日帰り入院ってどんなもの?通院との違い、かかる費用は?
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近年、よく耳にするようになった「日帰り入院」という言葉。あわせて、病院に泊まる一般的な入院だけでなく、日帰り入院の際にもまとまった一時金を受け取れる医療保険も登場しています。しかし、日帰り入院とはどういうものなのか、通院とは何が違うのかといったことは意外と知られていないようです。
この記事では看護師経験を持つファイナンシャルプランナー(FP)の黒田ちはるさんに、日帰り入院の定義や通院との違い、日帰り入院の対象となる治療などについてお話を伺いました。
目次
日帰り入院って?
医療機関で行われている「日帰り入院」とは、入院日と退院日が同じ日、すなわち入院したその日の24時までに退院することをいいます。
通常の入院・通院との違い。
日帰り入院は、所定の入院手続きをしたうえで、入院病棟のベッドを使い、その日のうちに退院することです。入院した時間が何時であろうと、その日の24時を回るまでに退院すれば日帰り入院という扱いになります。
なお、よく誤解されるのですが、外来の処置室のベッドで点滴などの処置を受けるようなケースは、時間が長くかかったとしても入院には該当せず、あくまでも外来での治療の一環となります。通院か入院かを見分けるには、医療機関で発行される領収書に「入院基本料」と記されているかどうかが目安の1つになります。ただし、保険会社によっては必ずしも「入院」扱いにならないケースもあるので注意しましょう。
入院期間が短くなってきている理由。
厚生労働省の「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によると、2022年の一般病床における平均在院(入院)日数は16.2日。その10年前(2012年)は17.5日ですから、比較すると1.3日も短くなっています。
参考:厚生労働省「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(2022年)
参考:厚生労働省「医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(2012年)
入院期間が短くなっている理由は、主に2つあります。
まず1つは、国による医療費抑制の政策によるものです。高齢化が進み、入院患者数が増加していることから、入院期間を短縮するための診療報酬体系が整えられ、かつ入院の前後に通院で受けられる医療の充実が図られました。
もう1つの理由は医療技術の進歩です。内視鏡・腹腔鏡手術など体に負担の少ない医療技術が発達したことから、日帰りや短期入院での手術が増えています。
参考:厚生労働省「第4期医療費適正化計画(2024~2029年度)医療費適正化に関する施策についての基本的な方針」
日帰り入院の種類。
入院には、事前に検査や手術の日時を決めたうえでの「予定入院」と、救急搬送されるなどしてすぐに入院治療が必要だと判断された「緊急入院」の2つがあります。
日帰りの予定入院は、その日のうちに帰れる内視鏡・腹腔鏡手術といった負担の軽い手術や、定期健診などとは別に医師の指示で行われる検査や抗がん剤治療などがあります。日帰りの緊急入院は、体調が急に悪くなり、いったん入院病棟のベッドで様子を見ることになったものの回復し、その日のうちに帰宅できたといったケースなどが挙げられます。
日帰り入院でかかる費用。
日帰り入院でかかる費用は、病気の種類やそのときの症状、治療方法などによって大きく変わってきます。
公的保険の対象になる「治療費」と「入院基本料」。
公的医療保険制度で、70歳未満の現役世代の自己負担額は3割と決められています。公的保険の対象となる費用は、病気やケガの治療にかかる検査・投薬・注射・点滴・手術などの「治療費」と、入院1日ごとにかかる「入院基本料」です。いずれも、病気の種類や治療の方法・内容などによって金額は異なります。
参考:厚生労働省「我が国の医療保険について」
参考:厚生労働省「診療報酬制度について」
差額ベッド代など、公的保険の対象にならない諸費用。
日帰り入院ではかからないことも多いのですが、入院中の食費や、車いす・杖など用具のレンタル料、病院着代などは公的保険の対象外です。
また、患者の希望で4人以下の少人数の部屋に入院する場合にかかる差額ベッド代も、公的保険ではカバーされません。差額ベッド代の1日平均は2022年7月時点の推計値で、個室なら8,322円、4人部屋でも2,705円となっています。病院によっては、同じ部屋でも窓側のベッドを選ぶと差額ベッド代がかかるところもあります。
参考:厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」(2023年)
交通費や付き添いの人の食事代など、思わぬ出費も。
退院したあとの患者さんからよく聞くのが、「思った以上に交通費がかかった」という感想です。特に日帰り入院では体調が完全に回復していない状態で自宅に帰ることもあるため、体への負担を考えて往復に使うタクシー代が予想以上の出費になることも。
また、家族や知人が付き添う場合はその人たちの交通費や、待機している間の飲食代などがかかります。
高額療養費制度をチェックしよう。
日帰り入院といえど、支払わなければならない医療費が高額になってしまうこともあるかもしれません。そんなときに、ぜひ覚えておきたいのが「高額療養費制度」です。
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払う額が1か月で定められた上限額を超えた場合に、その超過分が戻ってくる制度です。患者側が支払う額の上限は年齢や所得によって異なるので、下の表で自分の所得と照らし合わせて把握しておきましょう。なお、表内の「医療費」は健康保険適用前の10割負担の場合の金額になります。
高額療養費制度による自己負担限度額(69歳以下)
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 | 25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
イ | 年収約770万円~約1,160万円 健保:標準報酬月額53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 | 16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
ウ | 年収約370万円~約770万円 健保:標準報酬月額28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 | 8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
エ | ~年収約370万円 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 | 5万7,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 3万5,400円 |
※ 1つの医療機関等での自己負担(院外処方代含む)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担(69歳以下は2万1,000円以上であることが必要)を合算できる。この合算額が上限額を超えれば高額療養費の支給対象になる。
参考:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月診療分から)
日帰り入院になるのはどんな治療?
医師の判断によって、日帰り入院か、1泊以上の入院か、または外来のベッドでの経過観察(通院扱い)で済むかが決まります。病院のホームページなどで、日帰り入院の手術の対象となるものを告知している場合もあります。
日帰り入院にならない例。
日帰り入院の基準ですが、外来の処置室のベッドで休養し、点滴の投与などを行う場合は、入院ではなく通院としての扱いになります。たとえば急な腹痛で来院し、外来のベッドで数時間点滴を受けて過ごしたとしても、日帰り入院にはなりません。また、日帰り入院になるかどうかは患者本人の希望ではなく、医師の判断によって決定されます。
なお、そもそも入院設備がないクリニックや診療所では、ベッドを使っても、どんな治療をしたとしても入院扱いにはなりません。
【まとめ】一時金タイプの医療保険で備えると◎。
ファイナンシャルプランナーとしていろいろな人と接するなかで、若い人ほど、自分が活用できる公的保険の制度についてあまりご存じでないケースが多いと感じます。まずは公的保険について確認し、高額療養費制度で自己負担限度額がどの程度になるかを知っておきましょう。
また、「医療費が高額になったので高額療養費制度を利用したい」と思っていても、病院の窓口ですぐに適用されるわけではありません。いったんは自己負担限度額を超えたぶんも含めて支払って、あとで、超過分の払い戻しを受けることになります。
ただし、あらかじめ「限度額適用認定証」を申請して提示すれば、病院の窓口での支払いは限度額までとなります。
参考:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月診療分から)
そうは言っても、いつでも事前に準備ができるとは限らないので、もしものときのためにお金の備えについて考えておくことが大切です。
最近は、入院日数に関係なく日帰り入院でも給付金が受け取れる、一時金タイプの医療保険もあるので、そちらに加入するのもよいでしょう。まとまったお金をすぐに用意するのが難しいという人にもおすすめの手段です。所定の書類を用意して請求、もしくはオンライン請求できる場合もあります。急な入院に備えて加入を検討してみてはいかがでしょうか。
写真/Getty Images イラスト/tent
黒田 ちはる
黒田ちはるFP事務所代表。看護師FP(R)として、オンラインや医療機関で年間約180件のがん患者専門の家計相談を行う。医療機関や自治体・企業での講演、FPの相談員育成も実施。著書に『がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵』(日経メディカル開発)。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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