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気象協会職員からお菓子職人へ。いろんな職業を経験した小島さんに聞く人生拡張のコツ。

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チョコミント味のメレンゲがスマッシュヒット。一躍人気となったスイーツショップ「上糖舶来」を港区白金台で営む小島和美さんは、これまで多くの転職を繰り返してきました。その職歴は、気象協会職員、グラフィックデザイナー、ウェブディレクターなどさまざま。「思い立ったらすぐ行動!」という小島さんに、これまでの数々のキャリアチェンジや天職との運命的な出合い、そしてこの先の未来についてうかがいました。

気象協会職員からグラフィックデザイナー、そしてウェブディレクターへ。転職は好奇心の赴くままに。

白金台の静かな住宅街でスイーツショップ「上糖舶来」を経営する小島和美さん。カラフルなメレンゲに加えて、旬のフルーツを使った生ケーキや焼き菓子、オーダーケーキも手づくりする同店ですが、実は小島さんがお菓子の世界に足を踏み入れたのは30代後半になってからでした。

「パティシエになる前は“私できます”って必死でアピールしながら仕事していたんです。でも何度も何度も転職していたら、その鎧がはがれていったんですよね」と色とりどりのかわいいお菓子に囲まれながら微笑み、「転職を重ねてきたから“天職”に出合えた」とも語りました。

「上糖舶来」店内でケーキづくりをする小島さん
ショップはアトリエも兼ね、小島さんは日々試作品にトライしているのだとか。

最初の仕事は、高校卒業後に生まれ育った香川県で就いた気象協会職員。同協会でのアルバイト経験が縁となり、仕事仲間の正職員から「臨時職員の募集があるよ」と知らされたのがきっかけでした。しかし安定した生活は送れていたものの仕事自体は単調で、刺激の少ない日々だったといいます。ほどなくして気象予報士になる目標を掲げたものの、資格試験は2回続けて不合格に。試験自体の難易度の高さもあって気象予報士は断念。「ほかに自分に合った居場所があるのかも……」という思いが強くなったと振り返ります。

「そこで、未経験者も採用していたグラフィックデザインの会社に転職したんです。そのころはMacを1台買えば誰でもデザインできるような時代で、“デザイナーになれたらかっこいいかも!”と、ちょっとミーハーな気持ちがきっかけでした(笑)。主な仕事は印刷物用のデザインで、デザイナーとしての技術は仕事をしながら少しずつ覚えていきました。ただ小さな会社で、そのうちもっとスケールの大きな仕事がしたくなってきて。2年勤めたあと、不動産会社の広告や販促ツールを手掛けるデザイン会社へまた転職しました」

これまで経験してきた仕事を振り返る小島さん

そこで小島さんが経験したのが、“社会に出て初めての挫折”でした。

「転職先は美大を出ている社員もいるような会社だったんです。ほとんどの人がデザイナーとしての基礎を学んで、身につけている人たちばかり。“デザインって専門的な技術職なんだ”と身に染みて感じましたし、自分のレベルの低さやセンスのなさも痛感して……」

それまでは「入ればなんとかなる!」と持ち前のバイタリティで、未経験分野にも飛び込んで成長してきた小島さん。しかし、このときはどれだけひたむきにがんばっても、求められるレベルと自分の実力との溝を埋められませんでした。

そこで、広告の世界でデザイナーとしての可能性を追求することはあきらめ、また“自分の居場所”を求めて次の会社へ。28歳での新天地に選んだのはウェブ制作の会社。当時はインターネット黎明期だったこともあり、「これからは紙よりウェブがおもしろそうだ」と、またしても“嗅覚”が働きました。

採用後に就いたのはディレクター職。携帯電話会社や大手通販会社のウェブサイト制作にたくさんのスタッフを取りまとめる立場で携わり、プロジェクトを動かす経験を重ねました。やがてチームリーダーも任され、「ウェブページの制作会社ならつくれそうだな」という気持ちが強まっていきます。そしてクライアントのサポートもあって31歳で独立。女性向け商品を扱うECサイトなどを制作する会社を設立しました。

お菓子の世界に入って直面した苦難。でも「続けたい」から「上糖舶来」をオープン。

「思い立ったら即行動」の小島さん。経営者になったあとも事業の成長を目指して東京に拠点を移すなどアクティブに動きます。しかし“嗅覚”が反応する方向へと身軽に渡り歩いていたスタンスが一転するきっかけがありました。それが、お菓子の世界との出合いでした。

「長く制作を担当していたウェブサイトで料理のレシピ連載をしていたら、あるとき先方から“お菓子レシピの連載をやってほしい”という依頼をいただいたんです。料理は幼いころから好きでしたが、お菓子を手掛けるのは初めて。これはしっかり学ばないといけないと思い、お菓子教室に習いに通ったら、とても楽しくて! まず自分の手でカタチにすることが楽しいし、そのお菓子を渡した友達や知人が喜んでくれることがうれしかったんです。オンラインでの通販のように、それまでは顔の見えづらいお客さんに対して一方通行のコミュニケーションをとる仕事が多かったので、ダイレクトに反応に触れられるお菓子の世界は素敵だなと虜になってしまいました」

「上糖舶来」の人気商品のメレンゲ
フルーツ果汁やリキュールで味わいをつけたキュートなメレンゲは「上糖舶来」の人気商品。

そこで本格的に和菓子と洋菓子が学べる夜間スクールに通うことを決心。3年かけて師範の資格を取得します。その後、本格的にお菓子の世界へ軸足を移すためにはプロの世界を知る必要があると感じ、スイーツショップに就職して1年間修業。同時にケーキのデコレーション作業に対する苦手意識を克服するため、学校にも通いました。それが38歳のとき。会社を休業させてまでの本腰の入れようでした。

「当時の生活は、会社での少しの売り上げと少しのたくわえが支えていた感じですね。スイーツショップのお給料は20万円に満たないものでしたし、朝から夜遅くまで続く肉体的につらい仕事でした。けれど、それを経験したことでパティシエとしてやっていく自信がつきました」

そして40歳でパティシエとして独立。店舗は持たずにフリーランスとして活動し、結婚式や多様なイベントでのオーダーケーキを手掛けたり、CM撮影でのフードデザイナーとしても活躍するなど、徐々に仕事が軌道に乗っていきました。

しかしコロナ禍で仕事が激減。働き方を見直すきっかけとなり、2020年6月に48歳でスイーツショップ「上糖舶来」をオープン。企業からのオーダーケーキ発注がゼロとなったことで「パティシエの仕事を続けていくには自分でやるしかない」と思い至ったのです。

50代直前。“ブランドを育てる”という新たな挑戦へ。

「企業からの仕事がなくなったときもパティシエをやめることは考えませんでした。求人も探したんですが、50歳近い女性パティシエを求めているところはなくて。それなら自分でブランドをつくり、育てていくしか道はないなと。それが「上糖舶来」を構えた大きな理由です。

パティシエをやめたくなかったのは、毎年のように、子どもの誕生日用のケーキや、家族用の記念ケーキをオーダーしてくれる人がいたからです。特に子どもたちは、絵が描かれたクッキーやデコレーションされたケーキを目にして、“こんなお菓子があるんだ”と目をキラキラさせてくれる。その笑顔が力になったし、もし私がやめてしまったら、そうした個人のお客さまたちとのつながりも無くなってしまう。それは嫌だなと思ったんです」

お菓子のレシピが記された小島和美さんのノート
アイデアが思い浮かんだら書き記してきた、お菓子のレシピやデザインが記された“スイーツノート”。

そうして店舗での販売と通販を軸に展開してオープン2年目を迎えた今、さらなる目標も生まれたようです。それは「近い将来、自分のお菓子がスーパーや駅、空港で売られるようにしたい」というもの。実現するために今やるべきことは、生産力を高め、ブランド力を上げること。今はすべてを自分1人でこなしていますが、より大きな場所を借り、人を雇うことも必要です。

「上糖舶来をオープンさせたときも含め、これまでは自己資金で賄い、借り入れをしたことがありません。でも、ここから事業を飛躍させるためには融資という新しいトライが必要だなと感じています。簡単には撤退できなくなるし、リスクや責任が増えるので悩みどころなんですけどね。でも結局、今回も考えすぎずに行動するのかな。私はやりたいことがあれば早くやったほうがいいと思う性格。長く考えていたら、その時間がもったいないと思ってしまうんです。むしろ、行動しながら考え、対応していく。せっかちですよね(笑)。たとえ思いつきではじめても、結果オーライにすればいい。そうした開き直りはお菓子つくりをはじめてから強くなった気がします。何にしても足りるということはないですから。みんな何か足りていないし、足りなくていいんだと、そう思えるようになりました」

もうすぐ50歳を迎える今も仕事へのモチベーションは高まり続け、「ようやく仕事と自分の能力がしっくりフィットしている感じがします」とエネルギッシュな小島さん。“転身ライフ”を送り続けたことで、等身大で向き合える仕事に出合え、そしてこれから先も同じような気持ちでお菓子づくりに向き合っていきたいと、柔らかい笑みを見せてくれました。

「上糖舶来」のショップ前での小島和美さん

取材・文/小山内隆 写真/三浦咲恵


小島和美
スイーツショップ「上糖舶来」経営
1972年、香川県生まれ。高校卒業後、地元・香川の気象協会の職員に。以来、デザイン会社、ウェブ制作会社など転職を続け、女性向けECサイトの制作を請け負う会社を起業。事業拡大を目的に上京後、お菓子の世界へ転身。学校に通い、スイーツショップにも勤めて修業し、40歳でオーダースイーツ専門のパティシエとして独り立ち。2020年に港区白金台にスイーツショップ「上糖舶来」をオープン。


※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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