強度近視とは?症状やリスク、治療方法などを医師が解説。
見えにくかったり、視界がぼんやりしたり。そんな違和感を覚えながらも、「もともと視力が弱いし、疲れ目だろう」と放置していませんか? 目の病気も早期発見が第一。特に、「強度近視」の場合は目の病気のリスクが高いと言われています。
「強度近視」とはどんな状態なのか、また病気のリスク・治療法について、目の病気に関する著書も多い日本眼科学会眼科専門医の平松類先生に解説していただきました。
目次
強度近視とは?
近視の強さは視力の度数ではなく、「屈折度数」によって決まります。メガネやコンタクトレンズの処方箋に「−2.0D」といった表記を見たことはありませんか? この「D」が近視の強さを測る「屈折度数」で、「ディオプター(ディオプトリー)」と呼ばれるものです。
強度近視の目安。
ディオプターはおおよそ、「1÷裸眼で見たときにピントが合う距離(メートル)」で計算され、次のように表示されます。
1メートル先にピントが合う場合は、1÷1=1で、−1.0D 50センチ(0.5メートル)先にピントが合う場合 1÷0.5=2 −2.0D 20センチ(0.2メートル)先にピントが合う場合 1÷0.2=5 −5.0D |
このディオプターで近視を分類すると、以下のようになり、−6.0D以上が「強度近視」とされています。ただ、自分は強度近視なのかどうかを判断するのは難しいもの。そこで、見え方の目安をまとめました。
屈折度数 | 見え方 | |
弱度近視 | −0.5D以上−3.0D未満の近視 | メガネなしでも生活できる |
中等度近視 | −3.0D以上−6.0D未満の近視 | メガネで問題なく矯正できる |
強度近視 | −6.0D以上の近視 | 視力0.1以下 |
どうして強度近視になる?
正常な視力の目(正視眼)の眼球は球体ですが、眼球が後ろへと伸び、ラグビーボールのような楕円形になることがあります。網膜にピントが合うことで遠くのものもクリアに見えていたのが、目の奥行き(眼軸)が長くなるため、網膜にピントが合わず、遠くが見えづらくなる状態で、これが近視です。さらに眼球の伸びが進むと、弱度から中等度へ、さらに進行して強度近視になります。
強度近視のリスクは?
強度近視の人は、弱度近視や中等度近視の人よりも眼科疾患のリスクが高まると言われています。その結果、以下のような合併症を引き起こすことがあり、中には失明につながる病気もあります。どのくらい合併症のリスクがあるのでしょうか。
白内障
白内障はレンズの役割をしている「水晶体」が混濁する病気です。かすんだり、ものが二重に見えたり、まぶしく感じたりするのが典型的な症状です。強度近視の人が白内障になる確率は、近視でない人の4.55倍になります。
緑内障
なんらかの理由で眼圧が上がり、視神経が圧迫され、視野が欠ける病気です。強度近視の人が緑内障になる確率は、近視でない人の2.92倍です。
網膜剥離
眼底に広がる網膜が、なんらかの理由で剥がれるのが網膜剥離です。痛みはなく、病状が進むと視野が欠けたり、視力が低下したりします。強度近視の人が網膜剥離になる確率は、近視でない人の12.62倍です。
近視性黄斑症
網膜の中心部である黄斑部に隙間ができたり、網膜が剥がれたりして視力が下がり、場合によっては視野の中心部がゆがんだり、見えなくなったりします。強度近視の人が近視性黄斑症になる確率は近視でない人の、なんと、845.08倍にもなります。
脈絡膜新生血管
眼球が後ろへと伸びることで、網膜や網膜の外側を覆っている脈絡膜に問題が生じ、病的な血管(新生血管)が増殖。網膜が盛り上がって、ものがゆがんで見えるなどの症状を引き起こすことがあります。
初期は視力に異常がなく、症状としてはものがゆがんで見えるだけです。しかし、このゆがみがひどくなると、新生血管から出血して急激な視力の低下を招きます。
病的近視とは?
強度近視でも多くの場合、メガネやコンタクトレンズで矯正できます。一方で、近視の中でも「病的近視」という状態になると、矯正しても視力が上がらないことがあります。また、目への負担が大きくなり、強度近視以上に失明に至る病気のリスクが高まります。
病的近視は眼球がゆがむことで起こる。
近視は眼球が後ろに伸びて楕円形になった状態ですが、病的近視の場合は、眼球がゆがみながら後ろに伸びていきます。一部だけが伸びたり、眼球の後ろ側が潰れてしまったりと、ゆがみ方は人それぞれです。
病的近視になる人は強度近視であることがほとんどですが、強度近視が進むと必ず病的近視になるわけではありません。私が診てきた患者さんでは、強度近視がかなり進行しても、眼球にゆがみはなく病的近視にならない人もいます。
どんな人が病的近視になるのか? どうして眼球がゆがむのか? その原因はいまだわかっておらず、現在、研究が進められています。
病的近視のリスクは?
病的近視になると白内障や緑内障、網膜剥離や近視性黄斑症のリスクに加えて、さらに重篤な合併症のリスクも高まります。
その1つが「近視性網脈絡膜萎縮」です。脈絡膜は、眼球の外側を覆っている強膜と網膜の間にある組織で、網膜に酸素を送る役割をしています。この脈絡膜が萎縮してしまう病気で自覚症状はほとんどなく、視野欠損と視力低下を感じるようになるころにはすでに末期という場合もあります。
視野の欠損箇所は緑内障と似ています。また、緑内障を併発するケースも少なくないため、症状を複合的に判断する必要があります。失明の原因にもなりますが、現在のところ、萎縮した細胞をもとに戻す治療法はありません。
近視を進行させないためにできること。
ある年齢になると、近視は進まないと言われていましたが、近年の研究で大人になっても進むことがわかっています。病的近視でなくても、強度近視でも十分、病気のリスクは高まります。何よりも近視を進行させないことが大切です。
ものを見る「距離」に気をつける。
まず気をつけたいのはものを見る「距離」です。「近く」を見すぎる生活習慣を改善しましょう。できるだけ遠くを見ることを意識します。動画を見る場合も、スマホよりもタブレット、タブレットよりもテレビモニターで見ることをおすすめします。そのほうが距離をとりやすいからです。
目を休ませる。
近くを長時間見すぎると、目に大きな負担をかけます。適度に遠くを見て、目を休ませることが必要です。アメリカ眼科学会では、20分に1回、20秒間、20フィート(約6メートル)以上離れたところを見る「20-20-20ルール」が推奨されています。
しかし、20分に1回の休憩は難しいかもしれません。1時間に1回、1分程度、2メートル先を見るよう心がけましょう。1分が長いようでしたら20秒でも構いません。意識的に目を休ませることが大切です。
散歩をする。
有酸素運動は目の健康のためにも効果的。血流がよくなると、必要な酸素や栄養分が目にも届けられます。おすすめはウォーキングや散歩です。室内でのトレーニングも悪くはありませんが、外で遠くの景色を眺めながら歩くと、目の緊張をやわらげることもできます。
目と目のまわりを圧迫しない。
目をこすったり、圧迫したりすると、目の奥の網膜が剥がれる網膜剥離を発症することもあります。私の患者さんには、アトピー性皮膚炎とともに網膜剥離を発症する方も見られます。また、目を圧迫することで眼圧が上がると、緑内障を進行させることにもなります。
眼科の定期検査を受ける。
メガネは使っているうちに表面のコーティングが剥がれたり、傷がついたりして劣化していきます。強度近視の方に限った話ではありませんが、度数の確認もかねて、2年に1回は定期的に目の検査を受けていただきたいと思います。強度近視から引き起こされた眼科疾患でも、多くは、早期発見・早期治療で進行を抑えることができますし、完治も可能です。
見え方をセルフチェックする。
眼科疾患の多くは初期の自覚症状がほとんどありません。というのも、片方が見えにくくなっても、もう片方の目が補うので気づきにくいのです。それ自体は人間の体の優れた機能ですが、発見が遅れる原因にもなります。「なんとなく見えにくくなった」と来院して、左目が失明寸前だった、という人もいます。
日々、自分自身で「見え方」をチェックするようにしてください。1日に1回、右目と左目で片目ずつ、壁に貼ってあるポスターやカレンダーを眺めるだけでOKです。毎日の習慣にすることで、見え方の変化に気づくことができます。
早期発見で治療につなげる。
目の病気にかかると、たいてい視力が落ちます。実はその症状、末期症状であることも少なくありません。定期的に検査を受けたり、視力が落ちないようなケアをしていたりしても、「視界の中心が暗い」「一部の視野が欠ける」「急に見えにくくなった」といった変化に気づいたらすぐに受診しましょう。
代表的な目の病気と治療法。
先ほど、強度近視でリスクの高まる目の病気の一例を挙げました。それらの病気の治療法を簡単にご紹介します。ほとんどの場合、早期に発見することで完治、あるいは症状の進行を止めることができます。
たとえば緑内障になると完治することはなく、日本人の失明原因1位ですが、病気自体が怖いわけではありません。早期に気づけば進行を抑えることが可能です。
目の病気 | 治療法 |
白内障 | ・初期は目薬を使って進行を抑制できる ・ある程度進行して日常生活に支障が出てきたら、水晶体を取り除き、人工水晶体を入れる手術を行う |
緑内障 | ・初期は目薬を使って進行を抑制できる ・投薬で進行を止められない場合は、レーザー治療や手術を行い、眼圧を下げる処置を行う |
網膜剥離 | ・初期はレーザーを照射し、剥がれかけた網膜を周囲の組織に癒着させる ・進行している場合も、手術で剥がれた網膜をもとに戻して固定することで、視力の低下を抑える |
近視性黄斑症 | ・「抗VEGF」という薬を目に注射し、進行を抑制する |
脈絡膜新生血管 | ・「抗VEGF」という薬を目に注射し、新生血管の発生を抑え、悪さをしている血管を除去する。網膜の盛り上がりがおさまり、ものがゆがんで見える症状も改善できる |
取材内容をもとにミラシル編集部にて作成
【まとめ】進行させないためにも、気になることがあれば早めに受診を。
強度近視で特に気をつけたいのが、レーシックなどの近視矯正手術をしたケースです。視力がよくなったため、眼科とは疎遠になり、5年後、見えにくさを感じて受診したら緑内障が進行していた、という患者さんもいます。
近視矯正手術で視力は回復したとしても、眼科疾患になりやすい状態・体質まで改善されたわけではありません。食事や運動で健康に気をつけることはもちろん、定期的に健康診断や人間ドックを受けて目にも注意を払いましょう。
見え方の異常に気づくことができるのは自分自身。「日々のセルフチェックと定期的な眼科検診」を心がけましょう。
写真/Getty Images、PIXTA イラスト/こつじゆい
平松 類
眼科医。1978年、愛知県出身。昭和大学大学院医学研究科修了。日本眼科学会眼科専門医。現在、二本松眼科病院副院長として治療にあたりながら、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などメディアを通じ、わかりやすい医療情報を積極的に発信。YouTube「眼科医平松類『二本松眼科病院』」では目の病気の情報を紹介。『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)など著作多数。医学博士。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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