腰が痛い原因は?対処法や受診の目安を解説【医師監修】
腰痛は、立ちっぱなしの仕事や、逆に座りっぱなしの仕事、家事や子育てなど、日ごろの生活に起因することがあり、仕方がないと見過ごされることも少なくありません。しかし、なかには内臓や脊椎、婦人科系の疾患など、重大な病気や障害が潜んでいるケースもあります。
腰痛治療のスペシャリストで、メディアなどでも腰痛の原因や対処法を紹介している整形外科医の紺野愼一さんが、腰痛の原因や治療が必要なケース、予防法や対処法について解説します。
目次
腰が痛くなる原因は?
厚生労働省が行う「国民生活基礎調査」では、国民の健康状態を調査しています。2022年の結果を見ると、自覚する症状として腰痛を訴える人の割合は高く、男女ともに1位でした。
多くの人が悩まされている腰痛。その原因としては、脊椎(いわゆる背骨)や神経の障害、内臓や血管の病気や障害、筋肉に由来する痛み、心因性によるものと多岐にわたります。
ただしエックス線やMRIなどの画像検査などで原因をはっきりと特定できるケースは少なく、私の経験上、腰痛全体の2割にも満たないくらいです。腰痛を引き起こす主な原因には以下のものがあります。
腰痛の原因1:腰部の神経の障害。
原因がわかる腰痛で多いのが、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄(きょうさく)症など、腰の神経の障害によるものです。
椎間板ヘルニアは、脊椎を構成する椎骨と椎骨の間でクッション役を担う椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫すると痛みを起こす疾病で、20代~30代の若い方にも見られます。
脊柱管狭窄症は、神経が集まる脊柱管が、加齢や労働、もしくは背骨の病気などによって狭くなり神経が圧迫される病気です。腰痛の強さは人それぞれですが、脚にしびれや痛みが生じるのが特徴です。
腰痛の原因2:脊椎そのものの障害。
がんの骨への転移、脊椎の圧迫骨折、化膿性脊椎炎(細菌が血液によって脊椎(背骨)に運ばれ化膿する病気)など、脊椎そのものに病気や障害があるケースです。
腰痛の原因3:内臓・血管の疾患。
慢性十二指腸潰瘍・慢性膵炎・大腸炎・尿路結石などの内臓の病気や、腹部大動脈瘤(りゅう)など血管の病気が原因でも腰痛が起こります。内臓からは多くの神経が腰に伸びているため、腰痛を引き起こすことが多いのです。
また、消化器系の病気の場合は、食事中から食後、空腹時などに腰痛が起こりますし、尿路結石は排尿時に尿管や尿道が痛むと同時に腰痛を伴うこともあります。さらに、女性特有の病気として、子宮内膜症や子宮筋腫なども腰痛の原因の1つで、月経に伴って痛みが強くなることもあります。
腰痛の原因4:筋肉などに由来する腰痛。
腰痛の多くは、筋肉や椎間関節(椎骨の間にある関節)などに由来するものと考えられます。これらは、レントゲンなど、一般的な検査だけでは原因となっている病気や障害を特定できないケースがほとんどです。
腰痛の原因5:ストレスによる腰痛。
重いものを持ち運んだり、腰に負担のかかる姿勢を長時間続けたりする肉体的な要因だけでなく、人間関係などのストレスも心因性の腰痛につながります。
ストレスにさらされていると、痛みを和らげるために働くドーパミンが脳内に放出されにくくなることから、痛みをより感じやすくなってしまうのです。ストレスフルな生活は、腰痛が慢性化する要因の1つなのです。
20代~30代女性が気をつけておきたい腰痛の症状と対処法。
このように、腰痛にはさまざまな原因があります。なかには重い病気が隠れていることがありますから、放置しないほうがよいケースもあります。気をつけておくべき腰痛の症状や受診の目安などを紹介します。
じっとしていても激しく痛む。
安静時の腰痛は、脊椎のがん・脊椎圧迫骨折・化膿性脊椎炎などの重い病気や障害の可能性もあります。
脊椎のがんは、椎体(背骨ひとつひとつのリング状の部分)・仙骨・骨盤などに発生し、若い女性にも見られます。じっとしていても激しい痛みがあり、立ち上がれないようなときは至急、受診が必要です。
両脚・おしりの激しい痛みやしびれ、排尿・排便障害がある。
腰痛で椎間板ヘルニアと診断された場合でも、免疫細胞の働きで飛び出た部分が吸収され、6か月くらいで自然に治る可能性があります。
ただし、「馬尾(ばび)型椎間板ヘルニア」の場合は、わかった時点ですぐに手術をしないと、運動障害や排尿障害が残ることもあります。馬尾とは、脊椎の下部にある脊髄神経の束です。ここが圧迫されるのが「馬尾型椎間板ヘルニア」で、エックス線検査だけではわからず、整形外科医の所見とMRI検査またはCT検査で診断します。
注意すべきサインは、左右両側、下半身の広い範囲で痛みやしびれ、感覚の麻痺があること。そして尿漏れなどの排尿・排便障害が起こることなどです。こうした馬尾障害の症状が出たときは、すぐに整形外科を受診しましょう。
急な激しい腰痛。
急に激しい痛みに襲われる、いわゆる「ぎっくり腰」の原因はさまざまです。多くは腰を支える筋肉やすじ(腱・靱帯)などに大きな力がかかって炎症を起こした状態で、安静にしていれば痛みが和らいでいくことがほとんどです。
ただし、動けなくなるほど強く痛む場合は椎間板や関節部分の損傷、関節からの出血(内出血)も疑われます。その場合は整形外科を受診して正しい診断を受けてください。
体を動かしたときに腰だけ痛む。
体を動かすときに腰だけ痛むのは、椎間関節や筋肉の炎症などによる場合が多く、1か月くらいで痛みが治まることがほとんどです。症状が悪化したり、3か月以上続いたりするときは整形外科を受診するとよいでしょう。
スポーツをしている人の腰痛。
子どものころから比較的ハードなスポーツを続けている方は注意が必要で、10代のころに腰椎分離症(腰椎の後方部分にひびが入る、いわゆる疲労骨折)を起こしているケースがあります。
腰椎分離症の痛みは、日常生活には支障のない軽度であることが多いので、見過ごされがちです。しかし、将来的に「分離すべり症」(腰椎が前後にずれる状態)に進行する場合もあります。腰に負担がかかると腰痛が起きる場合は、一度エックス線検査を受けておくとよいでしょう。
妊娠・授乳中の腰痛。
骨粗しょう症が原因になることもあります。女性の骨粗しょう症は、閉経後からお年寄りに多いのですが、妊娠に関連して20代~30代の女性にも起こる場合があります。
妊娠・授乳中は、母体からおなかの赤ちゃんにたんぱく質やカルシウムなどの栄養が送られます。日ごろから栄養を十分に摂り、適度に運動をする習慣があれば心配ありませんが、バランスの崩れた食生活を続けていると、若い方でも妊娠をきっかけに骨粗しょう症になりかねません。
骨粗しょう症が原因で圧迫骨折を起こすと、脊椎の前側にある椎体がつぶれることで猫背になったり身長が低くなったりします。骨粗しょう症の目安となる骨密度は一般の体重計・体組成計では測れないため、健康診断の骨密度検査などを受けて、心配な症状があれば整形外科を受診しましょう。
腰痛の治療や予防法は?
腰痛の原因や症状、痛みの強さなどにより、治療法は異なります。内服薬・ブロック注射療法・コルセットなどの装具療法・けん引などの理学療法・運動器リハビリテーション・手術治療などがあります。
「痛いから動かない」は逆効果。
「腰痛があるなら動かないほうがいい」と思うかもしれませんが、重篤な病気が原因だったり痛みが非常に強かったりする場合を除き、安静にしすぎるのもよくありません。
動かないでいると体力が低下し、腰を支える筋力も衰え、また精神的にも落ち込んで、さらに腰痛が起きやすくなります。この悪循環を断ち切るためには、中腰にならないなど日常の姿勢に注意しながら、無理のない範囲で適度に体を動かすことが効果的です。
ただし、同じ腰痛でも、椎間板由来の場合は前屈すると痛みが強くなり、椎間関節に障害がある場合は後ろにそると痛みが強くなるなどの特徴があります。そんな症状がある場合は、整形外科を受診したうえで、医師やトレーナーにご自身の症状に合った運動プログラムを指導してもらうのをおすすめします。
30代以降の女性に多い慢性腰痛の治療や対処法は?
腰痛は、発症から4週間未満の急性腰痛、症状が3か月以上続く慢性腰痛、その中間の亜急性腰痛に大別されます。
私が診た患者さんの傾向では、慢性腰痛をかかえるのは男性より女性、年代では30代以降、職業では事務職の方に多く見られます。これは、身体的なものだけでなく心理的なストレスも原因の1つと考えられます。
慢性腰痛の治療。
慢性腰痛の治療は、痛みを抑える消炎鎮痛薬に加えて、抗不安薬などを処方する場合もあります。
なお、ストレスの種類やストレスへの耐性は人によってさまざまです。職場の環境や人間関係の悩み、仕事や収入への不満、さらに家庭内での出来事など、その人にとってのストレスをつきとめて、改善していく方法をとることもあります。
慢性的な腰の痛みを完全になくすことは簡単ではないのですが、「治療しているのによくならない」「また痛くなったらどうしよう」とストレスや不安をかかえてしまうと悪循環に陥ります。腰痛で10分しか歩けなかったのを20分歩けるようにする、4時間~5時間しか眠れないのを7時間眠れるようにする、など達成しやすい目標を設定して、生活習慣の改善も含めて治療します。
自分でできる対処法は?
いちばんの対処法は、身体的・精神的に健康に過ごせる生活習慣を心がけることです。たばこを吸わない・アルコール摂取量を控える・適度な運動をする・果物や野菜をたくさん食べるなども腰痛の緩和に効果的です。
腰痛のある方もない方も、20代~30代の若いうちから下記の3つを心がけておくことで、腰痛予防につながります。
1:適度な運動習慣。
慢性的な腰痛の場合、動かないことがかえって腰痛を悪化させることもあります。運動することで筋力がつきますし、椎間板自体も丈夫になります。また、有酸素運動には脳を活性化し、ストレスを軽減するなどの効果があることがわかっています。
仕事中も座りっぱなしではなく、1時間に1回くらいは立ち上がって歩くか、肩を回すなどの軽いストレッチをするとよいでしょう。たとえば「貧乏ゆすり」も腰痛予防の運動になります。適度に脚を揺らしたり、さすったりする程度でも対処法になります。
2:自分に合ったストレス軽減法を取り入れる。
痛みを和らげる働きをする脳内ドーパミンの放出を促すには、「楽しい!」と感じることが大事です。好きな音楽を聴く・映画を見る・おいしいものを食べる・アロマの香りでリラックスするなど、自分に合ったストレス軽減法を毎日の生活に取り入れていきましょう。
3:バランスのよい食生活。
20代の若いころからバランスのよい食生活を心がけ、骨の形成に大切なたんぱく質やカルシウム、ビタミンDを十分に摂りましょう。なお、ビタミンDは太陽の光を浴びることによって体内で生成することもできます。通勤・通学や買い物程度の外出で構いません。
【まとめ】運動・ストレス軽減・栄養摂取で予防する。
腰痛は仕事の内容や生活習慣など、さまざまな原因から引き起こされます。また「ストレスは万病のもと」と言われるとおり、腰痛にも日々の生活のストレスが大きく影響しています。
20代~30代の若いうちから健康的な生活習慣を心がけ、ストレスを上手に軽減していくことが、腰痛の予防や改善につながります。日常での適度な運動も腰痛予防にはとても効果があります。
一方、頻度は少ないものの、入院・手術が必要となる重篤な疾患が原因の腰痛もあります。安静時でも痛む場合や、激しい痛みとともにしびれなどを伴う症状など危険な腰痛のサインがあれば、我慢せずに専門医を受診しましょう。
写真/PIXTA イラスト/こつじゆい
紺野 愼一
医学博士。日本整形外科学会整形外科専門医、認定脊椎脊髄病医。日本脊椎脊髄病学会指導医。専門は整形外科、脊椎・脊髄外科、慢性腰痛。1984年自治医科大学卒業後、福島県立田島病院(現・福島県立南会津病院)整形外科勤務。その後、スウェーデンヨーテボリ大学へ留学。1990年福島県立医科大学医学部整形外科学講座入局。2008年福島県立医科大学医学部教授。現職は一般財団法人脳神経疾患研究所顧問。福島県立医科大学名誉教授。著書に『自分で治せる腰痛 痛みの最新治療とセルフケア』などがある。
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