

【受賞短歌発表】#第一生命ミラシル短歌大賞発表。審査員・上坂あゆ美によるコメントも。
「ミラシル by 第一生命」が新たに立ち上げた「#第一生命ミラシル短歌大賞」。今回の短歌大賞では、1,064首のさまざまな「生きる」想いや情景が畳み込まれた歌と出会えました。
そんな多様な「生きる」歌はどれも、その作者の血の通った愛おしさを感じさせるものでした。生活のなかでの何気ない瞬間から、現代の社会を覆う問題まで。多岐に渡った「生きる」歌に触れ、編集部としても、たくさんのことに気づかされたように思います。
短歌募集期間中、複数回応募してくださった方のなかには、最終的に短歌を詠む楽しさや生きる喜びを歌にされている方もいらっしゃり、この短歌大賞が、応募者の方の生活を少しでも彩り、ご自身の過去や現在、未来を見つめ直す機会となれたようで、たいへん光栄だと感じました。
審査員の上坂あゆ美さんには、すべての短歌にお目通しいただきました。そして、そのなかから大賞1首・審査員賞1首を選定いただきましたので、編集部賞7首と、総評・選評とともに、本記事にて発表いたします。
あらためて、ご応募いただいた皆さん、ありがとうございました。
※受賞短歌決定を記念して、「ミラシル by 第一生命」無料会員限定で、上坂あゆ美さんの直筆短歌・サインカード付き著書が当たるキャンペーンへ応募できるチャンスも。応募は記事終盤の「無料でキャンペーンに応募する」ボタンから!
#第一生命ミラシル短歌大賞 結果発表
審査員・上坂あゆ美さんによる総評
10代の恋心のような歌から、定年を過ぎた方の生活の歌、希望の歌に絶望の歌、さまざまな形の「生きる」がありました。戦争、災害、差別、格差が存在するこんな社会で、全部が嫌になっちゃう夜もあるけれど、皆さんがこれまで生きのびて得た気持ちを作品にしてくださったことに大きな勇気をいただきました。
もし、今回初めて短歌をつくったという方がいたら、ぜひ今後も続けてほしいです。あなたしか気づけない世界の美しさが、きっとこれからもあるから。
大賞

審査員・上坂あゆ美さん選評
文化祭か何かの準備中だろうか。ドミノを1枚1枚並べることは、人生の長い道のりのようにも思える。それが笑い声で終わるということは、意図的ではなく途中で偶然ドミノが倒れてしまったのだろう。本来最後まで並べきってから倒すものだけれど、成功しなくても笑い合える仲間がいれば輝く思い出になる。こうしたこと自体がまさに人生のようだ。この比喩によって、夏の刹那的かつ永遠のような感触が際立っている。
審査員賞

審査員・上坂あゆ美さん選評
生きているとつい死の怖さを忘れて、「生」が標準装備になる。人間は100%、もれなく死ぬのに。この歌の主体はそれに気づいている。何らかの病気を患っているのかもしれず、自分が「七月」まで生きているか確信がない。だからこそ、未来の「七月」にした予約が光り輝いて見える。予約が光るという意外な言葉の取り合わせと飾り気のない文体で、本当に文字が光っているように感じた。生きていることは奇跡なのだと思い出させてくれる歌。
編集部賞

編集部選評
トマトに付いている茶色い傷、あれは確かに帝王切開後の「傷跡」に似ているかもしれません。だれもが目にしたことがある傷だからこそ、それが胎児の誕生のために付けられた「傷跡」と重なるという視点に、ハッとさせられました。また同時に、母親への申し訳なさもあるのかもしれませんが、主体がトマトを潰れないよう丁寧に持っている画が浮かび、慈しみめいたものも感じられます。

編集部選評
事故や病気、または悩みごとなどから急に回復した朝を表した歌でしょうか。「なんて」と「おはよう」という、結びつきづらい2語の組み合わせにより、急速な驚きと拍子抜けするような生活の匂いが同時にもたらされるバランス感覚がおもしろいです。

編集部選評
キャベツを切り炒めるという主体の行為には、元となる意思が伴っているはずです。しかし、それが無機質なロボットのように表されていることで、ヒトが感覚や感情を見失った状態が伝わってくるようです。人間は、こうした麻痺状態を乗り越えて生きてゆくものだと信じたくなります。

編集部選評
心に空白があると、つい埋めるべきだと感じてしまいがちです。しかしそれは、本来、埋めなくてもよい、認めるだけでもよいものかもしれません。そうした、日々を「生きる」うえで忘れてしまいがちな視点を思い出しました。

編集部選評
「膝をほぐす」という、直接的ではないが年齢を感じさせる表現により、歌全体に人生の長い年月が滲んでいるようです。ご年配の方が、旧友または家族、パートナーなどの親しい人と楽しくお酒を飲んでいる瞬間を切り取った歌なのかもしれません。

編集部選評
「生きる」というテーマを「血の赤」として捉えたのでしょうか。「赤い靴」と結びつけられたリンパ液は、靴擦れからくるものかもしれないですね。夕焼けの「赤」も連想させるなど、歌全体から色彩が立ち上ってくるようです。

編集部選評
ネギを傘袋に入れても持ちやすくなるわけではないうえ、それは本来の用途として想定された使い方でもありません。しかし、そのような無意味な行為にこそ、「生きる」意味を見出せるともいえるかもしれません。損得や合理性を追い求めているだけでは、「生きる」ための心を保てないときもあります。そうした視点を忘れないでいたいですね。
審査員プロフィール
上坂 あゆ美
1991年、静岡県生まれ。2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。Podcast番組「私より先に丁寧に暮らすな」パーソナリティー。2024年に初のエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』(文藝春秋)を発売。短歌のみならずエッセイ、ラジオ、演劇など幅広く活動。
ミラシル会員限定抽選で、上坂あゆ美さんの直筆短歌・サインカード付き著書が当たる!
