相続した実家が空き家になったら?家を管理・維持する費用や、売却・処分する際の基準解説
※本記事は、不動産メディア「いい不動産」(提供元:株式会社鎌倉新書)からの提供情報をもとに掲載しています。
全国の空き家は増加の一途をたどっています。相続した家を放置していることが要因の1つともいわれていますが、少子高齢化・核家族化が進む今日、両親が亡くなったあとの実家を引き継ぐ子どもや孫がいないのです。
相続後、住む予定のない実家はどう扱うべきなのでしょうか。荒れ果ててご近所の迷惑にならないようにメンテナンスをおこなうにも、賃貸や売却に出すにも、さまざまな手続きや費用が必要になります。
この記事では、実家が空き家になったときの維持・管理にかかる費用や、活用・売却・処分の方法、その他補助金や減税制度などについてご説明します。
目次
- 相続した実家が空き家に!昨今の空き家事情
- 空き家のまま放っておくとこんなトラブルが…
- 空き家の維持・管理にかかる費用
- 活用?売却?処分?空き家を解消する方法
- 大切な実家はなるべく残したい!という方におすすめの仕組み・制度
- まとめ
相続した実家が空き家に!昨今の空き家事情
日本では、人口の減少や既存住宅の老朽化、社会的ニーズの変化などによって、年々空き家が増加しています。
総務省の住宅・土地統計調査によると、平成25年の総住宅数6,063万戸のうち、居住や活用されていない空き家は318万戸(全国の総住宅数の5.2%)となっています。過去10 年間で1.5 倍、過去20年間では2.1 倍に増加しています。
所有者による適切な管理が行われていない空き家では、安全性の低下・景観の悪化・公衆衛生の悪化・治安の悪化などの問題が生じ、周辺地域のイメージ悪化や近隣トラブルなどの深刻な影響を及ぼしているものもあります。
引用元:総務省「空き家対策に関する実態調査結果報告書」
このような状況を改善すべく、平成27年に空家等対策の推進に関する特別措置法が施行されました。下記のような特定空家等に対しては、適切な管理をするよう助言・指導・勧告・命令ができるほか、罰金や行政代執行を行うことが可能となります。
特定空家等
・倒壊など著しく保安上危険となるおそれのある状態
・著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にある空家等をいう
特定空家等に指定されて勧告されても対策を講じないと、固定資産税の住宅用地特例が受けられなくなり固定資産税が6倍に跳ね上がります。さらに命令されても改善されない場合は、50万円以下の罰金が科されます。最終的には行政代執行により、行政が所有者に代わり対処して、その費用が所有者に請求されてしまいます。
出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」
空き家のまま放っておくとこんなトラブルが…
空き家を放置することによる悪影響
相続した家を空き家のまま放置していると、ご自身や近隣住民にどのような悪影響があるのかについて、代表的な例を紹介します。
①雑草や老朽化した建物による景観の悪化
適正な価格では購入してもらえなくなります。
②老朽化による倒壊・倒木
通行人がケガをしたり、近隣住宅が損壊した場合には、損害賠償義務を負います。
③害虫・害獣の棲み処になることによる悪臭
公衆衛生の悪化をもたらします。
④不法投棄による景観の悪化や悪臭および治安の悪化
公衆衛生の悪化や、犯罪リスクが高まることが懸念されます。
⑤放火などの犯罪のリスク
散乱したゴミや放置した枯れ草は、放火犯に狙われやすくなります。また、家財道具があるため、不審者が住みつくこともあります。損害賠償義務を負う可能性もあります。
⑥上記のようなことを理由とした、周辺地域のイメージ悪化
地域全体で管理が行き届いていないと認識されてしまいます。
⑦上記のようなことを理由とした、近隣トラブル
上記のような状況は、ご近所の迷惑となることは明白です。
⑧資産価値の低下
適切に管理されずに換気が不十分だと劣化が早まり、売る・貸すといった処分ができなくなります。
⑨「住宅用地の特例」が適用されず、税負担が増える
特定空家等に指定されると、「住宅用地の特例」が適用されなくなります。つまり、固定資産税がそれまでの6倍、都市計画税が3倍になるということです。
「住宅用地の特例」とは
土地の上に建っている居住用の建物には、200㎡までの土地の固定資産税を1/6に、都市計画税を1/3に減額する特例が適用されます。なお、200㎡を超える部分(上限は住宅の総床面積×10)については固定資産税を1/3に、都市計画税を2/3に減額します。
空き家を維持・管理するためにかかる費用
特定空家等に指定されないように空き家を維持・管理するには、次の5つの費用がかかります。
固定資産税
固定資産税とは、住宅の所在する市区町村が毎年1月1日時点の所有者に課す税金です。固定資産税の税額は、基本的に、固定資産税評価額をもとに算出される課税標準額の1.4%です。
固定資産税=課税標準額(固定資産税評価額)×1.4%
都市計画税
都市計画税とは、都市計画法による市街化区域に所在する土地・建物を課税対象とする税金で、毎年1月1日時点の所有者に課されます。都市計画税の税額は、課税標準額に一定の税率(上限0.3%)をかけて算出します。
都市計画税=課税標準額(固定資産税評価額)×0.3%
火災保険
火災などで隣家に被害が及ぶと、膨大な損害賠償が請求されてしまいます。リスクに備えて加入したほうがいいでしょう。
水道光熱費
住宅性能や景観を保つためのメンテナンスには、電気や水道が必要です。年間にすると基本使用料もかさみますので、維持費に組み入れておきましょう。
修繕費用
人が住んでいない家は劣化が早まります。建材の腐朽・サビ、雨漏り、壁材の劣化、塀のぐらつきなど、経年によって様々な不具合が生じます。
「空き家管理サービス」を利用する選択肢も
実家が遠かったり、忙しくて自分で維持・管理することができない場合は、空き家管理サービスを利用する方法もあります。月に1回の頻度で見回り・全室の換気・清掃・防犯確認などをおこない、費用は月5,000円から1万円程度です。実家への交通費や自分で管理する負担と比較して、利用を検討してみるのも良いでしょう。
このように、空き家の維持・管理には年間数万~数十万の費用がかかります。将来的に居住する見込みがないのであれば、早めに活用・売却・処分を検討するのがおすすめです。次項では、活用・売却・処分の方法について説明します。
活用?売却?処分?空き家を解消する方法
実家に住む人がいない場合、大きく分けて次の3つの選択肢があります。
1.活用(賃貸など)
2.売却
3.処分(相続放棄)
以下、それぞれについて詳しくご説明します。
①活用(賃貸など)
空き家を賃貸やシェアハウスとして貸し出す方法です。家賃収入を得られるだけでなく、人が住むことによって家の劣化スピードをゆるめることができます。
ただし、賃借人が快適に住めるようにリフォームや修繕が必要な場合も多いです。この費用の見積もりを取り、投資費用がいつ頃回収できるかシミュレーションしてみましょう。このとき、空室率や経年による家賃の下落も織り込む必要があるでしょう。
なお、この活用方法は借り手が十分見込める地域で検討できる選択肢です。実家のある地域に精通した地元の不動産会社に相談するといいでしょう。
②売却
実家を売却すれば、管理する手間も維持費もかからなくなります。数社に査定を依頼して、最も信頼ができる会社を選びましょう。ここで注意すべきは、売却する場合でも必ず名義変更(相続登記)が必要だということです。
この手続きは実家の所在地を管轄する法務局でおこなえますが、専門的な知識が必要なため、司法書士に依頼するといいでしょう。なお、登記申請には登録免許税の納付が必要で、登録免許税は固定資産評価額の0.4%になります。
さて、売却にはさらに2つの選択肢があります。空き家のまま売却する場合と、更地にして売却する場合です。それぞれのパターンについて、かんたんに内容を紹介します。
空き家のまま売却するパターン
空き家が比較的きれいな状態である場合には、そのまま売却してもいいでしょう。解体費用がかからず、売主としては負担が少ない方法です。
ただし、後々トラブルにならないために、老朽化した部分などの現況について買主によく説明し、理解してもらった上で購入してもらうことが大切です。
更地にして売却するパターン
空き家がひどく老朽化しており修繕しなければ住めないという場合には、解体して更地にして売却するのも選択肢の一つです。景観を損ねた建物が建っていない方が売却につながる場合もあるためです。
また、空き家を放置することによる倒壊・放火などのリスクや、維持・管理の負担がなくなることもメリットです。ただし、建物がなくなるので、前述の住宅用地の特例は適用されなくなります。
③処分(相続放棄)
活用も売却もできない場合は、処分(相続放棄)を検討します。まず、相続放棄とは、財産を一切相続しないことです。相続放棄をするには、被相続人の死後3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。相続放棄をすると、相続の順位は子ども、親、兄弟姉妹と、下へ下へと繰り下がります。
つまり、処分に困る空き家を、親族に押し付ける形になるのです。円満な解決のためにも、親族とよく話し合った上で結論を出しましょう。
なお、誰にも相続されなかった財産は国に帰属することになりますが、相続放棄した空き家が自動的に国の名義になるわけではありません。国の名義にするには、相続人代表が家庭裁判所に財産管理人の選任申し立てをして、弁護士などに費用を払い財産管理をしてもらいながら手続きを行います。
また、売却ができない不動産や空き家の残る土地は、国も受け取りません。申し立て費用も100万円以上かかるので、空き家がある場合の相続放棄はあまり現実的ではないといえるでしょう。
以上、相続した実家に住まない場合の対処法について説明してきましたが、「思い出の詰まった実家はできることなら残したい」と思う人も多いと思います。
次項では、そんなときに利用できる仕組みや制度についてご紹介します。
大切な実家はなるべく残したい!という方におすすめの仕組み・制度
所有者と利用したい人をつなぐ「空き家バンク」
空き家バンクとは、空き家の有効活用と地域活性化を目的として、空き家の所有者と空き家を利用したい人をマッチングする地方自治体のサービスです。移住、店舗の開業、ゲストハウス運営など、空き家を利用したい人向けに、空き家情報をポータルサイトなどで公開しています。
空き家の所有者が必要書類を自治体へ提出すると、現地調査がおこなわれ、仲介業者が選任されて空き家バンクに登録となります。
自治体ごとの空き家対策の補助金・助成金制度
移住促進、地域の事業者活用などを目的に、多くの自治体が補助金や助成金を用意しています。空き家がある自治体の建築課などの担当部署に問い合わせてみましょう。
空き家対策の補助金・助成金の例
・空き家解体・除去費用
・リフォーム・改修費用
・耐震改修費用
・バリアフリーや省エネリフォーム費用
・空き家貸付費用
・住居の住み替え費用
相続開始3年以内の売却で3,000万円まで無税になる「空き家特例」
空き家特例(居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)は、相続した住宅を売却した際に利益が出たとしても、3,000万円までは譲渡所得から控除できる制度です。この制度を適用するには、一定の要件を満たして確定申告をおこなう必要があります。
こまかな要件がいくつもありますが、特筆すべき要件は、「相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと」と、「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」です。当てはまる方は、ぜひ活用しましょう。
まとめ
ここまでご説明してきたとおり、空き家の維持・管理には様々な費用・負担がかかります。費用を試算したうえで、実家をどのようにするのか検討してください。選択肢は次の4つです。
1.自分で維持・管理する
2.活用する(賃貸など)
3.売却する(空き家のまま、または、更地にする)
4.処分(相続放棄)
放置するとご近所の迷惑になるばかりか、特定空家等に指定されて税負担が増してしまいます。きちんと処理すれば、適用できる税金の減額制度や補助金・助成金制度もあります。特に、相続した実家が空き家になる場合は、方向性を早期に検討することが重要です。
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※本記事は、不動産メディア「いい不動産」(提供元:株式会社鎌倉新書)からの提供情報をもとに掲載しています。