食あたりが治るまでの期間は?自宅でできる対処法や受診の目安も解説
1年を通じて発生するさまざまな食あたり。原因によっても異なりますが、嘔吐や数日の下痢などの症状が見られるケースが多いものの、ほとんどの場合、自然に回復します。しかし、中には入院や死に至る恐ろしいものもあります。食あたりの概要を把握して備えておきましょう。
今回は食あたりと食中毒の違いや、原因別の主な症状、発症までの期間、予防法などについて、横浜市立大学附属病院消化器内科の稲森正彦先生に教えていただきました。
目次
食あたりとは?食中毒との違いは?
食あたりとは、食べ物や飲み物が原因となって起こる体の不調です。主に、腹痛・嘔吐・下痢・発熱・じんましんなどの症状が現れます。食あたりと食中毒は、同じ意味で使われます。食あたりは一般用語で、食中毒は医学用語と捉えておけばよいでしょう。
食あたりの原因や症状は?
食あたりの原因にはいくつかの種類があります。主な原因は、細菌とウイルスですが、そのほかにも寄生虫や自然毒が原因になるものもあります。原因別に、主な症状や発症までの期間、治るまでの目安などを見てみましょう。
参考:厚生労働省「令和4年食中毒発生状況(概要版)」をもとにミラシル編集部にて作成
細菌性の食あたり。
細菌性の食あたりについて、種類ごとに紹介します。
腸管出血性大腸菌O157
主な原因 | 牛の生肉など |
主な症状 | 腹痛・下痢・血便・発熱など |
発症まで | 平均4日~8日 |
治るまでの目安 | 治療をはじめてから1週間~2週間ほど |
腸管出血性大腸菌O157は、体内で毒素をつくるスピードが速く、重症になる人もいる細菌です。血便で気づきます。脱水症状がひどくなると入院するケースもあります。
ウエルシュ菌
主な原因 | 菌に汚染された食材(肉や魚介類など)を使ったカレーやシチューなどの煮込み料理など |
主な症状 | 腹痛・下痢など |
発症まで | 6時間~18時間(平均10時間) |
治るまでの目安 | 1日~2日ほど |
ウエルシュ菌は、細菌に芽胞があると通常の加熱では死滅せず、鍋の中で繁殖を続けます。煮込み料理は室温に置かず、冷蔵庫に保管して早めに食べきりましょう。
サルモネラ菌
主な原因 | 犬・猫・カメなどのペットなど |
主な症状 | ひどい下痢・嘔吐など |
発症まで | 6時間~72時間(通常12時間~36時間) |
治るまでの目安 | 2日~7日ほど |
サルモネラ菌は、日本以外の国では、生卵にもいる菌です。感染すると何年か経ってから過敏性腸症候群になることがあります。
黄色ブドウ球菌
主な原因 | 手指の傷など |
主な症状 | 吐き気・嘔吐・腹痛・下痢など |
発症まで | 30分~6時間(平均3時間) |
治るまでの目安 | 1日~2日ほど |
黄色ブドウ球菌は、傷に繁殖した菌が出す毒素が調理を通じて食材に付着し、体内に入ります。発症までの時間が短い(30分~6時間)という特徴があります。手指に傷がある場合、食材に直接触れないように手袋をするとよいでしょう。
カンピロバクター
主な原因 | 生肉・加熱不足の肉など |
主な症状 | 腹痛・下痢・発熱など |
発症まで | 1日~7日 |
治るまでの目安 | 1週間ほど |
カンピロバクターは、低温調理でも加熱が不十分だと、肉の内部に菌が付着していることがあります。
ウイルス性の食あたり。
ウイルス性の食あたりでもっとも多いのが、ノロウイルスによるものです。
ノロウイルス
主な原因 | 牡蠣などの二枚貝など |
主な症状 | 吐き気・嘔吐・腹痛・下痢・発熱など |
発症まで | 24時間~48時間 |
治るまでの目安 | 2日~3日ほど |
ノロウイルスは寒い季節に感染者が増えます。吐いたものに触れることで、人から人に感染します。アルコールでは死なず、乾燥するとウイルスは風に乗って広がります。
寄生虫による食あたり。
寄生虫による食あたりに多いのが、魚などに寄生しているものです。
アニサキス
主な原因 | サバやサケなどの魚にいる幼虫など |
主な症状 | 急性胃アニサキス症:みぞおちの激しい痛み・悪心・嘔吐など 急性腸アニサキス症:激しい下腹部痛・腹膜炎症状など |
発症まで | 急性胃アニサキス症:数時間~十数時間 急性腸アニサキス症:十数時間~数日 |
2cm~3cmほどのアニサキスの幼虫が、胃や腸の粘膜に噛みつくことで痛みを感じます。痛みが出ないことや、自然に排出されることもあります。目視で確認できるので予防を心がけましょう。
サナダムシ(日本海裂頭条虫)
主な原因 | サケやマスなどの魚にいる幼虫など |
主な症状 | 下痢・腹部膨満感など |
発症まで | 2週間~3週間 |
口から入ったサナダムシの幼虫が体内で成虫になることで、症状が現れます。成虫は幅1.5cm~2cm、長さ5m~10mの白いきしめんのような形状で、肛門から出てくることがあります。治療では駆虫薬を服用します。
寄生虫による食あたりは現れている症状・処置によって、治るまでの目安は異なるため、重篤な症状である場合や緊急性が高いと判断した場合は、早めに医師に相談しましょう。
自然毒による食あたり。
自然毒による食あたりの代表的なものは、フグと毒キノコによるものです。
フグ
主な原因 | 適切に処理されていないフグ |
主な症状 | 口唇・舌端・指先のしびれ。腹痛・頭痛・嘔吐。全身の麻痺など |
発症まで | 20分~3時間 |
フグは猛毒(神経毒)を持っているため、調理には専門的な知識と技術が必要です。フグ中毒には特効薬がないため、死に至る場合もあります。
毒キノコ
主な原因 | 食用のキノコと誤って食べた毒キノコなど |
主な症状 | 嘔吐・下痢・腹痛。触れた部分の皮膚の炎症など(キノコの種類によってさまざま) |
発症まで | 20分~1時間程度(キノコの種類によってさまざま) |
毒キノコには食用にそっくりなものがあるので、注意が必要です。毒キノコによる食中毒は毎年秋に多く発生しています。
自然毒による食あたりは、摂取した自然毒の量や現れている症状・処置によって、治るまでの目安は異なります。重篤な症状である場合や緊急性が高いと判断した場合は、早めに医師に相談するようにしましょう。
食あたりになった際の対処法は?
食あたりの症状が出た場合の対処法や、重症化しやすい人の特徴を見てみましょう。
このような症状があれば早めに病院へ。医療機関を受診する目安。
細菌やウイルス、寄生虫による食あたりでは、下痢や嘔吐などが主な症状として現れますが、自宅で数日休んでいるうちに自然治癒するケースも多く見られます。ただし、下記のような場合は、医療機関を受診しましょう。
- 下痢が3日以上続く
- 血便が出る
- 自力で水分が摂れない
- 激しい痛みがある
- 高熱が2日以上続く
- 一緒に食事をした人に同じ症状が出ている
フグや毒キノコなどの自然毒では、あっという間に症状が現れます。様子がおかしいと思ったら、すぐに救急車を呼びましょう。
自宅でできる食あたりの対処法。
症状がひどくなく自宅で療養できる場合は、下記に注意しましょう。
- 水分補給
- 消化のよいものを食べる
- お酒は飲まない
- 下痢止めは極力飲まない(悪いものは出したほうがいい。外出するなど必要がある場合はその限りではない)
- ノロウイルスの場合は二次感染の予防(吐しゃ物に触れない・タオルを共有しない・食事のとりわけをしない)
食あたりが重症化しやすい人。
重症化しやすい人の特徴は、次のような場合です。
- 高齢者や子ども
- 持病のある人
- 免疫を抑える薬を飲んでいる人
- 糖尿病患者
一般の成人よりも免疫力が低い高齢者や子ども、免疫力が低下している方などは、重症化のリスクが高くなるため、自宅療養でも症状をこまめにチェックする必要があります。
主な食あたりを予防するには?
食あたりは、原因となる細菌やウイルスが体内に入ることで発生しますが、簡単な方法で予防できます。細菌やウイルスを想定した基本的な対策を紹介します。こまめに手を洗うほか、次のような点に注意して、日常生活から予防を心がけましょう。
細菌が原因となる食中毒予防の3原則。
細菌は、温度や湿度などの条件がそろうことによって食べ物の中で増殖します。細菌性の食あたりを防ぐ3つの原則を見てみましょう。
1:つけない(生肉を扱った調理器具はこまめに洗う、手指の傷が食材に触れないようにするなど)
2:増やさない(細菌が増える温度で食材を放置しないなど)
3:やっつける(細菌が死滅するよう加熱するなど)
ウイルスが原因となる食中毒予防の4原則。
ウイルスは、細菌のように食べ物の中では増殖しません。ウイルス性の食あたりを防ぐ4つの原則を見てみましょう。
1:持ち込まない(手指の消毒など)
2:ひろげない(食材や調理器具は清潔な状態で管理するなど)
3:つけない(食材や調理器具はこまめに洗浄するなど)
4:やっつける(ウイルスが死滅するようしっかり加熱するなど)
食あたりにならないために。食事のときに気をつけたいポイント。
食事のときに気をつけたいポイントは、以下の通りです。
外食 | ・生肉など、食あたりの危険があるものを避ける ・魚の身にアニサキスの幼虫がついていないか、よく見てから食べる |
レジャー | ・BBQの肉類の生焼けに注意する ・お弁当の食材はしっかり加熱してから詰める ・その辺に生えているものを採って食べない(子どもに注意) ・動物や魚介類に触れたあとは、しっかり手を洗う |
海外 | ・生卵は食べない ・寒い季節でも、生野菜のサラダに注意(野菜を洗った水に大腸菌がついていることがある) |
厚生労働省のホームページでは上記のような予防法以外にも、食あたりに関する情報が紹介されているので、確認してみましょう。
食あたりの予防は日常的に。
食あたりは1年中発生しています。暑い季節になると細菌による食あたりが、寒い季節になるとウイルスによる食あたりが、それぞれ多くなります。食あたりにもいろいろな原因があり、中には自然毒や寄生虫によるものもあります。
そこで大切になるのが予防で、それは日々の心がけからはじまります。食あたりにならない工夫を忘れないようにして、食事を楽しみたいですね。
写真/PIXTA イラスト/オオカミタホ
稲森 正彦
横浜市立大学附属病院消化器内科医師、横浜市立大学医学部医学教育学主任教授。胸やけ・腹痛外来で、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群など消化器の機能性疾患を専門に診察。患者のQOL向上を意識した最適な治療を行う。著書に、『ナーシング・グラフィカEX―疾患と看護(3):消化器』(メディカ出版)、『日常診療で遭遇する原因不明の消化管障害 消化管の機能性疾患診療マニュアル』(診断と治療社)(いずれも共著)など。
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