「なんとなく仕事休みたい」でも休めないとき、どうすれば?【医師解説】

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体調が悪いわけではないけれど、朝、「会社、休みたいなぁ」と思ったことはありませんか? それでも、病気でもないのに休んだら申し訳ない……と、重い体を引きずって会社に行っている人もいるかもしれません。

しかし、心療内科医の鈴木裕介先生は「気力のなさも含め、調子がよくないと感じたら休むべき!」ときっぱり。「休みたい」と心が欲するときの体の状態や、なぜ休むべきなのか、休めないときの対処法など、解説いただきました。

目次

なぜ仕事を休みたくなるのか。

なぜ仕事を休みたくなるのか。

「なんとなく仕事、休みたい」と思うとき、その理由はさまざまです。与えられた業務量が多すぎたり、職場の人間関係が悪かったり。そのほか仕事への不満や悩みなど、休みたくなる事情は千差万別でしょう。

ただ、共通しているのは、職場に強いストレッサー(ストレスの原因となるもの)があるということ。ストレスを受けて、本来よりもキャパシティ(許容量)に余裕がなくなり、職務をまっとうできる状態ではなくなっていると考えられます。

ストレスや疲労が蓄積すれば活動性や意欲は落ちるもの。それは、人間の体に備わった生理機能です。「なんとなく仕事、休みたい」「仕事に行くのがしんどい」という状態が続いていたとしたら、それは心と体からの「不調のサイン」だと受け止めてください。

「仕事を休みたい……」そのとき体に起きていること。

ストレスがかかると体に起きる変化。

「仕事を休みたい」と感じるとき、私たちの体には一体何が起きているのでしょうか?

ストレスがかかるとそれに対抗しようとして、副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されて交感神経が優位になります。交感神経が優位になると、血圧・血糖値・心拍数・体温・呼吸数が上がるなどして、活動性を上げて問題に対処しようとします。

ただ、これはいわば「短期決戦用」のしくみです。原始的なストレスは長く続くものではなく、天敵に襲われて「闘う」にしても「逃げる」にしてもその場限りのこと。動物の体はストレスを持続して受けることを前提としていないのです。

なので、コルチゾールはいずれ分泌されなくなります。そうすると、交感神経を活性化できなくなり、高いテンションを維持することが難しくなります。

すると今度は、体は少しずつ「防衛モード」に入り、副交感神経の「背側迷走神経」が優位になります。血圧が下がり脈も遅くなり、意識はボーッとして、脱力状態またはフリーズしたようになります。心と体をシャットダウンさせて、活動性を下げて、現状をやりすごそうとしているわけです。

もちろん、「仕事に行きたくない」という状態や背景は人それぞれで、一概にはいえません。ただ、仕事に行きたくない人のうちの何割かは、こうした自律神経の乱れが原因の可能性があります。

「なんとなく仕事、休みたい」は甘えではない。

「なんとなく仕事、休みたい」は甘えではない。

心も体も疲れているのに、自ら休めない人が少なくありません。そういう人からよく聞かれるのが、「病気でないのに休むのは甘え」「評価や印象が悪くなるのはイヤ」といった言葉です。

ただ、労働者には自己保健義務(自分の健康を保持し、パフォーマンスを持続的に安定させる義務)があります。そのために必要なものとして「休む技術」を身につけなくてはなりません。

参考:厚生労働省「労働安全衛生法第69条2項」

たとえば、野球やサッカーなどプロスポーツで応援しているチームの選手が、シーズン開始直後にケガで故障者リスト入りとなったら、「無理しないでコンディション整えなよ~」と思いますよね。

会社員として働くということは、ある種「ビジネス界のプロのプレーヤー」だということ。組織によっては、休暇をとるために、話の通し方や人間関係の作り方などが必要なケースもあるでしょう。ただ、プロである以上、「休む技術」も身につけなくてはならないのです。

休むことに罪悪感があったら、むしろ要注意!

休むことに罪悪感があったら、むしろ要注意!

「休むと周囲に迷惑をかけて申し訳ない」「みんな大変なのに自分だけ申し訳ない」と休むことに罪悪感を覚える人も少なくないようです。ただ、休むことに対して、「恐れ」や「罪悪感」を強く抱いているのであれば、むしろその「罪悪感」こそ、原因を探り、解決すべき問題だと思われます。

「罪悪感」は非常に対処が難しい感情で、たとえば、「この前、友達に言いすぎてしまった。申し訳ない」と反省し、次に友達に気遣いをもって接すれば関係性の改善に役立ちます。これは、適度な罪悪感といえます。

一方で、罪悪感による行動は、相手のことを考えているようで、自己中心的に陥りやすく、相手が望むものにならないことがあるのです。仕事で失敗をして、「顔向けできないから会社を辞めます」と上司に伝えたところで、上司はそんなことは望んでいないし、むしろ困らせるだけといったように。

休むことに過剰な罪悪感を抱いているようでしたら、まさに「休むべきタイミング」ともいえます。過剰な罪悪感には過去の傷ついた体験が関係している可能性もあり、それに対するケアも必要かもしれません。

休みたいけど休めないときの対処法。

休みたいけど休めないときの対処法。

「与えられた業務量が多すぎる」「職場の人間関係が悪い」など、ストレッサーはそれぞれですが、どんな場合でも、環境を調整してキャパシティを確保することが必要です。

まずは、「自分は今、キャパシティ不足に陥っている」ことに気づく必要があります。何にキャパシティを奪われているのかを特定し、そこから距離を置くことです。同時に対外的な活動にエネルギーを使うことを控え、心と体を回復させていきます。

自分なりのストレス対処法=コーピングをもつ。

「コーピング」とはストレスに対応するために意図的に行う「自分助け」のこと。もし、やる気が出ず、気力がわかない状態であれば、活性度を高める交感神経を刺激して、アクティブモードにスイッチを入れると抜け出すことができるかもしれません。

その方法としては、具体的に次のようなものがあります。もちろん、自分の中で「これをするとリフレッシュできる!」「ストレスが発散できる!」というものがほかにあれば、それを実践してみてください。

自分助け「コーピング」

エクササイズで緊張感をゆるめる。

疲れがひどく、行動を起こすエネルギーもない、という状態にあるとしたら、心も体も緊張や不安にとらわれている可能性があります。

そんなときは、緊張感をゆるめ、自律神経を整える役割を担う「腹側迷走神経」を働かせるエクササイズがおすすめです。ローゼンバーグという人が考案した、視線を動かすことで首の筋肉を軽く刺激するエクササイズです。理想は仰向け姿勢ですが、椅子に座ったままでも立ったままでもOKです。

エクササイズの様子。

ステップ1:手を組んで後頭部に置く

(指で頭の重さや頭蓋骨の硬さを感じ、後頭部で指の骨を感じる)

ステップ2:頭を固定したまま、目だけを動かして右を見る

ステップ3:目だけで右を見たまま30秒~60秒キープ

(つばを飲みたくなったり、あくびやため息が出たらリラックスしはじめた合図)

ステップ4:目を中央に戻し、まっすぐ前を見る

ステップ5:頭を固定したまま、目だけを動かし左を見る

ステップ6:目だけで左を見たまま30秒~60秒キープ

(リラックスしはじめた合図が出るまで)

信頼できる誰かに相談する。

すでにうつに近いような状態になっていると、自分がどういう状態にあるかの判断力も、どう対処すべきかの意思決定力も発揮できません。自分から「休みます」と言うことが難しい状態にまで追い込まれているわけです。

そのときは、誰でもいいので信頼できる他者に頼ったり、意見を仰いだりしましょう。「誰かに話をする」のもエネルギーが必要ですが、独力で回復していくのはとても難しいので、なんとか他者にアクセスすることが大切です。たとえば、同僚に社内チャットで相談してみるなど、できる範囲で一歩踏み出してみましょう。

適した機関に相談する。

専門家に頼るのも1つの選択肢です。医療機関としては、「精神科」か「心療内科」を受診することになります。精神科はメンタルを、心療内科はメンタルが原因の身体症状を守備範囲とします。ストレスが原因の胃潰瘍や高血圧、心理性の微熱などの体の症状を診るのは心療内科です。ただ精神科であっても「心療内科」の看板を掲げているところは多く、どちらを選ぶかはそれほど気にしなくてもいいでしょう。

また、医療機関ではありませんが「カウンセリングルーム」もあります。精神疾患が関係しない「心の悩み」も臨床心理士などに相談することができるので、気になる方は調べて、利用を検討してみてください。

【まとめ】思いきって休むのも1つの手。

心と体が求めているのですから、「休みたい」という気持ちを否定する必要はありません。「自分は今、キャパシティ不足に陥っている」と気づき、キャパシティを奪うストレッサーから距離を置き、ゆっくりと心と体を癒していきましょう。

休みたいときは、上司に相談し、しっかりと休む。それが自分にも職場にも大切なことなのです。

写真/PIXTA イラスト/こつじゆい


【監修者】鈴木 裕介 
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを開設し、院長に就任。研修医時代の近親者の自死をきっかけに、メンタルヘルスに深く関わるようになり、産業医活動や講演、企業のメンタルヘルス対策のコンサルティングなども行っている。主な著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。


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