ちょっと疲れちゃったな。そんなときに読みたい「心のお守り本」5選。
向き合わなければいけないこと、仕事や人間関係の悩み、SNSなどで押し寄せる情報の波。圧倒されそうな毎日に「ちょっと疲れちゃった」と感じていませんか?
そんなとき、心に風を通すために本を手に取ってみるのはいかがでしょう。今回は、本に心を癒やされた経験のある校正者の牟田都子さんが、20代を振り返り「ミラシル」のためにエッセイを書き下ろし。心のお守りにしている5冊の本を紹介してもらいました。
通勤電車で、休憩時間のバックヤードで……読書をしている間は不安や心配を忘れていられた。
チョコパイというお菓子がありますよね。しっとりしたケーキ生地にクリームを挟み、パリッとしたチョコレートでコーティングした。あれを毎日のように食べていた時期がありました。販売員だった20代の終わりのこと。
職場は100を超えるテナントが入っている商業施設でした。その社員食堂で、ごはんやおかずの小鉢と並んで、個包装のチョコパイが販売されていたのです。
当時の私は転職したばかりで、お客様へのお釣りの渡し方からしてなっていないと、毎日何かしら指導されていました。失敗すまいと力むほどにまた失敗するという負のスパイラル。商品が好きで、念願叶っての転職だったはずなのに、どうしてこんなにうまくいかないんだろう。一日が途方もなく長く感じられ、楽しみといえば社食のチョコパイと、もうひとつが吉本ばななの小説を読むことでした。
通勤電車で、休憩時間のバックヤードで、家に帰りついてコンビニのお弁当やスナック菓子を食べながら。一冊読み終わると書店に行って、次の一冊を選ぶ。愛読していた作家はほかにもいて、家にはこつこつ買い集めた本があったのに、どれも手に取ることができなくなっていました。唯一読めたのが吉本ばななだったのです。
どうしてなのか、いまだにうまく説明ができません。ストーリーを追うというよりも、主人公が体を動かしてそうじをしたり、料理をつくったりする描写(たとえば「満月 キッチン2」で、みかげが独学で料理を学ぶために、とりつかれたように台所に立ち続けるところ)を、口の中で何度も何度も噛むみたいに味わっていました。
けっきょく、わずか半年で体調を崩して退職するまで、そんな日々は続きました。
真っ暗なトンネルの中にいるようだったあの時期に、一日にひとつだけでも、これをしている間は不安や心配を忘れていられると言えることがあったのは幸運でした。人によってはそれが映画や音楽やアートということもあるでしょう。たまたま私は本だった。
人間関係と同じで、本には相性があります。あのとき私が吉本ばななの小説以外読めなくなっていたように、今回ご紹介した本のどれもぴんとこなかったという人はいるはずです。いまのあなたに必要な本は、あなたにしか選べない。図書館や古書店も賢く使って、たくさんの本を見るうちに、自分にぴったりの一冊に出会えることを祈っています。
いまでも吉本ばななの新刊が出たらすぐに買って読みますが、チョコパイはもう何年も食べていません。
ちょっと疲れちゃったな。そんなときに読みたい「心のお守り本」5選。