

二拠点生活を実現するには?移住プランナーに聞く費用や暮らしのこと。
2つの地域に拠点を持ち、行き来しながら暮らす「二拠点生活(デュアルライフ)」。都会と田舎、それぞれのよさを気ままに楽しむそのライフスタイルに、近年注目が集まっています。働き方の多様化や、リモートワークの普及を1つの背景として、20代、30代でも二拠点生活を実践する人が出てきました。興味や憧れはあるけれど、なかなか一歩が踏み出せないという人も多いでしょう。
そこで、国内初の「移住プランナー」であり、自身も“三拠点生活”を実践するファイナンシャルプランナー(FP)の仲西康至さんに、二拠点生活のメリットや、費用、暮らし方など、その実態をうかがいました。
目次
- 二拠点生活ってどんな暮らし?
- 二拠点生活のメリットとは?
- 拠点を決めるポイントは?
- 拠点選びで気をつけたいことは?
- 費用は?子育ては?二拠点生活のよくある疑問。
- 【まとめ】手軽にはじめられる一時的居住から試してみるのがおすすめ。
二拠点生活ってどんな暮らし?

私は現在、地元である大阪と、北海道、鹿児島に拠点を置いて、行き来しながら生活しています。2006年、移住専門のファイナンシャルプランナーとなったタイミングで、自らも移住生活を実践すべく北海道に拠点を構えたのが二拠点生活のはじまりでした。なぜ北海道だったかというと、趣味のスキーを存分に楽しめるから。その後、2022年からは仕事を通じた縁で鹿児島にも住むことになり、今に至っています。
生活としては、一年のおよそ8割は北海道か鹿児島の田舎で、残り2割は大阪の都市で過ごしています。仕事はオフィスワークとリモートワークをバランスよく取り入れています。文化も自然環境もまったく違う場所での生活は刺激があっておもしろく、三拠点生活のとりこです。
二拠点生活をはじめるきっかけは?
私がこれまで受けた2,500組以上の移住の相談のうち、200組以上の方が移住や二拠点生活へと踏み出しています。20代、30代が二拠点生活をはじめるきっかけとして一番よくあるのは、アウトドアの趣味です。
たとえば、「サーフィンをしたいので海沿いで暮らしたい」など、趣味を存分に楽しむための拠点がほしい人は多いです。そのほかにも、「自然豊かな環境で子育てをしたい」というように自らの暮らしを充実させるべく、都会に加え田舎にも拠点を構えるケースが目立ちます。
二拠点生活が向くのはどんな人?
向き不向きでいうなら、旅が好きで移動や生活の変化が苦にならない人や、コミュニケーション能力が高く、新たな人間関係を築くのが好きな人は、二拠点生活に向いているでしょう。
二拠点生活ではどんなスタイルが主流?
「どんな二拠点生活を送るのか」への答えは人の数だけあり、「この方法が基本」と一概にはいえませんが、スタイルを決める指標を1つ挙げるなら、「住民票を移すかどうか」です。元々住んでいた都市に置いたままなら「一時的居住」、田舎に移すなら「定住」の選択をする人が多いように思います。
一時的居住の場合、ホテルを利用したり、サブスクで利用できる施設やマンスリー賃貸物件を借りたりして住居を確保しつつ、平日は都会、休日は田舎で過ごすといったスタイルがあります。
一方の定住だと、空き家バンク(※)などを活用して家を購入し、その地の住人として生活しながら、仕事があるときに都市へ出るというスタイルが目立ちます。もちろん、賃貸物件を借りたり、シェアハウスに入居したりする方もいます。
※ 市町村などの自治体から委託を受けた団体が運営しているサービスで、空き家を売りたい/貸したい人と、買いたい/借りたい人をマッチングするしくみ。
なお、定住は一見ハードルが高そうに思えるかもしれませんが、私の経験でいうと定住を選ぶ人の数は決して少なくありませんし、住んでみて後悔したという声もほとんど聞きません。
二拠点生活のメリットとは?

私が考える二拠点生活のメリットは、次の5つです。

自分の好きな地域に居住できる。
もっとも大きな魅力といえるのが、自分の好きな場所を選んでそこに住めることです。好きな場所にいられるだけで、1つの場所にとどまっていては味わえなかった喜びや充実感が得られます。
アウトドアや趣味を満喫できる。
それと付随して、その場所に魅力を感じた理由であろう、アウトドアや趣味を満喫でき、豊かな時間を過ごせます。
ウェルビーイングの向上を期待できる。
都会から離れて自然豊かな環境に身を置き、趣味を満喫していれば、ウェルビーイング(健康や幸福感、生活の質)が高まりやすいでしょう。
モチベーションの向上や新しいアイデアの発案につながる。
リフレッシュするなかで、仕事などへのモチベーションも回復し、新たなアイデアも生まれやすいでしょう。
新たな体験を家族で享受できる。
その土地の人々との出会いや関わり合いを通じて、家族ともども、これまでは得られなかった人生経験ができ、世界が広がります。
拠点を決めるポイントは?

海の近くや山のふもとなど、自分が住みたい環境があるとして、その条件を満たす場所は、探せばおそらくたくさん出てくるはずです。その中から、どうやって拠点を定めるべきか。ポイントは3つあります。
インスピレーションを大切にする。
一時的居住でも定住でも、その場所に実際に足を運んだときに、「この場所で暮らしたい」と自然に思えるかどうかが重要だと思います。あまり事前に条件を固めすぎるより、とにかく行ってみて、直感にしたがって拠点を選ぶほうがスムーズに一歩を踏み出せます。
納得できる住まいを見つける。
住まいとは、自らがリラックスできる最たる場所であり、特に定住なら家で過ごす時間も必然的に長くなります。住まいの質や、その家が気に入るかどうかは幸福度に関わる重要なポイントとなるため、そこは妥協せずに納得できる住まいを探すといいでしょう。
移動しやすい場所を選ぶ。
拠点が遠方になるほど交通費や配送料がかさみ、移動の体力も要します。それらが足かせとなって、二拠点生活を断念した例も見てきました。1拠点目から2拠点目への移動が無理なくかなう場所を選ぶと、二拠点生活を継続しやすくなります。
拠点選びで気をつけたいことは?
私は北海道という雪国、鹿児島という南国に拠点をおく暮らしをしています。自然豊かで満足度は高いですが、やはり移住して気づく注意点もあります。それら不便な点も含めて楽しめるのが一番ですが、事前に知っておくに越したことはありません。
雪深いエリアでは飛行機の遅延や欠航に注意。
冬期は北海道発の飛行機の遅延や欠航が頻繁に起こります。そのため、東京への出張がある場合などは、前泊が当たり前となります。
私の場合は、それに加えて鹿児島との行き来があります。直行便がないため、乗り継ぐ必要がありますが、飛行機の遅延や欠航が起こっても大丈夫なように、中継地の東京で1泊するなどの工夫が必要です。
南国エリアでは台風による物資不足に注意。
南国で怖いのは台風です。関東などと比較して、台風の速度が遅く停滞期間が長くなるため、物資が不足することがあります。私の住む鹿児島では、停電に備えて上陸の3日前から冷蔵庫の中身を空けるなどの準備をしています。
また、鹿児島の築年数の古い家は気密性が低く、すきま風が入る場合はとても寒く感じることがあります。逆に、北海道の住宅は気密性が高いので、冬でも過ごしやすいですね。
費用は?子育ては?二拠点生活のよくある疑問。

私がこれまで受けてきた数々の相談の中で、よく挙がってきたのが、「費用について」「子育てはどうするか」「コミュニティに馴染めるか」という3つの質問です。
費用はどれくらいかかる?
もっとも多いのが、費用に関する質問です。ただ、こればかりは千差万別で、選ぶ家の価格や移動距離と頻度などによって大きく変動します。ただ、生活費に関しては、元の1.5倍にはなると考えておくべきです。
ここでは、いきなりの長期移住ではなく、手軽にはじめられる一時的居住のモデルケースを紹介します。宿泊施設としては、施設をサブスクで利用できるものや移住体験用の住宅を想定しています。
ケース1:週末往来型二拠点生活。
夫婦で東京から茨城へ週末移住をしながら、大好きな釣りを満喫するケースでは、1か月に4往復したときの費用として以下を想定できます。釣り船レンタル料などは場所によって変わるため、あくまで一例であることをご了承ください。
土日×1か月、2人分の費用の目安
費目 | 内訳 | 金額 |
交通費 | 電車代 | 約5万円 |
宿泊費 | サブスク施設利用代 | 約11万円 |
食費 | 主に外食 | 約3万円 |
レジャー費 | 釣り船レンタル料 | 約4万円(1回1万円想定) |
合計 | 約23万円 |
ケース2:短期滞在型二拠点生活。
夫婦で東京から北海道へ移動し、1か月間リモートワークをしながらウインタースポーツを満喫するケースでは、費用として以下を想定できます。ここではこれから二拠点目への定住を本格的に検討していく方を想定して、自治体などが運営をする移住体験住宅を利用した例となっています。レンタカー代は会社によって、リフト代はスキー場によって金額差があり、あくまで一例になります。
1か月、2人分の費用の目安
費目 | 内訳 | 金額 |
交通費 | 飛行機代(1往復) | 約4万円 |
交通費 | レンタカー代金 | 約17万円 |
宿泊費 | 自治体の移住体験住宅利用代(暖房費を含む) | 約8万円 |
食費 | 主に自炊 | 約9万円 |
レジャー代 | リフト代 | 約11万円 |
合計 | 約49万円 |
そのほかにも、一時的居住では家具など必要なものが備わったマンスリー賃貸物件も便利ですが、利用する場合は「宿泊費」が大きく変わると考えてください。金額は物件のグレードによって大きく異なり、たとえば、北海道の富良野エリアで2人用の家を1か月借りると、20万円以上になります。また、冬季は暖房費なども含めて上乗せされるので注意が必要です。
長期移住の場合は、ここに引っ越し代や生活用品代、公的書類の交付手数料などの諸経費がかかります。また、リモートワークを前提とする場合、ネット環境を整えるための費用がかかることもあるでしょう。
重要なのは事前にきちんと費用を算出しておくことです。そのうえで経済的に無理のない範疇に収めるというのも、長く二拠点生活を楽しむためのコツといえます。
子育てをする場合の注意点とは?
二拠点生活でまず問題となるのは、住民票をどちらに置くかです。学校は基本的に住民票のあるところにしか通えないため、仮に新たな地に定住するつもりなら転校を視野に入れる必要があります。
ただ、近年は地方と都市の学校を行き来し、双方で教育を受けられる「デュアルスクール」などの制度も出てきています。まだあまり多く実施されてはいませんが、候補地にそうした教育支援があるか、事前に確認するといいでしょう。
転校をする場合、都会と田舎の学校では環境が大きく異なり、それが子どものストレスになります。特に思春期に入ると、精神的動揺が強くなりやすいため、私は「転校するなら小学校高学年までの間に実行する」ことをおすすめしています。また、あらかじめ子どもを候補地の学校に連れていき、「ここに通うのはどうだろう」ときちんと話をしてあげるのも大切だと思います。
なお、子どもが小さいうちから「高校、大学はどうなっているのか」と気にする人もいますが、あまり将来の教育環境を考えすぎると、二拠点生活に踏み出せなくなりかねません。スタートの段階では、義務教育の期間の子育てについて検討すれば十分でしょう。
地域コミュニティにどう馴染む?
新たな拠点の地域コミュニティに溶け込みたいなら、定住を選択するほうが有利です。地元民としても、たまに顔を出す「別荘族」より、地域に根を張ろうとする定住者のほうが、親近感がわくものです。
地域に馴染むコツは、まず聞き上手になること。地元の人たちの話にとにかく耳を傾け、地域について知りつつ仲を深めるのがスムーズです。逆に自分から都会の話題をどんどん話してしまうと周囲から浮いてしまいかねません。
自ら発信する情報としては、移住の目的をはっきりと話すことが大切です。「なんで都会からこんな田舎に来たのか」という質問は、必ずといっていいほど聞かれます。そこで「なんとなく……」とあいまいにせず、「私はこういうことがしたくて来ました」と目的をはっきり答えられると、信頼感が上がります。
なお、地元の行事や町内会への参加については、無理にすべて出ようとする必要はありません。それで精神的なストレスがかかるようだと、二拠点生活の魅力が半減してしまいます。自分が興味を持ったものを選んで参加すればいいでしょう。
【まとめ】手軽にはじめられる一時的居住から試してみるのがおすすめ。
二拠点生活は、それなりに生活費がかかりますが、一方で趣味を充実させ、人生に彩りをそえることができます。迷っている方は、まず一時的居住からはじめて、自分に合う居住スタイルを見つけてみてはいかがでしょうか。
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
【監修者】仲西 康至
移住プランナー、ファイナンシャルプランナー。2006年、「移住専門のファイナンシャルプランナー」として活動を開始し、自らも北海道の地方都市に移住。以来、2,500組以上の移住相談に応じ、多くの人の夢の実現を支援。2022年には鹿児島にも拠点を持ち、現在は大阪、北海道、鹿児島の三拠点生活を実践中。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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