ミニマリストの生活から学ぶ、ものとお金を上手に管理する方法。
「心地よく暮らしたい」というのは、誰もが願う永遠のテーマでしょう。情報も、ものも溢れている現代、自分にとって必要なものをしっかり見極めて選び取るのは、なかなか難しいことなのかもしれません。
そんななか、注目を浴びているのが、シンプルに暮らすミニマリストです。自分に合うものを見極めて必要最小限のもので暮らす生活は、ものの取捨選択や片づけに悩む私たちにとって参考になることが多いはず。
そこで、人気コミックエッセイシリーズ『わたしのウチには、なんにもない。』の作者であり、ミニマリスト的な暮らしをされている、ゆるりまいさんにお話を伺ってみることにしました。ゆるりさんが語る、もの、物欲、そしてお金との付き合い方とは?
目次
ミニマリストの生活スタイル。
「自分をミニマリストと呼んでいいのかはわかりませんが、何かの参考になれば幸いです。正直なところまだわからないことだらけで、いまだにもの選びには失敗します。いらなかったなと思い手放して、傾向と対策は自分の中で少し見えてきたのかな」とゆるりさんは話します。
そもそもミニマリストとは何でしょう? 解釈は人それぞれですが、よく言われているのが「必要最小限のもので生活している人」です。
『人生がときめく片づけの魔法』近藤麻理恵(2010年)が日本国内で150万部を超えるベストセラーになり、やましたひでこさんの提唱する「断捨離(R)」も注目を浴び、「片づけ」や「捨てること」は社会現象にまでなりました。
その後「ミニマリスト」という言葉が日本で大きく広まったのは2015年ごろのこと。
以降、ミニマリストという考え方や生活スタイルが注目されるようになっていきました。
東日本大震災を機にミニマリスト的な生活を志向。
もので溢れた実家で育ったというゆるりさん。押し入れやタンスに、ご先祖さまのものや使わない布団などがぎっしり入り、自分のものをしまうスペースが見つからないほどだったそう。
高校生くらいから片づけを意識しはじめたものの一緒に暮らす祖母や母親との考え方の違いもあり、うまくは進みませんでした。社会人になって仕事が忙しくなると、探しものが見つからないことやものが散乱していて歩きにくいことに、心が休まらない日々。
そんななか、ゆるりさんと家族にとって大きな転機となったのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。家じゅうのものが凶器に変わる様子を目の当たりにして、「この日ほど、家にものがたくさんあることを後悔したことはない」と自身の漫画で振り返っています。
幸いなことに家族は無事だったものの、猫のゆうちゃんが瓦礫の下に隠れてしまったり、避難生活に必要なものが見つからなかったり、ものが多いことの不便さを強く実感したそうです。
その後、住めなくなった実家を解体して片づけるなかで、家族とお互い歩み寄りながら、ものを処分していきました。家を建て直し、震災当時は婚約中だった現在の夫と4人暮らしに。
新居で暮らしはじめてから約10年。ゆるりさんは今、すっきりと片づいた家でミニマリスト的生活をされています。
ミニマリスト的生活のメリット。
「今の家はいつでも人を呼べるのがいいなって思います。汚部屋だった当時は友達が来るのは一大イベントで、何日も前から予約しておかないといけなくて。今、息子が友達を連れて来たいと言ったときに、いつでも“いいよ”って答えられるのが幸せだなと感じます。
あと、新しくできたママ友が家に来たとき“え! なんでこんなに何もないんですか”とびっくりして会話が弾むなど、つかみは最高です(笑)」
ミニマリスト的生活で、ゆるりさんはほかにもさまざまなメリットを感じたそうです。
- 掃除が楽に早く終わる。
- 情報量が少ないから気持ちも落ち着く。
- 猫たちがものを誤飲しない&散らかさない。
- ものの管理が行き届く。
- 災害時にものが凶器にならない。
生活の心地よさだけでなく、安心も強く感じているようです。最近また1つ、不測の事態にも適応しやすいことを実感されたのだとか。
「2021年の5月に病気で倒れてしまい、緊急入院して手術をしました。とにかく急で、何も準備できなかったのですが、夫はものの場所がわかっていたので何も言わなくても必要なものをそろえてくれました。あとから必要と感じたものも自分で場所を覚えていたから“あそこにあれがあるはずだから持ってきてくれない?”と的確に伝えられました」
さらに、コロナ禍で、玄関をよりきれいに片づけることで、外出から帰ってきたときの消毒の動線がつくりやすくなったと言います。
ミニマリスト生活に必要なのは「捨てる知恵」。
ミニマリストと聞くと、「とにかくものを捨てまくる」「ものの少なさを追求している」イメージをもつ人も少なくないかもしれませんが、最初から思い切りよくものを処分できたわけではないようです。
ゆるりさんも、まずは明らかにゴミであるものを捨てるところからはじめて、その後「使わないものを捨てる」「自分に不要なものがわかってきて、捨てられるものが増える」と徐々に段階を上げていきました。
最終的には、当初は捨てるなんて考えに及ばなかったという、大型家具を処分するに至ったそうです。
しかし、そんなふうに血眼になってものを減らした時期を経て、今は「できるだけものを持ちたくない」「何が何でも捨てたい」という願望がなくなったそう。
「ものがないイコール正解ではないと思っています。何のために捨てるのかを頭に入れておくことが大事なんじゃないかなと。一時期の私は“捨てなきゃ”という思いに囚われていました。でも何のために捨てているんだろうと考えたときに、自分と家族が心地よく暮らすためにやっていたのだと気づきました」
捨てることはあくまでも心地よい空間をつくるための手段であって目的ではない。大切なのは自分も家族も快適に暮らせるものの量や片づけ方を追求することでした。
「自戒の意味も込めて伝えたいことは、自分がものを捨てはじめると気持ちよくなってきて相手に強要しがちということです。“あなたも捨てるべき”“私が捨ててあげる”という押しつけは、相手からしたら怖いですよね。家族とか友達とか、自分以外の人には“捨てなよ”と強要しないことが本当に大切だと思います」
ミニマリストのマネー&もの管理術。
ものを減らせばお金は増える!? ミニマリストのお財布事情。
ミニマリストや片づけ術の本を見ていると、「ものがない生活でお金が節約できる」と、経済面でもいい影響があったという方が多いようです。しかし、ゆるりさんはミニマリスト的暮らしをはじめたときにすごくお金を使ったそう。
「最初のころはいいものを持とうという意識が強すぎて、買い直すことが多くて、かえって高くついていたんですが、徐々にそれも落ち着いてきて無駄遣いは減ったと思います。とはいえ物欲があるので、持たない暮らしになった途端に貯金が増えたわけではありませんが、貯金を頑張っています。」
質のいいものを求めればお金もかかるし選ぶのも大変。それが自分に合わなくて処分してまた買い直さなくてはいけなくなったらなおさらです。
「一生ものと思って買うときほど後悔する率が高いかもしれない。結局のところ長く使ってみないとわからないので。一時期は人がいいというものを買ったりもしていましたが、大切なのは自分と家族に合っているかどうかです。万人にいいものってそうそうないので、基準を自分の中に見つけないと。
いっぱい失敗した結果、やっと自分に合うものがわかってきました。たとえばリネンやファブリック類は高いものを買わなくなりました。猫がいるし、子どもも小さいのですぐ汚れてしまって。それだったら安価で手ごろなものがウチには合うなと」
ミニマリスト流、物欲との付き合い方とは。
捨てるのも片づけるのも好きな一方、物欲がひときわ強いというゆるりさん。では心地よいものの量を保つために、その物欲とはどう向き合っているのでしょうか?
「ノートに“物欲帖”を付けています。買ったものの感想を書いておいて、月末に買ってよかったもの、悪かったものを振り返るようにしています。失敗したものとも向き合って記録しておくと今後の参考にできるし。
あと、毎日のバイオリズムが見えるようにしていて、この時期だと物欲が高まっちゃうなとか、寝不足が続くと物欲が高まりやすいなとか、生理前はメンタルが不安定になるなとか、自分を客観視するようにしています。
この時期は物欲が高まるから外に行かないようにしようとか、コントロールできるようになったらいいなと思っています」
「お金のかけ方にメリハリをつけるようにもしました。私の場合、バッグや靴が大好きなのでそこにお金をかけて、化粧品は高いものを買わないようにしています。
一時期はデパートコスメを買っていたんですけど、私のライフスタイルならプチプラコスメでも変わらないってことに気づいてしまって。締めるところは締めてお金の出入りをコントロールできるようになってきました」
ミニマリスト的思考を生活に役立てよう。
ミニマリストから学ぶ暮らしを整える方法。
ミニマリスト的な暮らしを10年続けるなかで、家族にも大きな変化がありました。ものの定位置を手に取りやすく片づけやすい場所に決めることで、元々片づけが苦手だった家族も、自然と片づけられるようになりました。ゆるりさんも、家族のものの捨てるスピードや扱い方を、より尊重するように変化していきました。
自分自身の一番大きな変化は「自分という人間がより深くわかったことかもしれない」とゆるりさんは振り返ります。
「何回も失敗して、勉強して、片づけたり、掃除したり、捨てたりする時間は、結局自分のことを見直す時間でもあるのかなって思うようになりました」
完璧なミニマリストになる必要はない!
ゆるりさん自身も決して達観しているわけではなく、常に考えて、変化し続けています。日々試行錯誤し、振り返りながら暮らしを変えていくプロセスそのものを楽しんでいることが伝わってきます。
「一時期、本当にものを持たないで暮らしてみたくなったことがあり、本当に好きなバッグ1、2個くらいで暮らしてみました。そしたら毎日が楽しくなくなってしまって。私にとってバッグは毎日楽しく過ごすための大事なアイテムなんだなって気づきました」
「暮らしを毎日楽しくさせてくれるアイテムは、人によっては本、時計、靴などいろいろ。好きなものを愛でる時間って幸せですね」
ミニマリスト的な生活を実践されているゆるりさんも、それに至るまでさまざまな葛藤や失敗を重ねていることがわかりました。
そのたびに立ち止まり、自分や家族、ものと対話を重ねながらみんなが居心地よく楽しく暮らせる道を模索してきました。その試行錯誤はこれからも続いていくようです。
「ものを持たないこと」は、あくまで今を気持ちよく暮らすための手段。自分にとってものやお金の本当の価値を見直すことこそが、豊かさにつながるのかもしれません。
写真提供/ゆるりまい
ゆるりまい
仙台市在住。漫画家、イラストレーター。夫、母、息子の人間3人+猫3匹暮らし。無駄なものが“なんにもない”家を目指すけど、ものも大好きな収集癖持ちという矛盾を抱えて道は険しい。計10冊の著書あり。『わたしのウチには、なんにもない。』シリーズ(KADOKAWA)は2016年に連続ドラマ化された。
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