生理前に眠れないのはなぜ?不眠の原因とリスクを解説【医師監修】
すっきり目覚めた朝は、とても気分がよいですよね。毎日がそんな状態なら最高ですが、そうもいかないのが現実です。「特に女性は、生理があることにより睡眠トラブルを抱えやすいのです」と語るのは、睡眠が専門の医師である渋井佳代先生。女性特有の不眠の原因について教えてもらいました。
目次
眠いのに眠れない原因は?
眠いのに眠れない原因には、身体的・精神的・環境的なものがあります。なかでも女性には、生理学的に睡眠不足になりやすい身体的な原因があり、それには月経周期と「女性ホルモン」が大きく関係しています。睡眠に悩みを感じる女性は、まずは月経周期との関係をチェックしてみてください。
女性が、もっとも睡眠の不調を感じやすいのは生理前の1週間ぐらいです。「眠いのに眠れない」「寝つきが悪い」という人がいる一方、「いくら寝てもだるさがとれない」と感じる人もいます。女性の約4割は、生理前や生理時にいつもと違った睡眠状態になるという調査結果もあります。
身体的な原因:女性ホルモンの影響。
これらの不調は、月経周期に関連した体温の変化によるもの。生理前の1週間は「黄体期」といって、女性ホルモンの中のプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が高まります。排卵後、子宮の中では内膜が分厚くなり、妊娠したときの赤ちゃんを育てるための環境を整えています。
このとき、プロゲステロンには基礎体温を上げる作用があるため、生理中や、エストロゲンが多く分泌される卵胞期に比べて、0.5℃くらい体温が上がります。黄体期が高温期とも呼ばれるゆえんです。この黄体期(高温期)に眠りづらくなる場合が多いです。
では、なぜ高温期になると、心地よい眠りが妨げられてしまうのでしょうか。人の体温は1日のうちで1℃ぐらいの上下差で変動します。個人差もありますが、明け方4時~5時がもっとも低く、ゆるやかに上昇し、夕方か夜にかけて高くなります。その後、徐々に低下し、就寝と同時に一気に1℃くらい下がるのが一般的です。
生理前の黄体期は体温が高いうえに昼と夜の体温差があまりない状態が続きます。そのため「昼は体温が上がってアクティブに動き、夜は体温が下がってゆっくり眠る」という生活リズムが乱れやすくなっているのです。
本来、体温が下がる時間帯は眠りやすいタイミング。ところが、生理前や生理がはじまったばかりの時期は夜も体温が下がらないため、 「寝つきがよくない」「昼は眠くてだるい」という不調が起こるのです。このような、女性特有の睡眠の悩みは、高温期の続く妊娠中や女性ホルモンが急激に減少する更年期にもよく起こります。
なお、生理の1週間ほど前から腹痛・頭痛・腰痛・乳房痛などの痛み、便秘、むくみ、イライラや憂うつ感などに加え、不眠も続いている場合、「月経前症候群(PMS)」の可能性があります。漢方薬やピルなどの処方で軽減する場合がありますので、眠れないことだけにとらわれず、婦人科の受診を考えてみてください。
精神的な原因:「体は休みたいのに、休めない」というストレス。
女性には生理周期があるために不眠や過眠の悩みを抱えやすいといえます。
排卵後から生理前には、エストロゲンが減少します。エストロゲンは心身をストレスから守る働きがあるため、生理前は、いつもよりピリピリすることが多く、その不快感から眠れなくなってしまう人もいます。「その日、誰かに嫌なことを言われた」「明日の予定が心配……」というような、ちょっとしたことが気がかりで眠れなくなるときも。
問題なのは、そうしたストレスが解消しても「また眠れないのではないか」という不安感で緊張が高まり、眠れない日々が続いてしまうことです。「眠りたいのに眠れない」は、繊細なタイプの人だけに起こる問題ではありません。ちょっとしたきっかけで、誰にでも起こる可能性があります。仕事やプライベートが忙しいと、心身の休息はとりにくいものですが、ストレスをできるだけため込まずに、リラックスして毎日を過ごすことが大切です。
生活環境による原因:忙しすぎて睡眠時間を削っている。
女性には、生理前の不調とともに「仕事と家事、育児に時間がとられ、自分の睡眠時間が削られている」という人も多いようです。
- 子どもの夜泣きで目が覚め、寝かしつけたあと自分は眠れなくなってしまった
- 子どもが寝たあと夫が帰ってきて、子どもが起きてしまい自分も眠れない
- 仕事と家事の両立で忙しく、睡眠時間を削っているうちに眠れなくなってしまった
- 夫のいびきがうるさくて夜中に目覚めてしまって、眠れなくなった
こうした生活環境の悩みは万国共通のようですが、実は日本の女性は世界中でもっとも睡眠時間が短いというデータがあります。他国と比較すると、女性に多くの家事負担がかかっていることが影響していると分析されています。
忙しく時間に追われる生活の中で、女性はつい睡眠時間を犠牲にしがちです。でも、そのせいで生活習慣や睡眠リズムがくずれ、心身に大きな支障をきたすような睡眠障害を起こしてしまうこともあるので、注意が必要です。
お子さんが小さく、お昼寝をする年齢ならば、お母さんも一緒に寝たり、家事で手抜きしたりできるポイントはないか考えることも大切です。
出典:OECD「Gender data portal2021Time use across the world.」
眠れない日々が続くとどうなるの?
たまに眠れない日があるくらいなら気にすることはありません。しかし、眠れない日が続けば、心身の不調から日常生活に悪影響をおよぼしかねません。
頭がぼんやりして、仕事に集中できない。
起きている間、脳は常に何らかの働きを行っています。その脳を休ませるために、脳が自ら行っている神経活動が睡眠です。なかでも、しっかり休ませなければならないのは知覚や運動、思考、記憶などをつかさどる「大脳(大脳皮質)」という部分。「よく眠れた」というのは、脳のこの部分が十分に休めたということなのです。
眠れない状態が続くと大脳が十分に休めていないため、体がだるく頭がぼんやりしてしまいます。感情が高ぶってイライラしたり、集中力がないなと思ったりしたら、それも睡眠不足の影響かもしれません。
脳以外の不調にもつながる。
睡眠は、脳だけでなく体の健康とも深い関わりがあります。
よく眠らないと風邪をひきやすくなる?
睡眠時間が短い人、睡眠の質が悪い人ほど、風邪をひきやすいこともわかっています。風邪で熱が出て、一晩寝たらラクになったと言う経験はありませんか?
これも睡眠中に細菌やウイルスなどの異物から体を守る仕組みである「免疫機能」がしっかり働いた結果です。
肌の不調にもつながる。
睡眠不足が続いたり、昼と夜が逆転した不規則な生活が続いたりしていると、ぐっすり眠れた翌朝の肌とまったく違うことはご存じの方も多いでしょう。
健康的な肌を保つためにはターンオーバー(肌の新陳代謝)が重要です。そのターンオーバーの要となっているのが、脳から分泌される「成長ホルモン」です。この成長ホルモンをしっかりと分泌させるためには、規則正しい生活と良質な睡眠が重要となります。
寝入りの2時間~3時間は深い睡眠の中で成長ホルモンの分泌が高まります。成長ホルモンは子どもにとっては成長のためのホルモンですが、大人にとっては免疫力を高め、細胞の修復や再生を行うものです。この時間帯に穏やかで深い眠りを得られれば、肌のターンオーバーを促すことはもちろん、体全体の健康につながっていくのです。
血圧や血糖値にも影響が。
不眠は肥満にも関係があります。睡眠が足らないと、食欲を減らすレプチンというホルモンが減り、食べても満腹感が得られにくくなります。このため不眠になると食欲が高まりやすく、太りやすくなるのです。
カロリーコントロールのために食事制限しても成果が得られない、つい食べすぎてしまうというときは、睡眠を見直すこともおすすめします。
長く続く寝不足は、高血圧や高血糖を招きやすいとも報告されています。睡眠が深いほど体温が下がり、血圧や血糖値も低い状態になっています。逆に睡眠が足りないと、交感神経が優位になって体は活動モードになるため、筋肉が緊張し、血管は収縮、血圧・脈拍・血糖値は上昇するのです。
満腹中枢に関わるレプチンやグレリン、インスリン、オレキシンなどのホルモンは、睡眠と食事の両方に関わっていることもわかってきて、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病、肥満の発症と睡眠不足が関連していることが報告されています。
簡単に言えば、睡眠の改善は生活習慣病の対策に効果があるということ。「ぐっすり眠れば、血圧や血糖値も安定しやすくなる」のです。
こんな症状のときは迷わず病院へ!
「不眠」といっても、一晩中眠れないことだけをいうのではありません。眠りが浅く、せっかく眠れたと思ったのに、夜中に何度も目が覚めてしまうのも不眠の症状です。「何度も目が覚めるけれど、別に気にならない」という人は問題ありません。目が覚めても、またすぐ眠れているのでしょう。
注意すべきなのは、一度目が覚めると寝つけなくなってしまう人の場合です。
「眠りが浅い、ぐっすり眠った感じがしない」……熟眠障害
「なかなか寝つけない」……入眠障害
「夜中に目が覚める」……中途覚醒
「朝、起きたいと思っている時間よりもずっと早く目が覚める」……早朝覚醒
こうした状態が2週間ぐらい続き、日中の眠気やだるさ、眠れないことへの不安感が強いときは、不眠症かもしれません。生活の中で心配ごとやショックな出来事があったとき、それを思い出してなかなか寝つけなかったり、夜中や早朝に目が覚めてもんもんと考え続けてしまったりします。
このような不眠は、うつ病の初期症状の場合もあるのです。1人で悩まず、お酒や睡眠サプリなどに頼らないで、睡眠が専門の医師がいる病院を受診してください。
生理の前後かどうかとは関係なく、日常生活に差し支えるような眠気が突然起きたり、ずっと続いていたりするようなら睡眠が専門の医師に相談し、必要な検査を受けることも大切です。ここでは不眠症の症状を睡眠中・昼間の眠気・寝る前と分けて紹介していきます。
睡眠中の挙動がおかしい。
いびきが大きく、夜中に何度も呼吸が止まっている人は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」かもしれません。空気の通り道である気道(のど)がふさがれて起こる病気で、ひどいと1分半も呼吸が止まってしまうことがあります。
呼吸が止まると脳が酸欠になり、次に深い呼吸を行います。これを繰り返すことにより交感神経が刺激され、高血圧や高血糖、そして心筋梗塞などの死に至る病気を引き起こす原因にもなります。
「いびきがひどい」と指摘され、日中に強い眠気があって車の運転や機械の操作にも支障が出るなどの自覚症状があったら、病院で検査を受けてください。睡眠外来のほか、内科でもSAS治療を行っているところが増えています。
SASやいびき症は肥満の人に起きやすく、男性に多いといわれてきましたが、女性は閉経後に増加します。女性ホルモンの1つである「プロゲステロン(黄体ホルモン)」は、呼吸を後押しするものです。更年期以降には、このホルモンの分泌量が減少するためSASのリスクが高まります。
また、痩せていても、あごの小さい人、加齢でのどの筋肉がゆるんだ場合にも気道が圧迫されやすく、いびきやSASになりやすいとされています。
睡眠中に激しく動いてしまうのは、レム睡眠行動障害かもしれません。レム睡眠は「夢を見る眠り」といわれ、体は眠っているけれど脳は活発に動いている状態です。レム睡眠中には筋肉も緊張したままなので、実際に体を動かしたり、はっきりと寝言を言ったりします。男性の高齢者に多く見られる睡眠障害です。
単なる寝言、寝ぼけ癖とあなどっていると、歩き回って階段から落ちたり、隣に寝ている家族を殴ったりということも起こりかねません。
いくら寝ても日中に眠い、発作的な居眠りが起こる。
「十分に眠っているはずなのに日中も眠い」人は、突発性過眠症やナルコレプシーの可能性があります。
「特発性過眠症」という病気は、「朝、目覚まし時計をいくつ鳴らしても起きられない」「電車の中でちょっと寝るつもりが、1時間~2時間も寝てしまった」などの症状があります。
パソコン作業や会議などでじっとしているとつい眠ってしまうのも、この病気の特徴です。若い人に起きやすいために病気と気づかれず、「不真面目」「やる気がない」などと思われて、仕事や学業がうまくいかなくなるケースもあります。
「ナルコレプシー」も過眠症の1つで、もっとも発症者が多いのは10代です。会議や車の運転中など、眠ってはいけない場面で突然眠ってしまう。または、日中に何度も居眠りをしてしまうといった症状がみられます。
特発性過眠症との違いは、睡眠発作以外にも笑ったり興奮したりしたときに突然脱力し、体がガクッとくずれてしまう「情動脱力発作」が起こることです。また、浅い眠りのときに幻覚のような怖い夢を見て、逃げようと体を動かしたくても動かせない、いわゆる「金縛り(睡眠麻痺)」が起きることもあります。
寝床につくと足がむずむずして寝つけない。
ベッドで横になり、眠ろうとすると、足(太もも・ふくらはぎ・足首など)がむずむずする「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群/RLS)」という病気があります。
人によっては「ジンジンする」「虫がはうような感じ」などの違和感があり、じっとしていられないので寝つけません。ようやく眠れても睡眠中にむずむず感を覚え、起きてしまうこともあり、眠りが妨げられてしまいます。
足に起こる症状のため整形外科や皮膚科などを受診する人も多く、原因がわからないまま対処できずにいる人も多かったとされています。しかし、「足がむずむずして寝られない」は睡眠障害の1つです。睡眠が専門の医師を受診して正しい診断を受けることで、正しい治療法につなげられます。
むずむず脚症候群の人の多くは、睡眠中に手やすねのあたりがぴくぴくと繰り返し動いて睡眠が妨げられる「周期性四肢運動障害」を併発しているといわれます。女性の高齢者に多いといわれてきましたが、妊婦・鉄欠乏性貧血のある人・人工透析患者・椎間板ヘルニアの人にも多い傾向が見られます。
知っておきたい、その他の睡眠障害。
睡眠・覚醒リズム障害・・・・・・夜は眠り、朝になったら起床するという睡眠リズムが狂って、昼夜逆転してしまうもの。もともと体内時計のリズムがズレやすい人が、徹夜での仕事や休日の夜更かしなど、生活の習慣が乱れると発症してしまうことが多くある。
時差症候群・・・・・・いわゆる時差ぼけ。時差のある地域を短期間で移動したことで生体リズムが狂い、睡眠障害などが起こる。
睡眠関連摂食障害・・・・・・眠りながらキッチンに入り、冷蔵庫の食事をたくさん食べてしまう。食べ終わるとまたベッドに戻り、朝になるとまったく覚えていない。
つらくなる前に、医師へ相談を。
生理前の不眠は多くの女性が経験するものですが、そもそも女性は肉体的・精神的・環境的にも睡眠の悩みを抱えやすく、放置しておくと睡眠障害につながる可能性もあります。眠れないことが、日中の生活にも悪影響をおよぼしていると感じたら、我慢しないで睡眠が専門の医師への受診をおすすめします。
写真/Getty Images イラスト/オオカミタホ
渋井 佳代
スリープクリニック銀座院長。睡眠学会専門医。信州大学医学部卒業。東京都職員共済組合清瀬病院神経科を経て、国立精神・神経センター精神保健研究所研究員として勤務、また同センター国府台病院精神科で睡眠外来を担当した。共著に『女性のための睡眠バイブル』(主婦と生活社)がある。
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