻尿や尿漏れの症状が残ってしまったり、将来的に子宮脱などの臓器脱を引き起こしたりして、日常生活のQOL(生活の質)を著しく下げてしまう原因にもなりかねません。

普段の生活のなかで骨盤底筋を鍛えるには、椅子に浅く腰かけて骨盤を立たせることを意識しながら、尿道・膣(ちつ)・肛門の3つの穴をキュッと締めたりゆるめたりを繰り返す動作が有効です。

一喜一憂しすぎないで。妊娠も出産も1人ひとり違っていい。

妊娠・出産の備えについて話す是枝貴子さん。

――是枝さんが考える、妊娠・出産、そして産後に必要な備えとは何でしょうか?

私が妊産婦さんたちにいつも伝えるのは、「丸腰で妊娠・出産、そして育児に臨まない」です。

人生の大切な場に向かうときに、何の準備もせず、装備も持たずに行く人はいませんよね。この場合の最大の装備は「知識」。ただし、情報の取捨選択は必須です。自分のなかの引き出しを増やすことで余裕も生まれますから、人ごとにせずに自らの体をしっかり把握して、よいお産、それに続く子育てへの心構えをしてほしいと願っています。

――「知識という名の装備は十分に」とは、とても響きます。備えという意味では、急な入院や自己負担が原則の出産費用に関する悩みもありますよね。

急な入院への不安はおそらく誰もが抱いているのではないでしょうか。特に働いている妊婦さんは仕事に穴を開けられないとか、2人目以降の妊娠で上の子を置いて入院は難しいなどの心配もあると思います。また、近年は出産費用の値上げが話題になっていますし、急な入院や手術の費用面で不安を感じる妊産婦さんが増えていくことは予想に難くありません。

――妊娠中の急な疾病に医療保険で備えるという手段もあります。

それは、妊産婦さんのお守り代わりになりそう。医療保険があることは知っていても、詳しくはわからないという方も多いので、妊産婦さんも対象になる保険について、私も勉強しようと思いました。備えの1つとして、お伝えできるようにしたいです。もっと認知が広がるといいですね。

――最後に、不安を抱える妊産婦さんや、これから子どもを産むことを考えている女性に向けてメッセージをお願いします。

妊娠も出産も、1人ひとりで違うもの。妊娠・出産に伴って発生する出来事に一喜一憂したり、よいお産の固定概念にとらわれすぎたりしていては、何かが起きたときに自分自身を責めてしまうことにもなりかねません。自分でできる範囲のことをすべてやったうえで、あとは“人事を尽くして天命を待つ”という気持ちも大切です。

おなかの赤ちゃんとご自身を守れるのは、他ならないあなた自身だということを肝に銘じて、万全な備えで自分らしい妊娠・出産に臨んでください。

妊娠・出産の備えについて話す是枝貴子さん。

是枝 貴子
助産師として産院に勤務時代、妊産婦さんへの心身サポートの必要性に着目。2006年、ママとベビー専門のヘルスケアサロン「マミーサロン」を設立。鍼灸師、フットケアトレーナーなど多くの資格を有し、産前産後の母子を中心に、月に300名以上の施術に従事。自身は不妊治療を経て、2児の母に。


※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
※ 掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。
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(登)C23N0230(2024.1.31)
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