生理前の情緒不安定、うまく付き合うには?対処法を医師が解説。
毎月、生理の時期が近づくとイライラしてしまう。感情をコントロールできなくなる……。情緒不安定になっている自覚はあるけれど、その原因や対処法、「病院に行ったほうがいいのかどうか」が気になるという方も多いのではないでしょうか。産婦人科医で女性特有の病気に詳しい内田美穂先生に、対処法や受診の目安など、解説していただきました。
目次
- 生理前の情緒不安定はどうして起こる?
- 情緒不安定を引き起こすPMSとPMDD。
- 情緒不安定への対処法(セルフケア)。
- 医療機関を受診する目安。
- どう治療するの?保険適用される?
- 【まとめ】生活に支障が出ている場合は早めの受診を。
生理前の情緒不安定はどうして起こる?
生理前に情緒不安定になるのは、主に「ホルモンの分泌量の変動」が関係していると考えられています。
取材をもとにミラシル編集部が作成
生理前、つまり月経周期の後半になると、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という、2種類のホルモンの分泌量が大きく変動します。
「この変動が感情に影響を与え、イライラや不安、落ち込みなどの症状を引き起こしているというのが、有力な説です」と内田先生は説明します。
情緒不安定を引き起こすPMSとPMDD。
こうした生理前に表れる心や体の不調は、「月経前症候群(PMS)」や「月経前不快気分障害(PMDD)」などとよばれています。いずれも、生理前のホルモンの分泌量が大きく変動する時期に、症状が出やすいのが特徴です。ただし、その原因の詳細はまだよくわかっていません。
月経前症候群(PMS)
PMSとは、生理前に表れる身体的および精神的な症状の総称で、その症状は非常に多岐にわたります。
主な身体症状としては、胸の張り・むくみ・腹部膨満感・頭痛・関節痛・筋肉痛・体重増加など。精神症状では、抑うつ(うつ状態)・怒りの爆発・いらだち・不安・混乱・社会からの引きこもりなどがあります。
よくある体調不良などと違うのは、PMSは月経周期と密接に関連しているという点です。「生理前に、毎月繰り返し同じ症状が表れることが診断のポイント」と内田先生はいいます。
「PMSの診断では、これら身体症状や精神症状のいずれか1つでも『月経開始前5日間に症状が表れる』『月経開始後4日以内に症状が消失し、少なくとも13日目までは再発しない』という条件が満たされていることが必要です。さらに、過去3回の月経周期で繰り返し起こっているかどうかが決め手になります」(内田先生)
月経前不快気分障害(PMDD)
PMDDはPMSの重症型で、特に精神症状が強く出るのが特徴です。強いイライラや抑うつ、不安などを感じることがあり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
「うつ病などの精神疾患と間違われやすいですが、PMDDの精神症状は2週間以上続くことはなく、月経終了後に消失するという特徴があります」(内田先生)
情緒不安定への対処法(セルフケア)。
内田先生いわく、「PMSやPMDDは病気ではなく、ホルモンバランスの変動による正常な現象であり、排卵が正常に行われている証拠」とのこと。そのため、PMSやPMDDの症状があること自体が心身の異常を示すわけではありません。
ストレス、過去のトラウマ、肥満、喫煙や飲酒などの生活習慣、性格的傾向などが影響している可能性もあるといいます。
そのため、症状を軽減するためには、ストレスをためないためのセルフケアとともに、生活習慣を改善することが有効といいます。自分でできる効果的な対処法を内田先生に聞いてみました。
食事と栄養。
バランスのよい食事は、PMSやPMDDの症状を軽減するのに役立ちます。特に不足しやすいカルシウム・マグネシウム・鉄・亜鉛・ビタミンD・ビタミンB6・ビタミンEを含む食品を積極的にとりましょう。
「生理前は食欲が出て、糖質がほしくなることも多いでしょう。ですが、砂糖などの精製された糖質ではなく、穏やかな満足感が持続する精製されていない穀物や野菜などがおすすめです。また『何か食べたい』というときは、果物やヨーグルトを適量摂取する、水を飲む、ガムを噛むなどで対応し、過食とならないような注意も必要です」(内田先生)
脳内の神経伝達物質で、気分を安定させる役割を持つセロトニンの材料となる「トリプトファン」を含む食品の摂取も有効です。トリプトファンは大豆製品・チーズ・ナッツ・鶏肉・魚などに多く含まれています。
適度な運動。
適度な運動はストレスを軽減し、気分を改善するのに効果的です。
「ただし、過度な運動はPMSやPMDDには逆効果となる場合があるため注意が必要です。ウォーキングやヨガなどの軽い運動がおすすめです」(内田先生)
ストレス管理
ストレスはPMSやPMDDの症状を悪化させるため、リラックスする時間を持つことも大切です。友人とのおしゃべり、趣味に没頭するなど、自分に合った方法でストレスを減らしましょう。仕事や子育てで忙しくて時間がとれない方も、深呼吸やマッサージなど、手軽な方法を試してみてください。
十分な睡眠を確保することも重要です。アルコールやカフェインは控えめにし、禁煙しましょう。
市販薬
むくみが気になる場合には一時的に市販の利尿薬を使ったり、頭痛があれば鎮痛薬を使ったりしてもいいでしょう。PMSやPMDDの症状緩和に有効な漢方薬もあります。症状に応じて、これらの市販薬を試してみてもいいでしょう。
医療機関を受診する目安。
子宮内膜症や更年期障害などの疾患でも、PMSやPMDDに似た症状が出る場合があります。症状が続く場合や、セルフケアで改善がみられない場合には、早めに医療機関を受診することが重要です。
以下のポイントを参考に、適切なタイミングで受診しましょう。
こんな症状が出ていたら受診しよう。
病院への受診が必要なケースとして、「日常生活に支障をきたすような症状がある場合」と内田先生は指摘します。
「日本では、生理のある20代~40代女性の約7割~8割が、生理前に何らかの症状を感じています。日常生活に支障をきたすほど強いPMSを感じている人は約5%、PMDDでは約1%とされています。仕事を休む必要があったり、対人関係に問題が生じていたり、『死にたい』『消えたい』と思うほど落ち込んだりしたら、ぜひ早めの受診を。PMSやPMDDで受診する方はたくさんいるので、大げさではないですよ」(内田先生)
婦人科と心療内科のどちらを受診する?
いざ病院を受診する場合に、婦人科と心療内科のどちらを選べばいいのでしょうか。
「基本的には婦人科を受診すればOKです。ただし、『死にたい』『消えたい』と思うほど落ち込む場合は、それが生理前だけのことであっても、最初から心療内科や精神科の受診が必要です。どちらを受診すべきか迷った場合は、まず婦人科を受診し、必要に応じて心療内科や精神科を紹介してもらうとよいでしょう」(内田先生)
受診時期はいつがいい?
月経周期でPMSやPMDDの症状が表れる前、または症状が軽度のうちに受診することが理想的です。症状がひどくなる前に専門医の診断と治療を受けることで、症状の悪化を防ぐことができます。
どう治療するの?保険適用される?
医療機関での治療は、症状の重さや個々の状況に応じて異なります。主な薬物療法や気になる保険適用についてみていきましょう。
ピルや薬物療法。
医療機関での治療として、ピルや薬物療法が行われることがあります。特にピルは、PMS・PMDDの誘因であるホルモンの分泌量の変化を抑制するため、症状の軽減に効果的です。
症状緩和にメリットの大きいピルですが、副作用もあります。
「血栓症リスクを高めるため、ピルと利尿薬の併用はおすすめできません。また、短期間にピルの中止や開始を繰り返すことも血栓症を引き起こしやすくします。ピルは医師の指導のもとで正しく使うことをおすすめします」(内田先生)
むくみやイライラなど、個々の症状に応じて漢方薬が処方されることもあります。
「漢方薬はピルなどのホルモン剤をあまり使いたくない人にはおすすめです。ピルとの併用も可能なため、医師に相談してみましょう」(内田先生)
精神症状が特に強い場合には、抗うつ剤であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が処方されることがあります。
根治はできる?
PMSやPMDDは病気ではないため、完全な根治は難しいとされています。ただし、適切な治療とセルフケアによって症状を緩和し、生活の質を向上させることは可能です。やはり大切なのは「ストレスの解消と生活改善」とのこと。
「ピルを飲んでいる間は症状が治まっていても、飲むのをやめてしまうとまた症状が戻ってしまう人もいます。服薬とあわせ、今の症状の引き金になっているストレスや生活習慣も、改善するよう心がけてください。そうやって、症状とうまく付き合っていくことが大切です」(内田先生)
各種治療は保険適用される?
漢方薬は保険適用になります。ただ、ピルの場合は、PMSのみでは保険適用になりません。月経困難症もあれば保険適用されることがあるので、医師に保険適用の有無を確認しましょう。
【まとめ】生活に支障が出ている場合は早めの受診を。
PMSやPMDDは、セルフケアや薬の服用で症状を緩和させることが可能です。「婦人科に行くのはハードルが高いな」という方もいると思いますが、生活に支障が出ている場合は、ぜひ早めに受診してください。生理前の不快な症状を今より軽減できるかもしれません。つらい症状は我慢せず、医療の力も借りながら、快適な生活を送っていきましょう。
写真/PIXTA
【監修者】内田 美穂
フィデスレディースクリニック田町院長・医療法人社団レースノワエ理事。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・母体保護法指定医師。順天堂大学医学部附属順天堂医院・東京慈恵会医科大学附属病院・昭和大学横浜市北部病院など、複数の病院勤務を経て、2019年にフィデスレディースクリニック田町を開院。
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