20代の血圧の平均値は?正常値を保つ方法も紹介【医師監修】
特に体の不調は感じていない20代の人でも、健康診断などで血圧が基準値よりも高く(または低く)出ることがあります。特に20代など若くして高血圧になる状態を「若年性高血圧」と呼びます。
「血圧が高いのは病気の兆候?」「病院を受診したほうがいい?」「そもそも20代の血圧はどのくらい?」など、20代が知っておきたい血圧についての基本知識や正常値を保つ心がけについて、さまざまなメディアで医療や健康に関する情報を発信している内科医の山本佳奈さんが解説します。
目次
- 血圧とは?血圧の正常値と高血圧の基準。
- 20代の血圧の平均値は?
- 高血圧・低血圧は、体にどんな影響をもたらす?
- 血圧を正常に保つためにできること。
- 血圧が正常値から外れていたら?
- 血圧のチェックで重大な病気を発見・予防しよう。
血圧とは?血圧の正常値と高血圧の基準。
健康診断などで血圧測定をすると、たとえば「115/75(mmHg)」といった2つの数値で表されます。この2つの数値は何を表していて、血圧を測ることでどんなことがわかるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
血圧とは。
血圧とは、血管の中を流れる血液が血管の壁に与える圧力の大きさです。血液は心臓がポンプの役割をして心臓から血管へ押し出され、体の隅々まで運ばれていきます。
心臓が収縮して、血液を送り出すときに血圧は最大になります。このときの血圧を「収縮期血圧(最高血圧)」といいます。そして、心臓が広がって、血液を取り込むときに、血圧は最小となります。このときの血圧を「拡張期血圧(最低血圧)」といいます。
血圧の正常値。
日本高血圧学会の高血圧診断基準は次の表のとおりです。
成人における血圧値の分類(mmHg)
分類 | 診察室血圧 | 家庭血圧 | ||
| 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 |
正常血圧 | <120かつ<80 | <115かつ<75 | ||
正常高値血圧 | 120-129かつ<80 | 115-124かつ<75 | ||
高値血圧 | 130-139かつ/または80-89 | 125-134かつ/または75-84 | ||
I度高血圧 | 140-159かつ/または90-99 | 135-144かつ/または85-89 | ||
II度高血圧 | 160-179かつ/または100-109 | 145-159かつ/または90-99 | ||
III度高血圧 | ≧180かつ/または≧110 | ≧160かつ/または≧100 | ||
(孤立性)収縮期高血圧 | ≧140かつ<90 | ≧135かつ<85 |
血圧の正常値は、上の表で「正常血圧」に分類されている、診察室血圧120/80mmHg未満、家庭血圧115/75mmHg未満です。
「診察室血圧」というのは、健康診断や病院を受診したときに診察室で測定した血圧です。血圧は、測るときの状況によって変動しやすく、医師や看護師が測定すると緊張やストレスで上がってしまう人もいます。
これに対して、自宅で安静を保ち、リラックスした状態で測ったものが「家庭血圧」です。最近の研究では、家庭血圧のほうが将来的な病気の予測に優れていることがわかってきて、家庭でいつも同じような条件下で血圧測定することが推奨されています。
高血圧の基準。
高血圧の基準は、診察室血圧140/90mmHg以上、家庭血圧135/85mmHg以上です。世界共通の基準で、年齢・性差にかかわらず、最高血圧・最低血圧のいずれかまたは両方が、この基準以上の状態が続くことを「高血圧」としています。高血圧の場合、血圧を下げる治療が必要になります。
正常値と高血圧の中間は?
正常血圧と高血圧の中間の血圧値は、高血圧ではありませんが高血圧の発症の一歩手前です。生活習慣の改善などで正常血圧に下げていくことが望ましいレベルで、疾病リスクが高い場合は治療の対象となることもあります。
20代の血圧の平均値は?
20代の血圧の平均値はどのくらいなのでしょうか。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では、国民の身体状況や栄養摂取、生活習慣の状況を調査しています。2019年度の調査結果によれば、各年代の平均は下の表のとおりです。
年代別血圧平均値(mmHg)
20歳~29歳 | 30歳~39歳 | 40歳~49歳 | 50歳~59歳 | ||||||
人数 | 平均値 | 人数 | 平均値 | 人数 | 平均値 | 人数 | 平均値 | ||
男性 | 収縮期(最高)血圧 | 54 | 115.9 | 61 | 117.2 | 108 | 125.4 | 97 | 129.7 |
拡張期(最低)血圧 | 54 | 68.1 | 61 | 73.8 | 108 | 80.6 | 97 | 81.0 | |
女性 | 収縮期(最高)血圧 | 53 | 105.7 | 119 | 108.0 | 212 | 113.7 | 203 | 121.8 |
拡張期(最低)血圧 | 53 | 63.8 | 119 | 66.4 | 212 | 70.9 | 203 | 74.5 |
注1 血圧の測定を行い、身体状況調査の問診において血圧を下げる薬の使用の有無に「無」と回答した20歳以上の者を集計対象とした。
注2 数値は2回の測定値の平均値を用いた。なお、1回しか測定できなかった者については、その値を採用した。
参考:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」をもとにミラシル編集部にて作成
高血圧・低血圧は、体にどんな影響をもたらす?
高血圧・低血圧は、体にどんな影響があるのでしょうか。特に注意しておきたいのは、高血圧の場合です。血圧は年齢とともに上がっていく傾向があり、高血圧は命にかかわる病気につながる恐れもあります。
高血圧の体への影響。
高血圧は、腎臓やホルモンをつくる内分泌腺の病気など、原因を特定できるものもありますが、全体の8割~9割は原因をはっきりと特定できない「本態性高血圧」というものです。肥満・塩分のとりすぎ・運動不足などさまざまな要因が組み合わされて起こると考えられています。
高血圧の状態が長く続くと、血管に常に大きな圧がかかって張りつめた状態におかれるため、血管の壁は次第に厚く、硬くなります。これが高血圧による動脈硬化です。
動脈硬化は、大動脈など大きな血管にも末端の毛細血管にも起こり、脳出血・脳梗塞・大動脈瘤・腎硬化症・心筋梗塞・眼底出血などの原因となります。
塩分摂取量が多い人・喫煙者・肥満の人・運動不足の人・お酒をよく飲む人・ストレスの多い人などは、高血圧になりやすいといわれています。20代~30代で正常血圧であっても、こうした生活を続けていくことで、年齢とともに血圧が上がっていくことがあります。
また、高血圧は遺伝的要因もあるため、血縁者に高血圧の人がいる場合は20代~30代から血圧の変化に気をつけておくといいでしょう。
高血圧に糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を併発するケースは多く、こうした病気がさらに血圧を高める悪循環につながります。
低血圧の体への影響。
低血圧には高血圧のような明確な基準はありません。体になんらかの支障をきたすほどの低血圧でないかぎり、基本的には血圧は低いほうがよいとされています。
低血圧が原因でめまいや頭痛・倦怠感があったり、寝ている状態から急に立ち上がったり、長時間立ち続けたりしたときにめまいや立ちくらみが起こったりすることもあります。こうした症状が、低血圧によるものなのか、ほかに原因となる病気などがないかを見極める必要があります。
血圧を正常に保つためにできること。
高血圧は、体によくない生活習慣の積み重ねで起こる生活習慣病の1つです。20代から次のことを心がけて、高血圧を予防しましょう。
食生活を見直す。
まずは食生活を次の3つのポイントをもとに見直しましょう。
1.塩分を控える。
成人の1日の食塩摂取量目安は、男性7.5g未満、女性6.5g未満ですが、高血圧の予防・治療のためには6g未満が目安になります。
2.青魚を積極的にとる。
牛肉・豚肉・鶏肉の脂肪の多い部位はとりすぎに注意し、アジ・サバ・イワシなどの青魚を積極的にとりましょう。アジ・サバ・イワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸(オメガ3)のDHA(ドコサヘキサエン酸)には血管の弾力性を高め、EPA(エイコサペンタエン酸)には血流を良くする効果があるため、血圧を下げる作用があります。
3.野菜・果物・海藻類・大豆(製品)を積極的にとる。
野菜、果物(※)、海藻類や大豆(製品)には、血液中のナトリウムを排出するカリウムが多く含まれるほか、食物繊維がナトリウムを吸着して体外に排出します。
※ 肥満者や糖尿病患者では果物の過剰摂取に注意を。腎障害がある場合は、野菜や果物の摂取については医師に相談が必要。
適正体重を維持する。
肥満の人が必ずしも高血圧になるわけではありませんが、肥満でない人と比べて2倍~3倍も高血圧を発症する率が高くなります。適正体重を維持することはとても大切です。肥満度の国際的な指標であるBMI値(※)18.5以上25未満を目安とするといいでしょう。
※ BMI(Body Mass Index)は、体重(kg)÷身長(m)2で求める肥満度を示す体格指数
喫煙者は今すぐ禁煙を実行する。
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血圧を上昇させます。喫煙者はできるだけ早く禁煙しましょう。また喫煙者ではなくても、間接喫煙(受動喫煙)も避けましょう。
適度な運動を習慣にする。
一般的な成人(18歳~64歳)の適度な運動量の目安として、週に150分~300分の中強度の有酸素運動、もしくは週のうち2日以上は、中強度以上の負荷をかけた筋力トレーニングを取り入れることがWHO(世界保健機関)で推奨されています。
飲酒は適量を守る。
高血圧をはじめ、がん・脳出血・脂質異常症などのリスクは、飲酒量が増えれば増えるほど上昇し、飲酒量が少ないほど減少することがわかっています。
厚生労働省は、飲酒量(1日あたりの平均純アルコール摂取量)が、男性で40g以上、女性で20g以上になると生活習慣病リスクを高めるとしています。純アルコール量20gは、アルコール度数5%のビールなら500mlに相当します。
参考:厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方/男性編」
参考:厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方/女性編」
ストレスを解消する。
十分な睡眠と休息をとり、仕事・家庭でのストレスや暑さ・寒さによるストレスなどを回避して、自分に合ったストレス解消法を実践しましょう。
血圧が正常値から外れていたら?
健康診断などで血圧が正常値から外れていたら、医師のアドバイスにしたがって1か月の間に何度か血圧を測り、経過を見ていきます。
20代であれば、かかりつけ医がいないという人も多いかもしれません。まずは、場所や診療時間を考慮して自分が通院しやすい一般内科を掲げているクリニックを探して相談するといいでしょう。必要であれば循環器内科などの専門医を紹介してもらえます。
私が診察する際には、家庭血圧を測ることをすすめるほか、生活習慣(食事・運動・喫煙・飲酒など)、血のつながった家族に高血圧の疾患を持っている人がいるかなどを確認します。
血圧のほか、血液検査などの数値・症状などから内服薬治療をすぐにスタートするケースもありますし、生活習慣を改善し、経過を見てから服薬するかどうかを判断するケースもあります。その人に合わせた対応が必要ですから、まずは医師に相談してみることがとても大事です。
血圧の正しい測り方。
家庭で血圧を測るときは、上腕で測定するアーム式血圧計がおすすめです。簡便な手首で測るタイプに比べて誤差が少ないといわれています。
測るタイミングは、毎日2回、朝晩のなるべく決まった時間に測り、アプリなどを利用して記録しましょう。
朝:起床後1時間以内。排尿後や朝の服薬前に測ります。
晩:就寝前。食後すぐや入浴直後は避け、飲酒する場合は飲酒前に測ります。
血圧測定する際は、椅子などに脚を組まずに座り、体の力を抜いて1分~2分間安静にし、リラックスしてから測定します。
血圧のチェックで重大な病気を発見・予防しよう。
血圧は1回だけの数値で判断するのではなく、継続してチェックしていくことが重要です。また、将来の重大な病気を予防するためにも、20代の若いうちから血圧を正常に保つ生活習慣を心がけていきたいものです。
私は現在、アメリカに滞在していますが、日本とは違って健康診断などはありませんし、病院の待合室やスポーツジムに血圧計が置いてあることもありません。日本を離れてみて、公的医療保険制度をはじめ、健康を支えるための環境が日本では充実していることを痛感しています。
日本にお住まいの若い人には、この恵まれた環境をご自身の健康管理にぜひ活用してほしいです。定期健康診断は面倒がらずに毎年受けて、検査結果を将来の病気の予防に役立てていきましょう。
写真/PIXTA イラスト/こつじゆい
山本 佳奈
医師、医学博士。滋賀医科大学医学部医学科卒、東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)修了。南相馬市立総合病院勤務を経て、ナビタスクリニック(立川)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、福島県立医科大学博士研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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