サンキュータツオ流「愛されるおじさん」になるには?
時の流れは平等で、「老い」は等しく誰にでもやってきます。どうせ年をとるなら、せめてすてきに年を重ねていきたいところ。しかし、社会的には、得てして「おじさん」「おばさん」は肩身が狭い立場になりがちです。将来、若者から冷ややかな目線を向けられない、チャーミングな大人になるためには、どういう心構えが必要となるのでしょうか。
漫才師として活動するかたわら、山形県にある東北芸術工科大学で専任講師を務めるサンキュータツオさんは、ラジオやPodcastなどの音声コンテンツや、長年キュレーターを務める初心者向けの落語会「渋谷らくご」にて、若者から大きな支持を集めています。日ごろから若者と向き合う機会も多いサンキュータツオさんに、愛される中年になるためのヒントや、理想の年のとり方についてお話を伺いました。
おじさんは距離感のはかり方で失敗しがち。
──最近では「おじさん構文」という言葉でやゆされるなど、中年、いわゆる「おじさん」「おばさん」の立ち居振る舞いは世間で注目されがちですね。タツオさんも、そういう社会の流れを認知されていますか?
そうですね。特におじさんは、世の中的には“モブキャラ”みたいなもので、名前と人格を与えられていないような存在ですから。
──“モブキャラ”扱いですか(笑)。なぜ、おじさんはそのような扱いを受けたり、肩身の狭い思いをしたりするのでしょうか。
おじさんって、まずコミュニケーションを怠っていますよね。しゃべらないし、笑顔がない。僕のまわりには芸人や大学の先生など、よくしゃべるおじさんが多いので、それが普通だと思っていたんですけれど、話を聞くと、いわゆる40代~50代の働いているお父さんは、家でしゃべらない人が多いそうじゃないですか。黙っていたら「お父さんは何を考えているのだろう」って家族から想像すらしてもらえない。みんながみんな、高倉健みたいにかっこいいわけではないから(笑)。
そうでなくても、おじさんは普通にしているだけで、ちょっと話しかけづらい雰囲気がある。怖がられてしまう存在なんですよ。夜中に停車した車の中におじさんがいたら、それだけで、なんだか怖いじゃないですか(笑)。僕は、「家に帰りたくないのかな」「居場所がないのかな……」と想像してしまいますけれど。
──「おじさんは怖い」というのは漠然とした印象ですが、なんとなく分かるという人は多い気がします。本人に悪気はなくても、威圧感を与えてしまうことはありそうです。
きっと、頭の中では、自分の見た目が20代~30代のころのままで止まっているんですよね。だから、おじさん本人はまわりを怖がらせていることに気づいていない。スポーツ選手が自分の体についてすごく敏感であるのと同じように、誰しも自分のことを認識しておくべきだと思うんですよ。これはおじさん・おばさんに限った話ではないと思います。
職場でも、年齢やキャリアを重ねていくことで、まわりからベテランと見られるようになって、それにともなう威圧感とかオーラで、部下から近づきがたく思われてしまっていることもあるかもしれません。
──タツオさんは若者と接する機会が多いと思いますが、若い人たちとコミュニケーションする上で、たとえばメッセージのやりとりなどで気を付けるべき点、意識していることはありますか?
まず、主語を大きくしすぎないこと。次に、文章の最後に「とかくこの世は生きづらいですな」みたいなざっくり結論めいた一文を付け加えないこと。あとは相手の同意を得ずに、いきなり呼び捨てをしたり、下の名前で呼んだりしないことですかね。距離の詰め方がおかしいと、相手に波打ち際がどんどん迫ってきているような恐怖心を与えてしまいます。