妊娠・出産のベスト年齢を産婦人科医が解説。高齢出産にもメリットが?
「そろそろ赤ちゃんがほしいな」と妊娠のタイミングを考えている人。妊娠や出産はまだ先でいいけれど、「いつかは赤ちゃんがほしい」と考えている人は多いでしょう。出産するのは何歳くらいがいい? 妊娠しやすいのは何歳くらいまで? そんな妊娠・出産の適齢期に関する疑問を、日本産科婦人科学会専門医や日本産科婦人科学会認定ヘルスケアアドバイザーとしてさまざまな相談を受け、『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』『自分でできる!女性ホルモン高めかた講座』などの著書もある、産婦人科医の八田真理子先生にお聞きしました。
目次
妊娠するのにベストな年齢は20代〜30代前半。
出産の適齢期は、「妊娠のしやすさ」という点で考えれば、若いに越したことはありません。とはいえ、10代では若すぎるようです。
「子宮が成熟しておらず、女性ホルモンの分泌も不安定で、妊娠に対して体の準備が整っていません。そのため、妊娠中のトラブルが多く、難産の末に帝王切開になる確率も高いのです」(八田先生)
では、妊娠するのには何歳くらいがベストなのでしょうか?
「妊娠に対して体の準備が整っているという点では、20代〜30代前半が適齢期と考えられます。さらにその中で、もっとも体の準備が整っているのは25歳前後です。また、体力的な余裕が十分にある年代であることも有利になります」(八田先生)
子宮が成熟し、卵子の数と質も十分で妊娠しやすい。
20代〜30代前半は、子宮が成熟し、女性ホルモンの分泌も安定、卵子の数も十分で質もよいのです。八田先生は、「適度な皮下脂肪がついて体に抵抗力もあるため、妊娠に適している」と言います。
妊娠経過が順調で、安産になりやすく、産後の回復も早い。
個人差はありますが、妊娠中のトラブルが起こりにくく、妊娠経過も出産もスムーズに進むことが多い年齢です。また、産後の回復が早いのも特徴です。
育児をするのに十分な体力がある。
産後の育児は体力勝負。出産直後から、昼夜を問わない2時間〜3時間おきの授乳がはじまり、あやしたり、おむつを替えたりしていたら、ほっと息つく間もなくあっという間に1日が終わります。八田先生は、「20代~30代前半までであれば、それを乗り越える体力は十分にある」と言います。
家族計画を立てやすく、2人・3人と産むことができる。
妊娠しにくくなる年齢まで時間的の余裕があるため、2人・3人・4人……と複数回、妊娠できる可能性が高くなります。「何歳差で、何人ほしい」といった家族計画も立てやすいでしょう。
35歳以上の妊娠・出産における注意点。
35歳以上での初産を「高齢出産」といいますが、最近は40歳以上での初産も珍しくありません。さらに、妊娠・出産を何歳までにすればよいのかは、その人の体質や生活習慣といった「体の個体差」によるところが大きく、何歳までに妊娠・出産すればよいのかは一概にはいえません。
ただ、医学的な統計を鑑みると、35歳を過ぎると妊娠率は低下する傾向にあります。また、出産までのリスクが伴いやすくもなります。
卵子が減少し、老化するため、妊娠しづらい。
女性は、卵巣に一生分の卵子をもって生まれてきます。卵子は減っていくだけで、新たにつくられることはありません。そのため、年齢が上がるにつれて卵子の数は減少します。そればかりでなく、卵子は本人と同じだけ年齢を重ねているので、日々、老化が進み、妊娠ができる卵子が排卵される確率が下がります。
この「卵子の減少」と「卵子の老化」という両要因によって、年齢を重ねると、妊娠の確率が下がるのです。
婦人科疾患が増えて、不妊の原因となる。
30歳以上になると、不妊の原因となる子宮内膜症や子宮筋腫といった婦人科疾患にかかる可能性が上がります。
子宮内膜症は、子宮内膜と似た組織が子宮以外の場所につくられる病気で、生理のたびに組織がはがれて出血するので、強い痛みを伴います。強い生理痛の原因は、この子宮内膜症であることが多いため、「たかが生理痛」と放っておくのは厳禁です。
子宮筋腫は、子宮にできる良性の腫瘍で、多くの人は自覚症状がなく、妊娠・出産に影響はないことがほとんどです。しかし、筋腫ができた場所や大きさによっては、受精卵の着床や卵管通過を妨げるため、不妊の原因となることがあります。また、妊娠しても、流産や早産のリスクが高まるともいわれています。
妊娠してから出産までにさまざまなリスクがある。
高齢で妊娠すると、卵子の染色体異常の頻度が高まるため、流産する確率が高くなります。子宮口や産道が広がりにくい、強い陣痛が起こりづらいといったことからも難産になり、帝王切開になるケースも増えていきます。
また、妊娠中に高血圧になる「妊娠高血圧症候群」や、妊娠中に糖代謝異常が生じる「妊娠糖尿病」を発症しやすくなり、母体だけでなくおなかの赤ちゃんにも影響することがあります。
高齢出産にもメリットがある。
医学的な統計によると、35歳以上は妊娠率が下がり、妊娠してからもさまざまなリスクがあることはたしか。しかし、「メリットもある」と八田先生は言います。
キャリアと自分らしさを形成し、満足した状態で母親になれる。
「仕事に没頭してキャリアを形成し、旅行や趣味といった自分がやりたいことも堪能。それまでの自分の生き方に満足した状態で母親になり、『○○をしてみたかったな……』というやり残し感をもつ女性が少ない印象です」(八田先生)
そのため、自然と、育児に時間と情熱を注ぎやすくなるようです。
精神的・経済的に安定し、子育てが上手にできる。
「精神的に充実している女性が多いので、やりくり上手な印象があります。そんなお母さんに育てられた子どもたちの多くは、表情が豊かで情緒は安定している印象を受けます」(八田先生)
また、キャリアを背景に経済的な余裕があり、子どもに十分な教育費をかけることができる家庭も多いようです。
出産の適齢期をふまえたライフデザインを。
加齢とともに妊娠・出産のリスクが増えていくことを考えると、医学的な統計から見た妊娠・出産にベストな期間があるのは明らかです。とはいえ、高齢出産でも、元気な赤ちゃんを産んでいる人はたくさんいます。
「ライフスタイルや価値観が多様化した今、しばらくは仕事をがんばりたい、結婚はまだ先のこと、と考える人も当然います。さらに産後の長い子育てを考えると、家庭の社会的・経済的状況によって、ベストな時期も人ぞれぞれです」(八田先生)
このタイミングでないとダメということはありません。まずはリスクやメリットをきちんと認識し、これからの自分や家庭のことを考えた妊活をし、ライフデザインを描いてみてはいかがでしょうか。
写真/Getty Images
八田 真理子
聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田理事長・院長。日本産科婦人科学会専門医・母体保護法指定医・日本産科婦人科学会認定ヘルスケアアドバイザー。複数の産婦人科勤務を経て、千葉県松戸市で実父が開院した「八田産婦人科」を継承し、1998年「ジュノ・ヴェスタクリニック八田」を開院。地域密着型クリニックとして思春期から老年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングに従事。
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