疲れる。でも休めない!忙しい現代人が心や体の疲れと上手につき合う方法。
「なんだかだるい」「何もやる気にならない」「寝ても寝ても眠たい」。そんな悩みを抱えている現代人は少なくありません。こうした悩みに共通しているのが「疲れ」。「自分だけじゃないから」とあきらめるのは、早いかもしれません。実は「疲れ」は、ちょっとした工夫でコントロールできるようです。
「疲れ」に関する数々の著書を持つ、すぎおかクリニック院長の杉岡充爾先生に疲れの正体とその原因、解消法についてお伺いしました。忙しい現代人にピッタリの実践しやすいヒントが詰まっています。
目次
疲れには3つの種類がある。
私たちが普段何気なく口にしている「疲れ」とは、どんな状態なのでしょうか。「疲れ」には体の疲れと心の疲れがあります。まず、疲れると体を動かすのがおっくうになります。たとえば朝起きた瞬間からだるい、体が重い、駅の階段を上るのがつらい、日中横になりたくて仕方がないなどの状態です。
疲れはやる気や集中力にも影響を及ぼします。たとえば何もせず寝ていたい、これまで楽しめていたはずの趣味に興味を持てない、仕事にも集中できず、ちょっとしたミスが増えるなどの状態が見られます。そんな「疲れ」は、その原因によって3つに分類できるそうです。
疲れの3つの種類
肉体疲労 | 体が疲れている状態 |
精神疲労 | 人間関係などのストレスによって心が疲れている状態 |
神経疲労 | 脳の緊張が続いて神経が疲れている状態。「脳疲労」ともいう |
肉体疲労
激しい運動だけでなく、長時間同じ姿勢をとり続けることで起きる筋肉の疲労も原因となります。また、栄養不足も肉体的な疲労を感じる原因となるため注意が必要です。
精神疲労
悩みや不安を抱え、心が休まらない緊張が続くことで引き起こされます。体に問題はなくとも、「何もしたくない」「やる気が出ない」と感じるときは精神的な疲労がたまっています。
神経疲労
PCやスマホなどの画面を凝視し、集中して情報を処理する作業は脳を酷使し、神経を疲れさせます。脳の疲労は自律神経も緊張させ、さらなる神経疲労につながります。
疲れを感じる原因は?
現代に生きる私たちは、疲労と無関係ではいられません。日常生活の中で疲れを感じる原因をあらめて見てみましょう。
肉体的な疲れの原因は、激しい運動だけじゃない。
スポーツジムなどでの激しい運動、デスクワークでの同じ姿勢、子どもの抱っこでの腕や腰の負担、暑い屋外での立ち仕事などによって肉体疲労は引き起こされます。細胞の活動で発生する活性酸素も肉体的な疲れに関係しています。体に備わっている抗酸化力の働きが弱くなると活性酸素が増え、細胞がエネルギーを十分につくることができず、疲れを感じるようになります。
「栄養不足も肉体的な疲労感の原因となります。私たちの体は、日頃食べたものでできているといっても過言ではありません。ジャンクフードばかり食べて栄養不足になると、特に運動していなくとも体の疲れを感じることがあります」(杉岡先生)
精神的な疲れの原因は、人間関係や将来の不安などさまざま。
職場の上司や部下、同僚とうまくいかない、仕事のプレッシャー、経済的な悩み、将来に対する不安などが原因で、精神的な疲労がたまっていきます。
「ストレス耐性が低く、対処法も分からないという方が増えているように感じます。壁にぶつかるとすぐに嫌気がさすのは、より大きい精神的疲労を感じているからかもしれませんね」(杉岡先生)
神経的な疲れの原因は、PCやスマホでの作業から。
PCを使う仕事、SNSや動画アプリのチェック、寝る前についスマホを眺めてしまうなど、画面を見ている時間はブルーライトが目を疲れさせます。たくさんの情報に触れることは脳を酷使し、自律神経を興奮させます。この状態が長時間続くことで、神経的な疲労が蓄積されていきます。
「脳の疲れは睡眠によってデトックスされますが、睡眠不足が続くと脳の疲労物質が流れていかず、常に疲れている状態になってしまいます」(杉岡先生)
睡眠不足はすべての疲れの原因に。
睡眠不足は前述の3つの疲労に深くかかわっています。その日の疲れをリセットするための睡眠が不足すると、疲労がどんどん蓄積されていくのです。また、寝る時間、起きる時間、そしてそれらがズレることによる食事の時間の変動など、生活リズムの乱れは自律神経を緊張させ、疲れにつながります。
私たち、こんな疲れがたまっています。
忙しい毎日を送っていると、疲れに関する悩みは尽きません。皆さんのよくあるお悩みについて、杉岡先生に答えていただきました。
悩みその1:元々体力に自信がありましたが、最近は残業続きで疲れがとれません。
「まずは“疲れ”を分解してみましょう。肉体疲労や神経疲労なのか、はたまた“残業しろ”というプレッシャーによる精神疲労なのか。単純に長時間労働による疲れであれば、“休息の時間”を意識してみては。
帰宅してすぐソファに横になり、スマホを眺めていたら数時間たっていた、ということはありませんか? これは休めているようで“神経疲労”がたまっています。貴重なその数時間は、休息にあてましょう。神経を休めるためにデジタルデトックスをしたり、部屋の明かりを落として好きなアロマをたいたり、早めに入浴して血行をよくしたりするなど、ご自身の疲れを解消する方法を見つけて実行しましょう」(杉岡先生)
悩みその2:子育てが忙しく、寝たいときに寝られません。
「子育ては本当に大変ですよね。まとまった睡眠時間の確保ではなく、“昼間寝られるときに寝る”と考えてはいかがでしょう。わずか15分間でも、昼寝は仕事のパフォーマンスを上げるという報告があります。ちょっとした空き時間はスマホを見てなんとなく過ごすのではなく、昼寝にあてましょう。“寝たら起きられないかも”という方は、昼寝の前にカフェインをとったり、ベッドではなくソファで寝たりするといいですよ」(杉岡先生)
悩みその3:食事の時間や食べる量が不規則でパワーが出ません。
「疲労と食事には、密接な関係があります。夜遅い時間に食事をすると睡眠中も消化にエネルギーを使うため、疲れがとれません。夕食は寝る3時間前までに食べ終わるようにしましょう。“3食しっかり食べないと”と思いがちですが、健康に問題のない方であれば、食欲がないときは無理に量を食べなくてもいいでしょう。16時間程度の軽い断食(ファスティング)は体調を整える効果があります。
パワーを出すには何を食べるかも重要です。疲労回復で意識したいのは、ビタミンB群ですね。食事からとるのが難しいなら、安心できるメーカーのサプリメントも選択肢の1つになります」(杉岡先生)
悩みその4:職場での人間関係にストレスがあり、精神的な疲れを感じます。
「相手や部署を変えられないのであれば、“自分でコントロールできないことにフォーカスしない”と決めると、少し気持ちが楽になるかもしれません。その上で“自分ができること”を見つけて行動してみましょう。
たとえば、信頼できる上司や仲間に今悩んでいることを話す、機会をみて異動の希望を出すなど、自分ができることに意識を向けます。たとえ苦手な仕事でもその経験は将来生きるかもしれないなど、視点を変えると別の意味が見えてくることもあります。
少し時間を作って、“自分が今できることは何か”“自分は将来何がしたいのか”と考えてみるとよいでしょう。ストレスを感じたときこそ、自分との対話が役立ちます」(杉岡先生)
悩みその5:仕事柄、PCを使う時間が長くて集中力が続きません。
「仕事は仕方がありませんが、プライベートではPCやスマホと距離を置きましょう。画面を見ていると猫背で前かがみになり、深呼吸ができないため肺に入る酸素が少なくなり、脳が低酸素状態に。すると集中力が低下します。定期的に姿勢を正し、深呼吸をして酸素を取り入れましょう。仕事中はこまめに立ち上がってストレッチをすると疲労が改善します。
神経を休めるために、1時間経ったら5分休むなど、自分のルールを決めるとよいでしょう。長時間作業を続けるよりも、定期的に休んだほうが仕事の能率が上がるという報告があります。忙しいとつい切りがよいところまでがんばってしまいがちですが、作業途中でもルールどおり休んだほうが、作業効率が上がります」(杉岡先生)
悩みその6:SNSが気になって、長時間チェックしてしまいます。
「華やかな生活の様子を投稿しているインフルエンサーは魅力的に映りますが、もしかしたら無理をしているのかもしれません。いいねの数で評価されるSNSにのめり込むのは、他人の評価基準で生きること。自分が本当にやりたいことを意識して、自分の人生を生きたほうがいいですよね。目的を持って生活することが、健康的に長生きすることにつながるという研究もあります。
また、1日のうち自分がどれくらいSNSに時間を使っているのか、記録をとって可視化してみてください。想像以上の長さに愕然とするはずです。SNSに何時間も使っているという方は、スマホが視界に入らないようにすることが大切。思い切ってスマホを置いて出かけてみるのもおすすめですよ」(杉岡先生)
悩みその7:満員電車での通勤にへとへとになっています。
「出社時間が選べないのであれば、早く起きて混雑が少ない時間の電車に乗り、出社前にカフェでゆったり朝食をとる、資格取得の勉強にあてる、趣味の時間に使うなど、朝の時間を別のことに活用するというのはいかがでしょう。繰り返しになりますが、自分でコントロールできないことにフォーカスし続けるのは精神的な疲労につながります。“今できること”を見つけて行動してみましょう」(杉岡先生)
そのとれない疲れ、病気のサインかも。
疲れは毎日の心がけで改善できることがわかりましたが、長く続く疲れには病気が潜んでいることがあります。主なものを見てみましょう。
ただし、これらの症状に当てはまったからといって、必ずしもその病気であるとは限りません。いつもと違う疲れが長く続くという場合は、病院での受診をおすすめします。何科に行けばいいかわからないという場合、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。
疲れやすい、体重減少、尿が増えた。
体重が減ったのは疲れて食欲がなかったからと思っていたら、実は糖尿病だったというケースがあります。
やる気が出ない、体がむくむ。
首にある甲状腺の機能が低下し、血中の甲状腺ホルモン作用が低くなる甲状腺機能低下症という病気が考えられます。体の代謝が著しく落ち、体重が増えることがあります。
たっぷり寝ているはずなのに疲れがとれない。
睡眠時に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。睡眠時間をしっかりとっていても眠くて仕方がない、疲れがとれないという症状が出ます。気道に脂肪がついているがっちりとした体型の男性に多いですが、首が細く気道が狭い女性にも起こる病気です。
空腹時の胃もたれ。
食後の胃もたれは疲労により胃の動きが鈍くなっていることが考えられますが、空腹時に胃もたれを感じる場合、胃潰瘍の恐れがあります。
便秘や下痢を繰り返す。
精神的な疲れによる便秘や下痢と思っていたら、過敏性腸症候群だったというケースがあります。これは消化器に異常がないにもかかわらず、腸管の刺激への反応が過敏になる病気です。
ささいなことで落ち込む。
副腎疲労が精神的な疲労を引き起こしていることがあります。副腎から抗ストレスホルモンが分泌されにくくなり、慢性疲労やうつ症状が出てきます。
ちょっと歩いただけでひどく疲れる。
少し歩いただけでぐったりする、息切れがするという場合、心臓や肺の疾患が隠れていることがあります。
「このような症状を感じたとしても、単なる運動不足・体力不足などの場合も多いですが、病気が隠れていることもあります。疲労はご自身の体からのサインだと捉えてケアしてあげましょう」(杉岡先生)
【まとめ】自分の疲れに目を向け、心身ともに健やかに過ごそう。
忙しい毎日を送る私たちですが、生活習慣や考え方を変えることで疲れと上手につき合うことができ、健やかな毎日につながることがわかりました。
「20代~30代の皆さんに強く言いたいのは、疲労を甘く見ないでほしいということですね。疲労は解消しなければどんどん蓄積し、慢性的となり、さまざまな病気の原因となり得ます。自分の疲れを無視したり、“自分はまだ若いから大丈夫”と無理を重ねたりすることで、心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こすこともあります」(杉岡先生)
現代人が逃れられない疲労は、しっかりチェックしてコントロールすることが大切です。自分が毎日をどう過ごしているのか、客観的にチェックする視点を忘れないようにしたいものですね。
写真/PIXTA
【監修者】杉岡 充爾
医療法人社団鳳翔会すぎおかクリニック院長。医学博士。倉敷中央病院で循環器のトレーニングを積み、船橋市立医療センター心血管センターに勤務後、2014年5月すぎおかクリニックを開院。日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医、抗加齢医学会専門医など。メディア出演や著書多数。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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