突発性難聴を経験したミュージシャンtofubeatsさんの「病気や仕事との向き合い方」。 突発性難聴を経験したミュージシャンtofubeatsさんの「病気や仕事との向き合い方」。

突発性難聴を経験したミュージシャンtofubeatsさんの「病気や仕事との向き合い方」。

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十数年のキャリアにおいて5枚のアルバムをリリースし、商業音楽も含めると1,000曲以上をつくりだしてきた音楽プロデューサー/DJのtofubeats(トーフビーツ)さん。大学在学中に発表した楽曲「水星 feat.オノマトペ大臣」は、リリース後10年を経た現在まで多くのアーティストにカバーされてきた傑作として知られています。

 

現在31歳。24歳のときには、自身をマネジメントする会社を設立。順調にキャリアを積んできたように見えるtofubeatsさんですが、実は2018年、28歳のときに突発性難聴を発症。病を抱えながら活動拠点を東京に移し、結婚、コロナ禍で新しい生活をはじめます。ミュージシャンとしての人生を左右しかねない病気とどう向き合い、乗り越えてきたのか。tofubeatsさんの、「病気との付き合い方」や「不測の事態への備え」ついて聞いてみました。

2018年、tofubeatsさんを襲った突発性難聴。

これまでの仕事について語るtofubeatsさん
取材はtofubeatsさんが経営する「HIHATT合同会社」のオフィスで行われた。マンションの1室にDJブースと音楽制作のスタジオを備えている。

──tofubeatsさんは、これまで1,000曲以上の楽曲を発表されているとか。森高千里さんとコラボされたり、藤井隆さんに楽曲提供されたり、膨大なお仕事量ですね。

 

「ほどほど」だと思いますよ。アーティストとしては多いかもしれませんが、職業作曲家としては少ないほうじゃないですかね。音楽の仕事はもう14、15年やってますから、僕みたいに自分の活動だけでなく、楽曲提供とか映画やCMの音楽もつくるミュージシャンだったら、曲数はむしろこのくらいなくちゃダメかとも思ってます。

 

──高校時代から音楽のお仕事をされていたんですね?

 

高校3年生から5年間、あるメジャーレーベルの育成部門に所属していました。メジャーデビューを目指して曲をつくったり、自作のCDを流通させたり、あとはDJしたり。結局、そこからはメジャーデビューできなくて、大学卒業後に自分でつくったアルバムでワーナーミュージックと契約することになるんですけど。

 

──そうして音楽活動を続けてこられて、今年、5枚目のアルバムが出ましたね。この作品の制作をはじめた2018年に、tofubeatsさんは突発性難聴を発症されました。突発性難聴というのは、どういった病気なんでしょうか。

 

ひと口に難聴といってもいろいろあるようなんですが、僕の場合は左耳の低域、人の話し声より低い音がスコーンって聞こえなくなる感じで、お医者さんによると鼓膜のさらに内側にある蝸牛(かぎゅう)という部分が何らかの原因で不調をきたしているということでした。今はそのころと比べると8、9割はもとどおりになりました。

 

──その時期の日々の思いを記録した「トーフビーツの難聴日記」が書籍化されていますね。音楽が続けられなくなることも想定してだと思うのですが、発症後すぐに資格を取る学校について調べたと書かれており、突発性難聴という病気をとても冷静に受け止めていたように思えました。実際はどういう心境だったんでしょうか。

 

ちょっとヤバいなとは思っていました。僕の症状ではステロイドを投与して治療していくケースが多いらしいんですけど、僕、大学時代に十二指腸潰瘍を患っていて、ステロイドを投与すると再発する恐れがあるとお医者さんに言われていて。それでビタミン剤だけで治療することになったんですけど、「最悪、治らない可能性もある」とは言われました。

 

自分は特に音楽の仕事においてエンジニア方面というか、音の調整をするような作業にこだわってやっていたので、もし本当に聞こえなくなるなら別の仕事を探したほうがいいかもしれない、というのは半ば本気で思っていました。

突発性難聴の発症を機に書きはじめた日記をまとめた著書「トーフビーツの難聴日記」
2018年の突発性難聴の発症を機に書きはじめた日記をまとめた初の著書「トーフビーツの難聴日記」(ぴあ刊)。20代後半から31歳に至る男子の肉声と、アルバム「REFLECTION」の制作過程がつぶさに記録されている。

──実際にその後のお仕事にも影響はありましたか?

 

何を聴いても左右の音のバランスがよくないんですよ。以前は耳で聴いて自分が最適だと思えるように調整できていたものが、全然わからなくなったので、モニターに音の大小のようなデータが表示される機材を買いました。完全に聞こえないわけではないので、自分の耳の聞こえ方とそのメーターで見る音との誤差を埋めていくような作業をしながら、なんとかやり過ごすみたいな姿勢でしたね。

 

仕事はもちろんなんですが、普段から音楽が生活の中心にあったので、聴いていて全然楽しくないというのも当時は大きなストレスでしたね。

病気とはあえて向き合わなかった。

病気とどう向き合ってきたかを語るtofubeatsさん

──病気とはどういうふうに向き合ってこられたんですか?

 

あえて向き合わなかった、という感じですかね(笑)。というのも、突発性難聴は……前にやった十二指腸潰瘍もそうなんですけど、僕の場合は、どちらもストレスが原因だったらしいんですね。でも僕自身はストレスがたまっているっていう自覚がないんです。

 

それで、十二指腸潰瘍のときにお医者さんに「そもそも自分で原因がわかるようなストレスだったら、病気になる前に自分でなんとかできる。実際に腸が溶けるまでストレスがたまっているのに本人が気づいていないのは、そのストレス自体、自覚できないところにあるからなんですよ」ってアドバイスをもらったんです。

 

投薬で治らなかった人が部屋の模様替えをしたことで治った事例もあったらしくて、自分で原因を見つけようと思っても仕方ないと開き直ることにしました(笑)。

 

──では、突発性難聴についてもあえて原因を探ったりしなかった?

 

ええ。十二指腸潰瘍のことがあったので、難聴のときも「ああ、それならしょうがないな」って1か月ほどで頭を切り替えることができました。それと周囲のミュージシャン仲間に難聴の話をしたら、意外と同じ病気の人もいたことがわかって、実はこれが一番元気が出ました。むしろ「自分は何をそんなに大ごとだと思ってたんだ」って(笑)。

すべてを見える化、不安を払拭するから楽しめる。

突発性難聴発症以降、一変した人生について語るtofubeatsさん

──突発性難聴の発症以降、2019年には地元の神戸から東京へ拠点を移し、結婚もされて、tofubeatsさんの人生は一変しました。経済的な不安などはありませんでしたか?

 

そもそも東京に来たのは、彼女がこっちに暮らしていましたし、僕が長男で最終的には神戸に帰ることになる気がするので、若いうちに1回ぐらい来ておいたほうが仕事の幅も広がるかなと思ったからです。

 

それも事前に100回ぐらい計算して、不測の事態が起きて完全に収入がゼロになっても1年は会社が絶対潰れずに、生活も維持できるような状態にしてから来ました。……僕ね、とにかく心配性で用心深いんですよ。今でも、何があっても会社も生活も1年以上は大丈夫なように準備しています。

 

──ご著書を読んでも、今お話を伺っていても、tofubeatsさんは状況に応じていつも冷静に計画を立てて実行されてきたという印象です。

 

計画的というよりも、ただただ用心深いだけです(笑)。特に僕の場合は顕著だと思うんですけど、僕らみたいな仕事って、経済面も含め余計な心配事があると、一生懸命音楽をつくるモードになれないんですよ。僕は、ただ楽しく音楽をつくりたいから、それに向けての準備だけはきっちりしておきたいんです。そうしたら、あとは好きなように自由に音楽づくりに取り組める。好きなおかずを後半に残しておくタイプですね(笑)。

 

子どものころから、そういう傾向はあって、たとえば受験のようなしんどいことを何度もやるのが苦痛だったので、家から通えて大学までエスカレーター式で行けて、自分が合格できそうな一番偏差値の上の学校を自分で調べて受けたり。そうやって必要なことを準備するのは苦ではないんです。

会社を立ち上げたのは、ストレスをなくすため。

4年かけて制作したニューアルバム「REFLECTION」
4年かけて制作したアルバム「REFLECTION」を2022年5月にリリース。

──tofubeatsさんは「HIHATT合同会社」の代表でもあります。会社はどういった経緯で立ち上げられたんですか?

 

高校3年のときからメジャーレーベルの育成部門にいた話をしましたが、そのときから一緒だったマネジャーと一時、芸能事務所に所属してたんですよ。

 

契約とか著作権とか、音楽にまつわる経理とか事務のことは会社が全部やってくれてたんですけど、そこがブラックボックスになっていたのがちょっと気持ち悪くて、自分できちんと把握しておきたかったんです。どういうお金の流れになっていて、何が起きているのかを知っておくと安心じゃないですか。

 

tofubeatsさんのHIHATT合同会社の決算書
tofubeatsさんのHIHATT合同会社は7期を終えた。決算報告書にも自ら目を通す。
tofubeatsさんの会社のホワイトボードに留められたシール
ホワイトボードに留められたシールは、会社の備品と私物を区別するためのもの。機材や会社名義のスマホなどにはもれなく貼る。

──経理とか契約とか会社の事務的な作業もtofubeatsさんがされているんですか?

 

そうですね。そこのホワイトボードに「月末チェックリスト」というのが張ってありますけど、入金とか、口座からの引き落としの確認とか、著作権の書類が届くんでそれの経理作業とか。あと、物販の商品を海外から仕入れるので、その通関のための書類作成とか。こういったことも音楽を仕事にしていくうえで付随してくる必要な準備なので、その都度覚えてやってきました。

「HIHATT」はtofubeatsさんの会社の屋号
社名入りのグッズも販売。Tシャツが人気だ。

 ──ご自分が携わっていることはすべて把握しておきたいし、そうすることで病気にも仕事にも冷静に対処してこられたということですね。では最後に、そうした姿勢がtofubeatsさんの人生での指針といえますか?

 

そうですね。心配で面倒なことっていっぱいありますけど、そういったことをすべて人任せにしてしまうのは嫌だし、そこにストレスがあると自分の行く末も見通せなくなるので、ちゃんと物事に向き合ったうえでやりたいことをやっていきたいと思っています。まあ、すべての人に当てはまるわけではないと思いますけどね。僕は常々「心配性」といわれているので(笑)。

DJブースで選曲を行うtofubeatsさん

取材・文/武田篤典 写真/KOOMI KIM


tofubeats
トーフビーツ●1990年、神戸市生まれ。中学時代より作曲をはじめ、高校3年生のときには国内最大のテクノイベント「WIRE」にDJとして出演。関西学院大学在学中にリリースした「水星feat.オノマトペ大臣」がスマッシュヒット。2013年のメジャーデビュー以降、森高千里や藤井隆などをボーカルに迎えた楽曲を発表するほか、他アーティストへの楽曲提供も積極的に行う。2022年5月、4年ぶり5作目となるオリジナルアルバム「REFLECTION」をリリース。制作の背景とその間の自身の出来事を記した初の著書「トーフビーツの難聴日記」(ぴあ)も出版された。


※この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。
 

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