リスキリングとは?意味や得られるスキル、個人で学ぶポイントを解説。
リスキリングは英語で「Re-skilling」と書き、“新たなスキルを習得すること”を意味します。個人のキャリアアップにつながるほか、学びを通じた仲間ができる、仕事につながる人脈が得られるなど、さまざまなメリットがあります。
この記事では、お金とキャリア教育の専門家として、企業研修や一般向けセミナーの講師を行うファイナンシャルプランナー・キャリアコンサルタントの合田菜実子さんに、リスキリングの意味や、学ぶ内容、かかる費用などについて伺いました。
目次
リスキリングってどういう意味?
リスキリングは、もともとアメリカで生まれた言葉です。「新しい職業に就くため、または今の職業で必要とされる技術の大幅な変化に適応するために、スキルを獲得する(させる)こと」を意味します。
リスキリングの背景。
近年のデジタル化で、新しい職業が続々と登場するとともに、仕事の進め方も多様化、複雑化してきました。こうした世界の潮流のなか、個々人が新しい仕事をこなすスキルを身につける必要が出てきたことが、リスキリングという概念が広まった背景です。
一方、日本は海外各国よりもデジタル化が遅れていると言われており、デジタル競争が加速する経済では、他国と比べ生産性が低下しつつあるという実情があります。
2018年に経済産業省は「産業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」を発表し、DX(進化したデジタル技術を活用し、ビジネスだけでなく人々の生活をよりよい状態へ変革すること)を推進しました。
企業がDXに取り組み、今後、社員1人ひとりの力を上げていかないと国の成長につながらないという懸念から、政府はリスキリングを後押しし、企業に「人材開発支援助成金」を支給するなどして支援しています。
参考:経済産業省=中小企業庁 ミラサポplus「デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは何か? IT化とはどこが違うのか?」
参考:経済産業省「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進施策について」
参考:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース」
リスキリングは何のため?
国の後押しによる企業のDX人材戦略と、新しい技術を習得するリスキリングという考え方がセットで広まったため、「リスキリング=企業内でのDX教育」だと考える方もいるかもしれません。しかし、先ほども述べたようにリスキリングとは、「新しい分野の仕事」「今できる人がいない仕事」に対応するためにスキルを身につけることです。
そのため、個人が資格取得のための勉強や、専門的な知識をつけるために大学院に通うといったことなども含めて、リスキリングと呼びます。何をどのように学べばよいか、順番に見ていきましょう。
今の仕事のために学ぶ。
従業員にリスキリングの機会を設ける会社が増えています。ある企業では、デジタルスキルを知識としてだけでなく仕事で使えるようにするため、従業員のレベルに合わせて社内プログラムを設定しています。
全員参加の社内研修、希望者を募る社内プログラムなど内容はさまざまですが、今の会社でさらに深く・幅広く仕事をするためにリスキリングを考えている人は、まずは自分の職場のプログラムを確認してみてはいかがでしょうか。
キャリアチェンジも考えて学ぶ。
スキルを高めると自分の市場価値が上がり、よりよい条件でキャリアチェンジできる可能性が高くなります。現在、人材サービス企業などが、広く一般向けにスキル獲得のためのプログラムを提供しています。キャリア開発・デジタル・スタートアップ領域など分野もさまざまです。
また、経営大学院で経営学修士(MBA)を取得するなど、大学・大学院でしっかり学ぶコースは、時間や費用はかかりますが高度なスキルが身につきます。最近では働きながら学ぶ人向けに、夜間や土日だけ授業をしたり、1年間で修了できたりする社会人大学院も登場しました。
仕事との両立は大変ですが、それ以上に「ともに学ぶ大切な仲間ができた」「人脈ができてその後の仕事に役立った」という話もよく耳にします。
自分に合った「学び」の見つけ方。
具体的には、リスキリングで何を学ぶべきなのでしょうか。それは今、取り組んでいる仕事、これから進みたい方向によって決まってきます。
やりたいこと・できること・するべきことを洗い出す。
「Will・Can・Must」の法則をご存じでしょうか? Willはやりたいこと、Canはできること、Mustはするべきこと。この3つの円の重なる部分がその人の適職だと言われています。
Will(やりたいこと) | ・どういうふうに生きたいか ・こんな生活がしたい ・好きなもの・夢中になるもの・楽しいこと |
Can(できること) | ・持っているスキルや資格 ・得意なこと ・ずっと続けていること |
Must(するべきこと) | ・家族のためにするべきこと ・会社から求められていること ・社会から求められていること |
取材内容をもとにミラシル編集部にて作成
まずは、やりたいこと・できること・するべきことを複数、思いつくままに書き出してみましょう。そこから、あなたのやりたいことやできること、そして今の世の中の価値観・ニーズに合う仕事が浮かび上がれば、それに即した学びの場を見つけましょう。
学びの相乗効果でさらなるキャリアアップ。
自分の専門性を深めるためや仕事の幅を広げるために、資格にチャレンジする方法もあります。私自身、ファイナンシャルプランナーとして独立してから、国家資格キャリアコンサルタントや心理カウンセラーなどの資格を取得して、さらに仕事の幅が広がりました。
たとえば、企画職の人がマーケティングを勉強して強みを磨いたり、接客業や営業職の人がワインソムリエの資格を取得して、人脈づくりやコミュニケーションに活かしたりするなど、いろいろなパターンが考えられます。
リスキリングにかかる費用。
リスキリングは、無料の社内研修から本格的な経営大学院でのMBA取得まで幅広く、かかる費用も千差万別です。何のために学ぶのかを見失わないように、無駄のないお金の使い方を考えましょう。
企業の講座・プログラム。
現在、さまざまな企業が従業員向けに教育プログラムやビジネス講座を無料で設けているので、上手に活用しましょう。また経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構は、デジタルスキルを学べるポータルサイト「マナビDX」を開設・運営しています。AIやデータサイエンス、クラウド、IoTなどの内容を学習できます(一部無料)。
一例ですが、大手企業では次のようなリスキリングの場を設けています。
A社 | デジタル人材を育成する「アカデミー」を設立。自社のノウハウをもとに、グループ企業の全従業員を対象にDXの基礎教育を行う。 |
B社 | 従業員のAIやデータサイエンスなどに関するデジタルスキルを深める研修プログラムを行う。 |
C社 | 全従業員を対象にDX人材を育成する研修プログラムを開設。デジタルマーケティングの基礎知識やSEO対策などを学ぶ。 |
参考:経済産業省「デジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX」を開設しました!」
大学・大学院
経営大学院でのMBA取得をはじめ、大学・大学院でしっかり学びたいという社会人も増えています。学費を安くおさえられる通信制の大学・大学院や、1科目数万円から科目履修という形で学べるところもあります。
学費の一例をご紹介します。
A大学(私立)ビジネススクール(本科生)
入学金 | 学費 | 合計 | |
1年目 | 8万円 | 149万9,000円(第1期・第2期合計) | 157万9,000円 |
2年目 | - | 149万9,000円(第3期・第4期合計) | 149万9,000円 |
合計 | 307万8,000円 |
B大学(私立)大学院
入学金 | 授業料(学費) | 学生健康増進互助会費 | 校友会費 | 合計 | |
初年度 | 30万円 | 164万円 | 3,000円 | - | 194万3,000円 |
2年次 | - | 184万円 | 3,000円 | 4万円 | 188万3,000円 |
合計 | 382万6,000円 |
C大学(国立)大学院
入学料 | 授業料 | 合計 | |
初年度 | 28万2,000円 | 53万5,800円(前期・後期合計) | 81万7,800円 |
2年目 | - | 53万5,800円(前期・後期合計) | 53万5,800円 |
合計 | 135万3,600円 |
大学・大学院の情報をもとにミラシル編集部にて作成
教育訓練給付制度
教育訓練給付制度は、働く人の能力開発やキャリア形成を支援するために、厚生労働大臣が指定する学校や講座などの教育訓練を受講・修了すると、その費用の一部が支給されるものです。雇用保険に加入し、一定の要件を満たす人が利用できます。
専門実践教育訓練
・特に労働者の中長期的キャリア形成に資する教育訓練が対象となります。
・受講費用の50%(年間上限40万円)が訓練受講中6か月ごとに支給されます。
・資格取得等をし、かつ訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、受講費用の20%(年間上限16万円)が追加で支給されます。
・なお、失業状態にある方が初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する場合、受講開始時に45歳未満であるなど一定の要件を満たせば、別途、教育訓練支援給付金が支給されます。
特定一般教育訓練
・特に労働者の速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練が対象となります。
・受講費用の40%(上限20万円)が訓練修了後に支給されます。
一般教育訓練
・その他の雇用の安定・就職の促進に資する教育訓練が対象となります。
・受講費用の20%(上限10万円)が訓練修了後に支給されます。
【まとめ】自身の目指すキャリアに合った学び方を見つけよう。
仕事と並行して学びながら、キャリアアップや自己実現ができる時代です。一方でリスキリングのブームのなかで、何を学んでいいのかわからなくなる「リスキリング迷子」という言葉も出てきました。
“ずっと学び続けないとやっていけない”という風潮も影響していると思いますが、「興味はないけど学んでおかなきゃ」と焦ったり、やみくもにたくさん資格を取ったりするのはおすすめできません。まわりに振り回されず、「ありたい自分」のためにどうステップアップしていきたいのか、目標を見定めることが大切です。
どのようなスキルが身につくのか、どのくらいの費用や時間がかかり、そのコストをかけても得るべきものなのかをよく考え、あなたの目指すキャリアに合った学び方を選択しましょう。
写真/PIXTA
合田 菜実子
ファイナンシャルプランナー・キャリアコンサルタント
2006年CFP(R)資格取得後、2007年にFPとして独立。お金とキャリアの両面からサポートできる専門家として、女性向けマネーセミナーや教育資金セミナー、企業研修などを行う。著書に『子育て主婦が知っておきたいお金の話』(経法ビジネス新書)、『18歳までに知っておきたいお金の授業』(シーアンドアール研究所)など。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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