すぐできる家計のインフレ対策。見直し方法や貯蓄のコツ 【FP監修】
昨今「値上げ」のニュースを聞かない日はないくらいです。「この先もずっと値上げが続く? ほかの人たちはこの状況に何か対策をしているのかな?」など、継続的に物価が上がっていく状態(インフレ)に漠然とした不安を抱く人は多いでしょう。
生活者に寄り添ったアドバイスが好評のファイナンシャルプランナー(FP)の豊田眞弓さんが、インフレの基礎知識やすぐ取り組めるインフレ対策、家計の見直しポイントなどをお伝えします。
目次
インフレとは?
「インフレ」は、「インフレーション(Inflation)」を省略した言葉で、モノやサービス(以下、単に「モノ」といいます)の価格(物価)が持続的に上昇していく状態を意味しています。これとは逆に物価が持続的に下落していく状態を「デフレ」といいます。これは「デフレーション(Deflation)」を省略した言葉です。
よいインフレと悪いインフレ。
物価が、景気拡大をともないながら年2%程度のペースで上がっていく、緩やかなインフレは一般的には「よいインフレ」といわれます。ただし、収入が物価以上に上がっていくことが大前提です。
「よいインフレ」は、モノがたくさん売れて物価が上がり、それ以上に賃金も上がって、ますますモノがよく売れるという好循環を生みます。
これに対して「悪いインフレ」は、原材料の価格が上がるなどで物価が上がるものの、十分に価格転嫁できなかったり、値上げによりモノが売れなくなったりして企業の業績が悪くなります。「悪いインフレ」は、物価は上がるのに賃金が上がらず、家計を圧迫する悪循環をもたらします。
日本では1990年代の後半から、モノの値段が上がらないデフレが続いてきました。ところが、国際情勢の不安定化や円安を背景に、輸入品の価格が大きく上がるなどで2022年から物価が急激に上昇しました。
今後、日本がこれまでのデフレの状態から緩やかなよいインフレを実現できるのか、悪いインフレに陥るのか未来の予測はできません。ですが、日々のニュースなどをチェックして、生活者として経済の動きを見ていくことは大切なことです。
インフレが生活に与える影響。
継続的に物価の上昇が続くインフレは、私たちの生活にどんな影響をもたらすのでしょう。
家計の支出が増える。
たとえば、年率3%の物価上昇が続くと、1か月の生活費が24万円だった場合、同じようなペースで消費をすると生活費は24万7,200円程度かかるようになります。収入が毎年3%以上のペースで増えなければ、同じ水準の生活は送れないことになり、生活はだんだん苦しくなるのです。
お金の価値が下がる。
インフレでモノの価格が上がると相対的にお金(貨幣)の価値が下がります。物価の上昇率より低い金利の金融商品(預貯金など)の資産価値も下がります。
輸入品は値上がりし、インバウンド需要が増える。
インフレが過熱すると、政府は金利を上げる政策をとってインフレ抑制をはかります。米欧が先に利上げを行ったため、日本と米欧諸国との金利差が広がり、円安が進みました。
円安になると、モノを売って外貨を受け取る輸出企業にはメリットがあり、海外からの旅行者によるインバウンド需要も増えますが、反対に海外から輸入するモノの価格は上がります。
参考:日本銀行「Q 金融政策は景気や物価にどのように影響を及ぼすのですか?」
資産を守るインフレ対策。
限られた収入の中から、がんばって貯蓄をしている人は多いかと思います。ですが、預貯金だけではインフレ対策として不十分です。そこで、毎月のお金の流れ(フロー)と、保有している資産(ストック)について、配分を見直してみましょう。私は以下のように提案しています。
毎月の貯蓄額の一部を投資にまわす。
毎月の貯蓄額のうち、一部を投資にまわしてみましょう。どのくらいを投資にまわせるかは、現在の資産総額や毎月の貯蓄額、ライフプランと照らしあわせて決めます。
現在保有している資産のうち、「いざというときのための予備費(生活費3か月分程度)+3年以内に使う予定のあるお金」は、いつでも引き出せる定期預金などに預けておきます。
それ以上の資産があれば、そのうちの一部(3分の1以下など、自分の家計に見あった比率)を投資にまわします。毎月3万円貯蓄できる人なら、そのうち1万円程度を投資の目安としてもよいと思います。ただし、リスクをどの程度まで許容できるかよく考えて金融商品を選びましょう。
資産の一部を投資にまわす。
物価上昇が続くと、物価上昇率よりも低金利の預貯金は、実質目減りするばかりです。
一方で投資は、経済の状況によっては元本割れのリスクがあるものの、資産を増やすことが期待できますし、長期分散投資をすることでリスクをおさえることもできます。
インフレ下では、資産価値が減ってしまう可能性が高い預貯金だけでなく、増える可能性のある投資を新NISAやiDeCoなどの税制優遇のある制度を利用して、うまく組み合わせることでインフレ対策になりえます。
ただし、税制優遇のあるNISAやiDeCoなどの制度は、自分にとってのメリット・デメリットをしっかり確認し、上手に活用していくとよいですね。
家計管理もインフレ対策の第一歩。
インフレから家計を守るためには、どんなことができるでしょう。
収入を増やす。
収入を増やすことは、インフレに対抗する手段の1つです。
今の会社で昇給アップを狙う、今より年収の高い会社へ転職する、配偶者控除にこだわらずに働く、副業をするなど、無理のない範囲で手取り収入を増やすことを検討してみてはいかがでしょう。
また、もう自分には必要のないものをネットオークションなどで売るという選択もあります。家の中がスッキリと片づいて一石二鳥です。
家計を見直す。
家計の見直しとは、ムダな支出を減らして節約するだけではありません。お金の支払い方を変えたり、ローンやクレジットの利用を見直したりなど、いろいろな方法があります。詳しく見ていきましょう。
固定費を見直す。
やみくもに支出を切り詰めるのではなく、あまり使っていないモノにお金を使っていないかを総点検してみると、意外なところにムダが隠れているものです。
何にいくら使っているかをざっくりとでもつかむために、家計簿アプリなどを利用することがおすすめです。特に次のような毎月必ずかかる固定費は、家計見直しの重点ポイントです。
・車・家賃・スマホ料金・通信費・保険料など。
固定費には、家賃や車関係など金額の大きいものもあり、見直しの効果が大きいです。スマホ料金などのプランが自分に合っているか、加入しているオプションにムダはないかなど確認しましょう。
・光熱費などエネルギーコスト。
電気やガスの供給会社や料金プランを比較検討したり、調理や暖房にガスを使うか電気を使うか検討したりするなど、エネルギーコストの観点から見直してみましょう。
・サブスクリプションサービスの利用料。
あまり利用していない動画や音楽配信サービス・雑誌購読・洋服やバッグのレンタルサービス・スイーツの定期購入などのサブスクリプションサービスは、本当に必要かどうか改めて検討してみましょう。新聞は、デジタル版に切り替えるとコストダウンできる場合もあります。
・習い事・趣味関連費用。
夫婦や子どもたちの、趣味や勉強系の習い事やジムなども毎月かかる固定費です。自己投資は大切ですが、いつの間にか通う回数が減っていないか、あれこれ手を広げすぎていないか、見直してみることも必要です。
食費や消耗品費を管理する。
食費と消耗品費は1週間の予算を決めて、その範囲で収まるようにするといいでしょう。そのためにも次のようなことを心がけておくことがおすすめです。
・買い物はまとめ買いをする。
必要なもののリストをつくってまとめ買いをして、買い物に行く回数を減らすと、ついつい余計なものを買ってしまうことを防げます。
また、まとめ買いしたあとは、食材の下ごしらえをして冷凍するなどで、ムダなく使いまわす工夫をしましょう。
ただし、酒類・インスタントラーメン・カップ麺・ジュースやスナック菓子などを、大量にまとめ買いするのは要注意です。ストックがあると余計に飲んだり食べたりしがちですし、賞味期限切れにもつながりやすくなります。ほどほどの量におさえておきましょう。
・外食の回数を減らす。
特に昼食時に外食が多い人は、職場にお弁当を持参するなどで、外食の回数を減らしてみましょう。
・コンビニでの買い物を見直す。
たとえば、職場で飲むドリンクをコンビニではなく、スーパーで箱買いすると比較的お手頃に購入できます。マイボトルを持ち歩くのも、コストダウンにつながります。
お金の「支払い方法」を変える。
公共料金などの支払いや、日常的な買い物のときに、お金の支払い方法を変えることで、割引やポイントをゲットできる場合があります。
・月払いを年払いにする。
各種保険料やNHK受信料・国民年金保険料などは、毎月の支払いを年払い(前納)することで割引になります。
・キャッシュレス払いでポイントをゲットする。
スーパーやコンビニのちょっとした買い物でも、キャッシュレス決済で0.5%~1.0%程度のポイントをゲットできます。ただし、クレジットカードなどのポイント還元率につられて余計な買い物をしていないか注意しましょう。
また、クレジットカードに年会費を支払っている場合には、その年会費が、自分の利用状況や得られるメリットに釣り合っているか、改めて検討するようにしましょう。
ローンやクレジットで高い金利を支払わない。
少額からでも手軽に利用できるキャッシングやカードローンには、高い金利がかかっています(貸付金額、期間に応じて上限金利は15%~20%)。
クレジットカードで支払いをしたときにも、3回以上の分割払いやリボ払いには「手数料」という形で、年率で数%~18%の金利がかかります。
普通預金の金利が0.001%のときに、たとえば10%の金利を払うのは、大きなムダといえます。自分が利用しているローンやクレジット払いに、どのくらいの金利がかかっているかをたしかめて、高い金利がかかる借金や支払い方法は、極力避けましょう。
【まとめ】定期的にお金とのつきあいを見直そう。
今後の物価・賃金の上昇や、経済がどうなっていくかは誰にもわかりません。長らく、モノが安く買えることに慣れてしまっていた私たちですが、お金の使い方、生かし方を定期的に見直して、インフレにも負けない家計をつくっていきましょう。
写真/PIXTA
豊田 眞弓
FPラウンジ代表。経営誌やマネー誌のライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャルプランナーとして活動。個人相談や講演のほか、ウェブサイト・雑誌などに多数のマネーコラムを寄稿。「子どもマネー総合研究会」「親の介護・相続と自分の老後に備える.com」を主宰。亜細亜大学等で非常勤講師も務める。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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