医療保険って加入する必要性ある?ファイナンシャルプランナーに疑問をぶつけてみた。
※ 記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」、生命保険料を「保険料」と記載している部分があります。
みなさん、医療保険には加入していますか?
加入している人もいれば、よくわからないという人もいるかもしれません。最近、知人が入院した話を聞いたこともあり、医療保険でどのような保障が得られるのか、私自身も知りたいと思っていたところでした。
20代後半~30代の方ならば、ライフステージの変化をきっかけに保険のことを考える方もいるのでは?
今回お話を伺うのは、金融商品や保険についてわかりやすい解説に定評があり、個人向けのお金のコンサルティングも多く手がける、ファイナンシャルプランナーの中村芳子先生。今回、医療保険のあれこれについて教えていただきました。
目次
医療保険って、そもそも何?入る必要性は?
――医療保険とは、どんなものなのでしょうか?
保険は、大きく2つに分かれます。人の生命に関わる「生命保険」と、家や自動車といったさまざまなモノに関わる「損害保険」です。
さらに生命保険は3つに分かれます。亡くなった場合に保険金が支払われる「死亡保険」、教育費や老後資金など、今後かかるお金に備えるための「貯蓄性の保険」、入院の日数や手術の種類などに応じた給付金が支払われたり、がんになったときに一時金が支払われたりする「医療保険」です。
入院や手術では、治療費がかかります。一定期間仕事を休む必要も出てくるかもしれません。医療保険に入っていれば、給付金で入院や手術の費用を払うことができますし、収入減を補うこともできます。会社員の場合は、有給休暇や病気休暇などの制度があるので、収入が大幅に減るケースは少ないでしょうが、自営業やフリーランスは、病気や入院が収入減につながることも少なくありません。
医療保険って、健康保険と何が違うの?
――会社員の場合は、お給料から健康保険料が引かれていると思いますが、それは医療保険ではないのでしょうか?
医療保険には「公的な保険」と「民間の(私的な)保険」があります。お給料から「健康保険料」として引かれているのは「公的な保険」にあたります。日本では社会保障の1つとして国民皆保険制度が敷かれており、会社員は勤務先の健康保険へ、それ以外の人は国民健康保険に加入することになっています。ですから病院やケガで治療を受けたときには、健康保険からの給付を受けることになり、自己負担は原則3割となっています。また、高額療養費制度というものがあり、治療費が高額になってしまった場合も、自己負担の医療費が一定の金額以上にはならない仕組みになっています。たとえば、年収が約370万円~約770万円の人の場合は、1か月の医療費の上限は8万円余りです。
69歳以下の方の、ひと月あたりの医療費自己負担上限額。
毎月の上限額は、加入者の年齢と、所得水準によって決まります。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
---|---|---|
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 |
25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
イ | 年収約770万円~約1,160万円 健保:標準報酬月額53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 |
16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
ウ | 年収約370万円~約770万円 健保:標準報酬月額28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 |
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
エ | ~年収約370万円 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 |
5万7,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 3万5,400円 |
1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含みます。)では上限額を超えない時でも、同じ月の別の医療機関等での自己負担(69歳以下の場合は2万1,000円以上であることが必要です。)を合算することができます。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費※の支給対象となります。
※公的医療保険の給付には、例えば医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた部分を払い戻す高額療養費制度等があり、実際に負担する金額は高額療養費制度の利用の有無等、ケースにより異なります。
――では、民間の(保険会社の)保険は何の必要があって加入するのでしょうか?
公的な保険があっても、入院や治療費の一部は自分で払いますが、入院が長引くとその費用がかさみます。また、入院の際に健康保険の対象にならない差額ベッド代などは全額自己負担です。こういう出費を補うのが、保険会社の医療保険です。
――なるほど。民間の医療保険の役割がわかりました(以降に登場する「医療保険」はすべて「民間の医療保険」をさします)。医療保険に加入するとしたら、どんなタイミングがよいですか?
社会人となって経済的に独立するときが1つのタイミングだと思います。また、結婚を機に加入を考える人もいます。20代など若いうちは、病気になる人は少ないですが、ゼロではありません。入院するリスクが低いので、保険料が安いのが、若いときに加入するメリットです。
――医療保険は誰もが、いつでも加入できるのですよね?
そうとも限りません。医療保険に加入できるのは、原則として健康な人です。加入の際は健康状態はもちろん、過去5年ほどの通院歴や入院歴、手術歴などを保険会社に告知しなくてはいけません。治療中の病気があったり、5年以内に通院・入院歴があったりすると加入できないこともあります。若い健康なうちは、加入しやすいことも知っておいてほしいです。なお、病歴や持病があっても加入できるタイプもありますが、保険料が高くなります。
医療保険の主な種類と選び方。
――医療保険について調べてみると、種類や商品がとてもたくさんあるようです。このなかから選ぶのはとても難しく、どういうポイントで選んだらいいですか?
まず、医療保険の基本的な仕組みを知りましょう。その上で、自身はどんな保障が、いくらぐらい必要か、保険料はいくらぐらい払えるかをはっきりさせましょう。いくつかの商品を比べて、自分に合う商品を選び、納得できる金額で契約しましょう。
――加入すれば、保障は一生続くのですか?
いいところに気がつきましたね! 保障がいつまで続くかは、大切なポイントです。保障が一生続くタイプもあれば、続かないタイプもあります。保険期間が10年で、10年ごとに更新するタイプの保険は、保障は80歳でおしまいというものがあります。年齢が上がるほど入院や手術が必要になるリスクは高まるので、年齢と病気やケガのリスクもふまえて保障期間を検討しましょう。
また、入院何日目から何日目まで給付金が払われるかも、商品によって異なります。以前は、入院5日目から給付金が払われる保険もありましたが、今は入院1日目から払われるタイプもあります。手術に対する給付も、一律10万円という保険もあれば、手術の種類によって金額が違うものもあります。最近は、日帰り手術や日帰り入院でも給付金が支払われるものも出てきています。
――がんにかかった場合も保障されるのですか?
がんによる入院や手術も給付金が払われます。また、医療保険の一種で、がんだけを保障の対象とする「がん保険」もあります。家族や親族ががんになったなどの理由で、がんに対しては保障を厚くしたいという方には、通常の医療保険に加えてがん保険にも加入する方法、または通常の医療保険にがん特約を付けて保障を手厚くするという方法をすすめています。
――月々の保険料の負担がやや心配です。あまり高いと続けられないかも……。
保障の金額や内容が手厚いほど、月々の保険料も高くなります。ですから、保険料と保障内容のバランスを見極めることはとても大切です。
感覚で選ぶのではなく、毎月いくら、年間いくら、トータルでいくらの保険料を払う。それに対して、これだけの保障が得られる。払った保険料は(幸運にも入院や手術をしなければ)1円も給付金が支払われることはない。それに自分は納得できるか?
この“納得感”を大切にして選ぶことが大切です。
医療保険に加入していないと、どうなるの?
――医療保険は必要ないという人もいます。今まで大きな病気をしたことがないのですが、加入したほうがよいですか?
すでにお話ししたように、日本の公的な医療保険制度は充実しています。先ほどご紹介した高額療養費制度もあります。会社員・公務員の場合は、病気やけがのために会社を休み、勤務先から十分な給料が支払われなかった場合に傷病手当金が支給される傷病手当金制度もあります。そのため、入院や手術をしても、治療費は貯金でまかなえる人もいるでしょう。「入院しても、貯金から治療費を出せるので困ることはない」という人は、医療保険に入る必要はないかもしれません。
逆に、貯金が少ない、貯金でまかなうことに不安がある方は、入院や手術の出費に対応できるよう、医療保険に加入すると安心です。若いうちに加入すると、月々の保険料を抑えることができます。貯金が十分にあっても、入院や手術でそれを崩したくない、崩さなくて済むようにしたいと考える人は加入するといいでしょう。
医療保険に入ると、「いざというとき給付金が受け取れる」という安心感を得られます。入院中に、お金の心配をせずに治療に専念できるのも、メリットです。
とはいえ、医療保険は、給付金が受け取れてよかった、得したというものではありません。むしろ、病気やケガになることがなく、給付金を一度も受け取らなかったときに「ああ、よかった」と喜ぶべきものです。
――医療保険は一度加入したら、あとはそのまま続けるだけでよいのでしょうか?
医療保険に限りませんが、保険商品は社会の変化にともなってどんどん進化し、時代によってさまざまな特徴のある商品が登場します。ときどき保険商品がどう進化しているかをチェックしてみましょう。
たとえば、かつては長期入院が必要だった病気が、今では短い入院で済むようになったため、長期の入院保障のニーズは小さくなりました。自分が加入した医療保険より、もっとよい医療保険が登場したら、新しい保険に見直したほうがよい場合も出てくるでしょう。新しい特約をプラスすることで、時代に対応できることもあるでしょう。
保険を定期的に見直すことは大切です。ライフステージの変化などの節目に加えて、世の中の動きが大きく変わったときなどに、ぜひ見直してみましょう。
民間の医療保険が必要かどうか?は、貯金の有無・職業・リスクに対する考え方・ライフステージによって違ってきます。複数の保険商品を調べて、保障内容や保険料をシミュレーションし、じっくり考えて決めましょう。自信が持てないときは、ファイナンシャルプランナーに相談するのもいいでしょう。
写真/Getty Images イラスト/こつじゆい
中村 芳子
有限会社アルファアンドアソシエイツ代表取締役。早稲田大学商学部で国際経済を学ぶ。メーカー勤務を経て、1985年に独立系FP会社(株)MMIに入社。ファイナンシャルプランニング業務全般に携わり、日本の女性FPの第1号となる。ファイナンシャルプランナーWAFP関東会員。女性FPの会(現WAFP)初代理事長。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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