

どうする?休職中の過ごし方。罪悪感への対処法についても解説。
オーバーワークや職場での人間関係などの負担が積み重なり、心の健康を損ねてしまうことは誰にでも起こりうることです。しかし、「休職が必要かもしれない」と感じても、休職中の生活がイメージできず、その後復帰できるかどうか心配な方もいるのではないでしょうか。
そこで、休職中の過ごし方や心の不安への向き合い方について、精神科医でありながら禅僧でもある川野泰周先生に伺いました。ぜひ休職を考える際のヒントにしてください。
目次
休職中の過ごし方のポイントを段階別に解説。

病気が理由で休職する場合、症状の重さや回復具合によって、望ましい過ごし方が異なります。今回は、症状が重い急性期、少し体調がよくなってきた回復期、仕事に戻る準備をはじめる社会復帰期の3段階に分けて、休職中の過ごし方のポイントを解説します。
【急性期の過ごし方】とにかく寝て休むことが大切。

休職してすぐの、症状が重い急性期は2週間から1か月程度続くことが多いです。この期間は、寝て休むことが何より重要。生活リズムが多少乱れてもよいのでからだや心の求めに応じて、できるだけ横になって過ごすようにしましょう。眠れなければ横になっているだけでも構いません。
また、たとえば夜はベッド、日中はリビングのソファといった具合に、時間帯によって横になる場所を分けることで、その後体調が回復してきた際に、生活リズムを整えやすくなります。
【回復期の過ごし方】少しずつ生活のリズムを整えよう。

回復期は1か月から半年程度と、人によって幅があります。辛い症状が徐々に落ち着いてくると、次第にずっと寝ているのが退屈になってきます。何かしたいと感じるようになったら、リハビリをはじめるタイミング。主治医と相談しながら、生活リズムを整えていきましょう。
生活リズムを整える最初のステップは、午前中に起きることです。そして、起きたらカーテンを開けるなどして、太陽の光を浴びるようにしましょう。太陽の光を浴びることは、睡眠リズムやメンタルを整える効果があります。
次に、散歩をしてからだのリハビリをしたり、読書などをして「集中力のリハビリ」をしていきます。友達と会いたいと思ったら、1人か2人の気心の知れた友達と、落ち着いたお店でランチを食べたり、静かな場所を一緒に散歩したりすることがおすすめです。人混みに行ったり、大人数で会ったりすることは疲れやすいため、最初は避けておきます。
慣れてきたら、スケジュールにしたがった生活をしてみましょう。たとえば朝食後は図書館に行き、お昼になったら近くでランチを食べ、図書館に戻って夕方まで過ごすといった具合です。
また、回復期には今の状態を客観的に振り返ることができるように、日記をつけることもおすすめです。「7時 起床」「12時 昼食(おにぎり・からあげ・サラダ)」など、1日の生活を記録することで、主治医や職場の産業医が経過を見る判断材料にもなりますよ。
【社会復帰期の過ごし方】復職を想定したスケジュールで生活してみよう。

社会復帰期の期間は、大体1か月~2か月ほど。生活リズムが整って復職を考える段階になったら、働くことを想定したスケジュールで生活してみましょう。出社時間にあわせて起床し、仕事をする際の服装に着替えて、電車に乗り、会社の最寄り駅や会社の前まで行って帰ってくる練習をできれば数週間程度行います。
それと並行して、復職に向けた調整をはじめます。会社に復職のための訓練プログラムがあればそれを活用するのもよいですし、会社に訓練プログラムがない場合は、リワーク(復職の支援を行うリハビリプログラム)を受けたり、就労移行支援事業所に通ったりする方法もあります。
ただし、就労移行支援事業所を利用するには、「障害福祉サービス受給者証」の申請が必要です。障害福祉サービス受給者証の申請の完了までに数か月かかる場合があり、事業所のプログラムの期間も最大で2年間のため、利用を希望する際は早めに検討しましょう。
休職にまつわる悩みに精神科医が答えます。

休職をするか迷うとき、同時に、仕事への責任感や自分の将来への不安を抱える方も多いのではないでしょうか。そこで、川野先生に休職についての考え方のヒントとアドバイスをいただきました。
【お悩みその1】休職中、働いていないことに罪悪感を抱いてしまいそう。

休職中は、自分に思いやりを向ける絶好の機会です。これまで自分に思いやりを向けずに、ご自身を犠牲にし続けてしまったことが、休職を検討するきっかけになったとも考えられます。休職中の期間は、自分に対してやさしく、思いやりを向けようという気持ちを持って過ごすことを意識してみましょう。
そのためにはまず、「何かを生み出していないと自分には価値がない」という思い込みを手放すことが大切です。このような思い込みが、知らず知らずのうちに自分を追い込んでいたと気づくことが、回復の第一歩となります。
忙しく働いていると、自分を見つめ直す時間はなかなかとれないもの。休職を「自分へのやさしさと思いやりを育むチャンス」として、ぜひ前向きに捉えてみてください。
【お悩みその2】休職後、ちゃんと復帰できるか不安。

復職する際に「仕事についていけるだろうか」「休職したことについて、まわりの人はどう思うだろうか」と不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。そんな方におすすめしたいのが、「目の前のことに集中する練習」をすることです。
復職後は、複数の業務を同時に抱える場面が多くなるでしょう。その際、目の前のタスクに集中する力があれば、ひとつひとつの作業を効率よく進められ、結果的に仕事全体の効率も向上します。
また、「休職したことを周囲から悪く思われたらどうしよう」といったネガティブな考えが浮かぶこともあるかもしれません。しかし、目の前の自分がやるべきことに集中して気持ちを切り替えることができれば、「人がどう思うかは、自分ではどうにもできない」ということに気がつき、雑念から解放されるでしょう。
目の前のことに集中するためには、日常の作業を活用するとよいと思います。たとえば、料理であれば食材を包丁で刻む作業に意識を集中させたり、掃除であれば窓を磨いたり、床を掃いたりすることに没頭したり。これにより、1つのことに集中する習慣が身に付きます。
“目の前のことに集中する力”を養う。1日4分の「呼吸瞑想」のやり方。
そして、目の前のことに集中する練習として特におすすめしたいのは、「マインドフルネス瞑想」です。「マインドフルネス」とは、瞑想や丁寧な所作を通じて、意識を“今”に向けた心の状態のこと。自律神経系のバランスが整い、脳を休める効果もあります。
今回は、簡単にマインドフルネス瞑想の1つである「呼吸瞑想」のやり方をご説明しましょう。

休職前に確認しておくとよいことは?

ここまで、休職中の過ごし方や心の持ちようについて先生に解説してもらいました。最後に、実際に休職をしたいと決めたとき、会社の休職制度や給付金など、事前に確認しておきたいことを紹介します。
休職には医師の診断書が必要。
そもそも、休職するには主治医の診察を受け、「休職が必要」という診断書をもらう必要がある場合が多いです。心身の不調が現れたら無理をせず、心療内科や精神科などの医療機関を訪れ、早めに受診しましょう。
期間や休職中の給与もチェック。
会社によって、休職できる期間や復職への制度は異なります。いつ頃まで休職することができるのかを把握し「いつ頃までにどれくらいのペースでの回復を目指すか」を確認することが大切です。
また、休職中にどんな給付が受けられるかを知っていると、大きな安心材料になります。病気休暇や有給休暇を活用すれば、給与を受け取りながら療養できるので、雇用契約や就業規則を確認しておきましょう。
もし療養中に会社から十分な報酬が受けられなくても、健康保険組合に加入していれば、傷病手当金として給与の約6割が支給されます。支給期間は原則1年6か月ですが、要件によって期間が異なりますので、確認しておくと安心です。
職場には早めに相談を。
休職を検討したら、早めに職場に相談しておくことが大切です。
体調がすぐれない際に、休職制度や給付金を自分で調べるのは大変ですよね。そんなときは、会社の人事や総務に話を聞くとスムーズです。また、体調の悩みや休職中の過ごし方については、会社の保健師も頼りになります。体調をヒアリングしたうえで、心療内科や精神科を紹介してくれることもあります。
休職が決まったら、家族に伝えておくと安心。
大変な時期に寄り添ってくれる家族は、心強い療養のパートナー。ただ、休職中の接し方や注意点について、自分から家族に伝えることは難しい場合もあると思います。そのため、家族には診察に同行してもらい、休職中の具体的な接し方や心構えについて、主治医から直接アドバイスを受けてもらうことが理想的です。
1人暮らしの場合、実家の両親に休職のことを伝えるかどうかは、両親との関係性にもよります。絶対に伝えなければならないわけではありませんが、1点注意が必要なのは、万が一体調が悪化して入院が必要になった場合。特に精神科の入院では、身内の同行が必要となることが多いです。いざというときに備えて、休職することを家族に伝えておくと安心でしょう。
休職は「より豊かな人生を生きるための勇気ある選択」。
休職は決してネガティブなことではなく、「より豊かな人生を生きるための勇気ある選択」です。新しい生き方を見つける絶好のチャンスであり、忙しくて向き合えなかった本当の自分と対話する時間でもあります。
しっかりと休養し、本当の幸せを見つめ直したことで、「休職を経て、以前より幸せを感じられるようになった」と語られた方も少なくありません。今、心身に不調が現れているのであれば無理をせず、心療内科や精神科などの医療機関を訪れて早めに受診し、休職を検討してみてください。
写真/PIXTA
【監修者】川野 泰周
精神科医。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。3年半の禅修行を経て、2014年末より神奈川県横浜市にある臨済宗建長寺派林香寺の住職を務める。同時に、精神科医として診療に従事し、従来の精神療法と並んで禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入。
※ この記事は、ミラシル編集部が取材をもとに、制作したものです。
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