時短勤務はいつまで?延長できる?気になる育休明けの働き方
育児や介護を理由に、通常の労働時間よりも短い時間で働くことのできる時短勤務の制度。将来子どもを欲しいと思っていたり、育児休業中で時短勤務を考えていたりしているけれど、働き方や収入に不安を感じている人は多いのではないでしょうか。
そこで、企業担当者向けの産休・育休に関する著書の執筆歴があり、子どもを持つ人の働き方に詳しい特定社会保険労務士の宮武貴美さんが、時短勤務の制度内容や利用上の注意点について、詳しく解説します。
目次
時短勤務は法律上子どもが3歳になるまで。
時短勤務は法律で定められた制度で、制度を利用できる人や短縮できる時間にはルールがあります。時短勤務を考えるうえで、まずは知っておきたい時短勤務の制度内容について解説します。
時短勤務とは。
時短勤務は男女ともに育児や介護をしながら、働き続けられる社会を目指すための法律である「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)」で定められた制度の1つで、正式には「所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)」と言います。
2010年に企業に対して導入が義務化され、2012年からは常時100人以下の労働者を雇用する企業についても義務化されています。
時短勤務の法律上の定め。
短時間勤務制度(以下、時短勤務制度)は、3歳未満の子どもを養育する従業員が、所定労働時間よりも短い時間(原則として1日6時間)で働くことのできる制度です。
時短勤務制度は、基本的に男女を問わず申し出すれば利用できますが、日雇いの従業員や、1日の所定労働時間が6時間以下の従業員は利用することができません。また、労使協定を結ぶことにより、企業は時短勤務ができない従業員を定めることができます。
たとえば、入社して1年未満の従業員や、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員などがその対象です。そのため、育休中に転職を考えている人は、3歳未満の子どもを養育していても、転職先で時短勤務ができない可能性があります。
参考:e-Govポータル「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
参考:e-Govポータル「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」
3歳以降の対応は企業次第。
時短勤務制度の対象者は、「3歳未満の子どもを養育する従業員」と条件が定められているので、子どもが3歳になったら原則として時短勤務前の所定労働時間に戻ります。時短勤務ができる期間を延長したくても、従業員から企業に延長を強制することはできません。
しかし、3歳以降も保育園・幼稚園の送迎や、習い事に通わせたいといった理由から、時短勤務で働きたいと考える人は少なくありません。そうした要望を受けて、対象者を3歳以降に拡大している企業もあります。
厚生労働省の調査結果を見てみると、時短勤務制度を設けている事業所のうち、半数を超える55.8%が最長利用可能期間を法令通りの「3歳未満」に設定しています。
そのほか「3歳~小学校就学前の一定の年齢まで」が4.3%、「小学校就学の始期に達するまで」が13.9%、「小学校入学~小学校3年生(又は9歳)まで」が10.1%、「小学校4年生~小学校卒業(又は12歳)まで」が9.0%、「小学校卒業以降も利用可能」が7.0%という結果でした。
参考:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」事業所調査をもとにミラシル編集部にて作成。
さらに、厚生労働省では子どもが3歳以降~小学校就学前までの期間について、時短勤務やテレワーク、始業時刻の変更等の措置、時間単位で取得できる新たな休暇の付与などを組み合わせるといった制度を検討しており、今後はより柔軟に働き方が選択できるようになっていくことが予想されます。
参考:厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」(2023年)
時短勤務ってどんな働き方になる?
時短勤務をした場合、働く時間や残業時間は変わるのでしょうか? ここでは、時短勤務の働き方について解説します。
時短勤務は原則6時間勤務。
時短勤務制度は、所定労働時間を短縮する制度です。所定労働時間とは、就業規則などで定められた勤務時間で、法律では原則として1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められています。時短勤務の場合、原則として1日の労働時間は6時間に短縮されます。
ただし、最近では、原則の6時間に限らず、5時間勤務や7時間勤務など、短縮できる時間を選択できる制度を設けている企業もあります。また、勤務する時間帯については企業が決めることになっていますが、始業・終業の時刻を選べるようにしている企業もあります。
休憩時間については、労働基準法によって、働く時間が6時間を超えて8時間以下の場合、少なくとも45分の休憩を与えることが企業に義務付けられています。そのため、多くの企業では、時短勤務であっても45分から1時間の休憩を取ることにしています。
参考:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(2022年)
時短勤務は残業ができない?
時短勤務をしていても、会社から残業の指示があったときには、残業をする必要があります。ただし、3歳未満の子どもを養育する従業員が残業の免除(所定外労働の制限の制度)を申請した場合には、企業は原則として残業を指示することができません。これは、時短勤務制度と同時に申請することができます。残業ができない場合には申請をしておきましょう。
時短勤務で期待できること。
時短勤務をすることで、育児に割く時間が増え、ゆとりを持ってわが子と向き合うことができるようになります。習い事に通わせるなど、子どもの将来の可能性を広げる時間に充てることもできるでしょう。
また、育児休業からいきなり育児休業をする前の所定労働時間に復帰するよりも、時短勤務を挟んで段階的に働く時間を延ばすほうが、生活リズムを作ることができ、仕事と育児の両立をしやすいというメリットもあります。
時短勤務の注意点。
時短勤務の場合、いくつか注意すべき点があります。自分のライフスタイルやキャリアプランと照らし合わせながら、育児中の働き方について考えてみましょう。
収入の変化を把握する。
時短勤務の給与の取り扱いは、企業によって異なります。労働時間が8時間から6時間に短縮される場合、一般的に基本給も4分の3としていることが多いようです。
一方で、通勤手当や食事手当のように、時間に連動しない手当は満額支給されることが多いようです。
各種手当の扱いについても就業規則で確認し、時短勤務期間中の収入をシミュレーションしてみるとよいでしょう。そのとき、月収だけでなく、賞与も時短勤務に合わせた金額となることもあります。育児にはお金が必要になることもあるため、時短勤務のメリットと希望する年収とのバランスも考えておくとよいでしょう。
また、退職金は通常、勤続年数に応じた金額となりますが、時短勤務で短縮された時間に応じた金額に減額されることも考えられます。時短勤務の影響を理解したうえで、どのような働き方にするか考えたいものです。
時短勤務中に、転職を考える人もいるかもしれません。その場合は、企業によって給与や各種手当、賞与の有無といった、給与の考え方が異なることを理解し、時短勤務終了後の給与も含めて長期的な視点で検討することが大切です。
キャリアが停滞する可能性がある。
時短勤務をした人によくある悩みとして、キャリアにブランクが生じることが挙げられます。実際、育児に時間を割いたり、子どもの病気などの突発的なことに対応できるようにしたりするため、補助的な仕事が中心となったり、労働時間が短くなったりすることで評価につながりづらくなってしまうケースもあるからです。
勤務先の制度やキャリアプランを考慮し、時短勤務をするか、仕事と育児を両立するうえでの育児・家事の役割分担をどうするか、夫婦で話し合っておきましょう。また、夫婦で乗り切るほかに、周りに育児を手伝ってもらえる人がいるのであれば、積極的にお願いすることも考えたいものです。
社会保険制度を確認しておく。
時短勤務で収入が下がると、社会保険料もそれに応じた額となります。社会保険料の支払いが減ると、将来の年金額も少なくなる可能性があります。
それを防ぐための制度として、厚生年金に「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」があります。この制度は、3歳未満の子どもを養育しているすべての人が対象で、育児休業の取得や時短勤務をしているかは関係ありません。
制度の内容は、3歳未満の子どもを養育している期間中に、養育前より月収が減少したとしても、子どもを養育する前の月収にもとづいて計算した年金額を将来受け取れるというものです。対象になる子どもを養育していれば自動的に適用されるわけではなく、企業を通じた年金事務所への申請が必要となります。
また、少子化対策の一環として、時短勤務中に給与が下がった場合に雇用保険から給付金を支給することも政府が検討しています。仕事と育児に関連する法律の動向は、こまめにチェックしておくとよいでしょう。
参考:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
【まとめ】時短勤務の制度を正しく理解したうえで、育児中の働き方を考えよう。
時短勤務制度は法律で定められている内容に加え、企業ごとに、より活用しやすい制度が設けられていることがあります。自社の制度を正しく理解したうえで、子どもが生まれたあとの生活や家族として大切にしたいこと、自分自身が描くキャリアプランなどを踏まえて、育児中の働き方を夫婦で考えてみてください。
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
宮武 貴美
特定社会保険労務士、産業カウンセラー。中小企業から東証プライム上場企業まで幅広い顧客を担当。インターネット上の情報サイト「労務ドットコム」の管理者であり、人事労務分野での最新情報の収集・発信力は日本屈指。『新版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本』(日本実業出版社)など、著書多数。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
※ 掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。
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