妊娠中の気持ち悪いつわりの症状を軽くする方法。【医師解説】
妊娠初期の大変なつわり。おなかに赤ちゃんがいる証拠と考えればうれしいけれど、「毎日、つらい!」のも本音です。吐き気に嘔吐、食欲不振……どう乗りきったらいいのでしょうか?
つわりの疑問と対策について、日本産科婦人科学会専門医や日本産科婦人科学会認定ヘルスケアアドバイザーとしてさまざまな相談を受け、『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』『自分でできる!女性ホルモン高めかた講座』などの著書もある、産婦人科医の八田真理子先生にお聞きしました。
目次
「つわり」とは?
妊婦の50%〜80%が経験する妊娠初期のつわり。「その感じ方は個人差が大きく、まったく何も感じない人もいれば、重症化して入院する人までさまざま。同じ人でも、1人目の妊娠と2人目の妊娠で少し症状が違うという場合もあります」と八田先生は言います。つわりの症状などについて、先生に伺いました。
つわりはなぜ起こるの?いつまで続く?
つわりの明確な原因は不明ですが、体が、妊娠初期の急激なホルモン変化に適応できないためとされています。そのほか、妊娠による生活の変化や精神的ストレスも大きく影響するようです。
つわりは、妊娠が判明して間もない妊娠5週~6週ごろから症状が出はじめます。妊娠8週~11週でピークを迎え、胎盤が完成する妊娠16週ごろには落ち着いてくることが多いです。ただ、個人差があり、16週以降の妊娠中期や妊娠後期まで続く人もいます。
つわりにはどんな症状があるの?
つわりの種類は千差万別。主な症状には以下のようなものがあります。
吐いてしまう(吐きづわり)。
せっかく食べても吐いてしまいます。ときには胃が空っぽになっても吐き気が治まらず、胃液を吐いてしまうことも。重症化すると、水を飲んだだけでも吐いてしまいます。
空腹が気持ち悪い(食べづわり)。
空腹になると気持ち悪くなったり、吐いたりしてしまいます。常に何か口に入れておく必要があります。
ムカムカして気持ち悪い。
吐くほどではないけれど、胃や胸がムカムカして、船酔いのような気持ち悪い状態が続きます。
食欲がない。
吐き気がして食欲がわかないこともあれば、単に食欲がなくなることもあります。
味の好みが変わる。
今まで大好きだったものが急に食べられなくなったり、逆に、嫌いだったものが無性に食べたくなったりします。また、特定の食べ物にハマる、酸っぱいものや辛いものが食べたくなる、ジャンクフードが食べたくなるといった変化がみられることもあります。
においに敏感になる。
ごはんの炊けるにおいや、煮物の湯気のにおい、油のにおいをかぐと気持ち悪くなり、料理ができなくなることがあります。また、柔軟剤や化粧品など、それまでいい香りと感じていたものが不快に感じられることもあります。
眠い・だるい。
どれだけの時間眠っても眠く、日中、強い眠気に襲われることがあります。また、だるさを感じて何もやる気が起こらないこともあります。
イライラや頭痛。
生理のときのようなイライラや頭痛を感じることがあります。
唾液が増える。
唾液が大量に出ることがあります。飲み込むには気持ちが悪く、吐き出すためにティッシュやタオルが手放せなくなる人もいます。
妊娠初期のつわりを乗りきる食べ方。
つわりのとき、何をどんな方法で食べたり飲んだりしたらラクになるかは人それぞれ。八田先生のアドバイスを参考に、自分に合いそうな食べ物や飲み物、対策法などを試してみましょう。
つわりがラクになる食べ物を見つける。
ゼリー系は固形物を食べられないときにおすすめ。酢の物やかんきつ系のフルーツ、プチトマトなどは口の中がさっぱりします。外出時は、空腹による気持ち悪さを防ぐために、さっと口に入れられるあめやガム、グミなどを持ち歩くといいでしょう。
「しっかり食べないと、赤ちゃんが元気に育たないのでは?」「栄養バランスは大丈夫?」と、心配になる人もいるでしょう。でも、大丈夫。赤ちゃんがお母さんの食事から栄養をもらうようになるのは、胎盤ができる妊娠16週ごろから。それまでは、卵黄嚢(らんおうのう)という赤ちゃんを包む膜から栄養を吸収しているので、お母さんの食事が影響することはほぼありません。
つわりの時期は、食べられるときに、何でも好きなものを口に入れてみましょう。
少量ずつ分けて食べる。
食事をすると吐いてしまうけれど、何も食べずに空腹でいるのも気持ち悪い……。そんなときは、少量ずつ、1日5食~6食に分けて食べるといいでしょう。小さめのおにぎりやパンを常備しておくと、いつでも手軽に食べられて便利です。
英語では、つわりを「Morning Sickness」というように、つわりは、朝、起きたときに症状が強く出やすいのが特徴です。枕元にクッキーやビスケットなど、すぐに口にできるものを置いておき、ひと口食べてから起き上がると、1日のはじまりがラクになることもあります。
水分補給を欠かさない。
つわりで食べ物を口にできないときも、脱水症状を防ぐために、水分補給だけは欠かさないようにしましょう。一度に大量に飲むと、ほとんどが尿として排出されてしまうので、こまめに飲むのがポイントです。
炭酸飲料は口の中がすっきりし、空腹を紛らわしてくれます。また、スポーツドリンクは、余計な甘さがないため飲みやすく、嘔吐によって不足しがちな電解質を補えます。フルーツジュースは、口の中の不快感や胃のもたれを軽減してくれることもあります。
妊娠初期の症状を乗りきる工夫。
食べ物や飲み物のほかにも、つわりを乗りきる方法があります。八田先生のアドバイスを参考に、ラクになりそうな対策法を試してみましょう。
苦手なにおいを避ける。
湯気のにおいが気持ち悪くて料理ができないなら、お総菜を買ってきたり、家事代行サービスに料理のつくり置きを依頼したりする。温かい食事のにおいが気持ち悪いなら、冷たくして食べる。生ゴミのにおいが気持ち悪いなら、生ゴミ処理やゴミ出しは家族にお願いする。柔軟剤や化粧品のにおいが気持ち悪いなら、無香料の製品に替える。といったように、苦手なにおいを避けるよう工夫しましょう。
無理をせずに横になる。
妊娠中は何が起こるかわからないので、無理は禁物。つらいときは、横になってゆっくりしましょう。抱き枕やビーズクッションなどを使うのもおすすめ。ラクな体勢をとりやすく、力が抜けてリラックスしやすくなります。また、横になるときや寝るときは、突然吐き気に襲われても大丈夫なように、洗面器やタオルを用意しておきましょう。
気分転換をする。
気分転換はとても大事。何もしないでいると、「つらい、苦しい」とつわりばかりが気になり、ますます気持ち悪くなってしまいます。散歩をする、軽い運動をする、友達と会う、好きな音楽を聴くなど、自分が心地よいことや楽しいことをして、つわりから意識をそらしましょう。
アロマも気分がすっきりし、気持ち悪さが和らぐことがあります。アロマポットやディフューザーを使って自宅で楽しむ、ハンカチにエッセンシャルオイルを1滴たらして持ち歩くなどを試してみましょう。
妊娠5カ月くらいまでは、通経作用や子宮収縮作用などの理由から、アロママッサージなど直接的な方法は避け、芳香浴程度の使用にとどめてください。セージやフェンネル、ヒソップ、バジルといった子宮収縮を促す作用の強いオイルは、妊娠全期間を通じて使用を控えましょう。
つわりは夫のサポートで乗りきろう。
男性である夫には、つわりがどれだけつらいかは理解しにくいもの。“つらそうな態度”で示しても、伝わることはなかなかありません。そのため、「助けてほしいときは、『こんなサポートをしてくれたらうれしい』と具体的な言葉で伝えるとよい」と八田先生も言います。どのようなことがあるのか、先生に伺いました。
家事をしてもらう。
気持ち悪いときに家事をするのはつらいもの。「○○と××の掃除をして」「洗濯物を干して」「△曜日にゴミ出しをして」など、具体的にお願いしましょう。
料理をするのがつらいなら、夫に料理をつくってもらいましょう。仕事帰りにスーパーに寄って、お総菜を買ってきてもらうのもいいでしょう。
不安を聞いてもらう。
妊娠中は、何かと不安になりやすいもの。妊娠初期のつわりがつらい時期であればなおさらです。1人で抱え込むと精神的な負担になり、ますますつわりが重くなってしまうこともあるため、平気なふりはせず、できるだけ夫に話を聞いてもらいましょう。
妊娠初期こそ、会社の制度を使う。
つわりの時期を無事に乗りきるため、可能であれば、仕事の仲間に体調のことを話しておくと安心です。八田先生は、「勤め先に、リモートワークや時短勤務などの制度がある場合、上手に利用するといい」と話します。そのほかには、どのようなものがあるか、先生に伺いました。
主治医に「母性健康管理指導事項連絡カード」を記載してもらって提出する。
「母性健康管理指導事項連絡カード」とは、主治医からの指導を事業主に伝えるための書類で、母子健康手帳の中に入っています。主治医に記載してもらい、事業主に提出すると、受け取った事業主には適切な処置を講じる義務が生じます。もし、職場で十分な配慮が得られにくいと感じた場合は、利用を検討してみてください。
妊娠悪阻は医師に相談を。
つわりが重症化したものを「妊娠悪阻(にんしんおそ)」といいますが、どこからが妊娠悪阻なのかといった明確な診断基準は定められていません。ただし、母体や赤ちゃんに何かあってからでは遅いため、心配なときは、すぐにかかりつけの医師に相談してください。判断に迷うときは、八田先生のアドバイスを参考にするとよいでしょう。
こんな症状が出たらすぐに受診を。
「水さえ飲めずに脱水状態になっている」「数日間、何も食べていない」「体重が妊娠前より著しく減った」などは重症妊娠悪阻のサインです。すみやかに医師に相談してください。
治療では、水分や栄養を補給するために点滴が行われることが多いです。特に症状が重いと判断された場合は、数日間の入院が必要になることもあります。
写真/Getty Images
八田 真理子
聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田理事長・院長。日本産科婦人科学会専門医・母体保護法指定医・日本産科婦人科学会認定ヘルスケアアドバイザー。複数の産婦人科勤務を経て、千葉県松戸市で実父が開院した「八田産婦人科」を継承し、1998年「ジュノ・ヴェスタクリニック八田」を開院。地域密着型クリニックとして思春期から老年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングに従事。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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