自営業者が働けなくなったら?おすすめの備え方を解説。
※ 記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」と記載している部分があります。
※ 本文中に記載の保険に関する保障の条件は、保険会社によって異なります。詳しくはご加入の保険会社にお問い合わせください。
会社員としての働き方に疑問を感じ、自営業の道を選ぶ人は少なくありません。会社員から自営業へのキャリアチェンジにつきものなのが、病気やケガで働けなくなったときの不安。
税理士・社会保険労務士・CFPとして活躍している佐藤正明先生は「自営業者には会社員とは比べものにならないくらい大きなプレッシャーがある」と語ります。今回は佐藤先生に自営業者が抱えるリスクや備えについて教えてもらいました。
目次
自営業者が働けなくなると、どんなリスクがある?
一般的に自営業者は会社員と比較して、公的な保障が薄いといわれています。
自営業者は、働けない状態になったとしても国民健康保険に加入していれば、病気やケガなどの際、最低限の保障は受けられます。しかし、原則として健康保険(社会保険)に加入できないため傷病手当金が支給されないなど、もしものときのリスクが会社員よりも高いといえるでしょう。
ここからは会社員と比較しながら、働けなくなったときのリスクを見ていきましょう。
会社員に比べて保障が少ない。
労働保険(雇用保険と労災保険)への加入が義務づけられている会社員は、働けなくなるといくつかの保障が受けられます。一方で、原則として労働保険に加入できない自営業者は会社員に比べると保障が少なくなります。会社員にあって自営業者にない保障は、主に以下のとおりです。
労働保険で受けられる主な保障・補償
雇用保険に関する保障 | ・失業等給付(失業した場合) ・傷病手当(病気で休業した場合) ・介護休業給付(家族の介護で休業した場合) ・育児休業給付(出産育児で休業した場合) など |
労災保険に関する補償 | ・療養(補償)等給付(医療費の全額) ・休業(補償)等給付(休業した場合) ・障害(補償)等給付(障害が残った場合年金か一時金) ・介護(補償)等給付(介護を受けた場合の費用) など |
参考:厚生労働省「労災補償」
収入が途絶えてしまうリスクがある。
自営業者は、働けなくなると収入が途絶えてしまうリスクがあります。労災保険を利用しなくても、短期間の休みで足りるのであれば会社員には有給休暇を使うという選択肢がありますが、自営業者はたとえ短い期間であってもその間の収入が途絶えてしまう可能性がきわめて高いです。
働けなくても費用が発生する。
たとえば事務所の家賃・設備のローン・商品の原材料費・外注費・従業員がいれば給料など、たとえ働けなくなっても出費が続き、後でまとめて支払う「買掛金」にしていれば、期限に応じた支払いが発生します。
「勤めていれば定期的に給与が振り込まれる会社員と違い、たとえ収入が安定していても事業の支払いが発生する自営業者のプレッシャーは大きいと思います。手形を使っていれば、不渡りを6か月間に2回出したら当座預金などが取引停止になってしまいます。自営業はすべて自分の裁量で仕事ができる一方、多くの責任や困難をすべて自分で引き受ける必要があります」(佐藤先生)
自営業者がやっておくべきことは?
会社員と比べると、自分が働けなくなった場合に大きなリスクを抱える自営業者は、どのように備えるとよいのでしょうか。事業を継続するために、役立つポイントをチェックしましょう。
事業に必要な金額を把握する。
まずは事業に毎月どれくらいの資金が必要なのか、全体像を確認しましょう。前述した事務所の家賃・設備のローン・商品の原材料費・外注費・従業員の給料・買掛金などの額から、ひと月あたりの運転資金を把握します。
「私のような税理士や社会保険労務士は、事務所の家賃や事務費、通信費程度ですが、毎月必要な額は業種によって異なります。自営業で家業を継いだ場合、設備のリースや融資の返済、未払金や買掛金があるかもしれないので、帳簿や資金繰り表、推移表などを必ずチェックすることをおすすめします」(佐藤先生)
生活費を把握する。
毎月必要となる生活費の額も確認しておきましょう。総務省によれば2人以上の世帯の消費支出は1か月平均約30万円となっていますが、生活費は家族構成や住宅ローン、借金の有無、貯蓄計画などによってまちまちです。
「配偶者の収入もチェックしておきたいポイントです。いざというときは自分が働くと言ってくれるかどうかで、もしものときに必要な備えは変わります。家計の全体像を知るために、ファイナンシャルプランナーに相談するのもいいでしょう」(佐藤先生)
生活防衛資金を貯めておく。
毎月の生活費が見えたら、その額をもとに貯蓄で備えます。会社員が独立する場合、「もしものときのために3か月~6か月分の生活費を確保しておくケースが一般的」と佐藤先生は言います。
さらに、「生活防衛資金は事業が苦しくなっても手をつけないお金です。事業が苦しくなった際の対策として、自営業者は何かしらの保険に加入しているケースが多い」と説明します。
銀行口座の状況を把握する。
ぎりぎりでやり繰りしているのか、余剰資金はどれくらいあるのかなど、事業用の銀行口座がどうなっているのか日ごろから把握しておきましょう。自己資金はもちろん大切ですが、それに加えてもしものときは銀行からどれくらいの融資を受けられるのか、借入枠がわかっていると安心です。
相談できる人を見つけておく。
日ごろから事業について相談できる人を見つけておきましょう。資金に関することであれば、気軽に相談できる税理士や銀行の担当者になります。また会社員時代に得た同僚や同業者などの人脈が維持されていれば、事業の将来について貴重な情報交換ができる機会にもつながります。
就業不能保険に加入する。
自営業者が病気やケガによる入院などで一定期間働けなくなったときの収入減の備えとして、「就業不能保険」も活用できます。必要な生活費をカバーできる保険に加入しておけば、いざというときの安心材料の1つになります。
就業不能保険、検討のポイントは?
就業不能保険の保障内容は商品によってそれぞれ違います。保険料だけで比較せず、入院などで働けなくなったときに「保険に加入しておいてよかった」と思える、自分に合った保険の選び方を解説します。
就業不能保険を選ぶ際のポイント
□生活費を給付金で確保できるか?
□就業不能と判断される条件は?(何日以上続いたら?在宅医療の場合は?)
□給付金が何回支払われるか?
給付金額を検討する。
入院日数によって金額は前後しますが、病気やケガは予測できないため、毎月の生活費は就業不能保険で補い、入院費は医療保険でカバーしておくとより安心です。自分に必要な毎月の生活費をベースに、プランを選ぶとよいでしょう。
公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、入院した際の自己負担額は平均19万8,000円となっています。
参考:公益財団法人 生命保険文化センター「令和4年度 生活保障に関する調査」をミラシル編集部にて一部加工
給付金の支払条件を確認する。
就業不能保険には給付金の支払条件があります。入院などで就業不能状態が継続して所定の日数を満たせば、就業不能給付金が受け取れます。また給付金が支払われる回数には上限があります。
たとえば「治療を目的としない美容医療での入院は、給付金の支払対象にはならない」というケースもあります。就業不能状態と認定される条件や、在宅医療となる条件についても契約の内容を確認しましょう。
【まとめ】「働けなくなったら」に元気なうちから備えよう。
自分が急に働けなくなったときのことは考えたくないものですが、その可能性はゼロではありません。自分しか頼れない自営業者にとって、働けなくなったときのリスクへの備えは大きな支えとなります。「まだ元気だから」と先送りにせず、元気なうちに準備をしておきましょう。
「自営業者にとってお金の備えと同じくらい大切なのが、人間関係です。いざというときに周りの人の協力があるかどうかは、事業の将来を左右します。
特に配偶者や家族がいる方は普段から話し合い、自営業者として働くなかで生活が困難になることも十分ありえることなどについて、きちんと理解を得ておくことをおすすめします。お金にかえられない人間関係の価値にもぜひ注目してほしいです」(佐藤先生)
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
【監修者】佐藤 正明
佐藤正明税理士・社会保険労務士事務所所長(税理士・社会保険労務士)、CFP(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)、日本福祉大学非常勤講師。小規模企業者の事業育成・新規開業のサポートをはじめ、税務、会計、社会保険、相続・事業承継、年金相談など多角的な視点でのアドバイスを行っている。セミナー講師、テレビ、ラジオなどに出演、著書多数。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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