自営業が納める税金は?軽減する方法も解説【税理士監修】
会社から独立して自営業(以下、この記事では原則個人で事業を行っている事業主を指します)になると、会社員とは違い自分で確定申告をして税金を納めることになります。しかし、会社員時代は勤務先の経理が税務処理や納税を担ってくれていたため、税金の種類や納税額について、今まで意識してこなかったという人は多いでしょう。
自身も会社員から独立し、現在では司法書士事務所V-Spiritsの代表を務め、かつ税理士でもある渋田貴正先生に、自営業が納める税金の種類や、税負担を軽減するポイントについて伺いました。
目次
- 自営業が納める税金は4種類。
- 自営業が税負担を軽減するポイント。
- 自営業が事業形態を再考する目安は「売上高1,000万円」
- 納税が難しければ自治体や税務署に相談する。
- 事業を軌道に乗せるためにも、税金について正しく理解しよう。
自営業が納める税金は4種類。
税務署に開業届(個人事業の開業・廃業届出書)を提出して「個人事業主」になると、次の4つの税金を納めることになります。
所得税および復興特別所得税
所得税は、個人の1月1日から12月31日までの1年間に得た「所得」にかかる税金です。所得とは、得られた収入から仕事にかかった経費を差し引いた額のことで、所得に応じて、税率や所得控除(所得から差し引ける金額)が決まります。
所得税額は、確定申告で年間の収入や経費、利用できる控除などを申告することによって確定します。基本的に会社員の場合は、勤務先が給与収入や税額、控除を本人の代わりに申告していますが、自営業の場合は自分で確定申告をする必要があります。
復興特別所得税は東日本大震災からの復興事業に使われる特別税で、2013年から2037年まで、所得税に2.1%上乗せして徴収されるものです。
参考:国税庁「所得税のしくみ」
住民税
「道府県民税(都民税含む)」と「市町村民税(特別区民税含む)」の2種類の税金のことで、一定の収入を得ている人が、その年の1月1日時点での住所地に納付するものです。
納税額は所得税の確定申告の内容をもとに決まりますが、居住地域によって税率なども異なります。自治体から送られてくる納税通知書に沿って、年4回の分納または一括前納で納めます。
参考:総務省「個人住民税」
個人事業税
個人で行う事業のうち、物品販売業、飲食店業、広告業、製造業、畜産業など、法律で定められた70の業種に該当する人のみが対象となる地方税の1つです。業種によって、3%~5%で異なる税率が定められています。
ただし、年間290万円の事業主控除が適用されるため、上記に当てはまる人でも事業所得額(青色申告特別控除の適用前)が年間290万円以下だった場合は対象外となります。
消費税
自営業で消費税を納める必要があるのは、以下4つの条件のいずれかに当てはまる人です。
(1)課税期間の前々年の課税売上高が1,000万円超
(2)課税期間の前々年の課税売上高が1,000万円以下で課税期間の前年12月末までに消費税課税事業者選択届出書を提出している
(3)(1)・(2)に該当しない人のうち、前年1月1日~6月30日までの期間の課税売上高、もしくは給与等支払額の合計額が1,000万円を超えている
(4)インボイス発行事業者の登録を受けている
該当する人は、原則として申告が必要な年の3月31日までに消費税の確定申告を提出しなければなりません。
自営業が納める税金
所得税および復興特別所得税 | ・1年間に得た所得にかかる税金で、確定申告によって税額が決まる ・2037年まで、所得税に2.1%の復興特別所得税が上乗せされる |
住民税 | ・1月1日時点での住所地に納付する税金 ・確定申告に基づいて税額が決定されるが、居住地域によって税率などは異なる |
個人事業税 | ・法定業種に該当する人のみが納める税金で、業種によって税率も変わる ・事業所得額が年間290万円以下の人は免税となる |
消費税 | ・4つの条件のいずれかに当てはまる人が対象となる ・対象者は消費税の確定申告を行う必要がある |
自営業が税負担を軽減するポイント。
自分の努力次第で所得を増やしていけるのが自営業のメリットですが、所得が増えれば納める税金も多くなります。ここでは、税負担を軽減するポイントを紹介します。
青色申告で確定申告をする。
自営業が行う確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。確定申告では事業に関係する収支について会計帳簿を作成する必要がありますが、白色申告は簡易な帳簿で提出できます。
一方で、青色申告は原則として複式簿記と呼ばれる帳簿作成が求められます。複式簿記は、すべての取引を「借方」と「貸方」の両方から記録する方法で、収益と費用を正確に把握できます。白色申告に比べて会計の手間はかかりますが、要件を満たしていれば、最大65万円を所得から差し引く「青色申告特別控除」を受けられます。
また、複式簿記に不安がある場合や会計処理に時間をかけたくない場合は、簡易な簿記で申告する10万円の青色申告特別控除も選択できます。しかし、複式簿記はしっかり準備できれば誰でも対応可能な作業だと思われるので、きちんと帳簿を作成し、最大65万円の控除を目指すことをおすすめします。
参考:国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」
必要経費をもれなく正しく計上する。
所得は「得た収入」から「仕事上必要な経費」を差し引いて算出します。そのため、自営業は経費をもれなく計上して課税所得を少なくできれば、そのぶん所得税や住民税の負担を軽くできます。
自営業であれば、仕事で収入を得るために必要な支出は、すべて経費として計上できます。たとえば、自宅で仕事をしている人は、賃貸住宅の家賃や水道光熱費、Wi-Fiなどの費用を「家事関連費」として、仕事で使う割合を計算して計上できます。
仕事に関連するものであれば、新聞や書籍・雑誌代、映画館やテーマパーク、セミナーなどの入場料・参加費も経費にすることが可能です。
「気をつけなければいけないのは、業務に関係しているからといって、何でも経費として計上できるわけではないことです。たとえば研修講師が研修のときに身につけるためという理屈で買ったスーツやバッグ、腕時計は経費になりません。これらのものには換金価値があり、プライベートの用途にも転用できるためです。
ただし、“講師としてのアイデンティティを示すための衣装”として仕事以外では着用できない柄のスーツ等であれば、転用不可なので経費になります。税務署に対して、きちんと経費として説明できるものを計上するようにしましょう」(渋田先生)
条件によって経費に計上できる費用の一例
経費にできる費用 | 条件 |
家賃・水道光熱費・Wi-Fiなど | 自宅を事務所として利用している場合、仕事で使う割合を計算して、費用として計上できる |
新聞・書籍・雑誌など | 業務に関連する内容であれば費用になる |
仕事用スーツの費用 | 普段利用できるスーツはNG。仕事以外の用途に転用が不可能な柄などであれば費用になる |
映画館やテーマパークの費用 | 映画やテーマパークの批評を仕事として行っている場合は費用として認められる |
カメラ・マイク等機材の費用 | 写真撮影や動画制作などを仕事として行っている場合は費用として認められる |
取材内容をもとにミラシル編集部にて作成
所得控除制度を活用する。
所得控除とは、納税者の所得から個別の事情に配慮して、所得から一定の金額を差し引いてくれる制度です。所得控除には次の種類があります。
種類 | 控除を受けられる場合 |
雑損控除 | 災害や盗難、横領により住宅や家財などに損害を受けた場合 |
医療費控除 | 一定額以上の医療費等の支払いがある場合 |
社会保険料控除 | 健康保険料や国民健康保険料(税)、後期高齢者医療保険料、介護保険料、国民年金保険料などの支払い(扶養親族のぶんを含む)がある場合 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済法の共済契約に係る掛金、確定拠出年金法の企業型年金加入者掛金および個人型年金加入者掛金、心身障害者扶養共済制度に係る掛金の支払いがある場合 |
生命保険料控除 | 新(旧)生命保険料や介護医療保険料、新(旧)個人年金保険料の支払いがある場合 |
地震保険料控除 | 地震保険料や旧長期損害保険料の支払いがある場合 |
寄附金控除 | 国に対する寄附金やふるさと納税(都道府県・市区町村に対する寄附金)、特定の政治献金などがある場合 |
寡婦控除・ひとり親控除 | 納税者本人が寡婦またはひとり親である場合 |
勤労学生控除 | 納税者本人が勤労学生である場合 |
障害者控除 | 納税者本人や控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合 |
配偶者控除 | 控除対象配偶者がいる場合 |
配偶者特別控除 | 納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の合計所得金額が48万円を超え、133万円未満である場合 |
扶養控除 | 控除対象扶養親族がいる場合 |
基礎控除 | 合計所得金額に応じて一定の金額を控除 |
参考:国税庁 確定申告書等作成コーナー「各所得控除の概要」をもとにミラシル編集部にて作成
該当する所得控除がある場合は、活用することで所得を少なくでき、税負担を軽くできます。
また、あわせて住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)などの税額控除の内容についても把握しておくといいでしょう。税額控除は、税額から直接差し引かれるため、所得控除に比べて税負担を軽減する効果も大きいです。
自営業が事業形態を再考する目安は「売上高1,000万円」
1年間(基準期間)の売上が1,000万円を超えると、消費税課税の対象となります。そのため、自営業にとって売上高1,000万円は、事業形態を考える1つのターニングポイントとなります。
課税事業者になる。
年間の売上高が1,000万円を超えるなどすると、翌々年から課税事業者として年1回、税務署にまとめて消費税を納める義務が発生します。しかし、その事情を税務署が完全に把握できるわけではないので、自分で管轄の税務署に「消費税課税事業者届出書」を提出する必要があります。
参考:国税庁「消費税のしくみ」
法人化を検討する。
「年間売上1,000万円超になったら法人化するべき」とよく言われます。なぜなら、法人化すれば、そこから2年間は消費税の納付が免除(※)されるからです。
※ 設立した会社の資本金が1,000万円未満の場合
「法人になると個人事業主に比べて信用度も高くなり、事業拡大につなげることもできます。年間売上1,000万円超を継続できる見込みがあれば、法人化を検討するとよいでしょう」(渋田先生)
所得税と法人税の適用税率の比較。
所得税は「累進課税」といって、所得が高くなるほど税率も高くなります。所得税は最大税率45%ですが、法人税は最大税率が23.2%なので、所得が高くなるほど法人化するメリットは大きくなります。
実際にはこのほかに住民税や事業税といった税金も個人や法人の所得に対して課税されるので、単純に所得税と法人税の税率を比較するだけではどちらが有利という判断はできませんが、目安の1つにはなるでしょう。
所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
参考:国税庁「No.2260 所得税の税率>計算方法・計算式」
法人税の税率(普通法人)
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
2016.4.1以後 | 2018.4.1以後 | 2019.4.1以後 | 2022.4.1以後 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など(※1) | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | ||
適用除外事業者(※2) | 19%(※3) | ||||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | |||||
上記以外の普通法人 |
※1 対象となる法人は、各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるものまたは資本もしくは出資を有しないものです。ただし、一部の区分の法人に該当するものについては、除かれます。
※2 適用除外事業者には、通算制度における適用除外事業者を含みます。
※3 2019年4月1日以後に開始する事業年度において適用除外事業者に該当する法人の年800万円以下の部分については、19%の税率が適用されます。
納税が難しければ自治体や税務署に相談する。
自営業をはじめると会社員のように毎月決まった給与が支給されるわけではないため、仕事の状況によっては税金を納められなくなる可能性もあります。そうなったときには、どうすればよいのでしょうか。
納められないとどうなる?
自営業が決められた期限までに税金を納付しないと、それ以降は延滞税が課されます。さらに、督促状が来ても納付しない場合、財産の差し押さえなどの滞納処分を受けることになります。
納められない場合は自治体や税務署に相談を。
窓口に事情を説明し、分割納付や納税の延期を申請しましょう。所得税と消費税は税務署、住民税は自治体の住民税課、個人事業税は都道府県税事務所が窓口になります。
「払えないからといって督促状を放置する人もいますが、そのままでは解決しませんし、差し押さえなどによって必ず徴収されます。困ったときは、早めに税務署や自治体の窓口に相談しましょう」と渋田先生は強調します。
「特に消費税は中間納付がない限り1年分をまとめて確定申告時に納付するので、初年度に納税額を見て驚く人は少なくありません。そもそも自分が納付する税金について理解しておらず、お金を使い込んでしまっている人もいます。制度の内容を正しく理解し、自分が納める税金の金額を把握しておくことが大切です」(渋田先生)
事業を軌道に乗せるためにも、税金について正しく理解しよう。
自営業になると、お金の管理を自分ですることになります。納めるべき税金を事前に把握することは、自分の事業を客観的に判断し、よりよい仕事を行ううえでも役立ちます。長く事業を続けていくためにも、税金や関連する制度について正しい知識を身に付けておきましょう。
写真/PIXTA 税理士監修/渋田 貴正
【監修者】渋田 貴正
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、相続登記をはじめ相続関係手続きや、会社の設立など法人関係の登記に特化している司法書士事務所V-Spiritsの代表。また、V-Spiritsグループの税理士として各種税務相談にも対応している。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
※ 掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。
※ 記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。
※ 税務の取り扱いについては、2024年6月時点の法令等にもとづいたものであり、将来的に変更されることもあります。変更された場合には、変更後の取り扱いが適用されますのでご注意ください。詳細については、税理士や所轄の税務署等にご確認ください。