人気モデルが一転、どん底へ……。焚き火マイスターとして再起をかける人生。
※ 記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」、生命保険料を「保険料」と記載している部分があります。
雑誌『メンズノンノ』のモデルや編集・ライター業などを経て、現在は焚き火マイスター、アウトドアプランナーとして活躍している猪野正哉さん。
華やかな経歴で順風満帆な人生を送っているように見える猪野さんですが、20代のときに立ち上げたアパレル事業が失敗し、多額の借金を抱えたという経歴の持ち主。また、現在も収入が不安定なフリーランスという立場のため、「将来には不安しかない」と語ります。
そんな猪野さんが、ファイナンシャルプランナー坂本綾子さんと面談し、今後の人生設計を含め、将来的に必要となるお金の疑問や心配事全般を相談。そのやり取りをレポートします。
山あり谷あり。猪野さんの半生を振り返る。
猪野:今日はよろしくお願いします。正直、何から聞けばいいのかわからないくらい、お金には疎いのですが……。
坂本:大丈夫ですよ。気軽になんでも聞いてください。猪野さんのプロフィールを拝見したところ、ずいぶんとユニークな経歴をお持ちですね。かつてはファション誌でモデルをされていたとか。
猪野:はい。高校を卒業して予備校に通っていたころ、当時付き合っていた彼女が『メンズノンノ』のモデルコンテストに応募して。冗談半分だったのに、まさかのグランプリ。2年間ほど専属モデルを務めました。
坂本:すごい。漫画みたいなサクセスストーリーですね。
猪野:その後はフリーランスのモデルとして活動をしながら、出入りしていた雑誌の編集部でライターの仕事もこなす2足のわらじ生活を送っていました。収入はまずまず。当時は独身だったこともあり、生活に困ることはなかったです。ところが、20代後半のころ、大きな失敗をやらかしてしまい、人生が暗転しました。
坂本:何があったんですか?
猪野:モデルやライターの仕事を続けながら、仲間といっしょにアパレル事業を立ち上げたんですが、トラブルに見舞われて、大きな借金を背負ってしまったんです。モデルやライターの仕事も辞めざるを得ず、逃げるようにして実家に帰りました。朝から夕方までボーッと家に籠もって、夜は肉体労働の日雇いバイト。そんな生活が10年近く続きました。
坂本:そんな猪野さんがどのようにして立ち直り、今に至るのでしょうか?
猪野:アウトドアとの出合いが大きかったです。ある日、知人から誘われて登山に行ったところ、嫌なことなどすべて忘れてしまうくらい気持ちがよくて。このままじゃダメだ。前を向いて歩いて行こう。そう考える原動力になりました。それから頻繁に山に行くようになったり、キャンプをはじめてみたり。6年ほど前には、実家の敷地内の雑木林を整備してプライベートな焚き火サイトを開設して、今の仕事につながっています。
坂本:猪野さんの現在の肩書は「焚き火マイスター」。どんなお仕事なのですか?
猪野:テレビや雑誌の焚き火の監修のほか、キャンプ場が主催するイベントの講師などをやっています。会社や事務所には所属せず、フリーランスとして活動しています。
坂本:猪野さんが考える焚き火の魅力とは?
猪野:焚き火はシンプルで原始的な行為。揺らめく炎を眺めているだけで飽きません。また、仲間といっしょに囲めば親睦が深まり、初対面の人とでも仲よくなれる。焚き火はコミュニケーションツールでもあるんです。
好きなことを仕事にする猪野さんにとっての「お金」とは?
猪野:僕は今、45歳(※取材時)。借金は完済して、2年ほど前に結婚もしました。妻は8歳年下の会社員。子どもはまだいません。毎日それなりに忙しく、人並みに暮らせるようにはなりましたが、フリーランスゆえに収入が不安定なのは変わりません。
坂本:私もファイナンシャルプランナーとしてフリーランスで活動しているので、立場としては同じですね。今日はいっしょにお金のことや将来のことについて考えていきましょう。猪野さんは日ごろからどういったことにお金をよく使いますか?
猪野:なんだろう……。どちらかというと、お金はあまり使わないほうだと思います。物欲もないし、贅沢をしたいという欲求もありません。人並みの暮らしができれば十分。たまに飲みに行ければいいくらいかな(笑)。だからお金に対しても特にこだわりがないんです。若いころに借金を背負ってしまったのも、そんな自分の性格が災いしたのかもしれません。
坂本:性格はそうそう変えられるものではないですが、お金に関する正しい知識を身につけておくのは重要なこと。フリーランスであれば、なおさらです。
猪野:知識は大事だと思っています。僕はかつての借金時代、消費者金融からもお金を借りていたんですが、加入している生命保険からも資金の借り入れができることをあとから知りました。
坂本:生命保険には加入していたんですね。生命保険の契約者貸付は、解約返戻金の一定範囲内で借り入れできる制度です。猪野さんのように、どうしても資金が必要になったとき、利用できる場合もあります。ただし、この制度を利用して返済しない場合、保険金の支払いを受ける際の受取額が少なくなったり、保険契約が失効になったりすることがあります。
猪野:今思えばもったいないことをしたと思います。その後、消費者金融の過払い金返還請求のことを知人から教えてもらい、弁護士に相談した結果、返済がグッとラクになりました。もっと早く知っておけばよかったです。
坂本:これから安心して暮らしていくためにも、最低限の知識はおさえておいてくださいね。ところで、猪野さんは夫婦共働きとのことですが、家計の管理はどうしていますか?
猪野:夫婦で別々にやっています。家賃は折半で、光熱費や日々の生活費は主に僕が払っています。
坂本:お財布が別々の夫婦は最近珍しくありませんが、お互いの収入がいくらで、生活費がいくらなのかは、共有しておいたほうがいいですよ。
猪野:そういえば、妻とお金の話ってほとんどしたことないな……。貯金がいくらあるのかもわからないです。
坂本:年に1回くらいは夫婦でお金のことについてしっかり話し合いましょう。今後、家族が増えたりしたら、なおさら将来の貯蓄目標などを明確に設定する必要があります。
猪野:将来の貯蓄目標か……。考えたこともなかったです。改めて妻と相談してみようかな。
「老後」まであと20年。どんな準備をすべき?
坂本:人生100年時代、これから先にどれくらいのお金が必要になるかを見据えて、早めに準備しておくことはとても重要です。猪野さんは老後を含むこれからの人生設計を考えるうえで、不安などありますか?
猪野:むしろ不安しかないです(笑)。目の前のことで精一杯で、将来のこととか、老後のこととか言われても、ピンとこないのが正直なところです。ちなみに、老後って何歳くらいからを指すんですか?
坂本:公的年金の受給開始年齢は原則65歳なので、65歳以降を老後と捉えておくといいでしょう。
猪野:65歳……。あと20年か。そう考えると、人生まだまだ先が長いですね。
坂本:それだけの期間があれば十分準備できますよ。
猪野:老後の準備のために、これから具体的に何をしたらいいですか?
坂本:現時点の収入や資産をきちんと把握し、将来の貯蓄目標や今後のお金の使い方の計画を立てること。そしてがんばって働いて収入を増やして、稼いだお金を上手にやりくりすることです。
猪野:上手にやりくり……。それができれば苦労しないんですけどね(笑)。何かコツってありますか?
坂本:私の持論は、住居費を極力おさえること。住居費は家計に占める割合が大きく、固定で毎月払うものなので、これを低くおさえるほど、家計に余裕が生まれます。目安は収入の25%以内です。逆に、どんなに生活費や食費を必死に切り詰めても、節約できる額には限界があります。
猪野:そう考えると、日々の買い物などで10円、20円の節約を心掛けても意味がなさそうですね。
坂本:まったく意味がないとは言いませんが、効率的に節約するには万単位で考えたほうがいいと思います。
猪野:住まいに関して、僕は今、賃貸マンションに暮らしていますが、ゆくゆくは一戸建てに住みたいと思っています。土地なら実家の敷地があります。フリーランスの僕でも、家、建てられますか?
坂本:はい。たとえば、現在の家賃が15万円だとすると、1年で180万円、10年で1,800万円。そう考えると、マイホームも現実味を帯びてきませんか?
猪野:なるほど。1年単位でしか考えていなかったけど、10年単位で考えたほうがいいんですね。
坂本:賃貸と持ち家、どっちが得か? よく議論になりますが、長い目で見れば持ち家のほうが結果として得だと私は思います。猪野さんのようなフリーランスでも、収入などの条件を満たせば住宅ローンを借りられます。ただし、毎月の返済額はくれぐれも無理のない金額に設定してください。
猪野さんにおすすめの「老後の備え」とは?
坂本:ところで、猪野さんはこれから先、何歳くらいまで仕事を続けたいというイメージはありますか?
猪野:生涯現役でありたいと思っています。ただ、今の仕事がいつまで続くかわからないし、ある程度まとまったお金を貯めておきたいです。何かおすすめの方法はありますか?
坂本:税制優遇があるうえに老後の備えにもなるおすすめの制度を2つご提案します。まずは「iDeCo(個人型確定拠出年金)」。これは老後資金を準備するための年金制度です。掛金の全額が所得控除の対象になるというメリットがあります。(※1)
もう1つは「小規模企業共済」。これは個人事業主や小規模企業の社長さんの退職金制度です。共済金は退職時や廃業時に退職金のようなかたちで受け取れます。こちらも掛金の全額が所得控除の対象となります。(※2)
猪野さんにおすすめの「老後の備え」
● iDeCo(個人型確定拠出年金)
確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度。掛金を60歳になるまで拠出し、60歳以降に給付金を受け取ることができる。掛金全額が所得控除の対象となるほか、運用益も非課税になるなど、税制上の優遇措置がある。20歳以上60歳未満のすべての方が加入可能。(※1)
● 小規模企業共済
小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための退職金制度。掛金全額が所得控除できるなど税制上の優遇があるほか、掛金の範囲内で事業資金の借入れも可能。共済金は退職時や廃業時に受け取ることができ、受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」から選べる。(※2)
参考:
※1 国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」iDeCoの特徴・iDeCoのイイコト
※2 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」
猪野:「iDeCo」も「小規模企業共済」も聞いたことはありますが、内容はよくわかっていませんでした。税制優遇があるうえに老後の備えにもなるんですね。
坂本:どちらも猪野さんのようなフリーランスの方におすすめなので、ぜひ検討してみてください。
猪野:ありがとうございます。今日はいろいろと勉強になりました。こんなにお金のことについて真剣に考えたのは初めてかも(笑)。そもそも僕はあらゆることに無欲で、これまでの人生で自分から積極的にアクションを起こしたことがほとんどありません。モデルも他薦での応募だったし、焚き火もまわりから頼まれてやっているうちに気づいたら仕事になっていました。こんな性格なので、ギャラ交渉も昔から苦手です(笑)。
坂本:ギャラは自分の仕事に対する対価であり、それに値段をつけるのは自分の価値を考えることでもあります。節約などお金の出口を工夫することも大事ですが、入り口である収入を増やすことを考えるのはもっと重要です。収入を増やすためには、働く時間を増やすか、仕事の単価を上げるかのどちらか。時間には限りがあるので、仕事の単価を上げることがより大切です。そのためには自分の価値を高めるしかありません。
猪野:そうですね。がんばって仕事して、ギャラ交渉もしっかりしないと。
坂本:40代は働き盛り。安心して老後を迎えるためには、これからの5年、10年をどう過ごすかがとても重要です。お仕事がんばってくださいね。
取材・文/榎本一生 写真/高橋絵里奈・小池彩子 取材協力/ロバート下北沢
猪野 正哉/焚き火マイスター、アウトドアプランナー
1975年、千葉県生まれ。雑誌のモデルやライターを経て、2015年、千葉の実家の雑木林を自ら整備してプライベートな焚き火サイト「たき火ヴィレッジ〈いの〉」を開設。現在は焚き火マイスター・日本焚き火協会会長・アウトドアプランナーとして活躍。著書に『焚き火の本』(山と溪谷社)がある。
坂本 綾子/ファイナンシャルプランナー
熊本県生まれ。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。明治大学卒業後、フリーランスの雑誌記者を経てファイナンシャルプランナーに。生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナーを行っている。著書に『節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本』(朝日新聞出版)『まだ間に合う! 50歳からのお金の基本』(エムディエヌコーポレーション)など。
※ この記事は、ミラシル編集部がファイナンシャルプランナー、面談者への取材をもとに、制作したものです。
※ 面談中の提案や意見は個人の経験に基づく情報も含まれます。
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