子育てしやすい街はどう見つける?共働き世帯のための探し方。
共働きが当たり前になり、子育て支援が手厚く、住環境も良い街に住みたいと考えている子育て世代も多いのでは? とはいえ、自分たちにとって本当にふさわしい街かどうかを見極めるのは難しいもの。子育てしやすい街と出会うために必要な考え方やチェックポイントについて、教育ジャーナリストのおおたとしまささんの解説を交えて紹介します。
目次
変化する生活様式。子育て世代の実情。
子育て世代のライフスタイルは、子育てしやすい街選びに大きく影響します。まずは、子育て世代の実情についてチェックしてみましょう。
子育て世代にとって「共働き」は当たり前。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によれば、1980年以降共働き世帯は年々増加し、1990年代に入ると共働き世帯が専業主婦世帯を上まわりました。このように、共働きが当たり前になることで、「男性は働き、女性は家庭を守る」という考えは過去のものに。企業では男性の育休制度を取り入れるなど、子育てに対する社会の認識も大きく変化しています。
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯と共働き世帯 1980年~2020年」
核家族は全体の約6割。子育てには夫婦の協力が不可欠。
共働きに加え、核家族世帯の存在も無視できません。朝、お父さんが保育園に子どもを預けて、夕方お母さんが駆け込むように迎えに行くという状況は当たり前。祖父母などの家族に頼れない親たちは、子育てをチームプレーで行っているのが実情です。
コロナ禍でますます変化する働き方・生活様式。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、働き方や生活様式についてニューノーマルがうたわれ、子育ての環境も大きく変化しました。在宅勤務が増え、「通勤がなくなり時間に余裕がもてる」「保育園や学童保育所に夜遅くまで預ける必要がなくなり、子どもと一緒に過ごす時間が増えた」といったポジティブな声がある一方で、「子どもが自宅にいる時間が長く、仕事に集中できる時間が短い」など、新しい働き方や生活様式に合わせた住環境への課題を感じている人も少なくありません。勤務形態や生活が変化したことから、住む場所の選択肢も増え、コロナ禍を機に、子育てしやすい街への引っ越しを考えている人もいるのではないでしょうか。
ランキングは指標の1つ!子育てしやすい街は家族の数だけある。
「子育てしやすい街」と言っても、その定義や条件はさまざまです。いろいろな意見がありますが、やはり大切なのは、自分や家族が快適で幸せな生活を送れるかどうか。ミスマッチを防ぐためにも、街選びのポイントや考え方をしっかり押さえておきましょう。
子育てしやすい街ランキングは、より良い子育てのための1つの指標。
最近では、子育て支援の充実度、保育園や待機児童の数といった指標から「子育てしやすい街ランキング」が発表されるなど、子育てをテーマにした街選びへの注目度が高まっています。
とはいえ、すべての人がランキング上位の街に住めるわけではありません。教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、こうしたランキングはあくまでも「指標の1つ」であり、参考にするくらいにしたほうが良いと言います。
「子育て支援の充実度などは、生活していくうえで親にとって無視できないものです。そういう面では、非常に役立つ指標になると思います。候補になっている街があれば、ランキングに入っている街と比べて、どれくらい支援が手厚いのか調べることもできます。
このように、ランキングは学校選びでいう偏差値のようなもので、決して無視できない存在です。しかし、同時に子育て支援の充実度などは住む街を選択する要素の一部にすぎません。こうしたランキングの情報だけを信じて、住む街を選ぶというのは本末転倒だと思います」(おおたさん)
ランキングのような第三者の評価は積極的に利用しつつも、「私は私」と線引きをすることが街選びには欠かせないポイントです。
子育てしやすいかどうかを決めるのは親自身。
このようなランキングだけを鵜呑みしてはいけないもう1つの理由に、親のライフスタイルがあります。
「親は子育てにおける一番のリソース。ランキング上位の人気の街であろうと、親のライフスタイルにフィットしていなければ、自分にとって『子育てしやすい街』にはなりません。ランキング以前に、親のライフスタイルを守ることが子育ての大前提にあると考えてほしいと思います」(おおたさん)
まずは、自分たちのライフスタイルや価値観をしっかり把握しておくことが大切です。
子育てに向いている街探し3つのポイント。
では、具体的にどのような目線で街を探すと良いのでしょうか? おおたさんによれば、大きく3つのチェックポイントがあるといいます。
ポイント1 その街で子育てしている自分をイメージできるかどうか?
その街が自分や家族の価値観やフィーリングに合っているかを見極めるには、その街で子育てをしている自分を想像してみることです。「郊外の緑豊かな公園でゆっくり散歩している」「都心のタワーマンションに住んで仕事も子育ても全力投球」など、具体的なイメージを描いてみましょう。このイメージは人によってさまざまです。一般的に評価の高い街と言われていても、そこで生活する自分の家族が想像できないのであれば、自分たちにとっては「NO」ということ。自分たちにとっての「正解」を具体的にイメージしておきましょう。
ポイント2 その街には歴史・文化・自然との共生があるか?
もう1つのポイントは、歴史・文化・自然との共生です。歴史や文化がある街は、歴史のある建物があったり、時間をかけて育ってきた木々のある公園があったり、長い間そこにあったお店があるなど、どことなく人の気配や生活感があるものです。実際に街を歩いて、そういった雰囲気を感じ取ってみましょう。自然については、都会であっても公園に木陰やベンチがあるなど、住民が自然を感じられる工夫がされているかがポイントです。
支援制度や補助金といったものに比べれば、言語化することが難しいものですが、歴史や文化、自然との共生は「自然の大切さを常に意識している」「先祖から受け継いだものを次世代にも伝えよう」といった、その街に住む人々のあり方の表れでもあります。その街で育まれてきた価値を知るためには大切なポイントとなるでしょう。
ポイント3 公園で遊ぶたちの声は賑やかか、駄菓子屋さんはあるか?
最後にとても具体的なチェックポントをあげておきましょう。実際に候補の街を訪れることができるのなら、そこにある公園で遊ぶ子どもたちの様子を見てみてください。いきいきと大きな声を出して賑やかに遊んでいるか。それが許されているということは、子どもたちが子どもらしくあることが認められている街であるということです。
またその近くに駄菓子屋さんみたいな子どものたまり場があったら最高です。駄菓子屋さんは子どもたちの社交場であり、お小遣いを実際に使ってみるなど、直接社会との関わりを経験する入口です。そういう場所が守られている街では、子どもたちが健やかに育つために何が必要なのかを住民たちがよく理解しており、それがその街の文化になっているといえます。
理想の街に出会えなかったとしても……。
とはいえ、こうした理想的な条件がそろわなくても決して悲観する必要はないとおおたさんは言います。
「究極的に言えば、人はたいていの場所で生きていけます。生まれてくる時代や場所は選べませんが、世界中のほとんどの人はその土地でたくましく生きています。アラスカの大氷原でも、サハラ砂漠でも人は生活していますし、子どもも育ちます。専門用語で『ロバストネス(頑強性)』といいますが、人は環境に適応し、そこから生きる糧を得ているのです」(おおたさん)
子育てには常に不安がつきものです。しかし、失敗したくないという気持ちが強すぎると、逆に自分を不自由にしてしまうこともあります。「どんな場所でも生きていける、大丈夫」という楽観的な気持ちももちあわせておきたいものです。
どんな環境でも前向きな姿勢が大切。
子育てしやすい街を追求することは大切ですが、重要なのは、どの街で暮らすことになっても前向きに生活していくんだという親の姿勢です。
イキイキと生活している親の姿を見せること。
どんな環境であっても、その環境を受け入れて、前向きに楽しむという姿勢こそが大切だと、おおたさんは言います。
「前向きな親の姿、あり方が子どもに伝わり、本当の意味での『生きやすさ』につながっていきます。自分でどうにもできないことに振り回されるということは、言い換えればそれがなければ生きていけないと言っているようなもの。『先行きが見えない時代』と言われる昨今では特に、今ある環境を受け入れて活かしていく力は、これまで以上に大切になってくるでしょう」(おおたさん)
「自分たちでこの街の文化をつくる」当事者意識を大切に。
もし、いま住んでいる街が理想の環境でないのであれば、自分たちで取り組んでみるというのも1つの手です。「地域のコミュニティセンターに顔を出してみる」「共感してくれる近所の親たちと雑談してみる」など、できる範囲のことで構いません。何か1つでも自分たちが当事者になることで大きな変化を得られるでしょう。
「自分たちが欲しいものを自分たちでつくっていくという姿勢は、とても重要だと思います。あれも、これもできないと嘆いている人と、いまあるものを最大限に活かしていこうという人では、同じ環境にいても得られるものはまったく異なります。あるもの・できることに価値を置くことが大切です」(おおたさん)
自分に合った子育てしやすい街を見つけよう。
保育園の数や待機児童数、自治体の支援など数値的な条件だけで住む街を決めてしまうと、ミスマッチが起きかねません。自分にとっての「子育てしやすい街」を見つけるためには、家族のライフスタイルや価値観を大切に、歴史や文化、自然との共生といった人が生きるうえで大切にしてきた普遍的な事柄を感じ取り、総合的に判断することが大切です。
写真/Getty Images
おおた としまさ
教育ジャーナリスト
1973年、東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌の編集に携わる。学校や塾、保護者の現状に詳しく、各種メディアへの出演・著書も多数。中高の教員免許をもち、小学校の非常勤講師や心理カウンセラーの経験もある。
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