貯金1,000万円超えたらどうすれば?資産を守って増やす方法をFPに聞いてみた。
※ 記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」と記載している部分があります。
※ 本文中に記載の保険に関する保障の条件は、保険会社によって異なります。詳しくはご加入の保険会社にお問い合わせください。
若いころからなんとなくお金をためてきた結果、40代~50代で預貯金が1,000万円を超えたという人もいるのではないでしょうか。それだけの金額になると、金融機関に預貯金として預けておくだけでは、かえってリスクになってしまう可能性があるようです。資産運用初心者へのアドバイス経験が豊富なファイナンシャルプランナーの八木陽子さんに、そのリスクについて聞くとともに、お金を守りながら増やす方法も教えてもらいました。
目次
「口座に1,000万円入れっぱなし」のリスク。
将来の住宅購入資金や子どもの教育費、何らかの事情で働けなくなったときの備えとして、お金をためるのはとても大切です。ただし、金額が大きくなると、全額を預貯金として口座に入れっぱなしにしておくことはリスクになりかねません。その理由を紹介します。
1,000万円を超えるとペイオフが適用されない。
ペイオフとは、金融機関が破綻した場合に預金保険制度にもとづき、普通預金(ゆうちょ銀行の場合は通常貯金)やその利息などが保護されるしくみのこと。ただし、ペイオフで保護される金額には上限があり、預貯金者1人あたり、1金融機関につき元本1,000万円までとその利息などが保護の対象になります。つまり、預貯金が1,000万円を超えた場合、超えたぶんは保護されないリスクが生じるのです。
漠然と「預貯金は元本が保護される」と思っている人も多いかもしれませんが、金融機関が破綻する可能性はゼロではないことを考えると、必ずしも安全とはいえません。
ちなみに、ペイオフの対象は、普通預金(利息がつくもの)などの「一般預金等」とカテゴライズされるものです。当座預金や普通預金(無利息)などの「決済用預金(※)」は全額が保護されますし、投資信託や国債、保険などは、預金保険制度とは別の制度で保護されます。
参考:金融庁「預金保険制度」
※ 具体的にどのような預金が「決済用預金」に該当するかなど、個別の商品に関する事項については、金融機関の窓口などにお問い合わせください。
預貯金だけだとお金が増えづらい。
預貯金でも、多少の利息は発生します。しかし、日本銀行金融機構局のデータによると、日本の普通預金の年利率は0.001%程度で、銀行に1,000万円預けていたとしても、1年間で発生する利息は100円ほど。定期預金でも年利率は0.002%~0.003%程度で、1年間の利息は200円~300円ほどです。
では、なぜお金が増えづらいことがリスクになるのでしょう? その理由は、インフレに対応できなくなるからです。
たとえば、300円の予算があったとして、100円のリンゴが150円に値上がりしたら、3個買えたはずが2個しか買えなくなってしまう。このように、インフレによる物価高騰でお金の価値が相対的に減少してしまうのです。
インフレに伴って収入も上がれば、物価高騰にも対応できるかもしれません。しかし、収入が上がらず、ためているお金も増えないとなると、生活を切り詰めるしかありません。そうならないためにも、お金を守りながら増やす方法を検討したほうがいいといえます。
「貯金1,000万円」を超えたらすべきこと!
ペイオフの適用外になるなど、1,000万円以上の預貯金をそのままにしておくこと自体がリスクにつながるので、複数の金融機関に預貯金を分散させたり、別の方法で運用したりすることを考えましょう。
金融機関の口座を分ける。
ペイオフは、1つの金融機関の口座に預けておいた場合に、元本1,000万円までしか保護されないようになっています。そのため、複数の金融機関に1,000万円以下をそれぞれ分けて預けることで、リスクを回避できるのです。
夫婦の預貯金をまとめると1,000万円を超えているという場合は、同じ金融機関だとしても、夫婦それぞれの名義の2つの口座に分けることで、同様の対策になります。
預貯金以外の資産形成方法を検討する。
口座を分けたとしても、預貯金口座に入れているだけでは、お金はほとんど増えません。いつ来るかわからないインフレに備え、お金を増やす方法も取り入れると、将来の安心感につながるでしょう。
とはいっても、個別株や投資信託での投資に対し、「元本保証なしということは、金額的に大きく損をするリスクもあるのでは?」と、不安を感じる人も少なくないはず。そうであれば、まずは個人年金保険や個人向け国債(詳しくは後述)など、比較的安定性の高い商品にお金を分散してみてはどうでしょうか。基本的に預貯金よりは金利が高いので、預貯金のまま預けておくよりはお金が増えやすいといえます。
まず個人年金保険などで資産運用をはじめてみて、並行して「長期」「分散」「積立」といった資産形成の基本をさらに学び、ある程度理解できたら、非課税制度のiDeCo(個人型確定拠出年金)や、つみたてNISA(詳しくは後述)との併用を検討してもいいでしょう。
「生活防衛資金」「5年以内に使うお金」を確保する。
1,000万円を超える預貯金があるからといって、そのすべてを資産形成に回していいかというと、そうともいえません。商品や制度によっては一定の年齢まで引き出せなかったり、元本が保証されていなかったりするので、一点集中ではなく分散させるイメージで考えましょう。
分散の第一歩が、生活に必要なお金を分けること。もし病気やケガ、勤めている会社の倒産などで働けなくなった場合でも生活を維持できるだけのお金として、「生活防衛資金」を確保しましょう。会社員の場合になりますが、生活防衛資金は「月収×6か月分」が目安です。
なぜ6か月分かというと、一般的に6か月もあれば、仕事復帰・転職・起業などのめどが立つと考えられるからです。35歳以上45歳未満で、かつ5年以上10年未満の会社員・公務員(雇用保険の被保険者)だった期間があれば、失業手当が180日支給されることからも、6か月分は妥当な金額といえます。
生活防衛資金に加え、直近5年以内に使う予定のお金も確保しましょう。「来年家を買うときに、頭金を入れたい」「3年後に子どもの大学受験がある」といった場合、そのぶんのお金はいつでも引き出せる預貯金口座に入れておいたほうが安心です。生活防衛資金+5年以内に使うお金を確保のうえ、預貯金として預けるだけのお金があれば、それを資産形成に回して“お金を守りながら増やす”ことにつなげられます。
生活防衛資金 | 働けなくなった場合などに備えた生活維持資金 | 月収×6か月分 |
5年以内に必要な資金 | ライフプランにあわせた必要資金 | 相当分 |
預貯金以外の方法で資産形成するには?
資産形成するには、金融商品や制度を活用するなど、いくつか方法があります。その中でも、投資未経験の人におすすめしたいのが、前述した個人年金保険・個人向け国債・iDeCo・つみたてNISA。それぞれの特徴を解説していきます。
おすすめの金融商品。
まずは、金融商品である個人年金保険と個人向け国債をご紹介します。
個人年金保険
一括で保険料を払い込むか、または定期的に保険料を払い込み、契約時に設定した年齢に達した時点から保険料に応じた年金を受け取れる保険です。契約時に年金額が確定する「定額個人年金保険」と、保険会社の運用次第で年金額が変動する「変額個人年金保険」がありますが、将来の安心感を得るには、あらかじめ年金額がわかる「定額個人年金保険」のほうがいいでしょう。
個人年金保険には、個人年金保険料控除を利用できるというメリットもあります。個人年金保険料控除とは、「生命保険料控除」の一種で、1年間に払い込んだ保険料に応じて、一定額を所得から差し引けるしくみのこと。所定の条件を満たし、「個人年金保険料税制適格特約」が付与された商品であれば、個人年金保険料控除の対象になります。所得税は年間最高4万円、住民税は年間最高2万8,000円の所得控除を受けられます(※)。
参考:国税庁「No.1140 生命保険料控除」
※ 2012年1月1日以降に結んだ契約の場合。
保険料を定期的に払い込むよりも一括で払ったほうが、保険料が抑えられるケースもあります。預貯金が1,000万円を超えていれば、生活防衛資金と5年以内に使うお金を確保しても、十分に余る可能性が少なからずあるので、ある程度まとまった金額を一括で個人年金保険に払い込むという選択肢も出てくるでしょう。
なお、注意点もいくつかあります。個人年金保険は解約すると多くの場合、解約返還金が払い込んだ保険料の総額を下回ります。また、先述した「定額個人年金保険」は将来受け取れる年金額が決まっているため、インフレで物価が上昇した場合、受け取る年金の価値が相対的に下がってしまう可能性もあります。
個人向け国債
個人向け国債は大きくお金が増えることはありませんが、元本割れなしで、年率0.05%の最低金利が保証されているので、比較的安心して資産運用できる商品です。「変動10年」「固定5年」「固定3年」と、変動金利タイプと固定金利タイプがあります。今後金利が上昇しそうであれば「変動10年」を選択するといいでしょう。現時点で金利が高い水準にあると判断できたら、「固定5年」「固定3年」で変動率を固定するのも1つの方法です。
ただ、購入から1年経過するまで中途換金ができないので注意してください。1年経てばいつでも換金できるので、子どもの留学費用などの突然の出費にも対応できるでしょう。また、募集期間と発行日が限定的で、いつでも購入できるわけではない点にも注意が必要です。
参考:財務省「個人向け国債」
おすすめの制度。
続いて、制度であるiDeCoとつみたてNISAをご紹介します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
毎月一定額を拠出し、その掛金を運用して老後の資産形成を目指す年金制度。原則60歳になるまで資産を引き出せませんが、非課税で運用でき、拠出した掛金全額が所得控除になります。
「50代からiDeCoをはじめても遅いかな……」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、2022年から65歳未満まで拠出できるようになり(※)、受給開始時期の上限も75歳まで延長されました。つまり、今後20年程度は運用できるので、50代からはじめても遅くはないといえます。
参考:厚生労働省「iDeCoの概要」
※ 会社員・公務員など第2号被保険者の場合。
つみたてNISA
最長20年間、年間40万円まで、非課税で運用できる制度。投資対象は金融庁に届け出された株式投資信託とETF(上場投資信託)に限られますが、金融商品の売却や資金の引き出しはいつでも可能です。預貯金が1,000万円ある人ならば、iDeCoとつみたてNISAの併用を検討できるでしょう。
40代~50代だと、住宅ローンの繰り上げ返済や子どもの受験など、大きなお金が必要になるタイミングも多いと思います。そのようなときにも、いつでも金融商品を売却できるつみたてNISAであれば対応できる可能性が高いです。
【まとめ】一歩踏み出せば見える景色が変わる。資産形成のすすめ。
私のところへ相談に来る方たちの中でも、物価高騰などを受け、資産形成を考えはじめている人は増えている印象があります。一方で、「運用次第ではお金がマイナスになるから、iDeCoやつみたてNISAなどの投資は怖い」というイメージも拭い切れていないでしょう。そんな人にこそ、そういったリスクの少ない個人年金保険などは、はじめやすい資産形成方法といえます。
その一歩を踏み出すことで、資産形成のハードルが下がり、iDeCoやつみたてNISAなど、次のステップにも興味がわいてくるはず。“まずはやってみる”が大切ですよ。
写真/Getty Images、PIXTA イラスト/オオカミタホ
八木 陽子
ファイナンシャルプランナー。
東京都在住。1男1女の母。出版社勤務を経て独立。2001年、ファイナンシャルプランナーの資格を取得後、マネー記事の執筆やプロデュース、セミナーなどの仕事を行う。2008年、家計やキャリアに関する相談業務を行う株式会社イー・カンパニーを設立。著書に『マンガでカンタン!お金と経済の基本は7日間でわかります。』(Gakken)など。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
※ 掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。
※ 記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。
※ 税務の取り扱いについては、2023年1月時点の法令等にもとづいたものであり、将来的に変更されることもあります。変更された場合には、変更後の取り扱いが適用されますのでご注意ください。詳細については、税理士や所轄の税務署等にご確認ください。