墓じまいとは?手続きや進め方、費用などを専門家が解説。
「実家が遠くてお墓参りもままならない」「お墓は子どもの負担になる」。そんな思いから「墓じまい」を考えている人が増えているようです。しかし、多くの人にとって「墓じまい」は経験したことのない未知のこと。何をどうしたらいいのか、わからないことばかりでしょう。
そこで、葬儀や墓・遺品整理などに詳しい相続専門の行政書士、明石久美さんに「墓じまい」の進め方や注意点について教えていただきました。
目次
墓じまいとは?
「墓じまい」とは、墓石を撤去し、墓所を更地にして使用権を返還することです。似たような言葉に「改葬」があり、こちらは「遺骨を別の場所に移す」ことを指します。
お墓を取り払って更地にするためには遺骨を取り出す必要があり、多くの場合、「墓じまい」には「改葬」がともないます。ただ、言葉の定義を正確に表現するとかえってわかりにくくなりますので、ここではお墓を処分する一連の流れを「墓じまい」とし、遺骨を移す手続きについてのみ「改葬」を使います。
宗派によって供養の仕方は異なりますが、墓じまいの進め方は同じです。また、墓地には主に寺院墓地・公営墓地・民営墓地があり、今回は寺院墓地のケースについて解説します。
墓じまいはどういう場合に考える?
厚生労働省の「衛生行政報告例」を見ると、2006年度に8万9,155件だった改葬件数は、2021年度には11万8,975件に増加しており、改葬や墓じまいをする人が増えていることがわかります。では、どのような人が墓じまいを行っているのでしょうか。
家の近くにお墓を移したい。
墓じまいを検討するケースは主に2つあります。1つは、お墓を継いだ人が遠方に住んでいるため、お墓の維持・管理がままならず、自宅近くに移して供養したいというケースです。
お墓を継ぐ人がいない。
もう1つは、お墓を継ぐ人がいない場合です。「お墓を買う」と言いますが、所有しているのはその土地と墓ではなく、「永代使用権」というお墓の区画を使用する権利です。その権利を引き継いでいるのが「お墓を継ぐ人=祭祀(さいし)承継者」です。
「祭祀承継者」は、お墓をはじめ仏壇や仏具、系譜といった祭祀財産を継いでいる人で、現在、お墓には必ず、「祭祀承継者」が1人います。この祭祀承継者がいる限り、永代使用権は存続します。しかし、言い換えると、祭祀承継者がいないのであれば、墓じまいをしてその区画を返さなければなりません。
墓じまいの進め方。
今あるお墓を更地に戻して墓地管理者に返し、新たな場所で供養するのが「墓じまい」です。しかし、勝手に遺骨を取り出したり、納骨したりすることは法律で禁止されています。親族と相談したうえで墓地管理者に墓じまいの意向を伝えて承諾を得たうえで、行政手続きも必要です。おおまかに以下のような流れになります。
どのようなことを行うのか、詳しく見ていきましょう。
親族と相談。
事前に親族と話し合い、「墓じまいをする必要があるのか」という確認をします。
祭祀財産は相続財産ではないので、必ずしも子どもが継ぐ必要はなく、親族であれば継ぐことができます。もし子どもがお墓を継げないという場合、お墓参りに来てくれている親族に、「うちはこういう事情で子どもに祭祀承継ができません。代々のお墓を継いでもらうことはできませんか?」と相談してみてはいかがでしょうか。
引き受けてくれる親族がいれば、祭祀承継の手続きをすればいいですし、一方で、親族みんなが「難しい」となれば、総意のうえ、墓じまいを進めていくことができます。
墓地管理者に墓じまいの意向を伝え、承諾を得る。
公営・民営の墓地であれば大きな問題はありませんが、寺院墓地の場合は、墓地管理者と丁寧に話を進める必要があります。お寺にしてみれば、「墓じまい=檀家(だんか※)が減る」ということですから、決して喜ばしいことではないのです。
※ 檀家:特定の寺院に所属し、寺院にお布施などの経済的支援をすることで、葬儀・法事・墓地の管理を行ってもらえる家のこと。
「親族みんなと話をしたのですが、やはりお墓を継いでくれる人が見つからず、このままだとご迷惑をおかけしてしまうので、墓じまいをさせていただきます」
このように、理由とともにきちんと話をすれば、住職の理解は得やすいでしょうし、心証もずいぶん違うはずです。
私の経験からすると、墓じまいのトラブルで一番多いのがお寺との仲たがいです。「ある日突然、事前相談もなく『墓じまいをする』と言われた」「代行業者に丸投げで本人から何の連絡もない」というような話も聞きます。
こういう伝え方をしてしまうと、お寺側も良い気分ではありません。お世話になっていたこともふまえ、礼を欠くことのないよう、進めていきましょう。
次の供養方法を決める。
「墓じまい=お墓の処分」というイメージを抱いている人もいますが、供養をする場所やかたちが変わるだけで、供養する必要がなくなるわけではありません。供養の種類もさまざまです。
今あるお墓の近くで供養するのか、それとも自分の家の近くへ移すのか。新しくお墓を建立するのか、樹木葬や納骨堂など永代供養のお墓にするのか、あるいは合葬墓(がっそうぼ※)や散骨といった方法にするのかなど、選択肢はさまざまです。
※ 合葬墓:複数の遺骨が納められる共同のお墓。
自分の家の近くへ移すとなると、お墓が遠くなる親族もいるでしょう。最初に親族と話し合い、合意を得ておくことで、スムーズに新しい供養先を探せます。
なお、お寺との関係がこじれて墓じまいを認めてくれないとなると、行政手続きをしたり、新しい供養先と契約し墓石を手配したりするなどの準備はできません。今お墓があるお寺から承諾をもらってからにしましょう。
行政手続きをする。
以下のような手順で手続きをします。
この手続きを経て、遺骨を取り出して移動させることができます。
一般的に、遺骨を移す改葬手続きが必要なのは、墓地管理者が変わるときです。たとえば、今、お墓があるお寺や霊園と同じ敷地内に永代供養墓があり、遺骨をそちらに移すのであれば、ほとんどの場合、改葬手続きは不要です。詳しくはお住まいの市区町村で確認してください。
石材店と打ち合わせをする。
実際にお墓から遺骨を出し、更地にして墓石を処分する作業を行うのは石材店です。お寺と付き合いのある石材店に頼みましょう。
付き合いのある石材店が不明な場合、公営墓地であればどの石材店を利用しても構いませんが、お寺や民営霊園は出入りの石材店に依頼します。指定の石材店に見積もりを出してもらい、僧侶の予定を確認したうえで墓じまいの日程を決めます。
墓じまい当日の立ち合い。
墓じまい当日、石材店が納骨室を開けて、遺骨を取り出してくれます。その際、僧侶にお墓に宿る先祖の魂を抜いてもらう「閉眼供養」の儀式を行います(公営霊園や宗派によっては行わないケースもあります)。その後、墓石の処分や整地はすべて石材店が行ってくれます。
納骨
新しくお墓を建立した場合、僧侶と日時を決め、お墓に魂を入れる「開眼供養」と納骨法要を行います。
樹木葬・納骨堂での永代供養を選択した場合、供養期間中は霊園やお寺が遺骨を管理・供養し、期間が終われば合祀墓(ごうしぼ)などに埋葬されます。
海などに散骨する場合は、環境保全や漁業事業者とのトラブルを回避するために、国や自治体などによるガイドラインが定められています。粉骨の大きさや散骨場所選定の基準などが決められており、これらを遵守するためにも専門業者に依頼しましょう。
参考:厚生労働省「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」
墓じまいにかかる費用。
墓じまいにかかる費用は、今あるお墓の場所や新しい供養先によって大きく変わるので、一概に相場を示すことはできません。それぞれ、何にどのくらいかかるのかという目安を紹介します。
石材店への支払い。
石材店に支払う撤去費用はケース・バイ・ケース。というのも、お墓の広さや使っている石の量、立地によって変わるからです。
たとえば、丘の上に建つお墓には重機が入りません。墓石の撤去はすべて人の手で行うことになるので、当然、コストがかかります。また立派なお墓で石をたくさん使っていれば解体・処分費用が膨らみます。30万円程度から、場合によっては100万円を超えることもあります。
お寺へのお布施・離檀料。
墓じまいのお布施は「法要2回分~3回分」が目安と言われます。離檀料は宗派によって異なりますし、お寺との関係にもよりますが、こちらは20万円~30万円程度の場合が多いようです。
これらお寺への支払いは、料金表で明示しているお寺もあれば、「お気持ちで」と言われるところもあります。しかし、「気持ちだから1万円くらいで」というわけにはいきません。迷ったら、直接お寺に伺いましょう。聞くことは決して、失礼ではありません。
改葬先への納骨費用。
墓じまいをしたあと、どのようなかたちで供養するのかによっても費用は大きく変わります。新しくお寺にお墓を建てるとなれば、墓石代や土地利用料など含め100万円以上はかかります。樹木葬の場合、合祀型樹木葬なら5万円~20万円、個別型樹木葬なら15万円~60万円。合葬墓であれば5万円~30万円といったところが多いようです。
散骨は、場所や合同か貸し切りかなどの形式によって変わりますが、専門業者に依頼した場合、数万円~30万円といったところです。
ただし、どの場合も地域や契約内容によって異なります。
補助金を受けられる場合も。
公営墓地の場合に限りますが、無縁仏になるのを防ぐため、あるいは公営墓地の空き区画を増やす目的で、墓じまいに補助金を出す自治体があります。手続き方法は自治体によって異なります。公営墓地で墓じまいを検討している場合は一度、調べてみるといいでしょう。
墓じまいをスムーズに進めるために。
これまで墓じまいの進め方についてお話ししました。墓じまいをスムーズに進めるために、私の経験から、「見落としがちだけれど、考えておきたいポイント」を3つご紹介します。
遺骨の洗浄と運搬について決めておく。
遺骨の取り出しは石材店がやってくれますが、そこから先は自分たちで行う必要があります。遺骨の保管、運搬をあらかじめ考えておきましょう。
遺骨は、骨つぼに入っているとはいえきれいとは言いがたい状態です。遺骨を洗う洗骨は業者に依頼しましょう。運搬は、新しい供養先へご自身で持って行ければ問題ありませんが、持って行けない場合は、配送できる場合もあります。ただし、宅配業者によっては遺骨が送れないことがあります。
永代供養の期間を確認しておく。
墓じまいに限った話ではありませんが、永代供養のお墓を検討している場合、先々「誰が入るのか」まで考える必要があります。
永代供養とは、承継を前提とせず、ある一定期間、ご家族に代わって供養をしてもらうこと。その期間はさまざまで、五十回忌までと長く設定しているところもあれば、七回忌までなど短いところもあります。期間終了後は入れなくなるので、将来、自分たちも入る可能性があるのかどうかまで考えて、期間を設定する必要があります。
子どもたちの意向を聞いておく。
「子どもに負担をかけたくない」と墓じまいを検討する人もいますが、子どものほうはむしろそうしたことに抵抗感がなく、大切に守っていきたいと考えているかもしれません。
墓じまい後の供養の方法も同様です。「お墓参りは手間だから散骨でいい」「お墓参りなんてめったにしないだろうから、合葬墓で問題ないだろう」など、先走って決めず、子どもたちの気持ちを聞いておきましょう。
【まとめ】墓じまいには、お金も時間も必要。
墓じまいにはお金もかかれば、時間もかかります。親族との相談やお寺へのお願いも必要です。手間がかかる作業だからこそ、情報収集をして関係する人たちとよく話し合うことが必要です。
まだ切迫していなくても、親などが健在なうちに意思を確認したり、予算を考えたりすることで必要になったときに備えることができるのではないでしょうか。
写真/PIXTA
明石 久美
特定行政書士、相続・終活コンサルタント、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。明石シニアコンサルティング、明石行政書士事務所代表。相続専門行政書士としておひとりさま対策や遺言書作成、相続手続きなどに携わる。葬儀・墓・遺品整理に詳しく、終活準備や相続対策などの情報を積極的に発信。著書に『読んで使えるあなたのエンディングノート』(水王舎)ほか多数。
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