「生理がこない」は病気のシグナルかも?生理不順の原因・症状を医師が解説。
女性にとって、生理は憂鬱なものかもしれません。しかし、毎月やってくる生理は体の調子を教えてくれる大切なサインです。その生理周期が大きく乱れる「生理不順」には、将来的に不妊の原因になる可能性や別の病気が隠れている場合があります。
そこで、生理不順だな、と思ったときに婦人科を受診する目安や治療方法について、“女性の健康”を専門とする産婦人科医の伊東宗毅先生と女性内科医の伊東佳子先生に解説していただきました。
目次
生理不順って何?
生理不順を理解するには、まず生理のしくみと、生理と関係が深い排卵について知っておきましょう。
生理と排卵の関係。
思春期になると、女性の体の中で女性ホルモンが働きはじめ、妊娠に必要な卵を定期的に1つずつ卵巣から排出するようになります。これを「排卵」といいます。子宮内膜は排卵に向けて厚くなり、排卵が起こると安定し、妊娠に向けて受精卵をキャッチして育てられるよう準備をはじめます。しかし、妊娠しなかった場合には子宮内膜ははがれ落ち、体の外へ排出されます。これを生理と呼び、約1か月の周期で繰り返されます。なお、一般的には「生理」ということが多いですが、医学用語では「月経」といいます。
排卵と女性の体温。
女性ホルモンの影響で、女性の体は通常0.3℃~0.5℃くらいの微妙な体温変化があり、大きく分けて低温期と高温期の時期を繰り返しています。個人差はありますが、平均的な生理周期の28日型では生理開始から約14日間低温期が続き、排卵のころに体温が高くなり約14日間の高温期に入ります。そしてまた次の生理がはじまるころに体温が低くなるという具合に続きます。
排卵は低温期から高温期に移行する間に起こります。排卵後の高温期はほとんどの人が14日程度で、生理周期の日数が人によって違うのは、排卵するまでの低温期の日数が異なるためです。
生理不順ってどんな状態?
正常な生理周期の日数は25日~38日と定義されています。毎回ピタッと同じ日数で生理がくる人もいれば、そのときによって数日ずれて生理がくる人もいます。多少の日数変動があっても、この期間の中で定期的に生理がきていればおおむね問題はありません。
この期間に当てはまらない場合は「生理不順」となります。生理不順には、排卵をしている場合と排卵が伴っていない場合があります。生理で出血している期間が1日~2日と短い場合を過短月経、8日以上と長い場合を過長月経といいます。
生理不順にみられる症状。
生理は周期や期間も大切ですが、まず排卵をしているのかどうかが重要になります。生理不順の症状を細かくみていきましょう。
頻発月経
2週間~3週間弱おきに生理がある(出血している)ことを「頻発月経」といいます。ホルモン分泌の乱れや卵巣機能の低下からくる低温期や高温期の短縮、無排卵性などが「頻発月経」を引き起こしています。女性ホルモンのバランスが乱れやすい初経のころや閉経期によくみられます。また、生理ではなく子宮や卵巣の病気によって出血を繰り返すことがありますが、それは「頻発月経」ではなく「不正性器出血」といいます。
稀発月経
生理周期が39日以上、3か月以内であることを「稀発月経」といいます。周期が長い場合は排卵しにくい状態になっていることが考えられますが、40日程度の周期で定期的に生理がきていて、排卵をしていることが確認できればそれほど問題はありません。
無排卵月経
「無排卵月経」は、生理のように子宮からの出血はあるけれど、排卵をしていない状態のことをいいます。頻発月経・稀発月経はこの無排卵月経になっている可能性があります。不妊の原因になり、女性ホルモン(エストロゲン)の低下がある場合は骨粗しょう症や脂質異常症を起こしやすくなります。
生理不順の原因と治療について。
ダイエットや生活習慣の乱れ、試験や仕事などによるプレッシャー、環境変化によるストレスなどによってホルモンバランスが崩れると生理不順が起きやすくなります。さらに、子宮や卵巣、甲状腺などの病気が生理不順を引き起こしている可能性があります。また、服薬中の薬の影響で生理不順になることもあります。ここでは、生理不順の原因となることが多い病気を4つ紹介します。
無排卵
排卵もなく生理もない「無月経」と、生理のような出血はあるけれど排卵していない「無排卵月経」があります。無排卵月経の場合、出血はあるので、妊活中など特に気にしていなければ無排卵になかなか気づきません。婦人科ではまず、基礎体温や血液検査、超音波検査などから排卵の有無を確認します。治療は、その人の状況に応じて妊娠の希望があれば排卵誘発剤などを使用します。直近の妊娠希望がなければ低用量ピルなどのホルモン療法を選択します。漢方治療などが選択される場合もあれば、体型が極端にやせている、肥満であるといったときには食生活や運動習慣などの生活改善も行います。
多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)
通常の排卵では、たくさんの卵胞が卵巣で成長しはじめ、その中の1個が成熟し排出されます。それ以外の卵胞は途中で成長が止まり、縮小してしまいます。しかし、途中で成長が止まった複数の卵胞が卵巣にとどまることで、ホルモンバランスが崩れ排卵障害を起こし、定期的に排卵ができなくなる状態が多嚢胞性卵巣症候群です。婦人科では血液検査でホルモン値、超音波検査で卵巣の様子をみて診断します。治療法はホルモンを調整するホルモン療法が基本になりますが、妊娠の希望の有無によって治療方針が変わります。また、多嚢胞性卵巣症候群がある人は肥満が原因で排卵障害を引き起こしている場合があり体重管理などを補助的に行うこともあります。
甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)
のど仏の下にある甲状腺から、私たちが生きるために必要な体の働きを維持する甲状腺ホルモンが分泌されています。その甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、新陳代謝に異常をきたす病気を甲状腺機能亢進症といいます。その影響のひとつに排卵障害があり、生理不順を引き起こす場合があります。診断は血液検査や超音波検査で行います。治療法は抗甲状腺薬の服用、放射性ヨウ素のカプセルを服用し甲状腺ホルモンの生成や分泌を減らすアイソトープ(放射性ヨウ素)治療、手術などの選択肢があります。妊娠の希望があるかどうかで治療方針が異なります。
高プロラクチン血症
プロラクチンは、通常産後の授乳期に多く分泌されるホルモンで、産後に体が妊娠前の状態に戻っていく産褥期(さんじょくき)や母乳を出している時期に妊娠しないよう排卵を抑える働きがあります。そのプロラクチンが、出産や授乳をしていないにもかかわらず、ストレスや服薬、腫瘍によって過剰に分泌されることを高プロラクチン血症といいます。血液検査によって診断され、症状には妊娠・出産をしていないのに母乳が出ることがあります。治療はプロラクチンの分泌を抑える薬の服用が検討されます。
婦人科はどのタイミングで受診する?
生理周期が安定していない、周期が25日~38日程度に収まっていない場合は受診を考えましょう。今月だけ生理が早くきた、もしくは遅くきたという場合、1周期だけならあまり心配しなくてもいいですが、続いたり頻発したりするときは受診したほうがよいでしょう。また、生理がこない、出血があったけどいつもと様子が違うときは要注意。妊娠も考えられるので、まずは市販の妊娠検査薬などで確認してみましょう。
まずは基礎体温をつけてみる。
基礎体温は女性の体を知るのにとても役立ちます。生理がずっとなく低温期が続いているなら排卵をしていない、低温期から高温期になったら排卵の時期、高温期が16日以上続くなら妊娠といった具合に女性の体の中で起きている変化を知る目安になります。
基礎体温を測るときは一般的な体温計ではなく、0.01℃単位まで測れる婦人用体温計(基礎体温計)を使用します。朝起きたときに起き上がらず体を横にしたまま、体温計を舌の下に挿入し、安静な状態で測ります。測るタイミングや姿勢は、正確なデータをとるための重要なポイントです。
さらに詳しく調べるには、婦人科を受診。
普段から基礎体温を測ることで、自分の生理周期のことを知ることができ、婦人科を受診する際にも基礎体温表を持参すると診察に役立つことがあります。婦人科では血液検査でホルモン値や、超音波検査で卵巣と子宮の様子を確認します。血液検査は生理がはじまってから5日目くらいまでのあいだに行うことが理想的なので、受診のタイミングによっては、血液検査は後日行うことになります。生理がなかなかこない人は、超音波検査で血液検査に適した時期かを判断して採血をすることもあります。
普段から自分の体の状態を知っておくようにしよう。
まずは基礎体温をつけて自分の体の状態を知っておくことが大切です。基礎体温をつけることで生理がいつくるかわからないストレスも減ります。そして、いつもと様子が違うなど、気になることがあれば、後回しにせず婦人科を受診するようにしましょう。生理不順をきっかけに婦人科系の病気がみつかることもあります。もし手術や入院となった場合は、費用負担も大きくなるので、婦人科系の病気を手厚くカバーする女性向けの医療保険に加入しておくと安心ですね。
取材・文/銚子怜美 写真/Adobe Stock
伊東宗毅
茅場町いとう医院 院長
埼玉医科大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療センター産婦人科、武蔵野赤十字病院産婦人科、赤心堂病院産婦人科勤務を経て2013年に産婦人科と女性内科の双方から女性をサポートする茅場町いとう医院を開設。月経に関する悩みから、妊婦健診や子宮がん検診、不妊症治療、更年期障害の悩みなど、「女性の健康」を専門としてあらゆるライフステージの女性に寄り添いながら日々診療にあたっている。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。
伊東佳子
茅場町いとう医院 副院長
埼玉医科大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療センター第四内科(現:腎・高血圧内科、神経内科)、つぶく医院勤務を経て現職。一般の内科診療に加え、女性内科では女性特有の症状を診療。変わり続ける女性のライフスタイルに合わせ、病気の予防や早期発見・食生活・運動・メンタルケアなど幅広くかかわりたいと、クリニックでは診療以外にも看護師や栄養士による相談会を開催し、鍼灸院やヨガスタジオとも連携。日本内科学会総合内科専門医。
※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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※ 病気の症状や治療の過程での副作用、感想には個人差があります。
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