「差額ベッド代」って何?病気・ケガをする前に知っておきたい入院とお金の話。
※ 記事中で言及している保険に関して、当社では取り扱いのない商品もあります。
※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」、生命保険料を「保険料」と記載している部分があります。
最近、CMなどでよく聞く「差額ベッド代」。病気やケガで入院した際、個室や少人数部屋を希望して利用した場合に追加でかかる費用のことです。「追加費用を払うのであれば、大部屋でもかまわない」と思う人もいるかと思いますが、個室などに入院するメリットはやはり大きいのでしょうか。ご自身も乳がんの手術で個室に入院した経験のあるファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんに、差額ベッド代を中心に入院とお金の話についてのお話を伺いました。
目次
- 差額ベッド代とは。
- 差額ベッド代をかけて入院するメリットって何?
- 「費用がかかっても個室か少人数部屋にすればよかった」後悔・トラブルあるある。
- 差額ベッド代などでかさむ出費に、医療保険で備える手も。
- 【まとめ】費用面や個室・少人数部屋のメリットなどを踏まえて入院を。
差額ベッド代とは。
差額ベッド代とは、入院する際に病院が用意する大部屋ではなく、個室や少人数部屋を希望して利用した場合に追加でかかる費用のこと。正式には、「特別療養環境室料」といいます。
差額ベッド代を支払って提供される病室は、1人用の完全個室のほか、2人~4人までの少人数の部屋が対象となります。面積は1人当たり6.4㎡以上、ベッドごとにカーテンなどのプライバシーを確保する設備があり、個人用の私物収納設備や照明・小机・椅子の設置といった療養に適切な設備を有すること、といった基準が設けられています。
差額ベッド代は自己負担になる?
個室などに入院する場合、差額ベッド代の支払いが必要なケースと不要なケースがあります。支払いが必要になるのは、個室などへの入院を患者自身が希望した場合。その際はかならず、病院からの費用などのわかりやすい提示、同意の確認、同意書へのサインを経ての入院が原則となります。
差額ベッド代は健康保険の適用対象外のため、支払う際は全額自己負担となります。高額療養費制度(※)も適用外です。
※ 医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1か月で上限額を超えた場合にその超えた金額を支給する制度。
入院時に全額自己負担となる費用には、このほかにも、パジャマや洗面具などの身のまわりの品の購入費、付き添いをしてくれた親族へのお礼、病院で出される食事以外に注文した出前や外食費などがあります。
差額ベッド代が不要なケースも。
黒田さんによると、「大部屋が満床であるといった病院都合や、緊急での入院、感染症を発症する恐れがあるなどの治療上の理由で個室などに入る場合」は原則として、差額ベッド代の支払いは必要ないとのこと。
自分から希望して個室などに入る場合でも、病院側から差額ベッド代がかかることについて明確な説明を受けたうえで、きちんと内容を把握して患者が同意する必要があります。また、同意書に金額の記載がない、同意のサインをしていないなどの書類の不備があれば、同意書は無効になります。
このほかにも、実質的に患者側の選択によらない場合には、差額ベッド代の支払いは不要となります。これに該当するか否かは、患者または病院側の事情により適宜判断されます。
差額ベッド代でよくあるトラブル。
差額ベッド代にまつわるトラブルとしてよくあるのは、「緊急搬送され、同意書にサインをしないとすぐに入院ができないため、よく確認せずに差額ベッド代を支払う同意書にサインしてしまった」というケース。大部屋が満床で個室や少人数部屋以外に空きがなかった状況だったにもかかわらず、同意書にサインをしてしまった場合、原則として支払い義務が生じますが、このような場合にはどうしたらよいでしょうか。
黒田さんいわく、「満床などの病院都合の場合は、患者に支払いを求められないことになっています。支払いの際に、厚生労働省からの通達文のコピーと同意書のコピーを提出して、交渉してみてください」とのこと。
その他のポイントとしては、「同意書に『大部屋希望』と書いておき、差額ベッド代のかかる部屋を希望していないことを明らかにしておくこと」だそう。
「トラブルを防ぐために大事なのは、病院側とよく話し合うこと。入院の際に手渡されるたくさんの同意書や公的文書を、煩雑に感じることもあるかもしれません。入院後でもよいので、書類をゆっくり見直して、よくわからなかったら、病院側にその意味を確認しましょう」(黒田さん)
差額ベッド代の相場。
差額ベッド代の相場は、厚生労働省の調査によると(2020年7月1日時点)、1日当たりの平均額は1人部屋で8,221円、2人部屋3,122円、3人部屋2,851円、4人部屋2,641円、全体平均額で6,527円となっています。
参考:厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」(2021年)
差額ベッド代は各病院が自由にその料金を設定できるため、病院によって、また地域によってその料金にバラつきがあります。黒田さんによると「おおむね、不動産価格に連動する形で、地方よりも首都圏のほうが高い傾向にあります」とのこと。そのため病院側は、受付窓口や待合室などに、入院可能な病床数や料金などをわかりやすく提示する義務があります。
また、差額ベッド代は、保険外併用療養費制度にもとづき、保険適用外の治療を保険適用の治療とあわせて受けることができる「選定療養」にあたります。選定療養費には消費税がかかるため、最終的な支払いには消費税分が加算されます。
ちなみに、差額ベッド代は0時から24時までを1日とカウントし、利用料金を請求されます。朝10時に入院して翌朝9時に退院しても、利用が2日間にまたがった場合は2日分請求されるのが一般的です。泊数で料金を支払うホテルとは異なる点にも注意しましょう。
差額ベッド代をかけて入院するメリットって何?
「追加費用がかかるなら、大部屋で十分」という人もいるかと思います。差額ベッド代を負担してでも、個室などに入院するメリットとは何でしょうか。
プライバシーを確保しやすい。
個室などであれば、プライバシーを確保しやすく、必要以上に他人を気にせずに快適な環境で治療に専念できます。
「私は個室に入院したので、面会も気兼ねなく自分の部屋でできました。子どもが小さかったので、時間を気にせず、家族と電話で自由に連絡をとり合えたのはよかったですね。入院中も仕事をしていたので、人の出入りのある談話室ではなく、個室で仕事上の面会ができたのも助かりました」(黒田さん)
生活音を気にしなくてもよい。
入院生活で気になるのはやはり、ほかの患者や自分の出す生活音です。個室などであれば、そうした生活音についてもあまり気にせずに治療に専念できるのはメリットといえるでしょう。
「費用がかかっても個室か少人数部屋にすればよかった」後悔・トラブルあるある。
では、差額ベッド代を負担せず大部屋に入院した場合、「費用がかかっても個室か少人数部屋にすればよかった」と後悔したこと、またはトラブルとして多いのはどんなことでしょうか。入院経験がある方からの相談も多く受けている黒田さんに教えていただきました。
同室の患者の生活音が気になる。
大部屋では、テレビの音や携帯電話の話し声、見舞い客との会話、食事の音、カーテンの開け閉めなど、同室の患者の「生活音」にストレスを感じる人が多いようです。よく問題になるのは「夜間のいびき」。「他人のいびきで安眠できない」というトラブルは案外多いそう。
「大部屋では耳栓やイヤホンは必須です。見舞い客と話す場合も基本的に談話室で、というルールがありますが、『ちょっとだけなら』と部屋で話し込んでしまう人もいます。その場合もなかなか注意しにくいのが難点ですね」(黒田さん)
同室の患者の臭いが気になる。
このほか、よく問題になるのが「臭い」。トイレに行けない患者がいる部屋では、尿や便の臭いがこもってしまう場合も。また、消臭スプレーなどの香りが気になるケースも多いといいます。自分では気に入っている香りでも、他人には不快であることも多いもの。大部屋への入院では、そうした点も配慮する必要がありそうです。
自分の生活音が気になる。
大部屋では、自分の出す生活音についても周囲を気遣いながら過ごさなければなりません。時間を気にせず電話で話す、見舞い客と話すといったことも大部屋では自由にできないという点で、入院してから後悔する人も多いとか。
「ノートパソコンのキーボードを打つ音も意外と気になるもの。私は個室だったので、入院中もまわりを気にせずパソコン仕事ができてよかったです」(黒田さん)
差額ベッド代などでかさむ出費に、医療保険で備える手も。
健康保険の適用対象外のため、全額自己負担となる差額ベッド代。差額ベッド代のほかにも、パジャマや洗面具などの日用品、付き添いやお見舞いに来てくれた人へのお礼などは、自分で費用をまかなわなければなりません。思った以上に多くの出費がある入院に備えて、民間の医療保険の入院給付金である程度カバーするのも一案だと黒田さんは言います。
「入院給付金として日額5,000円が給付される医療保険であれば、差額ベッド代の全体平均額6,527円には若干足りないものの、おおむねカバーできます。また、女性の場合、女性特有・女性に多い特定の疾病で入院した際には、入院給付金含めさまざまな保障をしてくれる女性向け医療保険もあるので、そちらを検討してもいいかもしれません。中には、短期入院であってもまとまった額を受け取れる一時金タイプのものもあるので、いろいろと調べてみてくださいね」(黒田さん)
【まとめ】費用面や個室・少人数部屋のメリットなどを踏まえて入院を。
差額ベッド代を支払ってでも、入院の際に個室などに入るメリットは大きいことがわかりました。入院時には医療費以外にも、差額ベッド代をはじめ、入院に必要な日用品などで出費がかさむことを考えると、入院給付金を受け取れる医療保険などに加入しておけば心強いもの。いざというときに備えて、医療保険を見直しておきたいですね。
写真/Getty Images
黒田 尚子
ファイナンシャルプランナー。1969年、富山県生まれ。日本総合研究所でSEとしてシステム開発に携わりながらFP資格を取得。1998年に独立し、各種セミナーや講演などで活躍。2009年に乳がん告知を受け、自らの実体験から、がんなどの病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。著書に『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動』(日本経済新聞出版)など。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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