「不定愁訴」は病気じゃない?症状チェック・原因・対策まで【医師監修】
なんとなく体調が悪かったり、さまざまな症状を自覚していたりするにもかかわらず、検査をしても異常が見られない状態を不定愁訴(ふていしゅうそ)といいます。不定愁訴への対処法や向きあい方について、医学博士・健康科学アドバイザーの福田千晶先生に教えてもらいました。
目次
- 不定愁訴とは?
- 不定愁訴の主な症状と原因・考えられる病気は?
- 当てはまったら注意!不定愁訴における自律神経の乱れチェック。
- 不定愁訴への対処法。
- 不定愁訴で病院を受診するなら何科?
- 【まとめ】我慢しないで生活改善。困っていたら医師に相談を。
不定愁訴とは?
「どうも体調がすぐれない」という自覚症状はあるけれど、病院で診察や検査を受けても原因となる明らかな病気が見つからない……。「不定愁訴」とは、そうした状態を指す医療用語です。
「愁訴」という言葉には、「苦しみや違和感を口に出して訴えること」という意味があります。また、不定愁訴は英語で「unidentified complaints」で、日本語では「客観的に同定しにくい訴え」と訳されます。心身の異常を実際に感じていても、原因が特定できないため、悩んでいる人は少なくありません。
不定愁訴の主な症状と原因・考えられる病気は?
不定愁訴の症状として多いのは、「疲れがとれない」「よく眠れない」「なんとなく体調が悪い」というもの。このほか、だるさ・めまい・頭痛・冷え・のぼせ・体重増減・耳鳴り・動悸などを訴える人もいます。その症状には個人差も大きく、いくつもの症状が重なっていることもあります。
不定愁訴は、心身のストレス・不規則な生活習慣・運動不足・ホルモンバランスの乱れなどから生じることが多いといわれています。年齢・性別を問わず、症状は見られますが、ホルモンバランスの乱れが原因となるケースは男性よりも女性に多い傾向があります。その理由は、女性の体はホルモンバランスの影響を受けやすいためです。
特に、10代~40代前半ぐらいまでの閉経前の女性は、生理周期にあわせてホルモンバランスが変動を繰り返します。生理前に心身が不調になるPMS(月経前症候群)の人は、ホルモンバランスの乱れから不定愁訴を起こしやすいとされています。
不定愁訴に悩むのはもちろん、女性だけではありません。近年、デスクワークやPC作業が増えた結果、男性でも冷え・肩こり・不眠などの不定愁訴を訴える人が増えています。
注意すべきは、不定愁訴と思われていた症状が実は、別の病気から生じていたケースです。特に多いのは心身症・うつ病・不安障害などの精神疾患です。そのほか、自律神経失調症、40代~50代の女性なら更年期障害、30代後半の女性なら更年期に似た体調の変化を感じはじめるプレ更年期障害のこともあります。
まれに、病気が原因となって、不定愁訴に似た症状が見られることがあります。たとえば、甲状腺ホルモンの過剰分泌が原因の甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、甲状腺ホルモン不足による甲状腺機能低下症など、甲状腺疾患が原因の場合も。ほかにも脳腫瘍などの脳の病気、がんや白血病・心臓病・貧血・子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科系の病気などが原因という可能性もあります。
当てはまったら注意!不定愁訴における自律神経の乱れチェック。
不定愁訴の発症と関係が深いとされているのは「自律神経の乱れ」です。自律神経は内臓の働きや血流・消化・体温調節など、生命維持にかかわる体のさまざまな機能を調節しています。
自律神経がホルモンバランスの乱れ・不規則な生活習慣・ストレスなどの影響を受けると、その調節機能が崩れ、さまざまな不定愁訴の症状を引き起こすと考えられています。
「自分は大丈夫」と思っていても、少しずつ自律神経の乱れが生じているかもしれません。以下のチェックリストで、自律神経の乱れ具合を確認してみましょう。チェックした項目が多いほど、自律神経の乱れが生じている可能性が高くなります。
自律神経の乱れチェック
□しっかり休んでも疲れがとれない
□生活に特に変化はないのに、最近、体重が増減した(体重の5%以上)
□眠りが浅く、よく眠れない
□めまいの症状が見られる
□体のだるさがとれない
□風呂上がりなどでも体が冷える
□食欲にムラがある(食欲がない、または食べすぎてしまう)
□便秘と下痢を繰り返している
不定愁訴への対処法。
不定愁訴は心と体からのSOSサインです。体の疲れや冷え、睡眠不足や食生活の乱れ、栄養不足や運動不足、精神的ストレスなどで、心や体が悲鳴をあげているのかもしれません。
そのため、不定愁訴の改善や予防に取り組むなら、まずは日々の生活習慣を健康的なものにすることからはじめましょう。
生活習慣や食生活を見直す。
体の冷えに悩んでいる人の中には、いつも湯船に入らずに、さっとシャワーだけで済ませてしまう人がいます。そうした習慣が体の冷えにつながっている可能性もあります。毎日しっかり湯船に浸かって、体をよく温めることで、全身の血行が改善し、冷えにくくなります。
食事の時間が不規則だったり、外食やコンビニ食が多かったりといった食生活も要注意です。特に、昼はおにぎりだけ、夜はお酒とおつまみ、あるいは麺類だけなど、極端に品数の少ない食事は栄養が偏りがちに。外食やコンビニ食の場合も、できるだけ数種類のおかずの入った定食メニューやお弁当を選んで、栄養バランスのとれた食事にしましょう。
十分な睡眠時間を確保する。
自律神経のバランスを整えるためにも、良質な睡眠を十分に確保することはとても重要です。最適な睡眠時間には個人差がありますが、できれば毎晩6時間半から7時間は睡眠時間を確保しましょう。
睡眠時間が5時間半を下まわると事故やミスが増えるといわれています。健康を維持し、不定愁訴を予防するためには少なくとも毎晩5時間半以上は連続して眠るように心がけましょう。
楽しみながら運動をする。
不定愁訴の予防には運動習慣を身につけることも重要です。運動不足の解消だけでなく、ストレス解消にもつながります。ただし、急に運動やウォーキングをしようと思ってもモチベーションは上がらず、長続きもしないもの。ポイントは「楽しみながら運動すること」です。
ウォーキングしながら、「街中でなにか素敵なものをみつけたら、スマホで写真を撮ろう」「新しいお店を見つけてみよう」など、「楽しい目的」を持ってみるのも1つのアイデア。散策を楽しみながら、たくさん歩けるでしょう。
「外出するのはちょっとハードルが高い」という場合は、フィットネス動画や音楽などを視聴しながら、自宅で自分なりに体を動かしてみるだけでもいいでしょう。人気のフィットネス系ゲームにチャレンジしてみるのもおすすめです。最近は、ボウリングやテニス、ゴルフなどのスポーツを体感しながら、ゲーム感覚で運動できるものもあります。
ほっとできる時間を持つ。
不定愁訴にはメンタル面も大きく影響しています。いつも気ぜわしい、気持ちが張り詰めている、イライラしている……などと感じているなら、適度に休みをとり、心がほっとできる時間を1日5分でも持つようにしましょう。
たとえば、好きなお茶をいれて飲む、お気に入りの入浴剤を入れてお風呂に浸かる、窓からぼんやり夕日を眺める、外を歩きながら風の気持ちよさを感じる……など。自分が「ほっとできる」と思えればそれでOK。自分にあったリラックス方法を見つけて、毎日わずかな時間でも、意識的に実践することが大切です。
不定愁訴で病院を受診するなら何科?
不定愁訴の症状に困って、いざ病院を受診しようと思っても、どの診療科や病院に行けばいいのかわからないということもあるかもしれません。その場合は、どのように病院選びをしたらいいでしょうか。
不定愁訴外来。
最近は不定愁訴の診療に特化した、「不定愁訴外来」のある病院も増えてきています。原因のわからない心身の不調で悩んでいる場合には受診をしてみてもいいでしょう。インターネットで検索する場合は、「お住まいの都道府県名」+「医療機関」「不定愁訴」などのワードで検索すれば見つかりやすくなります。
婦人科や心療内科。
女性の場合、特に婦人科系の疾患というわけではなくても、不定愁訴の症状もレディースクリニックや婦人科で診察してもらえる場合があります。子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科系の病気でも不定愁訴に似た症状が見られることがあるため、気になる症状があれば早めに受診しましょう。心身症・うつ病・不安障害など、心の問題が考えられる場合には心療内科を受診しましょう。
内科などのかかりつけ医。
最適な診療科がわからないときは、内科などのかかりつけ医を受診して、相談してみるとよいでしょう。そのまま治療を受けられることもありますし、症状によっては専門的な診療科を紹介してもらえます。
【まとめ】我慢しないで生活改善。困っていたら医師に相談を。
つらい症状はあっても、原因となる病気の見つからない不定愁訴は、「病気ではないから」と我慢してしまいがち。誰にも相談できず、1人で抱え込んでしまう人もいるかもしれません。今回紹介した対処法を参考に、症状の改善に取り組んでみてください。
まれに、よくある不定愁訴だと思っていたら、大きな病気だった、ということもあります。症状が続いて生活に支障が出ている、あるいは心配なことがある場合は、医師に相談しましょう。
写真/PIXTA
福田 千晶
医学博士・健康科学アドバイザー。日本医師会認定産業医・日本医師会認定健康スポーツ医。慶應義塾大学医学部卒業後、医師として東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学科勤務を経て、健康科学アドバイザーとして講演や執筆、テレビ・ラジオ番組への出演などの活動を行っている。著書に『夏に負けない身体をつくる ホントはコワイ夏バテ51の対策』(日東書院本社)など。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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