口臭の原因かも? 「マスク呼吸ぐせ」を改善する3つの方法。
マスク生活が長く続くなかで体の変調や不調を感じる人も多いはず。たっぷり寝ても疲れがとれず、日中もだるい。あるいは、歯磨きをしても口臭が気になる……これらはマスクによる悪い「呼吸ぐせ」が原因かもしれません。呼吸器や自律神経の研究の第一人者である小林弘幸先生に、呼吸ぐせによる影響と、その改善法を教えてもらいます。
目次
- 無意識のうちに「マスク呼吸ぐせ」が身についてしまっているかも?
- しまらない表情に口臭、疲れが抜けない……。それ、マスク呼吸ぐせのせいかも?
- 毎日意識したいマスク呼吸ぐせの3つの予防策。
- 正しい深呼吸、「1:2の呼吸」をマスターしよう。
- 胸郭を動かすトレーニング①「息が吸いやすくなり、呼吸が楽に」
- 胸郭を動かすトレーニング②「ストレスや眠気、だるさなどの不調をふきとばす!」
- 胸郭を動かすトレーニング③「自律神経のバランスを整える」
無意識のうちに「マスク呼吸ぐせ」が身についてしまっているかも?
マスク生活が長くなったことで、知らず知らずのうちにマスク呼吸ぐせがついているかもしれません。「身についてしまうと、体に百害あって一利なしです」と語るのは、呼吸器や自律神経研究の第一人者である順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生です。マスク呼吸ぐせとは、どんなくせなのでしょうか。
「マスクによる呼吸ぐせは、長いあいだマスクを着用することで習慣化します。マスクで口を覆うと呼吸のときにストレスを感じて、無意識のうちに呼吸が浅くなってしまいがちです。また、マスクで口元が隠れていると、口元の筋肉の緊張が緩んで口が開き、口呼吸をしやすくなります。こうした浅い呼吸や口呼吸が習慣化した状態を『マスク呼吸ぐせ』と呼んでいます」
しまらない表情に口臭、疲れが抜けない……。それ、マスク呼吸ぐせのせいかも?
口呼吸や浅い呼吸は、体にさまざまな悪影響をおよぼします。たとえば口臭もそのひとつ、と小林先生。
「口呼吸になると、口内が乾き気味になって唾液量が減るので、口臭が強くなったり歯肉炎を起こしやすくなったりします。また、気道や肺に直接ウイルスや菌を取り込みやすくなり、感染症にかかるリスクも高まります。さらに、唾液には、免疫を高めるIgAという抗体が含まれていますが、唾液量が減るとIgAも減少するので、免疫機能も落ちてしまうのです」
浅い呼吸の悪影響もかなり大きいよう。
「呼吸が浅くなると、副交感神経がはたらきにくくなり、自律神経の乱れにつながります。その結果、血流が悪くなり、すぐに疲れる、寝付きが悪い、眠りが浅い、食欲不振や消化機能の低下などの不調が生じやすくなります。排泄機能も不安定になるので、便秘や下痢が続く、または両方を交互に繰り返すということも。呼吸が浅いと、脳への酸素供給も少なくなり、集中力が続かなかったり判断力が鈍ったりもします。『マスクをすると眠くなりやすい』という人は、マスク着用によって脳への酸素が不足しがちになっているかもしれません」
さらに、口呼吸をしているときは口がぽかんと開いた状態になりますが、「これが続くと、口まわりの筋肉が緩んでしまい、しまりのない表情になるので、マスクを外したときにイメージダウンを招く可能性も」と、美容面にも残念な影響が。
毎日意識したいマスク呼吸ぐせの3つの予防策。
口呼吸になっているかどうかは、すぐに自覚できます。では、自分の呼吸が浅いかどうかはどう判断すればいいのでしょうか?
「意識して呼吸をしてみてください。たとえば、呼吸1回につき100円かかると言われたら、大切に息を吸ったり吐いたりしたくなるでしょう?(笑) しっかりと呼吸をしようとすると、自然に深い呼吸になります。ふだんの何気ない呼吸と、呼吸しようと意識をしたときとを比べて、息を吸ったり吐いたりする量がかなり少なかったり、呼吸のスパンが短かったりするようなら、浅い呼吸になっている可能性があります」
こうした浅い呼吸や口呼吸を慢性化させないために、小林先生が提案する予防策は3つ。
すでに口呼吸や浅い呼吸がくせになっている人も、上の3つを行うと少しずつ深い呼吸が身についてくるそうなので、毎日意識して行うと予防・改善につなげましょう。
正しい深呼吸、「1:2の呼吸」をマスターしよう。
ちなみに、小林先生がおすすめする深呼吸は、鼻から3秒吸って口から6秒吐くという「1:2の呼吸」。「夜遅くまでPCやスマホのまぶしい画面を見たり、ストレス過多だったりする現代の生活では、自律神経のなかでも交感神経が優位になりやすいのですが、1:2の呼吸を行うと副交感神経がはたらきやすくなります。たとえば、毎食後の歯磨きのあとに1分間、1:2の呼吸をする、などと習慣づけると、自律神経のバランスが整いやすくなりますよ」
「深呼吸をしてみたけど、あまり息を吸い込めない」と感じる人は、「長年、浅い呼吸を続けた結果、胸郭やそのまわりの呼吸筋の動きが悪くなっているのかもしれません」と小林先生。胸郭とは、肺を囲むかご状の骨格のこと。胸骨・肋骨・胸椎(背骨)でできていて、胸郭のまわりには、呼吸に関連する筋肉、呼吸筋がたくさんついています。
呼吸筋によって胸郭が伸縮することで肺も伸び縮みするので、深く気持ちのいい呼吸ができるようになるためには、胸郭を動かして柔軟にするエクササイズが効果的というわけです。
胸郭を動かすトレーニング①「息が吸いやすくなり、呼吸が楽に」
では、胸郭を動かすトレーニングを3つご紹介。1つめは、一息入れたいときや昼休みなどの空いた時間にさっとできる胸郭トレーニングです。まず、口からゆっくりと息を吐きながら、両手の手の甲を合わせるようにして、前腕を体の前で合わせます。なるべく腕全体をぴったり合わせ、肩甲骨の間を離すような気持ちでまわりの筋肉が伸びるのを意識しましょう。息を吐き切ったら、鼻から息を吸いながら、手のひらを外側に向けて両腕を開きます。このとき、肩甲骨をぎゅっと寄せながら腕を開くように両腕を動かすのがコツ。開閉を10回繰り返しましょう。
「立って行う場合は足を肩幅に開いてまっすぐ立ち、座って行う場合は背筋を伸ばすこと。トレーニングが終わったら、息が吸いやすくなって呼吸が楽になるのを実感できますよ」
胸郭を動かすトレーニング②「ストレスや眠気、だるさなどの不調をふきとばす!」
2つめは、胸郭まわりをしっかりと動かすトレーニング。まず、足を肩幅に開いてまっすぐ立ち、両手を頭の上に伸ばして手首を交差させます。そのまま、鼻から息を吸いながら、腕を上へと伸ばし、息を吸い終わったら、口からゆっくりと息を吐きながら上半身を右へ倒しましょう。吐き切ったら、また鼻から息を吸って体をもとに戻します。次は、口から息を吐きながら左へ倒し、吐き切ったら、鼻から息を吸いながらまたまっすぐの姿勢に戻ります。左右セットを5回繰り返しましょう。
「息を止めずに呼吸をしながら筋肉を伸ばすと、肩甲骨や胸郭が広がり、胸郭全体のストレッチができます。下半身は固定したまま、脇の下や脇腹の筋肉が伸びるのを意識して行いましょう。胸郭が柔軟になって呼吸が深くなると、取り込める酸素も増えるので、酸素が不足気味で起こる眠気やだるさが軽減してリフレッシュできますよ」
胸郭を動かすトレーニング③「自律神経のバランスを整える」
最後は、風船を使った胸郭トレーニングです。まず、おなかに手を当てて、風船を口にくわえます。鼻から息を吸っておなかを膨らませたら、おなかをへこませながら口から息を吐いて風船に息を吹き込みます。おなかに当てた手がしっかり動いているのを意識すると効果大。
「しっかりと筋肉を使っていることを意識しながら風船を膨らませるので、呼吸筋の筋力アップに役立ちます。お子さんと一緒に遊びながら行うのもいいですね。3つのトレーニングをすべて行ってもいいですし、できることからはじめてもかまいません。筋肉が固まると、いいことはありませんが、肺まわりも同じ。柔軟に保つことが重要です」
マスク呼吸ぐせを改善して深い呼吸を習慣化すると、すぐに体調に変化が表れるのだそう。真っ先に実感しやすいのは、体が疲れにくくなること。自律神経のバランスが整って、食欲不振や睡眠不足などの不調も改善しやすくなります。何より「気力が湧いてきます」と小林先生。
「マンガの世界では呼吸によってすごい技を繰り出したりしますが、あれは架空の話ではありません。正しい呼吸法を身につけると、実際に本来の実力やパフォーマンスを発揮できるようになります。逆に、原因不明の不調を感じている場合は、呼吸を変えると案外すんなり解消することもあります。ぜひ今回紹介した胸郭トレーニングや予防策を試してみてください」
この機会にマスク呼吸ぐせを予防・改善し、ベストパフォーマンスを披露できる呼吸を身につけてみよう。
取材・文/知井恵理 イラスト/仲野人
小林 弘幸
順天堂大学医学部・大学院医学研究科教授
1960年、埼玉県生まれ。1992年に順天堂大学大学院医学研究科(小児外科)博士課程を修了後、アイルランド国立病院外科を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。その後、現職。自律神経研究の第一人者でもあり、自律神経のバランスを意識的にコントロールすることで心身のパワーを最大限発揮できると主張。数多くのトップアスリートのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にかかわっている。日本体育協会公認スポーツドクター。『自律神経を整える「長生き呼吸法」』(アスコム)など著書多数。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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