年金暮らしの親を扶養に入れるとどうなる?控除は?FPが解説。
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40代~50代の現役世代には、年金を受給している高齢の親を持つ方も多いのではないでしょうか。中には、経済的な支援を親が必要としていて、扶養に入れることを考えている方もいるでしょう。親を扶養に入れるとどのようなメリットがあるのか、扶養に入れる際の条件や注意点も含めて、40代~50代のライフイベントに詳しいファイナンシャルプランナー・豊田眞弓さんに教えていただきました。
目次
親を扶養に入れるメリットとは?
扶養とは、一般的に家計を担う人(扶養者)が、両親・配偶者・子どもなどの親族を経済的に援助することをいい、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があります。それぞれの観点から、親を扶養する場合のメリットについてみていきましょう。
所得控除が受けられる。
「税法上の扶養」では、主に家計を支えている扶養者(納税者)が、一定金額の所得控除を受けることができます。控除額は、扶養親族の年齢、同居の有無によって異なります。
親の年齢が70歳以上(その年の12月31日時点)で、一定の要件を満たしていれば、老人扶養親族に当たるため、常に同居している場合は58万円、同居していないが援助をしている場合は48万円を、年末調整や確定申告で所得から控除することができます。親が70歳未満でも一定の要件を満たしていれば、一般の控除対象扶養親族として38万円を所得から控除できます。
参考:国税庁「専門用語集」
参考:国税庁「No.1180 扶養控除」
また、扶養者は翌年の住民税の所得控除も受けることができます。所得控除と同様の一定条件を満たしていれば、全国一律で、親が70歳以上で同居している場合は45万円、同居していない場合は38万円、70歳未満の場合は33万円と設定されています。
一定の要件を満たした70歳以上の親と同居している場合は、合計103万円の所得控除が受けられることになります。
所得税の控除額 | 住民税の控除額 | |
親が70歳未満(同居・別居問わず) | 38万円 | 33万円 |
親が70歳以上で同居 | 58万円 | 45万円 |
親が70歳以上で別居 | 48万円 | 38万円 |
国民健康保険料の負担が免除になる。
「社会保険上の扶養」では、主に家計を支えている被保険者の社会保険(健康保険)に、被扶養者として加入することで、親は自分で国民健康保険料を支払わずとも保険給付を受けることができます。これによって、世帯として親の国民健康保険料に相当する支出を減らすことができます。
親を扶養に入れる際の注意点とは?
年金暮らしをしているからといって、必ずしも親を扶養に入れられるとは限りません。親族の扶養に入るためには、一定の要件を満たしている必要があります。
また、健康保険の被扶養者になると、高額療養費制度の自己負担限度額が以前よりも高くなるなどのデメリットが生じる場合があります。
「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の各要件とあわせて、注意点をみていきましょう。
税法上の「扶養親族」の要件に注意する。
親を税法上の扶養に入れるためには、扶養される親がその年の12月31日の時点で、下記3つの要件すべてを満たしていることが必要です。
(1)納税者と生計を一にしていること。
(2)年間の合計所得金額が48万円以下であること(該当する方の所得が給与所得だけの場合は、給与収入が103万円以下であること)。
(3)青色申告者や白色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと。
参考:国税庁「専門用語集」
別居している親の場合は、一定の扶養をしていないと控除が認められません。勤務先などから証明を求められた際に、銀行振込や現金書留による送金の写しを提出できるように準備しておきましょう。
また、兄弟で親の経済的な援助をしている場合でも、扶養できるのはどちらか1人です。扶養した場合の収支などを考慮して、家族で相談してみてください。
健康保険上の「被扶養者」の要件に注意する。
被扶養者として認定されるためには、まず被扶養者(本記事の場合は親)の住民票が日本国内にあることが前提になります。
参考:厚生労働省「被扶養者認定要件の改正省令について」(2019年)
ここからさらに、健康保険組合ごとに多少異なっている条件を満たす必要があります。中小企業などの会社員が加入する全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)を例にみてみると、下記の基準により認定されます。
被扶養者として認定されるには、主として被保険者の収入により生計を維持されていることが必要です。(中略)
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。
なお、上記に該当しない場合であっても、認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、その世帯の生計の状況を果たしていると認められるときは、被扶養者となる場合があります。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
被扶養者の条件は三親等内の親族なので義父母を扶養にすることも可能ですが、同居していることが必須条件になります。別居していても扶養に入れられるのは、配偶者・子・孫・兄弟姉妹・実父実母・祖父母・曾祖父母のみです。
ただし、75歳以上になると後期高齢者医療制度へ移行するため、親自身が後期高齢者医療制度に加入する必要があります。その時点で、社会保険(健康保険)の扶養対象者からは外れるため、75歳未満が扶養できる年齢の上限になります。
扶養に入れると高くなるお金も。
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
毎月の上限額は、加入者の年齢や所得によって異なります。70歳以上の場合、一般的な年収約156万~約370万円で、ひと月の医療費の支払い上限は5万7,600円、住民税非課税世帯では年金収入に応じて2万4,600円または1万5,000円となります。
高額療養費制度による自己負担上限額(70歳以上)
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | 多数回該当 | |
現役並み | 年収約1,160万円~ 標報83万円以上/課税所得690万円以上 |
25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% | 14万100円 |
年収約770万円~約1,160万円 標報53万円以上/課税所得380万円以上 |
16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% | 9万3,000円 | |
年収約370万円~約770万円 標報28万円以上/課税所得145万円以上 |
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% | 4万4,400円 | |
一般 | 年収約156万円~約370万円 標報26万円以下/課税所得145万円未満等 |
5万7,600円 | 4万4,400円 |
住民税非課税世帯等 | Ⅱ 住民税非課税世帯 | 2万4,600円 | 適用なし |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) | 1万5,000円 | 適用なし |
高額療養費制度で留意したいのが、自己負担の上限額は、扶養に入った場合には扶養者の収入によって決まるという点です。
たとえば、70歳以上で年収約370万円以下の親であれば、自己負担上限額は5万7,600円です。しかし、親を扶養に入れた子が年収約770万円~約1,160万円だとすると、上限額は16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1%になります。多数回該当(※)でも、親が支払う場合は4万4,400円、子の扶養に入っている場合は9万3,000円に。そのため、親が入院を頻繁に繰り返している場合や、継続的に高額な治療を受けている場合は、親自身が国民健康保険に加入しているほうが医療費の負担額が安く済むことがあります。
※ 高額療養費として払い戻しを受けた月数が過去12か月以内で3か月以上あったとき、4か月目から自己負担上限額がさらに引き下げられる。
また、医療費以外でいうと、親の世帯単体では住民税非課税の場合でも、子の扶養に入ることによって、自治体から支給される各種手当(給付金)が受けられなくなることがあります。
控除枠をほかにも活用したいなら?
この機会に、扶養控除のほかにも使える控除枠がないか見直してみると、家族全体の家計にプラスになるケースがあるかもしれません。どのような控除があるのか確認しておきましょう。
所得控除は、全部で下記の15種類があります。
基礎控除・雑損控除・医療費控除・社会保険料控除・寄附金控除(ふるさと納税など)・生命保険料控除・地震保険料控除・ひとり親控除・寡婦控除・勤労学生控除・小規模企業共済等掛金控除・障害者控除・配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除
この中で、現役世代の多くの方が年末調整時に活用しやすいものは、生命保険料控除や地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除などです。
生命保険料控除
支払った生命保険料に応じて、一定の方法で計算した額で最大12万円が所得から控除され、税負担が軽減されます。2012年1月1日以降に締結したものを新契約、2011年12月31日以前に締結したものは旧契約として扱われます。新契約と旧契約では、保険料控除の取り扱いが異なります。
新契約では、一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の控除額がそれぞれ最高4万円になります。旧契約では、生命保険料控除と個人年金保険料控除がそれぞれ最高5万円です。新制度と旧制度の両方に入っている場合でも、これらすべてを合計して、生命保険料控除額は最高12万円となります。
所得税の生命保険料控除の上限額
一般生命保険料控除 | 介護医療保険料控除 | 個人年金保険料控除 | |
新契約 (2012年1月1日以降) |
4万円 | 4万円 | 4万円 |
旧契約 (2011年12月31日以前) |
5万円 | ─ | 5万円 |
生命保険料控除ができる保険の中でも、老後の備えを目的にしたものが個人年金保険です。一時払いや分割払いで保険料を納め、契約時に定めた年齢に達すると、一生涯または一定期間、保険料に応じた年金が支給されます。所定の条件を満たし、個人年金保険料税制適格特約がついた商品であれば、個人年金保険料控除の枠を利用できる(※)というメリットもあります。
公的年金に上乗せする形でリタイア後の生活資金を備えることができ、控除で税負担も減らすことができるので、貯金だけを行うよりも家計に安心感をプラスすることができるでしょう。ただし、解約すると多くの場合、解約返還金はそれまで払い込んだ保険料の総額を下回りますので、注意が必要です。
※ 個人年金保険料税制適格特約を付加していない場合は、「一般生命保険料控除」の枠を使うことになります。
地震保険料控除
支払った地震保険料に応じて、一定の方法で計算した額で最大5万円が所得から控除されます。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)、企業型DCでのマッチング拠出などの掛金の全額が所得から控除されます。
【まとめ】家族のお金を見直して、よりよい選択を。
年金暮らしの親を扶養に入れることは、生計をともにするということになります。扶養親族として所得税や住民税の控除が受けられ、社会保険(健康保険)の被扶養者とすることで、家族全体の家計の支出を減らせることがメリットです。
一方で、親が子の健康保険に被扶養者として入ると、高額療養費制度の自己負担額が高くなる可能性もあるので、家計の収支と照らしあわせて検討する必要がありそうです。親の扶養控除とあわせて、生命保険料控除なども活用して、家族全体の家計を運用してみてはいかがでしょうか。
写真/PIXTA
豊田 眞弓
FPラウンジ代表。経営誌やマネー誌のライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャルプランナーとして活動。個人相談や講演のほか、ウェブサイト・雑誌などに多数のマネーコラムを寄稿。「子どもマネー総合研究会」理事のほか、「親の介護・相続と自分の老後に備える.com」を主宰。亜細亜大学などで非常勤講師も務める。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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