(後編)犬山紙子 20代での母の介護とエッセイストデビュー、30代での育児。私が私らしくなるまで。
(前編はこちら)犬山紙子 20代での母の介護とエッセイストデビュー、30代での育児。私が私らしくなるまで。
執筆活動やテレビ番組でのコメンテーターをはじめ、多くのメディアで活躍する犬山紙子さん。インタビュー前編では、20代で迎えた母親の介護生活とデビュー作が話題になったこと、そして30代で訪れた出産という3つの転機について、ペルー料理店で束の間のひとときを過ごしているところへお邪魔して、お話を伺いました。後編では、お子さんの習いごとの話や、児童虐待の根絶を目指すために立ち上げたチーム、ご自身の未来について伺います。
子どもの進路が、答えの出ない目下の悩み。
──娘さんは現在4歳。そろそろ習いごとの話も出てきそうです。
まさに! 今朝も夫とその話をしてからここへ来たくらいにタイムリーな話題です。本当に悩んでますね。コロナ禍だったので、これまで何もしていなかったのですが、そろそろいいのかな、と思っています。
──東京は選択肢が多いですよね。
なので、とりあえず体験をいろいろとして、子どもが楽しそうかどうかを見て決めようかなと思います。子どもが嫌がったり、私が「あなたの将来のためになるのよ」という感じで無理矢理やらせるのだけはやめようと。
──「子どものしたい」か「親のしてもらいたい」か、どちらを優先しますか?
子どものしたいことを優先したいですね。私は子どもに「ああなってほしい」「こうなってほしい」というのが無いんです。なるべく健康でさえいてくれたらよくて、結婚してもしなくてもいいし。本当に自由を感じながら生きていってくれたら、それが一番だなと思っています。
──サポートは惜しまずされる?
すごく協力したいと思います。今子どもが好きなのはお絵かきと歌と踊り。「将来はお絵かき屋さんになりたい!」と言っているので、まずは絵の教室がいいかな、と。それに最近はバレエにも興味が出てきたようで、家で見様見真似で踊っているんです。なので一度バレエ教室を見学するのもいいなと思っていて。それで本当についこの間、自転車を飛ばして見に行ってきたところでした(笑)。
児童虐待をこの社会からなくしたい。
──近年、児童虐待への意識が高まり根絶のための活動をはじめられました。これは、お子さんが生まれたからでしょうか?
どちらかというと、これまでこの問題から逃げてきた罪悪感の蓄積によるものだと思います。ニュースを聞いて見て見ぬふりをできなくなりました。それまではニュースの内容がひどすぎて、まともに見ると心がしんどいからテレビを消しちゃおうと、そんな感じだったんです。でもコメンテーターの仕事をするようになると、そうできなくなって。向き合わなきゃいけないという思いが強くなりました。
──実際に起こったある事件がきっかけだったとか。
ニュースで「これは大人である私たちがどうにかしないといけない」といった趣旨のコメントをしたんです。子どもが声をあげて社会が変わるのを待つのはおかしいですから。そういう話をしたあとに帰宅して、これまでと変わらない生活を送れるかといったら、そうする自分が嫌だったんですね。それで「#こどものいのちはこどものもの」という虐待防止チームをつくりました。
──犬山さんのチームでの役割はどういうものですか?
専門家ではないので、できることは状況をシェアすることくらい。お役所が言うと堅く聞こえるところを、メンバーのみんなと一緒に噛み砕いてSNSで発信するなんていうこともやっています。事件が起きたらそのニュースを、すばらしい活動団体があればその紹介を、地道に根気よく続けていくことが役割なのだと思っています。
──長く続けていきたい活動だとも伺いました。
死ぬまで続けたいですね。最初の衝動ではじめながらもトーンダウンしてしまうようでは、タレントの気まぐれで無責任だととられてしまいますし。それに児童虐待に関して行動を起こさずにいるのは、やっと自分の中に生まれた芯のようなものがグニャリと曲がってしまう気がしたんです。だから、自分のためでもあるんです。
細く長く仕事をし、長生きがしたい。
──お子さんができて、お金の使い方は変わりましたか?
たくわえへの意識が高まっているのもそうですが、出費を抑える意識が出てきたと思います。フリマアプリを利用して服を買うことが多くなりましたし、電動自転車を購入したことで、今までならタクシーで行っていたところへ自転車で行くようになりました。それに貯金する分を先に確保する方式をとっています。
──10年後の理想の形があれば教えてください。
それは正直、まったくわからないですね。でも、今と変わらずその日その日を、たとえばサイクリングに行ったり、公園で遊んだり、きれいな花を見たりすることで、家族が楽しく笑い合えるような形を大切にしていると思います。
──ご自身についてはどうでしょうか?
健康に、長生きしたいなと思っていますね。細く長くでいいから、仕事を続けたいという気持ちが芽生えてきました。子どもに何かあったときに「絶対に味方だよ」と言えるだけの自信を得たいし、子どもが私を見たときに「お母さん、なんてダサい姿をさらしているんだ」と思われないようにしたい。そのためにも、親として誇れるような芯の通った仕事をしたいし、誇れるようなことを言いたいし、書きたい。そして、それがきれい事では意味がないのだと思っています。といっても、ずっとちゃらんぽらんだったのが、やっと普通になっただけなんですけどね(笑)。
テキスト:小山内隆 写真:三浦咲恵 取材協力:荒井商店
犬山 紙子
いぬやま・かみこ●1981年生まれ、大阪府出身。イラストエッセイスト、コラムニスト、コメンテーター。大学卒業後にファッション誌の編集者に。2011年、『負け美女ルックスが仇になる』(マガジンハウス)でデビュー。以降、TV、ラジオ、雑誌、Webなどで活動中。2014年に結婚し、2017年に第一子となる長女を出産。2018年、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「#こどものいのちはこどものもの」を発足。社会的養護を必要とする子どもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」のメンバーとしても活動中。