妊娠初期に気をつけることは?女性医師が実体験とともに解説。
初めての妊娠はわからないことばかり。妊娠すると体はどう変化して、どんな症状が出るのか、安定期まではどう気をつけて過ごせばいいのかなど、いろいろと不安な人も多いのではないでしょうか。安心して妊娠生活を過ごすためにも、正しい知識を得ておくことが大切です。
この記事では、自身も妊娠・出産を経験した東北大学病院・産婦人科医師の内堀洪欣先生に、妊娠初期に気をつけることについて話していただきました。
目次
妊娠初期とは。
「妊娠初期」とは、妊娠13週6日までの時期を指します。この時期には、3つの女性ホルモン(hCGホルモン・卵胞ホルモン・黄体ホルモン)の影響で、さまざまな体調の変化や症状があらわれることがあります。
妊娠初期(~13週6日)の主な体調の変化や症状
月経の遅れ | 妊娠すると受精卵が子宮内膜に着床するため、通常は月経時に排出される子宮内膜がそのまま受精卵のベッドの役割を果たすため、月経が起こらなくなる。 |
吐き気・嘔吐 | 朝や日中に吐き気や嘔吐などの症状があらわれる。胎盤が完成する16週くらいまでにおさまる人が多い。 |
頻尿 | ホルモンバランスの変化と、少しずつ大きくなる子宮に膀胱が圧迫されることが原因で、妊娠初期から頻尿になることがある。 |
疲労感・眠気 | hCGホルモンの影響で体力が低下して疲れやすくなったり、いくら寝ても眠くなったりすることがある。 |
食欲の変化 | ホルモンバランスの変化によって食欲が増減したり、好みが変わったりすることがある。 |
嗅覚過敏 | hCGホルモンの影響で嗅覚が鋭くなり、においに敏感になることがある。 |
胸の張りと痛み | 卵胞ホルモンと黄体ホルモンが増えることで、赤ちゃんに母乳をあげる準備として乳腺が発達し、月経前のような胸の張りや痛みを感じることがある。 |
監修者への取材をもとにミラシル編集部で作成。
これらの症状はほかの健康問題によっても引き起こされる場合があるため、妊娠を確認するためには医療機関で検査をしていただきたいです。
妊娠初期に気をつけることは?
妊娠初期は、おなかの赤ちゃんの各器官が形成される大事な時期。日常生活で気をつけたい食事や薬・仕事などに関する注意点について解説します。
食事
バランスのよい食事と体重管理は、母体にもおなかの赤ちゃんにとっても大切です。主食・主菜・副菜がそろった食事を1日2食以上食べることを心がけていただきたいです。
ただし、注意が必要な食材もあります。馬刺し・鳥刺し・クジラ・生レバー・ユッケ・ジビエ料理・パテ・生ハムなどの「生のお肉」は、トキソプラズマ感染のリスクがあるので避けていただきたいです。妊娠中にトキソプラズマに感染すると、おなかの赤ちゃんの臓器に障害をきたす先天性トキソプラズマ症にかかる可能性があるからです。
また、リステリア菌への感染も、流産などの影響をおよぼす可能性があります。加熱殺菌をしていないナチュラルチーズなどの乳製品、生ハムなどの食肉加工品、スモークサーモンなどの魚介類加工品などは避けていただきたいです。
魚介類の刺し身については、必ずしも避ける必要はありませんが、妊娠中は免疫力が低下しており、妊娠していないときに比べて感染症のリスクが高まるため、衛生面には十分注意していただきたいです。
そうは言っても、食事に過剰に注意しすぎるとストレスになってしまいます。注意が必要な食材は押さえつつ、いろいろな食材を取り入れながら、偏りなくバランスのいい食事をとり、楽しくおいしい食生活を目指していただきたいです。
参考:国立感染症研究所「国内における食肉を介したトキソプラズマのリスク」
葉酸・サプリ
妊娠初期までにとるのが望ましいと言われる葉酸は、胎児の細胞増殖に必要なDNA合成に関係している成分です。妊娠前~妊娠初期に葉酸が欠乏すると、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクが上昇するため、できれば妊娠前からの摂取が理想です。妊娠12週までは通常の食事に加えて、サプリメントで1日0.4mgの葉酸を摂取していただきたいです。
なお、葉酸の体内への吸収率は50%と低く、食事のみで十分な量を摂取することは難しいので、サプリメントを上手に活用していただきたいです。
葉酸以外のサプリメントの利用は、産婦人科医としては推奨していません。特にビタミンAの過剰摂取は妊娠初期に赤ちゃんの器官形成に影響があるとされています。
また、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)のサプリメントは、出血しやすくなる(血小板凝集抑制作用)可能性があり、服用している場合は麻酔時の出血リスクを考慮して無痛分娩が実施できなくなるケースや帝王切開の麻酔方法にも影響が出る可能性があり、注意が必要です。
薬
妊娠中は服用できない薬があるので、必ずかかりつけの産婦人科の医師に相談してください。妊婦に安全だと言われている市販薬もありますが、薬局やドラッグストアの店頭では見極めが難しいこともあるので、産婦人科医に確認を取るようにしていただきたいです。
妊娠中に使用不可な薬で意外と知られていないものもあると思います。たとえば、解熱剤で使われる「非ステロイド性抗炎症薬」や、皮膚科で処方される「ビタミンA配合の薬」などです。高血圧の治療で処方される「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」・「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)」も妊娠中は服用できません。羊水が減り、胎児の形態異常の原因になる可能性があります。
また、ヨード(ヨウ素)を含むうがい薬も、胎児の甲状腺腫などの原因になるので注意が必要です。
仕事
妊娠初期に限らず、妊娠中はつわりなど身体的な症状が出て仕事に影響が出ることがあります。また、体に負担がかかる仕事で不安な場合は、産婦人科の医師に相談してください。症状があるときには、医師が記入する「母性健康管理指導事項連絡カード」を利用すれば、必要な対応策を職場に的確に伝えられるので、活用していただきたいです。
個人的には、妊娠が判明、あるいは胎のうが見えた時点で、信頼できる上司には妊娠を伝えることをおすすめします。つわりによって勤務できなくなるほど具合が悪くなる人もいます。安定期に入るまで伝えたくない人もいるかもしれませんが、職場に自分の体調の理解者がいることで、気持ちの面でもかなり楽になると思います。
参考:厚生労働省「母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について」
風疹
免疫のない母体が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染し、生まれたときに「先天性風疹症候群」を引き起こすことがあります。可能なら、妊娠を考える前に風疹抗体の検査を受けていただき、抗体価が低い場合、妊娠中は風疹ワクチンの接種ができないので、妊娠を考える前にワクチン接種を受けていただきたいです。
妊娠中でご自身の抗体価が低い場合は、感染しないように同居家族の方に風疹抗体の検査をしていただき、抗体価が低い場合は同居家族の方へのワクチン接種が推奨されております。
厚生労働省では、風疹ワクチンの定期接種の機会がなかった1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性に、原則無料で抗体検査と予防接種を実施しています。
そのほかに日常生活で気をつけること。
過度なストレスが起こる状況は避け、適度なウォーキングなどの運動を心がけましょう。タバコはもちろん、アルコールもNG。妊娠中のタバコ煙への曝露は妊娠高血圧症候群・早産・胎児発育不全・胎児機能不全・胎盤早期剥離などの原因になります。アルコールは胎児性アルコール・スペクトラム障害の原因となり、長期間にわたってさまざまな障害を生じさせる可能性があります。
カフェインは過剰摂取と流産・早産の関連が指摘されていますが、英国食品基準庁(FSA)やアメリカの産科婦人科学会は1日200mgまでのカフェイン摂取制限を推奨しています。コーヒーならマグカップ2杯まで、緑茶やウーロン茶なら1リットルまでと、適度な量であれば許容されます。飲む前にはカフェイン量をチェックしていただきたいです。
参考:厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」
産婦人科医でも大変!妊娠初期の体験談。
私は産婦人科医としてこれまで働いてきて、さまざまな妊娠・出産の現場を見てきました。しかし、いざ自分が妊娠すると、想像とはまったく違ったのです。私が妊娠した当時の体験談を紹介したいと思います。
知識があっても大変だったことは?
私は妊娠4週ころからつわりの症状があらわれて、朝から夜までずっと気持ち悪くて本当につらかったです。こんなにつわりが大変だとは、想像していませんでした。
5週0日のとき、当直勤務をしていた際に、患者さんの対応中に急に気持ち悪くなってしまったこともありました。ただ、妊娠15週でつわりが終わって体調が安定すると、毎日快適に過ごせました。
産婦人科医として、妊娠の知識があるからこそ「こうなったらどうしよう」という心配が常にありました。だからこそ、妊娠中不安になってしまう妊婦さんの気持ちがとてもよくわかりましたね。
仕事との両立は?
私の場合、とても理解のある職場だったので、つわりの症状と付き合いながら休むことなく働けました。私は仕事が好きで続けたかったので、私のペースにあわせてもらえたことに今でも感謝しています。
たとえば、長時間の手術を担当したときは、1時間半おきにオペ室から出て、水分補給などをさせてもらったり、つわりがひどいときは、当直を免除してもらったりしたこともあります。
妊娠すると、仕事との両立や今後のキャリアアップなど考えることが山積みで、うまくいかないこともたくさんあると思います。私の場合は、以前のように働くことは難しいけれど、「家族が一番」と割り切ったことで、仕事に対するストレスをなくせました。
限られた時間と限られた環境でどこまで自分ができるかを見極めて、「できていること」「できるようになったこと」を見ることで、妊娠中も明るい気持ちで過ごせるようになりました。
先輩ママとして、不安を抱える妊婦さんへのメッセージ。
妊娠という“旅”は心地よい瞬間もある一方で、不安な瞬間もたくさんあります。しかし、これらの瞬間はすべてかけがえのない経験であり、赤ちゃんへの愛情の証でもあります。
妊娠にまつわる不安は「赤ちゃんのことをとても気にして、たくさん考えている」という素敵な気持ちのあらわれでもあります。不安な気持ちを受け入れれば、その気持ちがもたらしてくれたポジティブな出来事がいっぱいあることに気がつくと思います。
不安だからこそ、必ず定期的に妊婦健診に行くこと、食事に気をつけること、かかりつけの産婦人科医に相談することが大事。私たち産婦人科医は妊婦さんの味方です。
正しい知識を得て、周囲を頼りつつ明るい気持ちで過ごそう。
ここまで、産婦人科医師の内堀先生に妊娠初期についてのアドバイスと体験談を紹介していただきました。妊娠初期は不安もいろいろとある時期ですが、きちんとした知識があれば大丈夫。産婦人科医をはじめ、家族や職場を頼りながら、健康的な食生活と適度な運動を心がけ、ポジティブな気持ちで過ごしましょう。
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
内堀 洪欣
東北大学病院・産婦人科医師。日本産科婦人科学会産婦人科専門医・日本がん治療認定医。東北大学医学部卒。NTT東日本関東病院で初期研修後、川崎市立川崎病院、慶應義塾大学病院、東京都済生会中央病院産婦人科などでの勤務を経て専門医資格を取得。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
※ 掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。
※ 記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。