なぜ人間関係リセット症候群になってしまう?文化人類学者に聞く。
「だれかとつながっていることに疲れてしまった。関係を断ち切りたい」そんなふうに思ったことはありませんか?
昨今SNSを中心に、若年層の間で話題を集める「人間関係リセット症候群」。ある日突然、周囲の人とのつながりや関係性を断ってしまう行動の俗称として知られています。
人との関係性に悩み、断ち切りたくなったり、ちょっと面倒だなと思ったりする気持ちは珍しくないもの。エチオピアの農村や中東の都市でフィールドワークを続けている文化人類学者の松村圭一郎さんによると、人間関係のリセットは人類が繰り返してきたことだといいます。
今回は松村さんに、人間関係リセット症候群に陥る方々のお悩みにお答えいただきながら、よりよい人間関係を築くためのヒントを伺いました。
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目次
人類が繰り返してきた、人間関係のリセット。
──松村さんは「人間関係リセット症候群」とは、どのような状態だと考えていますか?
これまでも人類はずっと人間関係をリセットしてきました。その衝動は最近の若者に特有とは言えません。たとえば、日本には縁切り寺がありますし、狩猟採集民や牧畜民は、信頼関係が損なわれたり仲たがいが起こったりすると、小さなグループが離合集散を繰り返してきました。
人間関係に問題が起きたときに相手との距離をとることは、平穏を保つために重要な手段です。だからまず、「人間関係リセット症候群は、若者に特有の新しい現象だ」という捉え方自体を、考え直したほうがいいのではないでしょうか。
──考え直すというと?
人間関係リセット症候群の前提には、「人間関係はリセットされるべきではなく、続いていくのが普通である」という認識があります。つまり、多くの人が「人間関係を長く続けるべき」と強迫観念を感じている。そういった行為を、疾患でないにせよ「症候群」と、ある種の病気のように捉えてしまう強固な常識が、人間関係リセット症候群をつくり出していると思います。
──世の中にも人々の中にも、固定観念があるんですね。
そうだと思います。人間関係リセット症候群の方々は、SNSのアカウントや連絡先を消したりするんですよね。たとえば縁切り寺にすがるくらい切りたい縁っていうのは、なかなか容易にはリセットできないから人々を苦しめてきたわけです。
人間関係リセット症候群の「リセット」という言葉に含意されるような、簡単に消去可能な関係は、そもそも「人間関係」とは言えないものかもしれません。
人間関係はコントロール不可能。
──なぜ人間関係とは言えないような薄い結びつきでも、徹底的にリセットしたいと思ってしまうのでしょうか?
人間関係をリセットして白黒つけたい人は、きっと人間関係とは本音を全部受け入れて、傷つけ合わない言葉を交わして、心から信頼して……みたいなことだと思っている部分があるのではないでしょうか。そんな人間関係はありません。どんな人間関係も、本音をすべて言えば一瞬で崩れます。
人間関係をつくっていくには、相手との距離感や、自分の感情に対する抑制力、そんな慎み深さが必ずいるんです。相手のある人間関係は、自分だけではコントロール不可能ですし、本当に偶然の積み重なりによるもの。であるにもかかわらず、人間関係リセット症候群の人たちは、「人間関係は自分で選び取ることができる」「人間関係とはこうあるべき」という考えだけが膨らんでしまっているのかもしれません。
人間関係リセット症候群の方々のお悩みに回答。
お悩みその1:友達や恋人がいない状況に焦りつつリセットを繰り返してしまう。
私は人間関係リセット症候群かもしれないです。自分のSNSのアカウントを突然消したり、連絡先を全部変えたりしているので、友達と呼べる人や交際相手になりそうな人がいません。その状況に焦って、マッチングアプリで新しい関係を探し、でもまたリセットしたくなって……ということを繰り返してしまうのは、なぜでしょうか? |
人間関係リセット症候群を文化人類学の視点から捉え直す。
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