自営業の方が国民年金以外に考えておきたい老後資金対策は?【FP監修】
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自営業など厚生年金に加入していない方は「会社員に比べるともらえる年金が少ない」とよくいわれています。老後にゆとりをもたらすためにも、何か対策は考えておきたいところです。
そこで今回は、主に40代~50代の自営業の方にむけて、国民年金にプラスして老後資金を備えるための制度をご紹介。老後のライフプランニングに詳しいファイナンシャルプランナー(FP)の森本幸人さんが解説します。
目次
- 自営業の方が加入する年金制度は?
- 自営業の方が利用できる老齢基礎年金以外の老後資金対策は?
- 個人年金保険を利用することで、老後にさらなるゆとりを。
- 個人年金保険にはデメリットもある。
- 【まとめ】自営業の方にとって個人年金保険の利用はメリット大!
自営業の方が加入する年金制度は?
まず、自営業の方が受け取れる年金の種類と、年金の支給額についてみていきましょう。
基本的には国民年金のみに加入。
日本の年金制度は「3階建ての構造」といわれています。20歳以上60歳まで(原則)の国民全員が加入する「国民年金」が、1階の基礎年金制度。会社員などが加入する「厚生年金」が2階の被用者年金制度で、1階・2階は国が運営する公的年金制度に当たります。さらに3階は、企業などが運営する「企業年金」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などの私的年金制度が該当します。
このうち、企業などに所属しない自営業の方に加入義務があるのは、1階の国民年金のみです。
老齢基礎年金の支給額はどのくらい?
原則65歳から支給される老齢基礎年金は、20歳から60歳までの40年間保険料を納めると、満額受け取ることができます。2023年度4月分からの老齢基礎年金支給額は、満額で下記のとおりとなります。
年齢 | 月額 | 年額 |
67歳以下 | 6万6,250円 | 79万5,000円 |
68歳以上 | 6万6,050円 | 79万2,600円 |
年金額は物価の変動や現役世代の賃金の変動によって、毎年見直しが行われます。67歳以下の方は、名目手取り賃金変動率にあわせて改定され、68歳以上は物価変動率にあわせて設定されます。ただし、物価変動率が名目手取り賃金変動率より高い場合は、どちらの年齢の方も名目手取り賃金変動率にあわせます。今年は、2004年の年金制度改正以来、初めて名目手取り賃金変動率が物価変動率よりもプラスに転じたことで、原則通り、年齢による年金額に違いが生まれました。
参考:厚生労働省「令和5年度の年金額改定についてお知らせします」(2023年)
自営業の方が利用できる老齢基礎年金以外の老後資金対策は?
自営業やフリーランスの方には定年がないので、高齢になっても働き続けて収入を得ることはできます。ですが、引退して収入が途絶えたあとのことを考えると、もう少しゆとりを持っておきたいところ。老後資金を増やすために利用できる制度には、次のようなものがあります。
国民年金基金
会社員などと同様に2階分の年金を受け取れる、公的な個人年金の制度です。国民年金とセットで加入することで、掛金と加入年数に応じた確定年金を上乗せして受け取れます。加入できるのは20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者と、国民年金に任意加入していて日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の被保険者などです。
掛金の額は選択可能で、月額上限が6万8,000円。ただし、個人型確定拠出年金にも加入している場合は、その掛金と合計して上限6万8,000円となります。掛金は全額が所得控除の対象となり、所得税や住民税が軽減されます。
付加年金
国民年金保険料に加えて月400円の付加保険料を納めることで、受け取る年金額が「200円×付加保険料納付月数」のぶん増えます。「払ったぶんの半分しかもらえないの?」と勘違いされがちですが、生涯この額が付加されます。2年以上受け取ると、納めた付加保険料以上の年金を受け取れるわけです。付加年金の給付は定額のため、物価の変動に応じて増額または減額することはありません。
納付できるのは20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者と国民年金に任意加入している65歳未満の被保険者ですが、国民年金基金と付加年金は併用できない点に注意しましょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
私的年金制度の1つです。加入は任意で、加入の申込や、掛金の拠出、掛金の運用(金融商品の選択など)を自分で行い、掛金とその運用益との合計額をもとに給付金を受け取れます。国民年金第1号被保険者(自営業者など)の拠出限度額は、国民年金基金の掛金、または国民年金の付加保険料を納付している場合は、それらの額とあわせて月額6万8,000円以内です。
掛金は全額所得控除の対象になるほか、運用益は全額非課税、年金または一時金を受け取るときも各種控除が適用されます。ただし、元本割れするリスクもあります。
小規模企業共済
国が運営する、経営者・個人事業主のための退職金制度で、加入時に確定した金額を退職・廃業時に受け取れます。先に紹介した6万8,000円とは別枠で、月々の掛金は1,000円~7万円まで500円単位で自由に設定でき、途中で変更も可能。iDeCo同様、掛金は全額所得控除の対象です。
ただし、掛金納付月数によっては、解約手当金が掛金合計額を下回る、または受け取れない場合があります。
公的年金の繰り下げ受給。
老齢基礎年金は、65歳で受け取らずに、66歳~75歳までの間で繰り下げて受給することもできます。1か月繰り下げるごとに0.7%、最大84%増額した年金を受け取ることができ、増額は生涯続きます。
ただし、年金受取総額が65歳から受給した場合を上回るのは、受給開始から約12年以降からです。
個人年金保険を利用することで、老後にさらなるゆとりを。
以上ご紹介した年金制度に加えて、民間の個人年金保険も老後の資産形成の手段として利用できます。個人年金保険には、次のようなメリットがあります。
メリット1:老後資金を着実に準備できる。
「確定年金」タイプの個人年金保険は加入時に将来の受取額が確定します。運用結果次第で受取額が変わる投資とは異なり、着実に老後資金を準備できるといえます。
メリット2:税制優遇を受けられる。
2012年1月1日以後に締結した保険契約で、一定の条件を満たし、「個人年金保険料税制適格特約」が付加されている場合、年間払込保険料額に応じて所得税で上限4万円、住民税で上限2万8,000円が控除の対象となります。
一般の生命保険料控除とは別枠で控除を受けられ、所得税率は所得が多いほど、段階的に上がりますから、控除のメリットも大きくなります。
参考:総務省「個人住民税」
メリット3:契約者貸付制度がある。
保険料払込期間中、一時的にまとまった資金が必要になった場合に、その時点の解約返還金の一定範囲内で保険会社から貸し付けを受けられる場合があります。もちろんほかの貸付金と同様返済が必要ですし、利子もつくので、あくまでも短期間の資金調達に向いています。
自営業の方は、会社員のように定期的な収入があるとは限らないので、いざというときの資金源として利用できるものがあると安心です。
メリット4:受取時期や受取方法を自分で選べる。
個人年金保険は、受取時期を自分で選べることもメリット。たとえば、「70歳まで仕事を続ける予定なので、それ以降に受け取る」ということもできます。また、受取方法も、一時金としてまとめてもらうか年金形式か、どちらかを選べます。
前述した公的年金の繰り下げ受給と組み合わせて考えてもよいでしょう。65歳からの老後資金は個人年金保険で確保し、公的年金の受取開始を遅らせることで、年金の受取総額の増額を目指すことができます。保険会社のスタッフは、いろいろなケースを経験されていますから、相談してみるとよいかもしれません。
個人年金保険にはデメリットもある。
ここまで個人年金保険のメリットをいくつかご紹介してきましたが、もちろんデメリットもあります。
デメリット1:インフレに弱い。
インフレになると、同じものを買うのにも今までより多くのお金が必要になります。個人年金保険加入時に「これだけあれば十分だろう」と思って受取額を設定しても、受け取りの時点で予想以上にインフレが進んでいると、「足りない」と感じるかもしれません。
デメリット2:解約すると損になりがち。
解約すると多くの場合、解約返還金は支払った保険料の総額を下回ってしまう点にも注意が必要です。なるべく解約せずにすむよう、保険料は無理のない金額で設定しましょう。
【まとめ】自営業の方にとって個人年金保険の利用はメリット大!
投資のようにリスクは負いたくない、自分でコツコツと貯金するのが苦手、という方に個人年金保険はおすすめです。保険料は自動的に口座振替され、あまり意識しなくても着実に老後資金を準備できるというメリットがあります。
現役時代は税制優遇を受けながら老後に備えることができ、いざというときの資金として貸付制度を利用できるのは、自営業の方にとっては心強いはず。老後のために、個人年金保険をぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。
写真/PIXTA
森本 幸人
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)。証券会社勤務後、森本FP社労士事務所を開設。定年後を豊かに生きるためのリタイアメントセミナーを中心に、再就職や資産運用について全国で講演・セミナーを行う。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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