熱中症の初期症状は?予防法・応急処置法を医師が解説。
暑くなるにつれ、スポーツや屋外作業中に熱中症で病院に運ばれたというニュースが増えます。でも、どこか人ごと。「自分は若いし、体力もあるから大丈夫」と思っていませんか?
一般的に、熱中症のリスクが高いのは、体温調節機能が未発達の子どもや暑さを感じる機能が低下している高齢者です。しかし、済生会横浜市東部病院患者支援センター長で、熱中症による搬送ゼロを目指す「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長の谷口英喜先生は、「熱中症は誰もがなる可能性があり、過信は禁物」だと言います。
後遺症が残る、場合によっては死に至ることもある怖い熱中症。その症状や予防法、初期症状が出たときの応急処置などを聞きました。
目次
「熱中症」の原因と症状。
熱中症は気温と湿度の上昇に体が対応できず、体温が上がり脱水症状になって、体調にさまざまな異変を引き起こす病気です。気温と湿度が上昇した環境、風が弱く日差しが強いといった条件などが揃えば、どんなシチュエーションであろうと熱中症になる可能性はあります。一般的に、屋内での熱中症は高齢者に多く、若年者は屋外での活動中になりやすいことが知られています。
熱中症ってどんな症状?
熱中症の症状は軽度(Ⅰ度)・中等度(Ⅱ度)・重度(Ⅲ度)に分けられます。軽度は脱水によって起きる症状が中心で、具体的には頭痛やふらつき、めまい、だるさ、足がつるといった症状です。脱水とともに体温が上昇してくると中等度になり、体温が高くなりすぎると、発熱や嘔吐、全身の倦怠感や関節を中心とした体中の痛みが出てくることもあります。
そして、重度になると意識障害が起こり、臓器障害の危険が高まります。臓器障害でもっとも多いのは、壊死などによって筋肉の成分が血中へ流出してしまう横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)。そのほか、腎不全や肝不全、肺水腫なども。なお、熱中症による臓器障害は基礎疾患の有無とは無関係です。健康な人でも、重度の熱中症になるとこれだけのリスクがあるのです。
さらに、適切な治療をしないと後遺症が残る可能性もあります。記憶障害や判断力の低下といった障害が残ることがあったり、熱中症で腎不全になり、生涯、腎臓の働きの一部を人工的に代替えする「透析」が必要になったりする方もいます。
熱中症の初期症状が出たらどうする?
軽度であれば、自分たちで対処することができます。熱中症が疑われる人がいたら、周囲にいる人はすぐに次のような処置をしてあげましょう。
覚えておきたい応急処置方法。
1.涼しい場所に移動する。
炎天下を避けて、風通しのいい日陰に入りましょう。できれば冷房の効いた涼しい室内に移動してください。
2.体を冷やす。
脇の下と首の両側、脚のつけねを、保冷剤や冷えたペットボトルで冷やします。この3か所は太い血管が通っているので、効率よく体全体から熱を取ることができます。一方、頭を冷やしたり、全身に水をかけたりしてもあまり効果はありません。
3.水分補給をする。
汗をしっかり出せるよう水分を補給します。熱中症のときは、水とブドウ糖と塩が主成分の経口補水液がもっとも適しています。水よりも塩分や糖質のバランスがよく、スポーツドリンクと比べると塩分が多く糖分は少ないため、吸水のスピードが早いのです。
まずは、経口補水液を一気に飲めるだけ飲みます。500ミリリットルを飲み切ったら、もう1本を30分ぐらいかけてゆっくりと飲んでいきます。
経口補水液がなければ、スポーツドリンクでもかまいません。ちなみに、熱中症の症状が出ているときに水を飲んでもあまり効果はありません。むしろ、水を飲みすぎると血液が薄まってしまうので危険な場合があります。また、意識障害がある人の場合は、気道に水分が流れ込まないように注意してあげてください。
4.その日は1日安静に。
症状が改善されたからといって、すぐに動き出してはいけません。その日はきちんと休むことが大切です。できるだけ涼しいところで安静に過ごしましょう。症状がよくなったからといって、すぐに動き出すと再発する可能性があります。
こんな症状のときは病院へ!
一般的に中等度以上では、すぐに医療機関を受診したほうがいいケースもあります。その見極めとなるポイントは2つ。まず、意識があるかどうか。そして、自分で水などを飲めるかどうかです。
意識がもうろうとしていて、自分がどこにいるのかわからなかったり、うまく言葉が出なかったり、あるいは、自分で水を飲むこともできなかったら、中等度以上の可能性大。体を冷やして、可能であれば水分を補給しながら、すぐに医療機関へ行く手配をしましょう。
入院が必要になることも。
医療機関では、熱中症の患者に対し点滴で体に水分を補給し、氷枕や氷のうを使うなどして体を冷やしていきます。重度の場合は、体の表面から冷やすだけでは不十分なため、体内に管(カテーテル)を挿入して冷たい生理食塩水を循環させます。
症状が落ち着けばその日のうちに帰宅できますが、臓器障害を起こしていたら入院をし、集中治療室で厳重に経過を観察します。
熱中症に注意したい場面。
真夏のスポーツには要注意。
「炎天下、テニスをしていたら全身が硬直し痛み出した」「屋内でのバレーの練習中に嘔吐し、過呼吸になった」「サッカーのトレーニング中に足に力が入らなくなった後、意識がもうろうとした」など、真夏の運動中は熱中症のリスクが高まります。急に異変が生じることが多く、「あれ? おかしいな」と思った途端、倒れて動けなくなったり意識障害が出たりするのです。
その一方で、「サッカーの練習をしていたら頭痛がしたため帰宅。その後、39度の発熱があり救急搬送された」という方もいます。時間差で症状が悪くなっていく場合もあるため、暑い場所で過ごした後、24時間程度は熱中症になる可能性があるということも覚えておくとよいでしょう。
屋内作業中でも熱中症の危険が。
スポーツと並んで多いのが、屋内作業中に熱中症を起こすケースです。「マンションの内装作業中に両足の痛みが生じ、その後、意識がもうろうとして全身がつって動けなくなった」など、屋内であっても、夏場の作業は注意が必要です。
また、「バスを降りた直後から倦怠感と吐き気、熱っぽさが出て救急車で運ばれた」「エアコンの効きが弱い車を約1時間運転後、めまいと吐き気に襲われた」など、移動中でも油断は禁物です。暑さと湿度が高い環境や、風が弱く日差しが強いといった条件などが揃えば、熱中症のリスクはあることを意識しましょう。
熱中症にならないための予防法。
熱中症予防のために必要なのは、まず、「自分も熱中症になるかもしれない」という意識を持つことです。その気持ちがあれば、暑い日の活動に対して備えるようになり、熱中症のリスクを大きく下げることができます。
体調が悪いときには無理をしない。
病み上がりや寝不足の状態は熱中症になりやすいなど、熱中症には、そのときの体調も大きく影響します。また、アルコールを飲みすぎた翌日も危険です。お酒を飲みすぎると、アルコールが体内で分解される際に水分をたくさん使うため、体が脱水気味になっているのです。
運動前の体調管理をしっかりと。
真夏の屋外など、暑さの中で運動するなら体調管理をしっかりして臨みましょう。そして、体調が悪いときにはスポーツなどをしないこと。決して無理をしないことが重要です。
水分と栄養をしっかり摂る。
活動の前、その最中もきちんと水分補給をしましょう。朝ごはんをしっかり食べるなど、普段から栄養をしっかり摂ることも大切です。
野菜や果物に含まれるビタミンB類は熱中症予防になるといわれています。意識的に摂ってください。また、ビタミンCは汗と一緒に体外へ排出されやすいため、夏場は特に意識して摂るようにしましょう。柑橘類はビタミンCだけでなく水分も摂りやすいので、おすすめです。
熱中症の対策グッズも用意する。
スポーツドリンクや麦茶などのドリンクに加え、熱中症になったときに備えて経口補水液も用意しておきましょう。また、屋外での活動には、保冷剤や氷など体を冷やすものも携行することをおすすめします。
暑さ指数を確認する。
環境省は、熱中症予防のための情報発信として「熱中症警戒アラート」を運用しています。さらに「暑さ指数(WBGT)」も毎日発表しています。こうした情報を確認し、暑さが厳しい日は屋外での活動を控えるなど、気温によって柔軟に予定を調整することも大切です。
参考:環境省「熱中症予防情報サイト」熱中症警戒アラート
参考:環境省「熱中症予防情報サイト」全国の暑さ指数(WBGT)
熱中症は予防できる病気。
熱中症は重症になると、後遺症が残ったり、場合によっては死に至ったりする怖い病気です。そこまで至らなくとも、治療や入院などになれば予期しないお金もかかってきます。しかし、この病気は自分自身の意識で予防することができるのです。
特に、20代〜30代の男性は屋外での活動中に熱中症になることが多いようです。「暑さなんて平気」と侮ったり「自分は体力があるから大丈夫」と過信したりすることなく、しっかり備えて、この夏を元気に楽しく過ごしましょう。
写真/Getty Images イラスト/こつじゆい
谷口 英喜
済生会横浜市東部病院患者支援センター長/栄養部部長
1991年、福島県立医科大学医学部卒業。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。医師や福祉の専門家による「教えて!『かくれ脱水』委員会」の副委員長を務め、熱中症予防の情報を発信。著書に『[改訂版]イラストでやさしく解説! 「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』『熱中症・脱水症に役立つ 経口補水療法ハンドブック 改訂版』(いずれも日本医療企画)など。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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