放置は危険?眼精疲労の治し方と予防策
「最近、目が疲れるなぁ」「なんだか見えづらくなったなぁ」などと感じることはありませんか?不調を感じつつも「まぁ、すぐに治るだろう」と放置していませんか?もし、その症状が眼精疲労だとしたら、放っておいて自然に治るものではありません。
日本眼科学会眼科専門医で医学博士の平松類先生は、「眼精疲労は、現代社会に人間の体が適応できていないために起こる、ある種の生活習慣病」と指摘します。
全身の不調をも引き起こす可能性のある眼精疲労のメカニズムと予防法を解説します。
目次
眼精疲労と疲れ目は別物。
「疲れ目=眼精疲労」だと思っていませんか?眼精疲労は、ただの疲れ目ではありません。
眼精疲労と疲れ目の違い。
疲れ目とは、目を使うことによって目が疲れた状態になること。目のかすみや充血といった症状が出ることもありますが、目を休めることで症状は改善されます。一方、眼精疲労は目の疲れが蓄積し、場合によっては頭痛や肩こりなど全身に症状がおよびます。1日~2日休んでも症状が改善することはほとんどありません。
全身に眼精疲労の影響が出るメカニズム。
たとえば、何かしらの理由でピントが合わず視界がぼやけると、その視覚情報を受け取った脳は、ぼやけた部分を推測して補完します。これは、非常に大きな負担で、そのため脳は疲れてしまいます。この蓄積が「脳疲労」となり、その影響が全身におよぶことで、目だけではなく全身に眼精疲労による症状が出てしまうのです。
眼精疲労は生活習慣病?
目のピント調節は、目の奥にある筋肉「毛様体筋(もうようたいきん)」によって目のレンズ「水晶体」の厚さを調整することで行われています。
この毛様体筋は、遠くを見るときにはゆるんで脱力した状態、近くを見るときには収縮して力が入った状態です。そのため、近くを見るときのほうが目に負担がかかります。実は、もともと人間の目は、近くを見るのに適していないのです。
近年、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスが普及し、手もとを見る時間が格段に増えました。眼精疲労は、目の負担が増えた現代社会の生活習慣によってもたらされた病気といえるかもしれません。
眼精疲労の主な症状。
眼精疲労にはさまざまな症状がありますが、どのような症状が出るのかは人それぞれです。逆に、ずっと悩んでいた体調不良の原因が眼精疲労だった、ということもあります。
目が痛む・かすむ。
手もとを長時間見ている必要のある作業では、毛様体筋にかなりの緊張が強いられます。そのため、目に痛みを感じたり、ピントを合わせる機能が低下して目がかすんだりします。
目が充血する。
目は疲れると、回復させるために酸素や栄養をたくさん取り込もうとします。その結果、目の血流量が増えて血管が広がります。これが目の充血となって現れます。
肩がこる。
近くを見続けていると、同じ姿勢で首や肩の筋肉も緊張し続けることになります。血行が悪くなり、筋肉がこり固まった状態となって「肩こり」が生じます。特に、スマートフォンやパソコンを長時間見ていると肩こりを感じる人は多いようです。これには、自律神経の乱れが関係していると考えられます。
人間の体は本来、手もとを見る作業をしているとき、体をリラックスさせる「副交感神経」が優位になります。しかし、スマートフォンやパソコンを見ているときは、入ってくる情報に脳が刺激され、さらに、画面から発せられるブルーライトの影響もあり、体を緊張させる「交感神経」が活性化します。この自律神経の乱れも肩こりの原因になるのです。
頭痛・めまい・吐き気を引き起こす。
先述のように、眼精疲労は「脳の疲労」でもあります。頭痛が症状として出るのも、脳を使いすぎると脳内で炎症が起き、痛みとなって現れるからです。頭痛のほか、めまいや吐き気を引き起こすこともあります。
イライラする。集中力が低下する。
目が疲れ、ぼやけていてよく見えない状態はストレスを感じるもの。イライラするのも当然でしょう。また、集中力の低下も脳の疲労が原因のひとつです。ピントが合っていないぼやけた画像を補正することに脳のリソースが使われるため、ほかの作業に使えなくなってしまうのです。
眼精疲労を引き起こす要因。
目の病気から生活習慣まで、眼精疲労を引き起こす要因はさまざまです。
遠視の人。
遠視の人は眼精疲労になりやすいといわれています。視力が正常な人や近視の人は、近くを見るときだけ毛様体筋を使いますが、遠視の人は、遠くを見るときにも毛様体筋を使ってレンズの厚さを調整しているため、目に疲労がたまりやすいのです。
目が乾きがちな人。
目の乾燥は眼精疲労の最大の原因です。そして、目の乾燥を引き起こす3大要因が、「3つのコン」といわれる、エアコン・コンタクトレンズ・パソコンです。
エアコンは空気を乾燥させます。コンタクトレンズは目の水分を奪います。そして、パソコンは、作業中にまばたきの回数が減るため目が乾燥してしまいます。通常、人間は1分間に10回~20回前後まばたきをしているといわれています。しかし、デジタルデバイスを使っているときは回数が減少し、6回~7回まで減ってしまうのです。
1日4時間以上パソコンに向かっている人。
仕事でパソコンを使う人の8割~9割が目の疲れ・痛みを感じ、その多くが眼精疲労だといわれています。パソコンの画面を長時間見続けていると毛様体筋が緊張して筋肉疲労を起こしてしまいますし、目も乾燥しがち。1日4時間以上、デジタルデバイスに向かっている人は、眼精疲労のリスクがあると考えたほうがいいでしょう。
メガネやコンタクトレンズが合っていない人。
メガネやコンタクトレンズの度数が合っていないと、なんとかピントを合わせようと、毛様体筋が緊張します。その状態が続くことで、眼精疲労を引き起こしてしまいます。
目の病気がある人。
白内障や緑内障といった目の病気だけでなく、近視・乱視・老眼といった症状も眼精疲労の原因となります。メカニズムは、メガネやコンタクトレンズが合っていないのと同じです。一方、「眼精疲労で見えにくいと思っていたら目の病気だった」ということも珍しくありません。
眼精疲労を解消する方法。
眼精疲労は、目の酷使が積もり積もって症状として出るもので、残念ながら簡単には治りません。しかし、時間がかかりますが、日々のケアを続けることで改善することもあります。
治療で原因を取り除く。
眼精疲労の原因を治療することで改善へ導ける場合があります。たとえば、ドライアイが原因なら点眼薬を処方します。
メガネやコンタクトレンズが合わないのであれば度数を調整したり、場合によって使用を休止したりすることもあります。また、緑内障や白内障などの病気があれば、その治療をします。
目を温める。
目とそのまわりを温めることで、血流がよくなり緊張した筋肉をゆるめられます。軽く絞ったタオルを電子レンジで40秒~50秒ほど温め、5分程度目に置きましょう。温度は40度前後がベストで、朝晩1回ずつ行います。
市販のホットアイマスクを使ってもいいでしょう。また、外出先などで「目が疲れたな」と思ったら、両手を軽くこすりあわせたあとカップ状にして、30秒ほど目にかぶせてみてください。簡易ホットアイマスクになります。
遠くを見る。
手もとを見る作業が続いたときは、遠くを見て、緊張した毛様体筋をゆるめましょう。6メートルほど先を見るのがベストだといわれていますが、2メートル程度でも効果はあります。60分に1回程度、10秒~20秒ほど遠くを見るのがいいでしょう。
目のストレッチをする。
目から30センチほど離れたところに指を出し、ピントを合わせます。そこから、腕が伸びきるくらいまで指を離したら、ぼんやりするところまで近づける。これを10回程度繰り返します。
ツボを押す。
目の疲労回復に効果的なツボがいくつかあります。「痛気持ちいい」くらいの強さで5秒ほど押します。
- 攅竹(さんちく):眉頭
- 太陽(たいよう):こめかみのやや内側、少しくぼんだ部分
- 睛明(せいめい):目頭の内側、やや上方のくぼんだ部分
また親指と人差し指の交わったところにある「合谷(ごうこく)」は「万能のツボ」です。脳に刺激が伝わりやすく、眼精疲労にも効果が期待できます。
眼精疲労の予防策。
眼精疲労は日々の生活習慣がきっかけとなりやすく、目の疲れが積み重なることで悪化してしまいます。目を休ませ、脳を休ませる生活を意識することが眼精疲労の予防につながります。
パソコンやスマートフォンの使用時は姿勢に気をつける。
パソコンのモニターは、上端がまっすぐ前を見たときの目線から下15度くらいになるよう調節しましょう。少し下を見て、作業をするのがベストです。上を見る姿勢では、まぶたが開いてしまいドライアイにつながるからです。そして、60分に1回は休憩をとり、遠くを見るようにしましょう。
意識的にまばたきをする。
集中して作業をしていると、まばたきの回数が減ってしまいます。意識的にまばたきをしましょう。
睡眠の質を改善し、脳を休ませる。
睡眠の質をよくするためには、特に、寝る直前の「スマホ習慣」をやめましょう。画面から発せられるブルーライトによって、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌が阻害され、深い眠りに入れなくなってしまいます。
ナイトルーティンを変えて、スマートフォンやパソコンは、就寝する30分以上前まで。そのあと、歯みがきや翌日の準備などをして、布団に入るようにしてみてはいかがでしょうか。なお、寝室の照明は、顔に光が当たらないような間接照明がおすすめです。
老眼鏡を使う。
近くを見るのにつらさを感じたら、度数の弱い老眼鏡を使うのもひとつの方法です。また、近視の人であれば、メガネの度数を少し弱めるのもおすすめ。手もとを見続ける際の目の負担が減り、脳の疲れも軽減できます。
緑の濃い野菜を食べる。
目に効果的な成分として、最近注目を集めているのが「ルテイン」です。ルテインは緑黄色野菜に含まれる色素で、活性酸素を抑える抗酸化作用を持っているため、光のダメージから目を守ってくれます。
抗酸化作用のある成分はほかにもありますが、ルテインがすごいのは、目にとどまって働いてくれるということ。ルテインは、ほうれん草やゴーヤー、ブロッコリーなど緑が濃い野菜に含まれています。体内でつくられる成分ではないので、食物から積極的に摂っていきましょう。
眼精疲労をあなどらないで。
今や、パソコンやスマートフォンなどデジタルデバイスが手放せない時代になりました。私たちの日常生活は、目と脳に大きな負担をかけやすくなっているのです。
眼精疲労は、こうした社会や環境によって起きやすい生活習慣病の性質があることを自覚し、デジタルデバイスとうまくつきあっていくことが大切です。目と脳を意識的に休ませるなど、日ごろからのケアを意識しましょう。
写真/Getty Images、PIXTA イラスト/こつじゆい
平松 類
眼科医。1978年、愛知県出身。昭和大学大学院医学研究科修了。現在、二本松眼科病院副院長として治療にあたりながら、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などメディアを通じ、わかりやすい医療情報を積極的に発信。YouTube「眼科医平松類『二本松眼科病院』」では目の病気の情報を紹介。『自分でできる! 人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)など著作多数。医学博士。
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