寒暖差アレルギーって何?風邪症状との違いや対処法を医師が解説。
日中は暖かくても、朝晩はぐっと冷え込む。そんな季節の変わり目に、水っぽい鼻水がたくさん出ることはありませんか? それ、症状が風邪やアレルギー性鼻炎と似ている「寒暖差アレルギー」かもしれません。耳鼻咽喉科治療を研究している医学博士の阪本浩一さんが、寒暖差アレルギーの症状や対処法などを解説します。
目次
寒暖差アレルギーとは。
「寒暖差アレルギー」は「血管運動性鼻炎」の俗称で、鼻水がたくさん出る病気です。症状がアレルギー性鼻炎と似ているところもあるため、「アレルギー」という言葉が用いられていますが、アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす原因物質)がないため、厳密にはアレルギーではありません。
寒暖差アレルギーの原因は鼻粘膜の機能低下。
寒暖差アレルギーを引き起こす原因として、多いのは加齢によるもの。加齢とともに鼻粘膜の機能が低下して、ちょっとした刺激でも鼻水が出やすくなります。そのため、欧米では「老人性鼻炎」とも呼ばれています。
しかし、近年では、ストレスや睡眠不足などの要因により、若くても鼻粘膜の機能が低下してしまうケースもあり、20代~30代の若い人にも寒暖差アレルギーが多く見られるようになっています。
特に季節の変わり目に寒冷刺激を強く受けて、急に鼻炎症状を起こすケースが多く、あたかもアレルギー反応のような症状がでるため、寒暖差アレルギーと呼ばれるようになったのです。
寒暖差アレルギーの症状。
寒暖差アレルギーに特徴的なのは、「サラサラの水っぽい鼻水」が出ることです。暖かい日と寒い日の気温差、また、日中と朝晩の気温差が大きくなる季節、つまり季節の変わり目に鼻炎症状を訴える人が増えます。一日中鼻水が止まらない人もいますし、朝、起きると鼻水が出はじめて、しばらくするとおさまっている、という人もいます。
寒暖差アレルギーは、花粉症のようなアレルギー反応(※)ではなく、鼻粘膜の局所的な反応(神経反射)で起こる非アレルギー性の鼻炎です。鼻水はとにかくたくさん出ますが、くしゃみが出ることは少なく、鼻づまりはさらに少ないことが特徴です。
※ 本来は体に害のないスギ花粉やダニなどがアレルゲンとなって、体内で抗体がつくられ、抗体量が増加するとアレルゲンに対しての過剰な免疫反応が起こり、目・鼻・のど・皮膚などに症状が出ます。
風邪やアレルギー性鼻炎との違いは?
寒暖差アレルギー(血管運動性鼻炎)の症状を風邪、アレルギー性鼻炎の症状と比較すると、下表のようになります。
寒暖差アレルギー・風邪・アレルギー性鼻炎の主な症状
寒暖差アレルギー | 風邪 | アレルギー性鼻炎 | |
鼻水の様子 | 水っぽくてサラサラしている | 黄色っぽく、粘りがある | 透明で水っぽい鼻水 |
鼻づまり | ほとんどない | 数日続くが、次第によくなる | 長期間続く |
くしゃみ | 少ない | 続けて出る場合でも、3回~4回程度 | 連続して出ることが多い |
発熱 | ない | 38℃以下の熱 | ほとんど出ない |
目や肌のかゆみ | ない | ない | ある |
かかりやすい季節など | 気温差の大きい季節の変わり目に多い | 通年だが、特に冬に多い | 花粉症は花粉の飛散する時期、ダニやハウスダストは通年 |
監修者への取材をもとにミラシル編集部で作成。
寒暖差アレルギーの原因。
前述したとおり、寒暖差アレルギーは鼻粘膜へ冷たい空気が触れるなどの刺激が引き金となって起こります。さらに、自律神経のバランスの乱れも、大きくかかわっていると考えられています。
気温差
鼻粘膜にはたくさんの毛細血管が張り巡らされていて、外からの刺激にあわせて血管を収縮させたり拡張させたりして、鼻の奥にある咽頭を守る働きをしています。ところが、季節の変わり目には、急激な気温の変動幅に体がうまくついていけず、鼻粘膜も刺激にうまく対応できなくなっているのです。
自律神経の乱れ。
鼻粘膜の働きをコントロールしているのが自律神経です。自律神経は、交感神経と副交感神経がそのときどきの状況に応じて、うまくバランスをとりながら働きあっています。このバランスが崩れると、寒冷刺激にうまく対応できなくなり、本来、血管を収縮させるべき状況なのに血管が拡張して水分(鼻水)が出てしまいます。
仕事にプライベートに多忙な現代人は、つい無理を重ねがちかもしれません。睡眠時間が短くなり、ストレスにさらされることの多い生活では、自律神経のバランスが崩れやすくなっています。そこに強い寒冷刺激を受けることで鼻炎症状が引き起こされます。
ですから、若い人に寒暖差アレルギーが出るということは、自律神経のバランスが崩れているサインなのだと考えておくとよいでしょう。
寒暖差アレルギーの予防法・対処法。
寒暖差アレルギーの予防法や、鼻水が止まらずにつらいときや症状が長く続くときの対処法について説明します。
マスクをして鼻粘膜への刺激を和らげる。
寒暖差アレルギーは鼻粘膜への寒冷刺激などが引き金となって起こるため、冷たい空気を吸い込まないことが一番の予防法です。
少々面倒ですが、鼻水が気になる場合には、朝、暖かい布団を出てトイレに行くときや、外出するときなど、寒暖差が大きい場所へ移動する際に、マスクをつけることで症状の緩和が期待できます。このほか、マスクをつけることで、鼻粘膜やのどを加湿・保温する効果も見込めます。
鼻を温める。
鼻水が出るときは、蒸しタオルで鼻を温めると症状がある程度和らぎます。温かい飲み物の湯気でも、いくらかは温まるでしょう。鼻を蒸気で温めることは、鼻づまりなどの症状を和らげる効果があります。
このほか、足を温かく保つことで鼻粘膜の温度が上昇するともいわれています。ひざかけを使うなど、足全体を温かく保つことで症状の緩和が見込めるかもしれません。
生活習慣を見直して、自律神経を整える。
前述したように、現代人は自律神経のバランスが崩れやすくなっています。寒暖差アレルギーは、自律神経のバランスが崩れている状態で、鼻粘膜に刺激を受けることで起こる鼻炎症状です。その予防のためには、自律神経のバランスを整える生活習慣がとても大切です。
自律神経のバランスを整えるためには次のようなことを心がけるとよいでしょう。
・ゆったりと入浴をしてリラックスする(寝る1時間~2時間前に入るのがおすすめ)
・適度な運動を習慣にする(息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上が目安)
・寒い季節は自分の冷えやすい部位(手先、足先など)を保温して、快適に過ごす
寒暖差アレルギーの症状がひどいときは耳鼻科受診を。
上記を心がけても、鼻水が改善せずにつらいと感じるときは、耳鼻科で医師に相談しましょう。
どのように診断するの?
先述したように、風邪やアレルギー性鼻炎でも鼻水は出るため、必要であれば血液検査や鼻汁好酸球(びじゅうこうさんきゅう)検査(※)をしてアレルギー性鼻炎ではないかを確認します。
※ 鼻水の中にアレルギー性鼻炎の際に検出される鼻汁好酸球が含まれているか調べる検査。
アレルギー性鼻炎であれば、症状を抑える薬もありますし、「舌下免疫療法」をはじめとした根治療法もあります。まずは、そうした治療を行って、アレルギー性鼻炎をしっかりコントロールすることが大切です。
風邪やアレルギー性鼻炎ではないことを確認したうえで、症状や症状が出た季節などから寒暖差アレルギーと診断されます。
どんな治療をするの?
寒暖差アレルギーの治療には、鼻粘膜の免疫反応を抑えるステロイド系の点鼻薬や、抗ヒスタミン剤を利用することが多いです。
なお、抗ヒスタミン剤には、飲み薬以外にも体に貼るテープタイプの薬もあります。テープタイプの場合、薬剤が皮膚から吸収されて24時間効果が続きますが、人によっては眠気が強く出る場合があります。
寒暖差アレルギーの症状は、自律神経の乱れを知らせるサイン!
症状だけで寒暖差アレルギーかどうかを判断するのは難しいため、鼻水の症状が止まらずつらいときには、耳鼻科を受診しましょう。
忙しい現代人の生活は、睡眠不足やストレスにさらされることが多く、自律神経のバランスを崩しやすいといえます。
風邪やアレルギーでもないのに鼻水が出る寒暖差アレルギーは、まさに「自律神経の乱れを知らせるサイン」です。寒暖差アレルギーと診断されたら、いいきっかけをもらったと考えて、いつもよりゆったりと湯船につかってみたり、隣の駅で電車を降りて一駅ぶん歩いてみたりと、身近なところから生活習慣を見直してみましょう。
写真/PIXTA イラスト/こつじゆい
阪本 浩一
大阪公立大学大学院医学研究科耳鼻咽喉病態学准教授。医学博士。兵庫県立加古川医療センター耳鼻咽喉科部長・兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科部長(兼務)などを経て、2016年大阪市立大学(現・大阪公立大学)耳鼻咽喉科に赴任。現職にて教育、研究、診療に携わっている。
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