SNS疲れへの対処法って?上手に付き合う方法を心療内科医が解説。
みなさんは、普段どのくらいSNSを使っていますか? SNSを開くと、リアルな生活では得られない情報や他人の日常生活まで、次々と目に飛び込んできます。便利さの中にも、どこかネガティブな気持ちを感じる人もいるのではないでしょうか? たとえば、友人のキラキラした投稿と自分の現状を比べて落ち込んだり……。
20代後半の伊藤さん(仮名)も、その1人です。現代人にとって欠かせない存在になったSNSとの上手な付き合い方について、心療内科医である鈴木裕介先生にお聞きしました。
目次
SNSを楽しく使いたいのに、なんだかモヤモヤ……。
──最近、SNSを見ると精神的に落ち込むことが増えました。友人の「充実した生活」という感じの投稿を見ると、自分と比較して焦りを感じることもしばしば。でもSNSは生活の一部なので、アカウントを削除するなんて考えられません。こんな感情とどう向き合えばよいのでしょうか?
メンタルヘルスに悪影響が出ているならば、すぐにでもSNSの使い方を見直すべきです。SNSは、知りたい情報をすぐに得られたり、人と簡単につながることができたりと、とても便利なツール。しかしその反面、強烈な依存性を持ったものでもあります。「毒にも薬にもなるもの」という意識を持って、SNSとの付き合い方を考えていきましょう!
SNSをやめたいけれどやめられないのは、なぜ?
──たしかに、SNSを見たり投稿内容を考えたりしていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。仕事中など、スマホを見ることができない間は、友人の投稿が気になりそわそわしてしまって……。どうして、人はSNSに依存してしまうのでしょうか?
「仕事の目標を達成した」「上司に努力を認めてもらえた」などという経験をした場合、強い幸福感ややる気を感じると思います。これは、脳内にドパミンという神経伝達物質が分泌されるためです。
そもそも新しい物事を知る行為は、脳に快楽をもたらします。さらにSNSでの他者からの共感や反応、刺激的な情報や、自分が望むものを「得られるかもしれない」という期待を感じ取ったりすると、私たちは強烈な快楽を感じることになります。
しかし、ドパミンによる強烈な快楽は長続きするものではありません。満たされた感覚は早々に失われ、減ってしまったぶんの快楽を埋めるために、「もっと!」とSNSから離れられなくなってしまうのです。「見たくないのに、つい見てしまう」という状況は、そこにそれだけ強い快楽が存在することの証左でもあり、SNS疲れにもつながるかもしれません。
──なるほど……!
タバコやお酒はお金がなければ買えませんが、SNSはお金をかけずに使い続けることができますからね。また、多くの人はスマホが常に身近にあります。自分次第でいつでもアクセスできてしまうことも、簡単に依存を断ち切れない理由の1つです。
SNS疲れに対処するには?
それでは、SNS疲れに対処していくためには実際どうすればいいのでしょうか?
リアルなつながりを大切に。
──私の場合は、SNSが友人との気軽な交流の場になっていることもあって、精神的な疲れを感じても使い続けてしまっている気がします。具体的に、どんなことに気をつければよいのでしょうか?
実は、伊藤さんのように、SNSの利用によってネガティブな感情を抱く人は少なくありません。「よくわからない他者」が自分の境界線を侵害してきやすいという点も、SNS疲れにつながっていると思います。自分のSNSの発信に対して全然知らない人から攻撃的なコメントがついたりして、なんとなく嫌な気持ちになった……なんて経験はありませんか?
──あります! 「この嫌なコメントをする人は一体誰なんだろう?」とかあれこれ考えてしまい、時間を奪われた気持ちになりました。
他者から与えられるストレスは大きなもの。ですが、伊藤さんのように交流の場として使っているとSNSを手放しづらいでしょう。では、どうすればいいかというと、SNSに依存しない対面でのコミュニケーションに重点を置いて生活することが大事です。
誰かと満足度の高いコミュニケーションをしているときに、その人との間で脳活動の同期(シンクロ)が起こり、共感が生まれ協調につながっていくことが研究で知られています。ただし、オンライン上の交流では、脳活動の同期がほとんど起こらないことも判明しています。
日常の中で、人とのリアルなつながりを積極的に持つことで、たしかな充実感を得られるでしょう。
──リアルな充実感を積み重ねることは、SNSから離れることにもつながりそうですね!
リアルとオンラインの配分がポイントですね。「社交的にならなければ」という固定観念から、SNSのようなオンラインでの人間関係にエネルギーを使い過ぎている人は多いのではないでしょうか。
そして、エネルギーの使い過ぎで“社交的な自分”を維持できなくなると、体にさまざまなサインが出ます。頭がぼんやりする、目が開きづらい、言葉につまるなど、普段の自分と違う状態を感じたら、無理に社交的にならなくていいのです。コミュニケーション過多のサインですので、特に意識して、対外的な交流を減らしたり、SNSをお休みしたりしてみましょう。
SNSが入らないルーティンを。
──鈴木先生のお話を参考に、SNSの使い方を見直してみようと思います。生活に取り入れやすい工夫はありますか?
大前提として、非常に依存性が強いものであるという自覚を持ち、漠然と受動的に使うとうっかりすべての時間が溶かされてしまうものだと理解しましょう。そして、SNS疲れの対処法として手っ取り早いのは、SNSを見る時間を単純に減らすこと。少しずつ「なくても困らないもの」という認識を持てるようになるといいと思います。
1日の中でSNSを見る時間の上限を決めて、それを超えないようなルーティンをつくりましょう。たとえば「起床後1時間はスマホを開かず、朝の支度をする」「食事中はスマホを機内モードにする」などと、SNSを見てしまわないようなルーティンを組めると続けやすいでしょう。反対に、「出勤・退勤時間の間だけSNSを見る」などとして制限したうえでSNSを見る時間を設けるのも効果的です。
また、スマホはたとえ使用していなくても、ただ視野の中に入っているだけで注意力を大きく奪われてしまうことが知られています。仕事中はスマホを机の上や視野の中に置かない、というのも有効でしょう。
──目的もなく延々とSNSを見てしまうことがあるので、SNSやスマホから離れる時間を決めるのは実践したいと思います! ついフォロワー数や「いいね」の数を気にしてしまい、SNSを見たくなる気持ちも収まりそうですね。
自分だけの息抜きとなる趣味や場を。
SNSをコンテンツとして楽しめているなら問題ないのですが、SNSはあくまでツールなので、それにとらわれるのはよいこととは言えません。フォロワー数や「いいね」の数に一喜一憂することで、人生が豊かになるとは思えないですよね。
SNSのほかに、時間を忘れて楽しめるコンテンツや、自分らしくいられる場所を見つけるといいと思います。たとえば、ゲームやラジオ、行きつけのバーなどでもいいでしょう。大切なのは、他者の反応に左右されないものであること。「これをしている時間は心地よい」「ここではありのままの自分で過ごせる」と感じられる趣味や場所をどんどん増やしていきましょう。
先生はSNS疲れしない?
ここまでSNS疲れの原因や対策について解説いただきましたが、先生自身は、SNS疲れしたことはあるのでしょうか?
SNSを利用する目的を考える。
──先生は、SNSとどんな風に向き合っているのですか?
僕も数年前に、発信を頑張っていた時期があり、突然フォロワーが増えたことがありました。そのときは非常に高揚感があり、「世の中とのつながり方の1つとして、こういう形もあるんだな」とポジティブに思えたこともあったんです。でも、その高揚感に一抹の恐怖を感じたのも明確に覚えています……。
続けているうちに「SNS上での発言は常に他者に見られている」という感覚がこびりつき、素の自分とSNS上での自分が乖離していくようにも感じて、気軽に発信することができなくなりました。「率直に感じたことを、常に他者の目のフィルターにかけないといけないな」と思ったときに、自分の考えが無意識に曲げられてしまうような窮屈さを感じたんですね。
僕は言葉を使って仕事をしているのもあって、自分の人生とSNSの充実感を天秤にかけたとき、今はSNSが自分にとって必要ないものだと感じ、あまり見なくなってしまいました。気づいたことを言葉にするときはスマホのメモ機能を使っています。
企業のSNS担当やフリーランスとして働いているなどで、仕事上どうしてもSNSに投稿する必要がある人や、SNSを自分の居場所のように考えている人も、たまに立ち止まって、使う目的を見失わないことは大切だと思います。
SNSがプラスに働く場合もある。
──私も、自分の趣味について発信したくてSNSをはじめたのに、いつの間にか「いいねがたくさんほしい」という目的に変わっていました……! 逆に、SNSをうまく使っているのはどんなケースですか?
デザイナーやイラストレーターのような、クリエイティブな仕事をしている方は、SNSでたくさんの情報から刺激を受けることで、創作活動が豊かになることがあると思います。そんな風に、「他者の反応のため」ではなく「自分のため」にSNSを利用して、幸福度を上げることはとてもよい使い方ですよね。
【まとめ】上手な距離感でSNSと付き合い、日々の生活を豊かに!
誰でも手軽にはじめられるSNSですが、使い方によっては心身に悪影響をおよぼすほど、依存の危険をはらむものであることがわかりました。
鈴木先生がご自身の経験もまじえながら、依存のしくみや対処法について教えてくださったおかげで、伊藤さんも少しずつSNSと距離をとりながら生活できているそうです。
人付き合いや自己表現の場は、SNSだけではありません。リアルな世界に目を向け、心地よくいられる場所を見つけてみましょう。そして、SNSはあくまでも自分の生活を豊かにするために使うようにしてみてはいかがでしょうか。
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
【監修者】鈴木 裕介
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開設し、院長に就任。研修医時代の近親者の自死をきっかけに、メンタルヘルスに深く関わるようになり、産業医活動や講演、企業のメンタルヘルス対策のコンサルティングなども行っている。主な著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
※ 掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。
※ 記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。