【産婦人科の医師が解説】妊娠中の病気・異常。想定費用とともにチェックしよう。 【産婦人科の医師が解説】妊娠中の病気・異常。想定費用とともにチェックしよう。

妊娠中のトラブル。想定費用とともにチェックしよう。【産婦人科医解説】

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※ 文章表現の都合上、生命保険を「保険」、生命保険料を「保険料」と記載している部分があります。

妊娠すると体調が変化し、ときには治療が必要になる場合もあります。そこで、妊娠中になりやすい産科の病気や起きる可能性がある異常について、関東労災病院の産婦人科医・北麻里子先生に話を伺いました。また、治療にはどんな費用がかかるのかについても解説します。安心して妊娠・出産に臨むためにも、もしもの場合に備えて必要な知識を身に付けておきましょう。

目次

どんな妊婦さんがハイリスク?

妊娠すると体調が変化するので、もともと健康な方であっても病気にかかる可能性は高まります。特に、以下の場合は注意が必要です。

1.高齢妊娠の人。

初産婦35歳以上、経産婦(妊娠22週以降の分娩を経験したことのある産婦)40歳以上の妊娠は「高齢妊娠」と定義されます。

高齢妊娠は、流産・早産(妊娠22週目以降、妊娠37週目未満での出産)・妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群などのリスクが高まります。分娩では、若い女性と比べて産道の伸展性が乏しくなるため、難産になりやすく、帝王切開になる確率も上がります。

2.肥満(BMI25.0以上)の人。

妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群・緊急帝王切開・死産などのリスクが高まります。また、赤ちゃんが巨大児(4,000g以上)になることもあります。その場合、分娩時に母子ともに合併症などのリスクが生じます。

3.やせ(BMI18.5未満)の人。

切迫早産・早産・低出生体重児(2,500g未満)が生まれるリスクが高まります。低出生体重児は将来、冠動脈疾患・高血圧症・脂質代謝異常・糖尿病などの生活習慣病を発症する可能性が高くなります。

4.妊娠中に飲酒・喫煙をしている人。

妊娠中の飲酒は、流産や死産のリスクを高めます。加えて、妊娠初期の飲酒は、赤ちゃんに奇形・胎児発育不全・中枢神経障害を生じさせることも。お酒は少量でも胎児に影響する可能性があります。

また、妊娠中の喫煙は、流産・早産・常位胎盤早期剥離・前置胎盤などのリスクを高めます。赤ちゃんは、口唇口蓋裂・先天性心疾患・乳幼児突然死症候群・呼吸器感染症・中耳炎・喘息・肥満・高血圧・糖尿病などになる可能性があり、発育にも影響が出てしまうかもしれません。

「ハイリスク妊娠管理加算」で入院費が高くなることも。

妊娠中の病気・異常に関わる制度として、「ハイリスク妊娠管理加算」があります。

条件を満たしている施設が、妊娠22週から32週までの早産の方や、妊娠高血圧症候群重症の方など、ハイリスクな妊婦さんに対して、入院費に診療報酬を加算することが可能な制度です(1入院につき20日分まで)。つまり、妊娠中の病気リスクが高い妊婦さんは、通常より入院費が高くなる可能性があるのです。

なお、分娩についても「ハイリスク分娩管理加算」という同様の制度が存在します。

それでは、次から妊娠中にかかりやすい病気について、具体的に説明していきます。

【妊娠中の病気・異常】前置胎盤

胎盤が子宮の出口の一部、あるいは全部を覆っている状態をいいます。胎盤というのは、子宮が小さいうちは子宮の出口に近いところにありますが、妊娠が進むにつれて子宮が伸びていくため子宮の上のほうに移動していきます。そのため、妊娠28週ごろから胎盤の位置をみて診断します。前置胎盤になっている場合はこのころから出血が増え、中には突然大出血を起こす方もいます。

どんな人がなりやすい?

高齢妊娠・多胎・多産婦・以前に子宮の手術(帝王切開・流産・人工妊娠中絶手術・筋腫核出術など)を受けた人・喫煙者は、前置胎盤のリスクが高まります。

治療方法は?

出血が認められたら入院し、お腹が張らないように子宮収縮抑制剤を投与して安静にします。分娩は、子宮の出口に胎盤があるため、自然分娩では赤ちゃんが出てこられないので、帝王切開になります。妊娠33週ごろから自分の血液をためておくことも多く、輸血準備など万全の態勢を整えてから、妊娠38週までに手術を行います。

【妊娠中の病気・異常】前置胎盤

【妊娠中の病気・異常】妊娠糖尿病

妊娠をきっかけに発症する糖代謝異常です。自覚症状はなく、妊婦健診でわかることがほとんどです。

どんな人がなりやすい?

妊娠するとホルモン分泌の変化により血糖値が上昇することがあるので、妊婦なら誰でもなり得る病気といえます。特に糖尿病の家族歴がある・肥満・高齢妊娠・巨大児を出産したことがある方はハイリスクです。

治療方法は?

まず食事療法を行い、血糖値を正常値まで下げます。それでも血糖値が下がらない場合は、インスリン注射を行います。多くは通院治療となり、食事の内容・血糖値の測り方・インスリン注射の打ち方を病院で指導されたあと、自宅で治療を行います。

【妊娠中の病気・異常】切迫流産

妊娠22週未満に、流産の可能性が通常より高い状態にあることをいいます。主な症状は性器出血・腹部の張り・下腹部痛・腰痛など。出血があると切迫流産と診断されることが多いです。

どんな人がなりやすい?

まれに流産体質の方もいますが、原因不明な方のほうが多いです。

治療方法は?

自宅で安静にしていれば、多くの出血はそのうち止まります。ただし、出血量が多かったり、出血が頻回だったりと、出血の状態によっては入院することもあります。

【妊娠中の病気・異常】切迫早産

陣痛に似た症状が起こり、早産になる危険性が高い状態をいいます。具体的には、子宮の収縮が規則的かつ頻回に起こり、子宮口(子宮の出口)が開きやすくなっている状態です。お腹の張りや痛みがある場合もありますが、張りがなくても子宮口が開いている場合もあります。また、出血や破水が起こる場合もあります。

どんな人がなりやすい? 

これまで早産になったことがある方・子宮頚部の病気(子宮頚がんや子宮頚部異形成)で子宮頚部円錐切除手術を受けた方・多胎・細菌性膣症の方はハイリスクです。

治療方法は?

子宮収縮が頻回に起きる場合は入院し、子宮収縮抑制剤を使うことがあります。

【妊娠中の病気・異常】妊娠高血圧症候群

妊娠20週以降、分娩後12週までの間に高血圧(収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上)になる疾患です。重症になると痙攣発作・脳出血・肝臓や腎臓の機能障害が起きることがあります。赤ちゃんは発育が悪くなるほか、胎盤が子宮の壁から剥がれて酸素が届かなくなるなどで状態が悪くなり、場合によっては亡くなることも。また、妊娠前あるいは妊娠20週までに高血圧になっている場合を「高血圧合併妊娠」といい、まれにお母さんや赤ちゃんの死亡の原因になることがあります。

どんな人がなりやすい?

高血圧・糖尿病・腎臓の病気などにもともとかかっている方や、肥満・高齢妊娠・多胎妊娠・初産の方、家族に高血圧の人がいる方、以前に妊娠高血圧症候群になったことがある方はハイリスクです。ただ、これまで血圧に問題がなく、先に挙げた既往歴がなくても、妊娠すると血圧は上がる傾向があるので注意が必要です。多くは妊娠10か月に入ったころから血圧が上がりはじめます。中には、陣痛がはじまったり、分娩したりすると血圧が上がる方もいます。

治療方法は?

減塩食などの食事療法を行い、安静にします。それでも高血圧の状態が続くようなら降圧剤を使います。ただし、薬で血圧を下げすぎると胎児に影響を与えるので、血圧はやや高い状態を維持することになります。また、血圧が高い状態が続くようなら入院することもあります。降圧剤を使っても血圧が上がる場合は、胎児の状態が悪くなったり、育たなかったりする場合もあるので、時機をみて分娩誘発や緊急帝王切開を行います。

【妊娠中の病気・異常】妊娠高血圧症候群

妊娠中の病気・異常の治療費はどうまかなう?

病気になると治療費のことも心配になるかと思いますが、健康保険が適用される費用や、金銭面の助けになる制度など、お金のことについてお話ししていきます。

健康保険は使える?追加でかかる費用は?

医療費にあたる費用(診療費・薬代・検査代・入院料など)は健康保険が適用されます。帝王切開の手術費用も保険が適用され、適用後の手術費用自己負担額は、全国一律で緊急帝王切開が6万6,600円、予定帝王切開が6万420円になります。

ただし、医療費以外の、入院時の食事代・差額ベッド代・赤ちゃんの処置や手当にかかる費用・赤ちゃんの管理や保育にかかる費用などは自己負担になります。帝王切開を受ける場合を再び例に出すと、病院や治療方針、個室を利用するかどうかなどによって自己負担額が変わるので、自然分娩より高くなることもあります。

なお、食事代は減塩食など治療を兼ねているときは、保険適用になる場合もあります。

また、健康保険が適用される医療費も3割は自己負担になるため、切迫早産などで数か月の入院となると、それなりにお金がかかってきます。

中には、お金がかかるので退院したいという妊婦さんもいます。病気になると働けなくなって収入が減るほか、お子さんの面倒がみられずベビーシッターに預けるなど、医療費以外の金銭的な問題が出てくる方もいます。

加えて、妊娠中に病気になると妊婦健診の回数が増え、自治体からもらえる妊婦健診の補助券が足りなくなり、自費で健診を受けることになる場合もあります。

治療費の負担を軽減してくれる「高額療養費制度」。

医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月で上限額を超えた場合、その超えた額が支給され、医療費の負担が軽減される制度です。医療費は、複数の医療機関の自己負担分(69歳以下の場合は2万1,000円以上であることが必要)を合算できます。上限額は、年齢や所得によって定められています。

例:30歳・年収約400万円の方が、100万円の医療費で、窓口の負担(3割)が30万円かかった場合

・1か月の上限額(世帯ごと):8万100円+(医療費100万円−26万7,000円)×1%=8万7,430円

・高額療養費として支給される金額:30万円−8万7,430円=21万2,570円

また、条件を満たせば負担をさらに軽減できます。「世帯合算」では、同じ世帯にいるほかの方(同じ公的医療保険に加入している人に限る)の受診についても、自己負担分(69歳以下の方の場合は2万1,000円以上であることが必要)を合算できます。「多数回該当」では、過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となり、上限額が下がります。

参考:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」

民間の医療保険は検討すべき?

民間の医療保険の中には、女性特有の疾病や女性に多い特定の疾病により入院をしたとき、入院一時給付金を受け取れる商品があります。支払い対象となる妊娠・出産にかかわる病気や異常には、帝王切開・切迫早産・流産・妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群などがあげられます。

日本には健康保険制度や高額療養費制度がありますが、その一方で、入退院をくり返すような病気の患者さんが、長期入院による出費が増えるためか、「民間の医療保険に入っていてよかった」とおっしゃっているのを耳にすることも多いです。

医療費の多くは健康保険が適用されるとはいえ、健康保険が適用されない費用や、長期入院のリスクなどを考えると、もしもの場合に備えて医療保険を検討しておくと安心かと思います。

【まとめ】健康管理とお金で、万が一に備えよう。

最近では、将来の妊娠について考えながら自分たちの生活や健康に向き合う「プレコンセプションケア」という概念が注目されています。禁煙する、バランスのよい食事を心がけるなど、基本的なことばかりなので、健やかな妊娠・出産のためにもぜひ知っておいてほしいですね。

普段の健康管理で予防できる部分は予防し、万が一病気になった場合にも備えておけば、安心して妊娠・出産に臨むことができるはずですよ。

写真/Getty Images


北 麻里子
日本産科婦人科学会 専門医。臨床研修指導医、緩和ケア研修会、ICLSコース修了。関東労災病院に勤務。


※ この記事は、ミラシル編集部が監修者への取材をもとに、制作したものです。
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