体調不良は気圧による病気って本当?気象病を耳鼻科医が徹底解説。
「気象病」は、天気や気圧の変化によって頭痛やめまいなどが生じる病気です。症状が多岐にわたるため、それが気象病である自覚がない人も。気象病になりやすい人の特徴や対処法、予防法について、難聴や耳鳴りなどの原因や治療法を日々研究され、気象病にも詳しい耳鼻科医の神崎晶先生に教えてもらいました。
目次
気象病とは?
「気象病」あるいは「天気痛」とも呼ばれる、天気の変化によって生じる体調不良は、医学的に未解明な部分も多く、確立された病気ではありません。気圧の変動が大きく影響していると考えられていますが、発症原因はいまだ研究段階です。
気象病ってなに?
発症のメカニズムとして有力な説は、耳の奥にある内耳によるものです。内耳は、聴覚や平衡感覚を保つなどの役割のほか、気圧を感じるセンサーの役割も担っている可能性があります。急激な気圧の変化により、このセンサーが敏感に反応すると、その情報が脳へ過剰に伝わります。その結果、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが乱れ、さまざまな体調不良を引き起こすのではないかと考えられています。
主な症状は、頭痛・めまい・耳鳴り・急性低音障害型感音難聴(以下、低音難聴)・ぜんそく・腰痛・首や肩のこり・関節痛・むくみ・だるさ・気分の落ち込み・うつ症状などです。複数の症状が重なることもあり、特に訴える人が多い頭痛は、めまいや耳鳴りなどの症状を伴う場合もあります。
症状やその程度には個人差が大きく、敏感な人の場合、雨が降り出す前の低気圧の接近や、東南アジアなどの遠方で発生した台風によるわずかな気圧変動だけでも、症状が表れることがあります。
天候の急変で悪化することが多い。
耳鼻科では、台風やゲリラ豪雨後などの天候の急変があると、特にめまいによる受診が増えます。中でも、気圧の変化に影響を受けやすい、メニエール病の症状が悪化するケースをよく見かけます。
メニエール病は回転性のめまいが特徴で、そのほかに難聴・耳鳴り・耳のこもり感などを伴うこともあります。内耳の中には内リンパ液があり、通常であればその量は一定量に保たれていますが、ストレスや過労などが原因で量を維持できず、過剰になると発症します。
メニエール病の一種で、めまいを伴わない症状が低音難聴です。ストレスや過労、気圧の低下などによって、1,000Hz(ヘルツ)以下の低い音が聞こえづらくなります。程度はさまざまですが、症状は難聴と感じるというよりは、耳に水が入ったときのような詰まった感じや、耳のこもり感として自覚するケースが多いです。
気象病になりやすい時期。
気象病になりやすいのは、天候の変化が大きく、気圧の変動が大きい時期です。特に季節の変わり目の春(3月)と雨の日が多い梅雨時(6月~7月)、台風シーズンの秋(9月~10月)は要注意です。真夏は比較的、症状が出にくい人が多いですが、昨今は夏台風の到来やゲリラ豪雨なども増えているため、夏にも症状が出る人はいます。
時期的な傾向以外にも、1日の中で小刻みに移り変わる気圧の変動によって発症することもあります。
気象病になりやすい人の特徴。
気象病の発症には気圧の変動だけでなく、過労やストレスや睡眠不足なども深く関わっているとされています。症状を訴えるのは、20代~30代が中心で、また50代ぐらいまでの閉経前の女性にも多いです。特に女性は、月経時や月経前症候群(PMS)が表れる際に症状の悪化傾向が見られます。
男女共通の傾向として、睡眠不足は大きな発症要因とされています。日ごろ、連続して7時間以上の睡眠を確保できていない人では症状が出やすい傾向があります。気象病になりやすい人の特徴をまとめたので、自分がどのくらい当てはまるかチェックしてみてください。
〈気象病になりやすい人は?〉
□日ごろ、ストレスを感じることが多い。
□睡眠不足(睡眠時間が7時間未満)が続いている。
□昼寝などで断続的に睡眠をとるケースが多い。
□(女性の場合)月経時や月経前である。
□めまいを起こしやすい。
□頭痛持ちである。
□乗り物酔いしやすい。
気象病の対処法。
気候の変化によって気圧の変動があるかぎり、気象病を完全に避けることはできません。しかし、天候や気圧に左右されないように、事前に体調をある程度管理することは可能です。
十分な睡眠をとる。
気象病になりやすい人の傾向に、日常的な睡眠不足があります。日ごろ4時間~5時間しか眠れていない、または短時間で目が覚めてしまう、などの理由でまとまった睡眠がとれていない人は要注意です。
良質な睡眠を確保するための環境を整え、7時間以上の連続した睡眠をとるようにしましょう。十分な睡眠をとれるようになると、体調が天候に左右されづらくなります。
リラックスする。
気象病は、過労やストレスで交感神経が興奮気味になっていると発症しやすい傾向があります。日ごろからできるだけリラックスするように心がけましょう。ゆっくりと入浴をする、ストレッチやヨガを行う、心地よい音楽を聴くなど、自分に合ったリラックス法を見つけましょう。
軽い運動を習慣にする。
習慣的な軽い運動は全身の血流を促し、自律神経の調整やストレスの解消にもつながります。めまいが出ているときには無理をせず、横になって休むことが大切ですが、症状のないときには、軽いウオーキングや体操などを習慣にすると、めまいが起こりにくくなります。
気象病の予防方法。
気象病の症状の程度や症状の表れるタイミングは、個人差が大きいもの。予防するためにはまず、症状が出やすいタイミングを知り、その症状に応じた対策を講じることが大切です。
天気の変化を予測する。
自分がどんな気象条件で体調が悪化するのか、日ごろから、天気の動向と体調を照らしあわせてチェックする習慣をつけておくといいでしょう。
最近では、天気や気圧の変動を予測して、頭痛や体調不良に注意すべきタイミングを知らせてくれるスマートフォンアプリも登場しています。アプリ上に体調の変化や服薬履歴を記録でき、そのデータがたまると、頭痛などの発生しやすい気象条件を自動分析して警戒アラートが送られてきます。
こうしたアプリなども参考に、事前に体調の悪化した場合を加味して自身のスケジュールを立てるなどの工夫をしてみましょう。
医療機関へ相談する。
過労やストレスを避け、睡眠不足の解消や運動習慣などを見直したにもかかわらず、症状が改善しない場合には早めに医療機関に相談しましょう。
めまいの場合。
繰り返すめまいがあれば、一度、耳鼻科医の診察を受けておきましょう。めまいには、気象病のほか、脳腫瘍などの重篤な脳疾患のケースもあるため、注意が必要です。医療機関では、MRIなどによる検査や目の動きの観察、問診などから、めまいの種類が判別されます。低気圧の到来などにあわせて、医師から処方された薬を飲むことでめまいの予防も期待できます。
低音難聴の場合。
十分な睡眠や休養をとることで症状が治まることも多いですが、症状が治まらない場合は耳鼻科を受診しましょう。
頭痛の場合。
強い痛みが出て仕事に行けないなど、生活に支障をきたすようであれば、内科の頭痛外来や脳神経内科、脳神経外科を受診しましょう。市販薬で対処ができている場合も、近年は新たな頭痛薬が次々と開発されており、さまざまな頭痛のタイプに最適な頭痛薬を処方してもらえます。
耳鳴りの場合。
耳鼻科での治療は、就寝時に川が流れる音などの自然音を流す音響療法が一般的です。耳鳴りがまったく消えるわけではありませんが、ほとんど気にならなくなるケースが多いです。
気象病を疑ったら気象チェックと十分な睡眠・休養を。
原因不明の痛みや不調の原因は、天候や気圧の変化によるものかもしれません。発症するタイミングや症状は個人差が大きいので、自分でも「気象病」であることに気が付かないことも。原因不明の痛みや不調を感じたら、体調が悪化する気象条件などをチェックすることからはじめてみましょう。
根本的な改善のためには、十分な睡眠と休養や、習慣的な軽い運動などが大切です。それでも改善が見られないときは、医療機関の受診も検討しましょう。
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
神崎 晶
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室室長。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医・指導医、めまい相談医(日本平衡めまい学会)、耳科手術暫定指導医(日本耳科学会)。専門は特に慢性中耳炎、耳硬化症、突発性難聴やめまいを含む耳科や神経耳科疾患など。
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